日産・VR38DETT

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日産・VR38DETT
生産拠点 日産自動車横浜工場
製造期間 2007年-
タイプ V型6気筒 DOHC 24バルブ
排気量 3,799cc
内径x行程 95.5×88.4mm
圧縮比 9.0
最高出力 2007年12月-2008年12月
353kW (480PS) /6,400rpm
2008年12月-
357kW (485PS) /6,400rpm
2011年
389kW (530PS) /6,400rpm
2012年
405kW (550PS) /6,400rpm
2016年
419kW(570ps)/6800rpm
ニスモ
441kW (600PS) /6,800rpm
最大トルク 588N·m (60.0kgf·m) /3,200-5,200rpm
2011年
612N・m (62.5kgf·m) /3,200-6,000rpm
2012年
632N・m (64.5kgf·m) /3,200-5,800rpm
2016年
637N・m(65.0kgf.m)/3300-5800rpm
NISMO
652N·m (66.5kgf·m) /3,600-5,600rpm
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日産・VR38DETTは、日産自動車が製造する過給機搭載型フラッグシップモデルV型6気筒ガソリンエンジンである。排気量は3,799cc、バルブ数は24バルブで、2基のターボチャージャーで過給される(ツインターボ)。R35型日産・GT-R専用に開発・製造され、基本的には同車種のみに搭載される。

概要[編集]

2007年10月に発表された初代R35型GT-R専用に完全新設計された[1]。最高出力は480PS、最大トルクは60.0kgf·mに達し、さらに2008年12月より485PS、2011年より530PS、62.5kgf·m、2012年より550PS、64.5kgf·mに向上した。

また、それまでスカイラインGT-RではS20RB26DETT直列6気筒エンジンを伝統的に搭載していたが、世界最高レベルの動力性能とするためには60kgf·m以上の最大トルクとエンジンの軽量化が必要であると判断されたため[1]、今回GT-Rの名を冠する車に搭載されるエンジンとしては初のV型エンジンとなった。

シリンダーブロックは、先代GT-Rまで搭載し続けてきたRB26DETTの鋳鉄製から金型成型のアルミニウム鋳造製に変更し重量を抑えた。また高出力時の剛性を確保するためVQエンジンのオープンデッキではなく、クローズドデッキを採用した。また、低炭素鋼をプラズマ溶射でコーティングしたライナーレス構造を採用し、ボア間温度を約40℃程度下げ、約3kgの軽量化を実現させている。ライナーを持つ構造の場合はその厚みが数mmとなるが、プラズマコーティングはわずか約0.2mmの皮膜しか持たない。それにより熱効率も向上し、高出力エンジンでありながら良好な燃費を達成した。

シリンダーヘッドは、ペントルーフ型の燃焼室に4つのバルブ(吸気2、排気2)を備え、吸気側のカムシャフトには可変バルブタイミング機構が組み込まれる。日産VQ型エンジンで採用される可変バルブリフトや排気側の可変バルブタイミング機構は備わらず、コンベンショナルな形式がとられている。なお2012年モデルから出力増加等の影響で燃焼温度が上がったため、エキゾーストバルブにRB26DETTで採用されていたナトリウムが封入された。

ターボチャージャーは、IHIと共同開発したエキゾーストマニホールドとタービンハウジングとが一体化され、これにより排気効率を上げるインテグレーテッドターボが採用されている。

高い横Gのかかる状態でも問題なくオイルの潤滑を行うために、ラテラルウェット&ドライサンプ方式を取り入れている。冷却系の多層式ラジエーター、ツインインタークーラーともに、サーキット連続走行、300km/h走行が可能な容量を持っている。

ハイパワーターボエンジンとしては珍しく、全域でA/Fセンサーからのフィードバック制御を実施している。一般的な過給エンジンは高負荷領域ではフィードバック制御を行わずに、安全率を見込んだ多めの燃料を噴射するのに対し、必要な量だけを計算して噴射することにより高負荷域で約5%燃費を向上させた[1]。エンジントルクがおおむね40kgf·mまでの通常走行時は理論空燃比燃焼で巡航運転でき[2]、6速ギアで200km/h巡航を行う場合も理論空燃比での燃焼が可能である。

排気ガス対策は、2次エアシステムと左右併せて4つの触媒で対応している。GT-Rはトランスアクスルを採用しているため、エンジン直後に無理なく触媒を配置できた。これにより、「平成17年基準排出ガス50%低減レベル(☆☆☆)」を達成している。なお、2011年モデルでは超低貴金属触媒やマイコン搭載のECM(Engine Control Module)の採用により「平成17年基準排出ガス75%低減レベル(☆☆☆☆)」達成となった。

組み立ては横浜市神奈川区にある横浜工場で行われ、通常の流れ作業ではなく、クリーンルームで1基を1人の職工(この職工を日産では「匠」と呼ぶ。)が担当する「手組み」となっている。また量産車では珍しく品質検査も抜き取りではなく全数に対して行われ、定格性能未達の個体は出荷されず再組み立てとなる。このようにして組み上げられたVR38は、搭載した完成車両と共に更に全機慣らし運転が行われ、問題がなければ出荷となる。ヘッドカバー部分には、そのエンジンを担当した「匠」の銘入りネームプレートが張り付けられる。

使用燃料は無鉛プレミアムガソリン専用で、無鉛レギュラーガソリンの使用はいかなる場合でも禁止されている[3]。プラズマコーティングボアを採用した高出力エンジンであるため、メーカー指定品であるモービル1とサーキット走行が多いユーザー向けにオプション設定がされているモチュールNISMO COMPETITION OIL type 2193E(5W40)以外のエンジンオイルを使用した場合は、保証対象外とされている。[4][5][6]

GT-R以外での採用例[編集]

本来GT-R専用エンジンとされるVR38DETTだが、実際には他車種への搭載例もいくつかある。

モータースポーツ[編集]

2017年 - 2019年にかけて、ウェザーテック・スポーツカー選手権DPiクラスに参戦する、日産 DPiに本エンジン(GT-RのFIA GT3仕様と同一のもの)が搭載された(詳細はリジェ・JS P217#リジェ・日産 DPiを参照)。また、2015年から開催されていたルノー・スポールワンメイクレース用(後にGT3規格版も登場)の R.S.01にも搭載されていた。

2024年からSUPER GT・GT300クラスにGAINERが独自開発し投入する、日産・フェアレディZ(RZ34)にVR38DETTが搭載される[7]

その他[編集]

2012年に欧州日産がジュークにVR38DETTを搭載した「ジュークR」をごく少数生産・販売している。

2022年チェコの自動車メーカー・プラガが発表したハイパーカー「ボヘマ」には、VR38DETTを独自にチューンアップし、最高出力700馬力を発揮する「PL38DETT」が搭載されている[8]

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]