梅原北明
梅原 北明(うめはら ほくめい、1901年1月15日 - 1946年4月5日)は、日本の作家・編集者。本名は梅原貞康。昭和初期のエログロナンセンス文化を代表する出版人である。宗教研究家の梅原正紀は息子。
人物[編集]

富山県の裕福な保険代理店に生まれる。早稲田大学中退。『デカメロン』を翻訳し何度かの発禁処分の末、出版。変態資料、文藝市場などのアングラ雑誌・書籍を多数発刊。出版法違反で前科1犯となる。
1926年9月に出版された会員制の雑誌『変態資料』などの彼の業績の中で、よく知られたものとして、1928年(昭和3年)11月から1931年(昭和6年)8月まで何度も発禁処分を受けながらも出版をつづけた雑誌『グロテスク(GROTESQUE)』(全21冊)があげられる。当局の弾圧をかわすためグロテスク社、文藝市場社、談奇館書局など数回にわたり発行所の変更を余儀なくされた。
また、1925年(大正14年)に上梓した『デカメロン』下巻は発禁処分を受け、後日改訂版を発刊している[注釈 1]。その理由をその翌々年に國際文獻刊行會より上梓した『エプタメロン』下巻に挿入された「飜譯の誤謬に就いて」の中で、姦通譚を其の儘譯出した為と述べている。それが為に『エプタメロン』では発禁処分を避ける為に、妻を戀人と訂し、夫婦間を戀人と愛人の間と訂したとしている。
今東光や村山知義らと親交があり、また小笠原長生中将も彼のファンであり、『変態資料』の会員でもあった。また山本五十六とは賭博仲間だった。
『グロテスク』が終盤を迎えた頃、古新聞漁りの集大成といえる『近世社会大驚異全史』を刊行。菊判2100ページに及ぶ「焼糞の決死的道楽出版」であった。その後、お上に睨まれて上海に逃亡し、大阪で教員をしたり、靖国神社の職員であったこともある。
敗戦の翌年、発疹チフスで死去。享年45。
野坂昭如の『好色の魂』は梅原北明(小説では貝原北辰)をモデルにした小説である。
著作[編集]
著書・編著書[編集]
- 『殺人会社』アカネ書房 1924
- 『談奇館随筆 第2編 秘戯指南』文芸市場社 1929
- 『談奇館随筆 第5編 続・秘戯指南』文芸市場社 1929
- 『世界好色文学史』佐々謙自,酒井潔共編著 文藝市場社、1929 のちゆまに書房復刻
- 『近世社会大驚異全史』編 白鳳社 1931 のち海燕書房復刻、1976
- 『近代世相全史 慶応より大正までの新聞重要記事の集成』全4巻 編 白鳳社 1931 のち日本図書センター復刻
- 『明治大正綺談珍聞大集成』編 文芸市場社 1929-31
- 『近世暴動反逆変乱史』編 海燕書房 1973
- 横井司監修『梅原北明探偵小説選』〈論創ミステリ叢書〉 論創社 2015年 ISBN 978-4-8460-1478-0
翻訳[編集]
- ボッカチヨ『全譯デカメロン(十日物語)』南欧芸術刊行会 1925
- エ・エル・ウイリアムス『露西亜大革命史』杉井忍共訳 朝香屋書店 1925
- ナヴァル女王『世界奇書異聞類聚第四巻・第五巻 エプタメロン』國際文獻刊行會 1926、1927
- フエリシアン・シヤンスール『サメヤマ』酒井潔共訳 文芸市場社 1929
- 『世界性愛談奇全集 第5巻 世界艶情小説集』小生夢坊共訳 山東社 1931
- 『世界性愛談奇全集 第1巻 恋愛術』訳述 山東社 1931
- ウィルヘルム・マイテル『バルカン・クリーゲ』河出文庫 1997
脚注[編集]
注釈[編集]
参考文献[編集]
- ナヴァル女王 著、梅原北明 訳、『世界奇書異聞類聚第五巻 エプタメロン下巻』(國際文獻刊行會) 1927
- 斎藤昌三『三十六人の好色家』(創藝社版)1956年
- 梅原正紀『えろちか エロス開拓者梅原北明の仕事』(三崎書房)1973年
- 秋田昌美『性の猟奇モダン』(青弓社)1994年
- 菅野聡美『〈変態〉の時代』(講談社現代新書)2005年
- 玉川信明『大正アウトロー奇譚 わが夢はリバータリアン』(社会評論社)2006年
- 武田知弘『教科書には載っていない! 戦前の日本』(彩図社)2008年
関連項目[編集]
- メリケンお浜 - 戦前、横浜の本牧のチャブ屋街で売れっ子だった遊女。梅原と「性の決闘」を果たした。
- カストリ雑誌 - 太平洋戦争終結直後の日本で、質の悪い粗悪な紙で発行された大衆向け娯楽雑誌。出版自由化を機に昭和20年代半ばまでブームは続いた。『グロテスク』などのスタイルを継承している面がある。
外部リンク[編集]
- 梅原北明著作集 - 国立国会図書館デジタルコレクション
- 北明小伝/北明小伝(二) - Compassion コラム
- 閑話究題 XX文学の館 珍書屋 梅原北明とその周辺
- 昭和初期の“エログロ”出版のオルガナイザー梅原北明の生涯について - 梅原正紀の解説
- 「公敵」としてのコンテクストメイカー梅原北明『殺人會社』『文藝市場宣言』『火の用心』『ぺてん商法』【FIGHT THE POWER】