日産・GT-R LM NISMO

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日産・GT-R LM NISMO
2015-03-03 Geneva Motor Show 3410.JPG
カテゴリー ル・マン・プロトタイプ (LMP1)
コンストラクター 日産自動車
デザイナー ベン・ボウルビー
主要諸元
シャシー カーボンファイバー モノコック
全長 4645mm (182.9in)
全幅 1900mm (75in)
全高 1030mm (41in)
エンジン 日産 VRX30A・ニスモ 排気量 3.0リッター (3000cc) V6ガソリン ツインターボ, フロントエンジン, 縦置き,前輪駆動
トランスミッション 5速 セミオートマチック
重量 880 kg (1,900 lb)
燃料 ガソリン/ハイブリッド
タイヤ ミシュラン
主要成績
チーム ニスモ
ドライバー 松田次生
ハリー・ティンクネル
オリビエ・プラ
マルク・ジェネ
ミハエル・クルム
ヤン・マーデンボロー
ルーカス・オルドネス
マックス・チルトン
アレックス・バンコム
初戦 ル・マン24時間耐久レース
出走
回数
優勝
回数
ポール
ポジション
ファステスト
ラップ
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日産・GT-R LM NISMOとは、日産自動車2015年ル・マン24時間レースおよびFIA 世界耐久選手権のLMP1-Hybridクラスに参戦するために開発したプロトタイプレーシングカーである。日産のプロトタイプレーシングカーとしては、R391以来16年ぶりに製作された車両であった。

概要[編集]

日産は2014年から同社の高級スポーツカーであり同車をベースとしたレースカー群でもあるGT-Rの名前を冠した車両を2015年のル・マン24時間レースに参戦する車両として予告していた[1]。全米で最もスポーツ中継のテレビ視聴率が高いとされるスーパーボウルのCM枠を日産北米法人が購入し[2]、現地時間2015年2月1日夜(日本時間2月2日午前)の第49回スーパーボウルNBC全米中継のCM枠にて新型マキシマとともに「GT-R LM NISMO」の車両がおおやけにされた[3]

プロジェクトの主体はダレン・コックス率いるグローバルモータースポーツ部門、開発拠点はアメリカ、エンジン開発は日本 (NISMO) という体制がとられる。チーフデザイナーのベン・ボウルビー (Ben Bowlby) は、ル・マン24時間レースのガレージ56枠として「デルタウイング」(2012年)と「日産・ZEOD RC」(2014年)という独創的なレースカーを設計しており、今回のGT-R LM NISMOも常識を覆すアイデアをもって登場した。

レイアウト[編集]

GT-R LM NISMOのサイドビュー(2015年ジュネーブ・モーターショー

通常のプロトタイプレーシングカーはエンジンをコクピット後方のミッドシップにマウントし後輪を駆動する、ミッドシップエンジン・リアドライブ (MR) 配置だが、GT-R LM NISMOはコクピット前方にエンジンをマウントし、前輪を駆動するフロントエンジン・フロントドライブ (FF) 配置としている[4](前例としてはやはり日産のグループC車スカイラインターボCがあるが、こちらはフロントエンジン・リアドライブ(FR)配置)。フロントエンジンであることから、形状も従来のプロトタイプとは一線を画したロングノーズの車体となっている。日産はこれを「革新的新型LMP1レースカーは他に類を見ないマシン」と説明している[5]

ユニークなFF方式のレイアウトを採ったのは、空力を優先した為だという[6]。ル・マン・プロトタイプのレギュレーションでは、リアよりもフロントの方が空力設計の自由度が高いので、フロント側で重点的に空力開発を行った[7]。車体設計上、ダウンフォースの前後配分と車体の重量配分を合わせるのがセオリーであるため、フロントに重量物を配置することになった[7]。前後の重量バランスに比して、タイヤ幅も前輪310mm、後輪200mmと異なっている。

モノコック[編集]

モノコックは前後部の幅が細まったボートのような形状をしている[4]。その両脇にエアダクトが取り付けられ、フロントから流入した空気がダクト内を通過し、リアディフューザー上部に排出される。この構造によりドラッグ削減が見込めると説明されている[8]。ダクトを通す空間を確保するため、左右に張り出した箱型の構造物にリアサスペンションが取り付けられている[4]

エンジン・駆動系[編集]

エンジンは3リットル60度V6直噴ガソリンエンジンにツインターボを装着し、コスワースエンジンコントロールユニットで制御する[9]。市販モデルの次期型GT-Rのエンジンはこの車両の物をベースとする可能性があるという[10]。前述のダクトの関係上、排気口はボンネット上に設けられている。

