望月新一
望月新一 | |
---|---|
生誕 |
1969年3月29日(50歳)![]() |
国籍 |
![]() |
研究分野 | 数学 |
研究機関 | 京都大学数理解析研究所 |
出身校 | プリンストン大学 |
博士課程 指導教員 | ゲルト・ファルティングス |
主な業績 | 数論幾何学、遠アーベル幾何学 |
主な受賞歴 |
日本数学会秋季賞(1997年) 日本学術振興会日本学術振興会賞(2005年) 日本学士院日本学士院学術奨励賞(2005年) |
プロジェクト:人物伝 |
望月 新一(もちづき しんいち、1969年3月29日 - )は、日本の数学者。京都大学数理解析研究所教授。専門は数論幾何学、遠アーベル幾何学。
目次
来歴[編集]
父の仕事の関係で5歳で日本を離れ、中学生時代に1年間日本へ戻った以外は[2]アメリカで育つ。
フィリップス・エクセター・アカデミーに2年間在学し、16歳でプリンストン大学へ進学。19歳で学士課程を卒業(次席)。23歳で博士課程を修了しPh.D.を取得。
日本へ帰国後は京都大学に採用され助手(23歳)、同助教授(27歳)を経て、同教授(32歳)に昇格。
研究内容・業績[編集]
代数曲線におけるグロタンディーク予想(遠アーベル幾何予想)を予想を超えた形で証明。p 進タイヒミュラー理論[注 1]の構築、楕円曲線のホッジ・アラケロフ理論の構築、曲線のモジュライ空間の既約性の別証明、数論的小平・スペンサーの変形理論、Hurwitz スキームのコンパクト化、crys-stable bundle の構成、数論的 log Scheme 圏論的表示の構成、宇宙際幾何 (うちゅうさいきか、inter-universal geometry) の構築。1998年の ICM では招待講演をしている。著作に Foundations of p-adic Teichmüller Theory がある。
ABC予想への挑戦[編集]
2012年8月30日、望月は ABC予想を証明する論文をインターネット上で発表した[3]。イギリスの科学誌ネイチャーによると[4]、望月は新たな数学的手法を開発し、それを駆使して証明を展開している。
ABC予想の証明に先立って構築した宇宙際タイヒミューラー理論 (うちゅうさいタイヒミューラーりろん, Inter-universal Teichmüller theory) の正否の判定には数年掛かると言われる。望月は43歳でこの論文を発表したため、40歳以下の研究者を対象とするフィールズ賞に該当しない(この点に関して、数学者の玉川安騎男(京大数理研)による次のようなコメントがある:「望月さんは、賞に対しては全く無欲(というか、むしろやや否定的)で、十分時間をかけて基礎理論を満足のいくような形で完成させることに力を注いでいます」[5])。
宇宙際タイヒミューラー理論[編集]
2014年12月の宇宙際タイヒミューラー理論の進歩状況の報告で、望月本人はエクセター大学の数学者 Mohamed Saidi や京都大学数理解析研究所の山下剛、星裕一郎との議論を通じて、「宇宙際タイヒミューラー理論の本筋や本質的な正否に関わるような問題は一件も確認されていない」、また、「宇宙際タイヒミューラー理論の実質的な数学的側面についての検証は事実上完了している」との見解を示した[6]。ただし、「理論の新奇性や重要性に配慮して、念のため理論はまだ検証中であるという看板を下ろす前にもう少し時間をおいても良い」とも述べている[6]。宇宙際タイヒミューラー理論を理解するために求められる絶対遠アーベル幾何やエタール・テータ関数の剛性性質、ホッジ・アラケロフ理論の分野に併せて精通している専門家がほとんどいない[6]こともあり、今後も検証には時間がかかると思われている。
2015年にノッティンガム大学のイヴァン・フェセンコ (Ivan Fesenko) によって、望月の宇宙際タイヒミューラー理論のサーベイ論文が発表された[7]。
2015年3月の9日から20日にかけて、RIMS共同研究 「宇宙際Teichmuller理論とそのDiophantus的帰結」 と題して山下剛、星裕一郎を講演者とする研究集会が開催された[8]。
山下剛による、宇宙際タイヒミューラー理論に関するサーベイ論文は、2015年3月開催の数理研「RIMS共同研究」の集会報告集という形で、数理研から「講究録別冊」として刊行される予定である[8]。
2015年10月のネイチャーによると、他の数学者が論文を理解できず、論文の正否について未だに決着をつけることができていないという[9]。
2015年12月にオックスフォード大学で理論の国際研究集会[10]が開催された。参加者のブライアン・コンラッド (Brian Conrad) は「準備論文の理解に大きな進展があったが、本論文の検討にはたどり着けなかった。」と感想を述べている[11][12]。
2016年7月に京都大学で理論の国際研究集会[13]が開催された。主催者のイヴァン・フェセンコは「この研究集会で少なくとも10人が詳細に理論を理解した。私は数論の中で最も重要な未解決問題の少なくとも100は望月の理論とさらなる発展を使用して解決されることを期待している。」と感想を述べている[14][15]。また、共同研究者の山下剛は(長期的な計画と断った上で)Riemannゼータ関数との関連性について、次のように述べている:「望月新一氏の計算においてabc予想の誤差項にRiemannゼータ関数との関連性を示唆する1/2が現れる。 一方、同氏の宇宙際Teichmüller理論においてテータ関数が中心的役割を果たすのであるが、テータ関数はMellin変換によってRiemannゼータ関数と関係する。さらに、宇宙際Teichmüller理論において宇宙際Fourier変換の現象が起きている。これらのことから、長期的な計画であるが"宇宙際Mellin変換" の理論ができればRiemannゼータ関数と関係させることができるのではないかと期待して共同研究を進めている」[16]。
サーベイ論文[編集]
2015年 - イヴァン・フェセンコによって、望月の宇宙際タイヒミューラー理論に対する初のサーベイ論文が発表された[17]。
2017年9月1日 - 京都大学数理解析研究所の山下剛から宇宙際タイヒミューラー理論に対するサーベイ論文が発表された[18]。
略歴[編集]
- 1985年 - フィリップス・エクセター・アカデミーを2年で卒業[19]。同年9月、プリンストン大学入学。
- 1988年 - プリンストン大学卒業
- 1992年6月 - プリンストン大学で Ph.D. を取得(23歳)、指導教授はフィールズ賞を受賞したゲルト・ファルティングス
- 1992年6月 - 京都大学数理解析研究所助手に就任
