日韓経済戦争 (2019年)

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2019年7月に始まった日韓経済戦争(にっかんけいざいせんそう)は、日本安全保障上の理由をあげて大韓民国向けの半導体素材の輸出管理を強化して韓国の製造業に危機感を与え、韓国がそれに応酬を加えるという貿易紛争に発展したことで起きた出来事である。

日本のキャッチオール規制(補完的輸出規制)において2019年8月28日に、優遇措置の対象国であるホワイト国(8月2日より「グループA」に改称)から韓国を除外することを決定し、それに対抗して韓国政府も同年8月12日に、安全保障上の輸出管理で優遇措置の対象国から日本を除外する制度改正案を発表した。

背景[編集]

2019年の極東アジアにおいて、日本はGDP世界3位、韓国は11位の共に経済大国であるが、戦前において日本が朝鮮半島を併合していた歴史問題の解決の是非を巡って両国関係はしばしば緊張してきた。日本では2012年12月に自由民主党安倍晋三が首相に就任して公明党との連立政権を組み安定した長期政権を継続させていた。韓国では2015年に保守派朴槿恵大統領慰安婦問題日韓合意を結び歴史問題へ一定の決着をつけようと図ったものの、朴が弾劾された後、2017年5月に大統領に就任した共に民主党進歩派文在寅政権は「積弊清算」を掲げて前政権下での各施策を断罪し、「反・親日派[1]」として対日姿勢を先鋭化させていた。

特に2018年後半からは、日韓合意に基づく慰安婦財団の韓国による一方的な解散、韓国海軍艦艇による自衛隊機への火器管制レーダー照射文喜相韓国国会議長による天皇明仁(当時)への謝罪要求など日本の対韓感情を損ねる事案が続発した[2]

特に徴用工訴訟問題韓国大法院が日本企業に賠償を命ずる判決を下したことは、日本側にとっては日韓請求権協定を一方的に反故にされたも同然で、日韓関係の「法的基盤を根本から覆すもの」と極めて深刻に受け止められたが、文政権は日本の反発を過小評価し[3]、日本が日韓請求権協定に基づき仲裁委員会の設置を求めたにも関わらず、韓国はこれを黙殺した[4]。かくして日本では「日韓関係は戦後最悪」と言われるに至り[5][4]、韓国の一連の姿勢に業を煮やした安倍首相は、日本の「本気度」を韓国に認識させるため対応策の検討を進めさせた[6]

時系列[編集]

争点[編集]

半導体製品を主力とする2010年代の韓国の製造業において、日本から輸入した素材・部品を韓国が完成品に組み立てて世界に輸出するという、日韓の分業体制が確立していた[17]。ゆえに2018年の韓国の対日貿易赤字は240億ドルと国別では最大であり、2019年1〜6月の対日赤字のうち電子部品が20億ドルを超えていた[17]

半導体原料の輸出管理[編集]

2019年7月1日に日本の経済産業省は、韓国向けに輸出される軍事転用可能な一部の半導体関連物品について、企業ごとに一定期間包括的に許可する方式から、契約ごとに個別審査する方式へ切り替えると発表した[18]。品目は、半導体の基板に塗る感光材の「レジスト」、半導体の洗浄に使う「フッ化水素」、ディスプレイパネルの素材となる「フッ素化ポリイミド」の3品目が指定された[18]。通常ならば個別輸出許可の手続きには90日程度かかり[18]、これは半導体製品の輸出が経済を支える韓国にとって、日本からの円滑な資材調達が困難になることを意味した[19]。特に上記3品目は日本企業のシェアが大きく、韓国企業に少なくない影響が見込まれた[6]

日本政府はこの措置について、あくまで日本国内における制度運用の問題であり、韓国と協議する筋合いは無いとの立場を示した[20]。また菅義偉内閣官房長官は、この措置は「(徴用工問題への)対抗措置ではない」と明言したが、「韓国との信頼関係が損なわれ、輸出管理に取り組むことが困難になった」と一定の因果関係は認めた[6]。そして8月8日に、規制後初めて3品目の一部について、審査により軍事転用の恐れなしとして輸出許可を出し、「正当な取引については恣意的な運用をせず許可を出している」と説明した[18]

