サンスクリーン剤

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
日焼け止めから転送)
ナビゲーションに移動 検索に移動
チューブ入りの日焼け止め(SPF15)

サンスクリーン剤: Sunscreen)は、皮膚に当たる紫外線をブロックすることによって、日焼けや皮膚の光老化を予防するための製品であり、日やけ止め、また日焼け止めとも呼ばれる。剤形としてはクリーム乳液ジェル、スプレーなどが存在し、日本国内法においては日焼け止め化粧品に該当する。

日本では「日焼けによるシミそばかすをふせぐ」の効能表示が承認されている[1]酸化チタン酸化亜鉛の安全性は確認されているが、米国で体内に吸収されるとして2019年に安全性確認の強化の動きが起きた[2]。紫外線防御の指数として日本での表記では、紫外線B波を防ぐSPFでは最大値を50とそれ以上であれば50+とし、紫外線A波を防ぐPAでは「+」が4個まで増加していく。有害作用と環境汚染について議論がある。

日やけ止めの成分[編集]

日やけ止めに配合されている成分である紫外線防御剤は、大きく2種類に分類できる。

  • 紫外線散乱剤
紫外線拡散剤は紫外線を物理的に反射し、吸収剤は紫外線を化学的に吸収し、肌に紫外線が届くのを防ぐ。酸化チタンや酸化亜鉛といった鉱物由来の成分が多く、塗った時に白く見えるものが多い。
酸化チタン酸化亜鉛の安全性は確認されている[2]
  • 紫外線吸収剤
紫外線吸収剤は合成化合物が多い。紫外線吸収剤はその性質上、紫外線のエネルギーを吸収する際に分子構造が破壊されることがあり、防御性能が時間とともに低下する。破壊後の生成物がアレルギー反応炎症を起こすなどの可能性がある。
日本国内では厚生労働省のポジティブリストに収載された物質以外は配合できない。
米国で皮膚から吸収されるという研究結果から2019年11月までに体内への吸収データが提出されない場合、使用許可を取り消す方針を示している[2]。従来は吸収されないとみなされていたが、1990年代後半から吸収されるという研究結果が発表されるようになっていた[2]

SPF30や50といった効果の高い日焼け止めには散乱剤および吸収剤の両方が多くの製品に使用されている。

オーガニック化粧品には薬草の成分のみで紫外線を防ぐ化粧品の研究が進んでいる。現在市販されているものはSPFが3~6程度と既存のものよりはるかに効果が弱い。また安全とは限らない。

ビタミンAのパルミチン酸レチノールの日焼け止めはSPF20程度の効果がある[3]フェルラ酸は、ビタミンC、ビタミンEの化学的な安定性を向上させ、太陽光に対する防御性を数倍にする[4]。10名のランダム化比較試験で、ビタミンC、フェルラ酸、フロレチンを含有する外用薬を、紫外線による皮膚損傷に備えて事前に塗ることで防御作用があった[5]。12名の中国人女性を用いて、ビタミンC、ビタミンE、フェルラ酸からなる外用薬は、これを塗った部分は、塗っていない部分に比較して光から防御された[6]

紫外線防御力の指標[編集]

UVA UVB波(波長290-320nm)の防御指標としてSPF値、および、UVA波(波長320-380nm)の防御指標としてPA分類が定められている。国際的には、他の指標も用いられている他(後述)、同一の防御指標でもその測定法には地域ごとに微妙な差が存在する場合がある。

国内における測定法については、SPF、PA分類ともに、1cm2あたり2mgずつ製品を皮膚に塗布した上での測定をもとにしているが、実際にはそこまで多量には塗布できないことも多く、また塗布された製品は発汗や接触、紫外線そのものによる劣化などによって徐々に失われていく。そのため、指標を過信せず、こまめに塗りなおすなどの工夫を怠らないことが大切であるとされる。

UVB防御力の指標[編集]

SPFはSun Protection Factorの頭文字であり、紫外線のうち、UVB波を遮断する効果の程度を表す指標。測定法に微妙な差異はあるものの、ほぼ世界標準と言えるくらい多くの国で採用されている。紅斑、またはサンバーンと呼ばれる、肌がヒリヒリと赤くなるような炎症をひき起こすかどうかをもとに算出される。被験者が紅斑を引き起こす最小の紫外線量に比べ、塗布時に何倍の紫外線にまで耐えられるかがSPFの数値の根拠である。たとえば、紅斑が現れるまでに20分程度かかる人がSPF10の日やけ止めを塗った場合、10倍の紫外線量を20分浴びて、ようやく紅斑が認められるということを意味する。重要なのは10倍の時間(この場合200分)紫外線にまで耐えられるという意味ではない。それは前述のとおり、塗布された日やけ止めは時間と共に失われるからである。

ヒトの皮膚の色の変化を目視によって確認するという手法の性質上、値とともに誤差が増大するものであり、特に高SPF値の製品同士の実際の能力差(例えばSPF55とSPF60の差)が数字通りあるかどうかは疑わしいという考え方がある。そのため、日本ではSPF50を超える能力が有意に認められる場合はSPF50+と表記することになっている。