回生装置 (ERS-K) はフロントにトロトラック製の機械式フライホイールを搭載。ライバル車と異なり、電力変換を行わず運動エネルギーをダイレクトにフライホイールに伝えて蓄えられるという[11]。モーターを装備せず、プロペラシャフトを介して後輪を機械的に駆動し、パートタイム4WDとなる設計[8]。放出量は8メガジュールを目標にしたが、2015年は2MJを選択した。コクピットの足元にフライホイールが位置するため、ドライバーは膝を抱えたような窮屈な運転姿勢を強いられる。2016年シーズン参戦用の車両では、トロトラック製に替わって、新たなサプライヤーがシステムの開発に当たっていると見られている[12]

5速トランスミッションはエンジン前方(マシンの最前部)に置かれる。

レース活動[編集]

2015年シーズン[編集]

走行中ドアが開いたままになるトラブルに見舞われた21号車(2015年ル・マン24時間レース)

2015年のFIA 世界耐久選手権 (WEC) に開幕から出場する予定であったが、2015年3月初めに行なわれたセブリングテストを2日間で打ち切った。4月と5月の期間を重点的に車両の開発とテストに充てると方針変更し、第1戦シルバーストン6時間レースと第2戦スパ・フランコルシャン6時間レースには出場しないこととなった[13][14]

第3戦ル・マン24時間レースへは3台体制で臨んだが、予選ではトップのポルシェ・919から110%落ちのタイム(3分36秒575)を上回れず、3台ともグリットを降格された[15]、決勝では21号車は開始10時間の所でフロントタイヤが外れるトラブルでリタイヤ。23号車はリアサスペンションに問題が発生し残り1時間の所でリタイヤ。22号車は開始9時間の所で障害物にぶつかりレースから一時脱落。車体を修復してレースに復帰し、24時間を走り切りチェッカーを受けたが、規定周回に満たないため完走扱いにならなかった[16]。信頼性不足のためハイブリッドシステムの使用を諦め、エンジン出力のみで走行していたという[17](LMP1-Hybridクラスの車両には回生装置の搭載が義務付けられているが、走行中に使用しなくても規定違反にはならない)。

チーム側では挑戦初年度において「3台のうち1台はフィニッシュまで導く」という目標を達成したと自己評価したが[16]、プロジェクトへの取り組み方や準備不足に対して疑問の声が挙がっている[18][19]。レーシングカーデザイナーの由良拓也は「他のメーカーに失礼」と日産の準備不足を批判し、 また、レース中に解説を務め過去にワークスドライバーとして、日産からル・マンに参戦していた長谷見昌弘は「LMP2より遅いペースで走ってデータ取りなど意味が無い」などとレース関係者が痛烈に批判していた。

8月には、WEC第4戦以降の参戦を延期し、車両開発に専念することを決めた[20]。10月1日、正式にル・マン24時間レースを除くWECの2015年シーズン参戦の欠場が発表された[12]

11月末に行われたニスモフェスティバルでは、ニスモの宮谷正一社長が「来年に向けて、いま開発をかなり取り組んでいて、来年にはしっかりと戦うことができるようにしています」とファンに向けて説明したが[21]、結局12月23日に2016年度のWEC及びル・マン24時間レースへの参戦の中止が発表された[22]。この時プレスリリースとほぼ同時にインディアナポリスに存在するファクトリーの従業員の解雇通知がEメールで通達され、驚いた従業員らはファクトリーに押し寄せたが入れさせてもらえず、完全に締め出されてしまった[23]

同2015年にはベン・ボウルビーがチーム代表を退いてマイク・カルカモに交代し、10月30日には日産のグローバルモータースポーツ部門を率いていたダレン・コックスがLMP1プログラムの中心から外された格好となって退職したことが明らかとなった。その後2017年シーズンに至っても、このマシンの動向は全く明らかになっていない。このような事から、モータースポーツ誌上に日産のモータースポーツへの取り組み方について懐疑的、批判的な論調の記事が多数掲載されることとなった[要出典]

スペック[編集]

特に脚注の無いものに関しては日産自動車のプレスリリース(2015年2月2日付)[5]を参照している。

シャシー[編集]

  • 名称:GT-R LM NISMO
  • 参戦カテゴリー:ル・マン・プロトタイプ (LMP1)
  • ギヤボックス:5速シーケンシャルトランスミッション
  • アンチロールバー:後
  • ホイール:BBSマグネシウム鍛造ホイール
  • タイヤ:ミシュラン・ラジアル
  • フロントタイヤ・サイズ:31/71-16
  • リアタイヤ・サイズ:20/71-16
  • 全長:4645mm
  • 全幅:1900mm
  • 全高:1030mm
  • 燃料タンク容量:68L