韓国にとって7月1日の日本の発表は、文大統領も出席したG20大阪サミットの直後だったため、寝耳に水に近いものだった[21]。韓国は日本の措置を、徴用工問題への報復として日本から仕掛けてきた経済戦争と捉え[5]、日本に協議と撤回を求めた[20]。7月3日に韓国政府は、半導体材料や装置の国産化支援に毎年1兆ウォンの予算を充てる構想を発表した[22]。そして7月24日に世界貿易機関(WTO)の一般理事会でこの問題を提起し、日本の措置は徴用工問題への報復という外交的な下心によるもので、WTOの存在意義を損ね世界経済に混乱をもたらすと訴えた[8]ARFRCEPの会合においても日本の措置を非難した[23]

読売新聞の世論調査によると対韓輸出管理厳格化への「支持」は71%、「不支持」が17%と日本政府の対応を圧倒的多数の日本国民が支持したとの結果が伝えられた[24]

ホワイト国からの除外[編集]

2019年8月2日に日本政府は、輸出管理上のキャッチオール規制(補完的輸出規制)における優遇措置、いわゆる「ホワイト国」(のち「グループA」へ改称)から韓国を除外する旨を閣議決定し、政令改正を経て28日より施行するとした。(韓国はアジアで唯一のホワイト国だった。)これにより、韓国向けの輸出管理は包括許可から個別許可へ戻されることになり、対象品目(最大で1000品目程度[9])になった場合は審査に最長で2〜3か月かかることになった[19]

日本側の主張としては、ホワイト国からの除外はあくまで「手続きの見直し」であって「輸出規制」ではなく[25]、安全保障上の見地から日本国内での制度運用を見直すものに過ぎないというものである[26]。実際に、韓国が北朝鮮向けに無許可で物資支援を行ったり、日本からの輸出品の横流しをしているのではないかとの疑念が、日本では生じていた[25]。また日本から求めた輸出管理に関する協議を、韓国は3年にわたって拒んでいた[25]。菅官房長官は、今回の措置は「経済報復」ではないと強調し[10]外務省幹部も「通常の手続きに戻すだけなのに(韓国は)禁輸のように騒いでいる」と訝った[10]。日本での事前のパブリックコメントでは9割という圧倒的多数が韓国のホワイト国除外を支持し[10]、除外発表直後の世論調査では除外「支持」が67.6%にのぼり、「不支持」の19.4%を大きく上回った[27]

韓国側では、8月2日午前の日本の発表を受け、午後には文大統領が閣議を主宰し、テレビの生中継で「極めて無謀な決定」「状況を悪化させた責任は日本政府にある。今後起きる事態の責任も全面的に日本政府にあることを警告する」[28]「日本の不当な経済報復措置に対する相応の措置を断固としてとっていく」[21]と日本を強く非難した。洪楠基経済副首相兼企画財政部長官は、日本を韓国版「ホワイト国」から外すと発表し、WTOへ日本を提訴する準備を進めると明かした[13]8月5日に韓国政府は、半導体、ディスプレイ、自動車電機・電子、機械金属、基礎化学の6大分野から100品目を戦略品目に指定し、それら主要な部品・素材の国産化に向けて7年間で7兆8000億ウォンをあてると発表し、特に日本が輸出管理を厳格化した半導体素材3品目を含む重要20品目については1年以内に供給を安定化させ「脱日本依存」を図るとした[17]

日韓GSOMIA協定の破棄[編集]

日韓は2016年より軍事情報包括保護協定GSOMIA(軍事情報包括保護協定)を締結し、防衛当局間での情報共有を図ってきたが、自動更新を迎える8月24日以前に韓国が日本への対抗措置として破棄を通告した場合は、北朝鮮の核ミサイルへの対応にあたり、米国も含め足並みの乱れが生じると危惧された[4]

韓国の徐薫国家情報院長は8月1日に「GSOMIAは内容上の実益も重要であり、象徴的意味も重要だ」と破棄に否定的な考えを示し[29]盧英敏大統領府秘書室長も8月6日に、アメリカの意向も踏まえると破棄には慎重にならざるを得ないとの立場を示した[30]

2019年8月22日に韓国側が日韓GSOMIA協定の破棄を決定した[31]

韓国の反応[編集]

韓国市民の間には、日本製品不買運動が盛り上がりを見せたが、日本製品の韓国向け輸出は全体の数パーセントであり、日本製品不買運動による日本側への影響は限定的と見られている[28]。具体的な例として以下のようなものが挙げられる。