日焼け止め効果の客観的な指標として、1960年代に疑似太陽光を光源とした指標が報告され、1978年にFDAが測定法の案を発表し、日本で1980年には当時の表現でサンケア指数を表示した日焼け止めが資生堂から発売された[1]。各メーカー独自に測定され問題が多いと指摘され、日本化粧品工業連合会の専門委員会が1992年にガイドラインを作成した[1]。メーカーは、高いSPFを目指し1991年に最高SPF20が最高だったものが1998年には100を超えるようになり、紫外線に敏感な人でも通常の環境で1日中太陽光にさらされても日焼けしないためにはSPF50であれば十分とされ、赤道直下など赤外線の強い地域へ行く人のためにより効果が高いSPF50+が考えられた[1]。比較やメーカーの測定費用の国際統一が望まれ、2003年には欧州、日本、南アフリカで共通のSPF測定法ができ、2010年にはISO国際規格となった[1]。米国ではSPF50を最大とする表記は採用されていない。

UVA防御力の指標[編集]

PA分類[編集]

Protection grade of UVAの略語であり、日本で採用されているUVAの防御力を示す指標。即時黒化と呼ばれる、日焼け後すぐに黒くなる現象をもとに算出される。本来はPPD(Persistent Pigment Darkening)と呼ばれる数値(後述)をもとにしており、PPD値が2以上4未満でPA+(効果がある)、4以上8未満でPA++(かなり効果がある)、8以上12未満でPA+++(非常に効果がある)、12以上でPA++++の4段階(無標も含めれば5段階)に分類する。日本発祥の分類方式である。

TPP[編集]

EU諸国で採用されているUVAロゴマーク

持続的即時黒化と呼ばれる、主としてUVAによって引き起こされる皮膚の黒化を利用して測定するUVA防御力の指標であり、前述PA分類分類の根拠となる数値。このPPD計測手法自体は日本で開発されたが、日本ではこれを利用したPA分類の表示にとどまっている一方、欧州では積極的に採用されている。

発想としてはSPFと同様で、皮膚が黒化する最小量の紫外線量に比べ、塗布時に何倍の紫外線にまで耐えられるかがPPDの数値の根拠である。PPD10の日やけ止めを定められた量塗布すれば、その10倍量の紫外線を浴びてようやく黒化することを意味する。

欧州では非常に重要な指標であると考えられており、PPD値はSPF値の1/3なければ良い日やけ止めではないとされている。元来ヨーロッパの業界団体主導で定められたこの日やけ止めに対する考え方は、2006年には欧州連合が推奨するものとなっており[7]、この条件に合致する製品には右のロゴが付けられている。

使用方法[編集]

背中に日焼け止めを塗っているところ
  • 個人のスキンタイプに応じた使い方が必要。スキンタイプはI - IIIに分類され、日焼けのしやすさによって分けられる。
  • 外出時間などに応じても適切な強さのクリームを使用する必要がある。
  • 日焼け止めの強さは同じ量を塗った場合。強力でも少ししか塗らなければ意味がない。
  • 海水浴プールスポーツなどでは、水分によって日焼け止めが落ちやすいので、耐水性の日焼け止めを使用し、こまめに日焼け止めを塗る必要がある。
  • 単純な和になるわけではないが、ファンデーションなど元々日焼け止めの効能が記載されている化粧品の上からサンスクリーン剤の上塗りをすると、より日焼け止めの効果が高まる。
  • クリームの後に使用し、化粧下地の前に使用する方法もある。
  • 日焼け止めは通常塗ってから30分程度経たないと十分な効力を発揮しない。外出直前に塗るのではなく、外出の少し前に塗っておくこと。
  • 日焼け止めと同時に保湿も十分に行うと、日焼けがよりしにくくなる。

効果[編集]

日本では日焼け止めでは「日焼けによるシミそばかすをふせぐ」の効能表示が承認されている[1]

8年間の追跡調査によって、扁平上皮癌の発症率が35%低下しているが、基底細胞癌には変化はない[8]

副作用[編集]

SPFやPAの強いものの場合、かぶれを起こすことがある。

紫外線吸収剤のメトキシケイ皮酸エチルヘキシル. (OMC)他 2種類 benzophenone-3 (BP-3) と  3-(4-methylbenzylidene) camphor (4-MBC) の日焼け止め成分 各10%の混合液を全身塗布した治験では、男女とも、血清テストステロン濃度が4時間以内に1割ほど低下した[9]

ラットでは、OMC曝露により前立腺と精巣の重量の低下や精子数の減少など生殖毒性を示した[10]。特に子供では使用量に注意する必要がある。

環境への影響と規制[編集]

日焼け止めに含まれるブチルパラベン桂皮酸エステルベンゾフェノンカンファー誘導体などの成分が引き金となりサンゴ白化を誘発することが確かめられており、これは褐虫藻に有害なウイルスの増殖の誘発により起こるものだという[11]。しかし、サンゴの専門家であるRobert van Woesikによれば、この研究は実際の環境を反映しておらず、実際の環境下では急速に希釈されるためサンゴは白化を起こすほどの濃度にさらされないだろうとしている[12]