エンジン[編集]

  • パワートレイン:ニッサンVRX 30A NISMO+ハイブリッド
  • エンジン・バンク角:60 V6 ツインターボエンジン
  • 燃料:ガソリン
  • エンジン排気量:3.0L

脚注[編集]

  1. ^ "Nissan GT-R LM NISMO LMP1 To Tackle WEC And Le Mans In 2015: Video"MOTOR AUTHORITY(2014年5月23日) 2015年2月3日閲覧。
  2. ^ この年のスーパーボウル30秒CM枠の広告料は平均450万米ドルであった。
  3. ^ "『ニッサンGT-R LMニスモ』遂に公開! 駆動はFF"AUTO SPORT web(2015年2月2日) 2015年2月3日閲覧。
  4. ^ a b c "Nissan GT-R LM NISMO". Nissan Photo Gallery.(2015年2月2日)2015年12月27日閲覧。
  5. ^ a b “スーパーボウル期間中にル・マン24時間レース参戦車両を公開” (プレスリリース), 日産自動車, (2015年2月2日), https://newsroom.nissan-global.com/releases/release-608a9f84a3bd4686b756cb63fea1dd63 2017年10月20日閲覧。 
  6. ^ オートスポーツ』2015年2月27日号、イデア。
  7. ^ a b 世良耕太 "ル・マン最後発の日産が見せたセオリー無視の「空力」勝負。押し通したのはエンジニアのプライドだ【連載:世良耕太】". エンジニアtype.(2015年7月6日)2015年12月26日閲覧。
  8. ^ a b 『モーターファン別冊 ル・マン/WECのテクノロジー 2015』、三栄書房、2015年、88-89頁。
  9. ^ 2015年ル・マン24時間レース参戦車両を公開!!”. 日産自動車 (2015年2月3日). 2015年3月2日閲覧。
  10. ^ "【レポート】日産の次期型「GT-R」、エンジンはル・マン用レースカーのV6がベースに" Autoblog(2015年5月5日) 2015年5月5日閲覧。
  11. ^ 世良耕太 (2015年2月9日). “NISSAN GT-R LM NISMOが積んでいる(?)フライホイールKERSについて [モータースポーツ]”. 世良耕太のときどきF1その他いろいろな日々. 2015年2月19日閲覧。
  12. ^ a b ニッサン、今季WECの残り全戦を欠場。16年に復帰”. オートスポーツ (2015年10月2日). 2015年10月2日閲覧。
  13. ^ GT-R LMニスモ、セブリングテストを早期打ち切り”. as-web.jp/. オートスポーツ (2015年3月18日). 2015年3月19日閲覧。
  14. ^ ニッサン、WEC開幕2戦を欠場へ。ル・マンに集中”. as-web.jp/. オートスポーツ (2015年3月5日). 2015年3月19日閲覧。
  15. ^ GT-R LMニスモ、3台ともにグリッド降格 - オートスポーツweb.2015年6月27日閲覧。
  16. ^ a b ニッサン、GT-R LMニスモの初戦は「目標達成」 - オートスポーツweb.2015年6月27日閲覧。
  17. ^ GT-R LMニスモ、ハイブリッドなしでル・マンを走行 - オートスポーツweb. 2015年6月27日閲覧。
  18. ^ "ル・マン24時間レビュー:「目標達成」のニッサンに違和感". オートスポーツweb.(2015年6月16日)2015年12月26日閲覧。
  19. ^ 川喜田 研 "恥辱のル・マン参戦に終わったニッサンには愛がなさすぎる! 真剣に勝負するならあんなマシンは造らない". 週プレnews.(2015年6月29日)2015年12月26日閲覧。
  20. ^ 【WEC】日産、GT-R LM NISMOによるレース参戦を当面見送り - レスポンス 2015年8月8日閲覧
  21. ^ "ニスモ宮谷社長、LMP1は「来年はしっかり戦える」". オートスポーツweb.(2015年11月29日)2015年12月26日閲覧。
  22. ^ “日産自動車、2016年 世界耐久選手権LMP1クラス参戦取りやめを決定” (プレスリリース), 日産自動車, (2015年12月23日), https://newsroom.nissan-global.com/releases/release-f53b23c44e9906242924b3d4a5000d88 2017年10月20日閲覧。 
  23. ^ Nissan Fired Its Le Mans Team Over E-Mail

関連項目[編集]

外部リンク[編集]