  • 韓国のネット上では「ノーノージャパン」という日本産ビールユニクロの衣料品などの日本製品及びその代替物の韓国・他国製品を掲載するサイトが登場し、アクセス数が持続的に増大していた[32]
  • 韓国の化粧品会社韓国コルマー(日本コルマーの現地子会社)の会長による親日・文在寅批判動画の放映[33]DHCの子会社が制作するネット番組虎ノ門ニュース」の出演者による嫌韓発言[34]が韓国国内で物議を醸したため、当該企業の製品への不買運動が激しくなり、韓国コルマー、DHCコリアの代表が謝罪に追い込まれた。
  • 7月末、ソウルの西大門刑務所で韓国の地方自治体の首長らによる日本の措置に反対する糾弾大会が開かれた。日本の措置に対応する連合体も発足し、約100の地方自治体では日本製品の購入や公務員の訪日中断を掲げた。うちソウル中区では徐良鎬区長の指示で、8月6日に同区内に1000本以上の「ノージャパン」の旗を設置したが、明洞など観光客を相手に商売をしている商店主や、「韓国が好きで訪れた日本人への礼儀に欠ける」と批判が殺到したため同日中に撤去された。江南区では区内の万国旗から日章旗を撤去された。西大門区水原市では役所内に日本製事務用品の回収箱が設置された。釜山市では日本の友好都市との行政交流の中断が発表された[35]
  • 韓国から日本への旅行のキャンセルが相次ぎ、格安航空会社を中心に日韓路線の運休、減便が続出し、対馬鳥取など韓国人観光客を多数受け入れてきた地域では影響が出た[28]
  • 韓国の一般民衆の間では2020年東京オリンピックボイコットする動きが見られた。与党・共に民主党の一部からもオリンピック選手への福島県産農水産物の提供などを理由として日本を批判した[36]

2019年7月27日からは、ソウル市中心部の広場でローソクデモが行われ、初日には5000人が集まった。これは親北朝鮮系の学生団体・韓国大学生進歩連合が主催し、民主労総全教組など、かつて朴槿恵政権弾劾を主導した596団体が加わった[28]。また、韓国国内では「安倍政権による経済侵略」の見方が強いため、「ノー安倍」というプラカードを掲げるデモが多発していた[37]

