日本の世界遺産

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日本の世界遺産位置図

日本世界遺産(にっぽんのせかいいさん、にほんのせかいいさん)はユネスコに23件登録されており、文化遺産が19件、自然遺産が4件である。

文化遺産[編集]

画像 ID 登録名 登録年 所在地 登録基準 備考
Horyu-ji11s3200.jpg 660 ほうりゅうじちいきのぶっきょうけんぞうぶつ 法隆寺地域の仏教建造物 1993年 奈良県 (1), (2), (4), (6)
Himeji Castle repainted 3.jpg 661 ひめじじょう姫路城 1993年 兵庫県 (1), (4)
Kiyomizu.jpg 688 こときょうとのぶんかざい古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市) 1994年 京都府
滋賀県
(2), (4)
Shirakawa-go houses 1.jpg 734 しらかわごうごかやまのがっしょうづくりしゅうらく白川郷・五箇山の合掌造り集落 1995年 岐阜県
富山県
(4), (5)
HiroshimaGembakuDome6747.jpg 775 げんばくどーむ原爆ドーム 1996年 広島県 (6) 負の世界遺産
Itsukushima torii distance.jpg 776 いつくしまじんじゃ厳島神社 1996年 広島県 (1), (2), (4), (6)
Kofukuji0411.jpg 870 ことならのぶんかざい古都奈良の文化財 1998年 奈良県 (2), (3), (4), (6)
Taiyuin nitenmon gate.jpg 913 にっこうのしゃじ日光の社寺 1999年 栃木県 (1), (4), (6)
Naha Shuri Castle16s5s3200.jpg 972 りゅうきゅうおうこくのぐすくおよびかんれんいさんぐん琉球王国のグスク及び関連遺産群 2000年 沖縄県 (2), (3), (6)
Danjogaran Koyasan12n3200.jpg 1142 きいさんちのれいじょうとさんけいみち紀伊山地の霊場と参詣道 2004年 和歌山県
奈良県
三重県
(2), (3), (4), (6) 文化的景観
2016年に軽微な変更
180504 Omori of Iwami Ginzan Silver Mine Oda Shimane pref Japan01bs4.jpg 1246 いわみぎんざん石見銀山遺跡とその文化的景観 2007年 島根県 (2), (3), (5) 文化的景観
産業遺産
2010年に軽微な変更
Konjikido-Ooido.jpg 1277 ひらいずみ平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群― 2011年 岩手県 (2), (6)
Lake Motosu04.jpg 1418 ふじさんしんこうのたいしょうとげいじゅつのげんせん富士山―信仰の対象と芸術の源泉 2013年 静岡県
山梨県
(3), (6)
富岡製糸場・繰糸場.jpg 1449 とみおかせいしじょうときぬさんぎょういさんぐん富岡製糸場と絹産業遺産群 2014年 群馬県 (2), (4) 産業遺産
近代化遺産
Battle-Ship Island Nagasaki Japan.jpg 1484 めいじにほんのさんぎょうかくめいいさんせいてつせいこうぞうせんせきたんさんぎょう明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業 2015年 山口県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
鹿児島県
岩手県
静岡県
(2), (4) 産業遺産
近代化遺産
稼働遺産
National museum of western art01 1920.jpg 1321 るこるびゅじえのけんちくさくひんきんだいけんちくうんどうへのけんちょなこうけんル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献- 2016年 東京都 (1), (2), (6) 現代建築
国境を越える世界遺産
Munakata-taisha, shaden.JPG 1535 かみやどるしまむなかたおきのしまとかんれんいさんぐん「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 2017年 福岡県 (2), (3)
舟森集落跡5.JPG 1495 ながさきとあまくさちほうのせんぷくきりしたんかんれんいさん長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 2018年 長崎県
熊本県
(3)
NintokuTomb.jpg 1593 もずふるいちこふんぐん百舌鳥・古市古墳群 -古代日本の墳墓群- 2019年 大阪府 (3), (4)

自然遺産[編集]

画像 ID 登録名 登録年 所在地 登録基準 保護管理
Shiratani Unsui Gorge 17.jpg 662 やくしま屋久島 1993年 鹿児島県 (7), (9) 屋久島国立公園
屋久島原生自然環境保全地域
Sirakami santi.JPG 663 しらかみさんち白神山地 1993年 青森県
秋田県
(9) 白神山地自然環境保全地域
140829 Ichiko of Shiretoko Goko Lakes Hokkaido Japan01s5.jpg 1193 しれとこ知床 2005年 北海道 (9), (10) 知床国立公園
遠音別岳原生自然環境保全地域
Minamijima.jpg 1362 おがさわらしょとう小笠原諸島 2011年 東京都 (9) 小笠原国立公園
南硫黄島原生自然環境保全地域

複合遺産[編集]

なし  

危機遺産[編集]

なし

地域別[編集]