- 1996年8月 - 京都大学数理解析研究所助教授に就任(27歳)
- 1997年 - 日本数学会秋季賞受賞:代数曲線におけるグロタンディーク予想の解決(中村博昭、玉川安騎男との共同受賞)
- 1998年 - 国際数学者会議 (ICM) 招待講演
- 2002年2月- 京都大学数理解析研究所教授に就任(32歳)
- 2005年 - 日本学術振興会日本学術振興会賞受賞:p 進的手法によるグロタンディークの遠アーベル幾何予想の解決など双曲的代数曲線の数論幾何学に関する研究
- 2005年 - 日本学士院日本学士院学術奨励賞受賞:数論幾何の研究
- 2013年5月 - ビットコインの提唱者サトシ・ナカモトの正体が望月新一であるとアメリカの社会学者テッド・ネルソンに指摘されたが[20][21]、後にジ・エイジ紙に望月がこれを否定したという記事が掲載された[22]。
- 2017年12月 - ABC予想を証明したとする論文が数学の専門誌に掲載される見通しになったという報道もあった[23]が、実際には掲載されず、望月の論文は現在も査読中という状況である[注 2][24][25]。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ^ p 進数についてのタイヒミュラー空間の理論(タイヒミュラー理論は、リーマン面についてのモジュライ空間の理論で、タイヒミュラー空間はドイツの数学者オズヴァルト・タイヒミュラーに因む)。
- ^ ちなみに、[1]にあるように、PRIMSは望月自身が編集委員を務める雑誌である。
出典[編集]
- ^ a b 履歴書
- ^ 望月新一さんの数学 玉川安騎男(京大数理研) (PDF)
- ^ Shinichi Mochizuki. "Inter-universal Teichmüller theory I: Constructions of Hodge theaters", preprint 2012-2015
- ^ Proof claimed for deep connection between primes : Nature News, Philip Ball, 10 September 2012
- ^ 文献2, p.4
- ^ a b c 望月新一「宇宙際タイヒミューラー理論の検証:進歩状況の報告(2014年12月現在)」京都大学数理解析研究所、5–6ページ。
- ^ Ivan Fesenko. (2015) "Arithmetic deformation theory via arithmetic fundamental groups and nonarchimedean theta functions, notes on the work of Shinichi Mochizuki."
- ^ a b 望月新一公式サイト - 望月新一の過去と現在の研究
- ^ The biggest mystery in mathematics: Shinichi Mochizuki and the impenetrable proofNature 526, 178–181 (08 October 2015) doi:10.1038/526178a
- ^ Workshop on IUT Theory of Shinichi Mochizuki, December 7-11 2015
- ^ Notes on the Oxford IUT workshop by Brian Conrad : December 15, 2015 Cathy O'Neil
- ^ Hope Rekindled for Perplexing Proof : Quanta Magazine, Kevin Hartnett, December 21, 2015
- ^ Inter-universal Teichmüller Theory Summit 2016(RIMS workshop, July 18-27 2016)
- ^ Mathematicians finally starting to understand epic ABC proof : New Scientist, 2 August 2016, Jacob Aron
- ^ Fukugen-On Shinichi Mochizuki’s Inter-universal Teichmüller Theory- by Ivan Fesenko : INFERENCE Volume Two, Issue Three, September 28, 2016
- ^ 山下剛、研究内容「数論幾何の研究」紹介(京都大学 数理解析研究所)
- ^ Ivan Fesenko. (2015) "Arithmetic deformation theory via arithmetic fundamental groups and nonarchimedean theta functions, notes on the work of Shinichi Mochizuki."
- ^ Go Yamashita, A Proof of abc Conjecture After Mochizuki
- ^ ABC Conjecture(PDF) - New York University > Courant Institute
- ^ “I Think I Know Who Satoshi Is”. YouTube TheTedNelson Channel (2013年5月18日). 2014年3月8日閲覧。
- ^ JCastニュース. “ビットコイン提唱者「サトシ・ナカモト」は誰か? 京大有名教授、米大学教授、欧州の金融機関関係者・・・” 2014年3月13日閲覧。
- ^ Eileen Ormsby (2013年7月10日). “The outlaw cult”. Theage.com.au. 2014年3月8日閲覧。
- ^ “数学の超難問・ABC予想を「証明」 望月京大教授”. 朝日新聞. (2017年12月16日) 2017年12月16日閲覧。
- ^ “Not Even Wrong”. Peter Woit. 2019年5月3日閲覧。
- ^ Erica Klarreich. “Titans of Mathematics Clash Over Epic Proof of ABC Conjecture”. Quonta Magazine. 2019年5月3日閲覧。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 望月新一@数理研 - 公式サイト(日本語)
- Shinichi Mochizuki@RIMS(英語)
- 新一の「心の一票」 - 公式ブログ(日本語)