2018年7月、アメリカ合衆国ハワイ州デービッド・イゲ知事は、オキソベンジンとオクチノキサートの2種類を含む日焼け止めの販売を2021年から禁止する州法に署名した[13]。11月にはパラオでもサンゴ礁の保護を目的として、有害な化学物質を含んだ日焼け止めの販売を2020年から禁止することが、国家単位としては世界で初めて決まった[14]

成分[編集]

関連する製品[編集]

サンオイル(サンタンオイル、サンタン製品ともいう)は、紫外線のうちUVB波を防ぐという点では日焼け止めと同じである。ただし、サンオイルは日焼け止めと異なり、UVA波は防がない。UVB波のみを防ぐことにより、肌に炎症(サンバーン)を起こさずにきれいに日焼け(サンタン)することを目的とするのがサンオイルである。なおサンオイルは和製英語で、正しくは Suntan lotion 等である。

出典[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ a b c d e f 長沼雅子「香粧品の有効性の歴史的変遷」『日本香粧品学会誌』第39巻第4号、2015年、 275-285頁、 doi:10.11469/koshohin.39.275
  2. ^ a b c d Megan Molteni, Chihiro Oka(翻訳) (2019年5月8日). “日焼け止めの化学物質は体内に吸収され、血液中に流れ込んでいた:米当局の臨床試験から明らかに”. WIRED. 2019年6月21日閲覧。
  3. ^ Antille C, Tran C, Sorg O, Carraux P, Didierjean L, Saurat JH (November 2003). “Vitamin A exerts a photoprotective action in skin by absorbing ultraviolet B radiation”. J. Invest. Dermatol. (5): 1163–7. doi:10.1046/j.1523-1747.2003.12519.x. PMID 14708621. https://doi.org/10.1046/j.1523-1747.2003.12519.x. 
  4. ^ Lin FH, Lin JY, Gupta RD, et al. (October 2005). “Ferulic acid stabilizes a solution of vitamins C and E and doubles its photoprotection of skin”. J. Invest. Dermatol. (4): 826–32. doi:10.1111/j.0022-202X.2005.23768.x. PMID 16185284. 
  5. ^ Oresajo C, Stephens T, Hino PD, et al. (December 2008). “Protective effects of a topical antioxidant mixture containing vitamin C, ferulic acid, and phloretin against ultraviolet-induced photodamage in human skin”. J Cosmet Dermatol (4): 290–7. doi:10.1111/j.1473-2165.2008.00408.x. PMID 19146606. 
  6. ^ Wu Y, Zheng X, Xu XG, etal (April 2013). “Protective effects of a topical antioxidant complex containing vitamins C and E and ferulic acid against ultraviolet irradiation-induced photodamage in Chinese women”. J Drugs Dermatol 12 (4): 464–8. PMID 23652896. http://jddonline.com/articles/dermatology/S1545961613P0464X. 
  7. ^ COMMISSION RECOMMENDATION of 22 September 2006 on the efficacy of sunscreen products and the claims made relating thereto (2006/647/EC)Official Journal of the European Union.
  8. ^ Burnett ME, Wang SQ (2011-4). “Current sunscreen controversies: a critical review”. Photodermatol Photoimmunol Photomed (2): 58–67. doi:10.1111/j.1600-0781.2011.00557.x. PMID 21392107. https://doi.org/10.1111/j.1600-0781.2011.00557.x. 
  9. ^ Axelstad M, Boberg J, Hougaard KS et al (2011-2). “Effects of pre- and postnatal exposure to the UV-filter octyl methoxycinnamate (OMC) on the reproductive, auditory and neurological development of rat offspring”. Toxicology and applied pharmacology 250 (3): 278–290. doi:10.1016/j.taap.2010.10.031. PMID 21059369. 
  10. ^ Axelstad M, Boberg J, Hougaard KS et al (2011-2). “Effects of pre- and postnatal exposure to the UV-filter octyl methoxycinnamate (OMC) on the reproductive, auditory and neurological development of rat offspring”. Toxicology and applied pharmacology 250 (3): 278–290. doi:10.1016/j.taap.2010.10.031. PMID 21059369. 
  11. ^ Danovaro R, Bongiorni L, Corinaldesi C (2008-4). “Sunscreens cause coral bleaching by promoting viral infections”. Environmental health perspectives 116 (4): 441–447. doi:10.1289/ehp.10966. PMC: 2291018. PMID 18414624. https://doi.org/10.1289/ehp.10966. 
  12. ^ Swimmers' Sunscreen Killing Off Coral National Geographic, 2008年1月
  13. ^ 「ハワイ、日焼け止め禁止 サンゴ礁保護で2021年から」産経新聞ニュース(2018年7月4日)2018年8月5日閲覧。
  14. ^ パラオ、日焼け止め禁止=20年から世界初”. フランス通信社 (2018年11月2日). 2018年12月22日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]