現在、47都道府県中27都道府県(北海道青森県岩手県秋田県栃木県群馬県東京都富山県山梨県岐阜県静岡県三重県滋賀県京都府大阪府兵庫県奈良県和歌山県島根県広島県山口県福岡県佐賀県長崎県熊本県鹿児島県沖縄県)に世界遺産がある。

分布図[編集]

北海道[編集]

東北地方[編集]

関東地方[編集]

中部地方[編集]

近畿地方[編集]

中国地方[編集]

四国地方[編集]

なし

九州・沖縄地方[編集]

暫定リスト掲載物件[編集]

日本政府は、登録の前提となる暫定リストに文化遺産6件、自然遺産1件を掲載している。英語名は世界遺産センターの暫定リスト[2]、日本語名は文化遺産については文化遺産オンライン[1]による。

文化遺産の候補[編集]

画像 日本語名
(リスト記載名・英語)
記載年月 備考
TsurugaokaHachiman-M8867.jpg 古都鎌倉の神社・寺院ほか 1992年10月 武家の古都・鎌倉」として2012年に推薦されたが、翌年、第37回世界遺産委員会での審議前に「不登録」勧告が出されたため推薦を取り下げた。勧告内容を是正するためのコンセプト修正には相当な時間を要するため、2019年令和元年)11月に神奈川県と鎌倉市・横浜市・逗子市が文化庁に提出する推薦書(原案)の作成活動を同年度限りで休止すると発表した。規模は縮小するが基礎研究と文化財調査および整備事業は継続され、世界遺産登録は諦めない方針も明らかにされた[3]
Temples, Shrines and other structures of Ancient Kamakura
Hikone castle5537.JPG  彦根城 1992年10月 姫路城や法隆寺とともに日本で最初の暫定リスト掲載物件となって以来、四半世紀以上を経て、2022年の登録審査を目指し2020年3月30日に初めて推薦書原案を文化庁に提出したが[4]新型コロナウイルス感染症の流行の影響で候補地の選定が行われないことになった[5]
Hikone-Jo(castle)
Ishibutai-kofun Asuka Nara pref03n4592.jpg 飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群 2007年1月 2022年の登録審査を目指し2020年3月30日に初めて推薦書原案を文化庁に提出したが[注 2]、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で候補地の選定が行われないことになった。
Asuka-Fujiwara: Archaeological sites of Japan’s Ancient Capitals and Related Properties
140913 Sannai-Maruyama site Aomori Japan01bs6bs6.jpg 北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群 2009年1月 考古遺跡のみで構成される国内初の候補地として2018年7月19日文化審議会により2020年審議の正式候補に選定された[7]。しかし、自然遺産候補として「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」も同年の推薦を目指し、2020年からは文化遺産・自然遺産を問わず審議対象は一国一件に限られるようになるため、政府は自然遺産の候補案件が優先的に審査対象にされることを踏まえ、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」を先に推薦することにした。このため、北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群は2021年の推薦に回された[8]。2019年7月30日に文化審議会が2021年審議の正式候補に再選定し[9]、2020年1月20日に推薦書をユネスコに提出[10]。9月4日から15日にわたりユネスコ諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)による現地調査が行われ[11]、2021年6-7月に延期開催されることになった世界遺産委員会において2020年と2021年分をまとめて審査される見込みとなった[12]
Jômon Archaeological Sites in Hokkaidô, Northern Tôhoku, and other regions
Sadokinzan-doyunowareto 01.JPG 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群 2010年11月 2015年から毎年、推薦書原案を文化庁へ提出しており、2022年の登録審査を目指し2020年3月30日に6度目となる推薦書原案を文化庁に提出したが[13]、新型コロナウイルス感染症の流行の影響で候補地の選定が行われないことになった[5]
The Sado complex of heritage mines, primarily gold mines
Yanaginogosho Site.JPG 平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―(拡張) 2012年9月 2008年の「登録延期」決議で除外された柳之御所遺跡達谷窟白鳥舘遺跡長者ヶ原廃寺跡骨寺村荘園遺跡一関本寺の農村景観)の登録を目指している。
Hiraizumi - Temples, Gardens and Archaeological Sites Representing the Buddhist Pure Land (extension)

自然遺産の候補[編集]

画像 日本語名
(リスト記載名・英語)
記載年月 備考
Funauki iriomote island.jpg 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島[14] 2016年2月[15] 日本は2013年1月に暫定リスト記載を決定したが[16]世界遺産センターから不備を指摘され記載が保留[17]2016年2月1日に「奄美・琉球」として正式記載。2017年のIUCNによる現地調査を経て、2018年5月に「登録延期」勧告が出されたため推薦を取り下げ、2020年の審議を目指すことになった[18]。2019年10月に再度の現地調査が行われ[19]、勧告の発表待ちであったが、審査が行われる第44回世界遺産委員会新型コロナウイルス感染症の流行のための開催が延期となり[20]、2021年6-7月の延期開催で審査される見込みになった[12]
Amami-Oshima Island, Tokunoshima Island, the northern part of Okinawa Island and Iriomote Island[15]