韓国による石炭灰の輸入検査措置の強化に対して、韓国国内のセメント業界・建設業界を中心に反対意見が上がった。韓国セメント業界での日本産石炭灰への依存度が40%であるため、1週間分の在庫を使い切った後、生産中断の状態に陥る可能性が高いと見られる[38]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ ホワイト国除外で日韓関係は底が抜ける。文在寅は徴用工問題をここですり替えた! (2/5)”. 文春オンライン. 文藝春秋社 (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  2. ^ 韓国と国交断絶のススメ 日本には多くのメリットがあってデメリットはないという真実”. デイリー新潮. 新潮社 (2019年5月2日). 2019年8月9日閲覧。
  3. ^ 文在寅が大失態…! 韓国はここからさらに「窮地」に追いこまれる (4/5)”. マネー現代. 講談社 (2019年8月1日). 2019年8月9日閲覧。
  4. ^ a b c 日韓相互不信底なし 輸出優遇除外 日本「譲れば政権終わる」”. 西日本新聞 (2019年8月3日). 2019年8月9日閲覧。
  5. ^ a b ホワイト国除外で日韓関係は底が抜ける。文在寅は徴用工問題をここですり替えた! (1/5)”. 文春オンライン. 文藝春秋社 (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  6. ^ a b c 対韓輸出規制 不毛な報復合戦は避けよ”. 西日本新聞 (2019年7月3日). 2019年8月9日閲覧。
  7. ^ 日韓関係悪化とオリックス低迷 “ああ、これは駄目だ”と思ったら考えるべきこと”. 文春オンライン. 文藝春秋社 (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  8. ^ a b c 日韓がWTOで応酬、対韓輸出規制強化巡り”. ロイター (2019年7月25日). 2019年8月9日閲覧。
  9. ^ a b 韓国で燃え盛る「ホワイト国除外」への反日感情、日本はどう振る舞うべきか (4/4)”. DIAMOND online. ダイヤモンド社 (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  10. ^ a b c d 日本政府「戦略的放置」貫き韓国をホワイト国から粛々と除外”. 産経新聞 (2019年8月2日). 2019年8月9日閲覧。
  11. ^ 本政令は8月7日公布、8月28日施行。
  12. ^ 「グループA」はそれまで、「ホワイト国」と呼ばれていた国である。
  13. ^ a b 韓国株・為替ともに急落 日韓経済戦争の「戦犯」文在寅に保守から「やめろ」コール”. デイリー新潮. 新潮社 (2019年8月5日). 2019年8月9日閲覧。
  14. ^ “ホワイト国除外”に初反撃 韓国 日本の石炭灰検査強化”. FNN (2019年8月8日). 2019年8月9日閲覧。
  15. ^ 韓国も「ホワイト国」から日本を除外。これまでの経緯をおさらいする” (日本語). ハフポスト (2019年8月12日). 2019年8月13日閲覧。
  16. ^ 恩地洋介 (2019年8月22日). “日韓軍事情報協定を破棄 韓国政府が決定” (日本語). 日本経済新聞. 2019年8月22日閲覧。
  17. ^ a b c 韓国、100品目で脱日本依存目標に 支援に6800億円 優遇除外受け対策 半導体材料など年内にも”. 日本経済新聞 (2019年8月5日). 2019年8月9日閲覧。
  18. ^ a b c d 韓国への輸出、半導体材料の一部許可 規制強化から初”. 朝日新聞 (2019年8月8日). 2019年8月9日閲覧。
  19. ^ a b 韓国で燃え盛る「ホワイト国除外」への反日感情、日本はどう振る舞うべきか (1/4)”. DIAMOND online. ダイヤモンド社 (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  20. ^ a b 文在寅が大失態…! 韓国はここからさらに「窮地」に追いこまれる (3/5)”. マネー現代. 講談社 (2019年8月1日). 2019年8月9日閲覧。
  21. ^ a b 日韓経済戦争勃発、世界の半導体業界に何が起きるか (1/5)”. JBpress (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  22. ^ 日韓経済戦争勃発、世界の半導体業界に何が起きるか (4/5)”. JBpress (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  23. ^ 韓国「ゴリ押し」外交、世論を焚き付け米国にすがる戦術を元駐韓大使が大解剖 (4/5)”. DIAMOND online. ダイヤモンド社 (2019年8月5日). 2019年8月9日閲覧。
  24. ^ 2019年7月23日 読売新聞「対韓輸出管理厳格化「支持」71%…読売世論調査 」
  25. ^ a b c 韓国で燃え盛る「ホワイト国除外」への反日感情、日本はどう振る舞うべきか (2/4)”. DIAMOND online. ダイヤモンド社 (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  26. ^ 関税及び貿易に関する一般協定(GATT)の第21条は、安全保障を理由とした輸出管理手続きの運営を、各国が判断できると定めている。
  27. ^ ホワイト国除外「支持」67・6%、改憲議論の活発化支持が6割超 産経・FNN合同世論調査”. 産経新聞 (2019年8月5日). 2019年8月9日閲覧。
  28. ^ a b c d 韓国「ゴリ押し」外交、世論を焚き付け米国にすがる戦術を元駐韓大使が大解剖 (2/5)”. DIAMOND online. ダイヤモンド社 (2019年8月5日). 2019年8月9日閲覧。
  29. ^ 韓国、GSOMIA破棄なら文大統領は失脚するだろう”. アゴラ (2019年8月7日). 2019年8月9日閲覧。
  30. ^ 「GSOMIA」 韓国は米の意向で破棄には慎重か”. NHK (2019年8月6日). 2019年8月9日閲覧。
  31. ^ 최새일 (2019年8月22日). “[速報]日本との軍事情報協定を破棄 韓国が決定” (日本語). 聯合ニュース. 2019年8月22日閲覧。
  32. ^ ノーノージャパン” (日本語). world.kbs.co.kr (2019年7月24日). 2019年8月13日閲覧。
  33. ^ 文大統領批判動画で会長辞任 韓国内で不買運動も” (日本語). FNN.jpプライムオンライン (2019年8月12日). 2019年8月13日閲覧。
  34. ^ 日本企業が「嫌韓放送」している 韓国で「#さよならDHC」拡散”. J-CASTニュース (2019年8月12日). 2019年8月13日閲覧。
  35. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年8月7日). “韓国「官製反日」に国民が「NO」 自治体トップらに批判” (日本語). 産経ニュース. 2019年8月13日閲覧。
  36. ^ 名村隆寛(産経新聞ソウル支局長) (2019年8月4日). “「東京オリンピックをボイコットせよ!」韓国では与党も世論も”過熱暴走””. 文春オンライン. 2019年8月13日閲覧。
  37. ^ 株式会社毎日放送(MBS) (2019年8月13日). “MBS 全国のニュース” (日本語). www.mbs.jp. 2019年8月13日閲覧。
  38. ^ "재고 일주일 치 뿐인데"…日 석탄재 전수조사에 생산 차질 우려” (朝鮮語). 아시아경제 (2019年8月9日). 2019年8月13日閲覧。