朝鮮語のイェール式ローマ字表記法
| 朝鮮語の表記体系 |
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| 翻字 |
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朝鮮語のイェール式ローマ字表記法は、朝鮮語のラテン文字転写に関する規則である。イェール大学のサミュエル・マーティンらによって、マッキューン=ライシャワー式の5年ほど後に作成された。 現在でも、主に言語学者の間では、標準的なローマ字化の手法として使用されている。
イェール式は単語間の形態素の構造をあらわすことに主眼を置いており、この点が現在主流になっているマッキューン=ライシャワー式や文化観光部2000年式などの方法との違いである。これらの主流な方法は、通常、単語全体についての発音を表現することができるが、ローマ字化したものから形態素については知ることができないので、言語学的な使用をするには不適である。形態素に関する性質からは、イェール式は北朝鮮の書法である朝鮮語新綴字法と似ているともいえる。
イェール式は、現代朝鮮語と中期朝鮮語の両方に対して使われる。中期朝鮮語に対しては別個の規則がある。例えば、現代語のローマ字化では o は ㅗ (RR o) に対応するが、中期朝鮮語では ㆍ (アレア、아래아) を意味し、ㅗ は wo と翻字される。Martin (1992) は中期朝鮮語や、その他 1933 年のアレア放棄以前の文章のローマ字化はイタリックで表記し、現代語はボールドで表記している[1]。
イェール式は、それぞれの形態音素的な要素(通常、ハングルの字母に対応する)を、文脈によらず常に同じローマ字で表す。ただし例外として、ㅜ (RR u) と ㅡ (RR eu) は両唇音のあとでは常に u で表記する。その他の環境では、ㅜ (RR u) は二重字 wu で表す。
母音
[編集]| 口蓋化母音[3] | 円唇化母音[3] | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| ㅏ a | ㅐ ay | ㅑ ya | ㅒ yay | ㅘ wa | ㅙ way |
| ㅓ e | ㅔ ey | ㅕ ye | ㅖ yey | ㅝ we | ㅞ wey |
| ㅗ (w)o[i] | ㅚ (w)oy[i] | ㅛ y(w)o[i] | |||
| ㅜ (w)u[ii] | ㅟ wuy/wi[iii] | ㅠ yu | |||
| ㆍ o[iv] | ㆎ oy[iv] | ᆢ yo[iv] | |||
| ㅡ u | ㅢ uy | ||||
| ㅣ i | |||||
- 1 2 3 現代の朝鮮半島のすべての方言では母音 ㆍ (アレア) が消失しているため、ㅗ (中世朝鮮語では wo)に含まれる w は省略可能。したがって、ローマ字表記を解釈する際には、対象となる時代を考慮することが重要である[1]
- ↑ 現代朝鮮語では、唇音 (p, ph, pp, m) の直後に ㅡ u が現れることがないため、イェール式ではこの位置に来る ㅜ wu を u に短縮表記する[4]
- ↑ wuy という綴りは中世朝鮮語の形に用いられ、 wi は現代朝鮮語の形に用いられる[5]
- 1 2 3 これらの母音は中世朝鮮語には見られるが、済州語を除くすべての現代朝鮮語の方言においては消失している[6]
子音
[編集]イェール式では、現代朝鮮語の子音を表記するために無声子音字を用いる。濃音はハングルの綴り字と同様に、文字を重ねて表記する。破裂音および破擦音における激音は、 h を加えた二重字として表記される[3]。 中世朝鮮語の有声摩擦音である ㅸ、ㅿ、 ㅇ はそれぞれ W、 z、 G と表記されるが、これらは現代朝鮮語には存在しない[7]。 現代朝鮮語の場合、終声(音節末)の ㅇ は ng と表記される。
| 両唇音 | 歯茎音 | 軟口蓋音 | 声門音 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 鼻音 | m | ㅁ | n | ㄴ | ng | ㆁ | |||
| 破裂音 | 平音 | p | ㅂ | t | ㄷ | k | ㄱ | ||
| 激音 | ph | ㅍ | th | ㅌ | kh | ㅋ | |||
| 濃音 | pp | ㅃ | tt | ㄸ | kk | ㄲ | |||
| 破擦音 | 平音 | c | ㅈ | ||||||
| 激音 | ch | ㅊ | |||||||
| 濃音 | cc | ㅉ | |||||||
| 摩擦音 | 平音 | s | ㅅ | h | ㅎ | ||||
| 濃音 | ss | ㅆ | hh | ㆅ | |||||
| 有声音 | W | ㅸ | z | ㅿ | G | ㅇ | q | ㆆ | |
| 流音 | l | ㄹ | |||||||
その他の文字や記号
[編集]文字 q は、ハングルの正書法では表記されない n/l 音挿入および濃音化を表す[8]:
- 할 일 halq il /hallil/
- 할 것 halq kes /halkket/
- 글자 kulqca /kulcca/
文字の組み合わせが曖昧性を生じるときは、ピリオドによって音節境界を示す。ピリオドは音変化を示すなど他の目的でも使われる[9]:
- 늙은 nulk.un “old”
- 같이 kath.i /kachi/ “together”; “like”, “as” etc.
母音字の上のマクロンは、方言や古い発音における長母音を示すのに用いられる[10]:
- 말 māl “word(s)”
- 말 mal “horse(s)”
なお、弁別素性としての母音の長さやピッチアクセントは、少なくとも若いソウル方言話者のあいだでは20世紀後期に消滅した。
上付き文字の l および n は、韓国の正書法および標準的発音では消失する子音を表すのに用いる[11]。例えば、韓国の正書法の 영 (RR yeong) は次のようにローマ字化される:
- yeng(初頭子音の脱落がない場合)
例:영어 (英語) yenge - lyeng(初頭の l (ㄹ) が韓国の標準的発音で脱落するか n (ㄴ) に変化している場合)
例:영[=령]도 (領導) lyengto; 노[=로]무현 (盧武鉉) lNo Muhyen - nyeng(初頭の n (ㄴ) が韓国の標準的発音で脱落している場合)
例:영[=녕]변 (寧邊) nYengpyen
母音の長さやピッチ、消失した子音が示されることで、イェール式ローマ字は、韓国のハングルの正書法に比べ、ある語が方言でどのように発音されるか予測しやすくなっている。
関連項目
[編集]参考文献
[編集]- Martin, Samuel E. (1992). “Yale Romanization.”. A Reference Grammar of Korean (1st edition ed.). Rutland and Tokyo: Charles E. Tuttle Publishing. pp. 8 ff. ISBN 0-8048-1887-8
- 1 2 Martin (1992), p. 4.
- ↑ Martin (1992), pp. 11–12.
- 1 2 3 Martin (1992), p. 24.
- ↑ Martin (1992), p. 18.
- ↑ Martin (1992), pp. 24, 26.
- ↑ Martin (1992), pp. 42–43.
- ↑ Martin (1992), pp. 45, 50.
- ↑ Martin (1992), pp. 12–15.
- ↑ Martin (1992), pp. 8–9.
- ↑ Martin (1992), pp. 32–35.
- ↑ Martin (1992), pp. 15–17.