複合遺産の候補[編集]

なし

暫定リストへの越境遺産の提案[編集]

外国から、越境遺産(国境を越える世界遺産)の共同提案の可能性が打診されている事例もある。

暫定リストへの過去の提案[編集]

文化遺産推薦に向けた公募[編集]

文化庁は2006年と2007年に文化遺産候補を全国から公募した。その中には「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」、「「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群」、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」のように、すでに世界遺産に登録されているものもあり、「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」のように暫定リストに記載済みのものもある。また、「萩-日本の近世社会を切り拓いた城下町の顕著な都市遺産」は「萩城下町」として「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に組み込まれて世界遺産に登録されている。その一方で、暫定リスト入りを果たしていない提案も以下のように多く残っている(カッコ内の年は最初に提案された年)[23][24]。以下の提案は文化審議会によって評価や課題が示されている[25]

なお、「飛騨高山の町並みと祭礼の場-伝統的な町並みと屋台祭礼の文化的景観-」の無形文化財の要素については、無形文化遺産山・鉾・屋台行事」の構成資産となった。また、ユネスコの遺産事業とは異なるが、日本遺産に組み込まれた例に四国霊場や足利学校および「水戸藩の学問・教育遺産群」と「近世岡山の文化・土木遺産群」の構成資産候補から弘道館閑谷学校の指定があり[注 3]、阿蘇は世界ジオパークおよび世界農業遺産、宇佐・国東は世界農業遺産、松島は世界で最も美しい湾クラブに登録されるなど、異なる枠組みで評価されている要素を含む物件もある。

自然遺産推薦に向けた選定[編集]

自然遺産の候補については、2003年に環境省林野庁が主催する「世界自然遺産候補地に関する検討会」でリストアップと検証が行われ、その中から、有力候補として知床小笠原諸島奄美・琉球が選定された[27][注 6]。その過程で漏れた候補は以下の通りである(「比較対象」は、審議の際に、候補地よりも優越するとして挙げられた他国の世界遺産などであり、選定された3件のみが他国の世界遺産よりも優越する可能性を指摘された)[28]

名称 所在地 分野 比較対象 国際的要素
利尻・礼文・サロベツ原野 北海道 混交林(日本・満州) カムチャツカの火山群 サロベツ原野ラムサール条約登録地。
大雪山 北海道 混交林(日本・満州) カムチャツカの火山群
トンガリロ国立公園
シホテアリニ山脈中央部
阿寒・屈斜路・摩周 北海道 混交林(日本・満州) イエローストーン国立公園
ンゴロンゴロ保全地域
阿寒湖はラムサール条約登録地。
日高山脈 北海道 混交林(日本・満州) シホテアリニ山脈中央部
早池峰山 東北地方
岩手県
夏緑樹林(東アジア) (該当多し)
飯豊朝日連峰 東北・中部
山形県・新潟県・福島県
夏緑樹林(東アジア) 白神山地
奥利根・奥只見奥日光 東北・中部・関東
福島県・栃木県・群馬県・新潟県
夏緑樹林(東アジア) カムチャツカの火山群
白神山地
「尾瀬」「奥日光の湿原」はラムサール条約登録地。「只見」は生物圏保存地域
北アルプス 中部地方
新潟県・富山県・長野県・岐阜県
夏緑樹林(東アジア) カナディアン・ロッキー山脈自然公園群
ヨセミテ国立公園
富士山 中部地方
静岡県・山梨県
常緑樹林(日本) キリマンジャロ国立公園
ハワイ火山国立公園
グヌン・ムル国立公園
文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」としては世界遺産リストに登録された。
南アルプス 中部地方
長野県・山梨県・静岡県
常緑樹林(日本) カナディアン・ロッキー山脈自然公園群 「南アルプス」は生物圏保存地域。
祖母山傾山大崩山、九州中央山地と周辺山地 九州地方
大分県・宮崎県・熊本県
常緑樹林(日本) ガラホナイ国立公園
マデイラ島の照葉樹林
祖母・傾・大崩」は生物圏保存地域。
阿蘇山 九州地方
熊本県
常緑樹林(日本) イエローストーン国立公園
ンゴロンゴロ保全地域
阿蘇ジオパーク」は世界ジオパーク
霧島山 九州地方
宮崎県・鹿児島県
常緑樹林(日本) カムチャツカの火山群
ハワイ火山国立公園
伊豆七島 関東地方
東京都
常緑樹林(日本) ハワイ火山国立公園
三陸海岸 東北地方
岩手県・宮城県
海岸地形 グロス・モーン国立公園
ドーセットと東デヴォンの海岸
山陰海岸 近畿・中国地方
京都府・兵庫県・鳥取県
海岸地形 グロス・モーン国立公園
ジャイアンツ・コーズウェーとコーズウェー海岸
山陰海岸ジオパーク」は世界ジオパーク。

新たな暫定リスト追加の可能性[編集]

ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)の国内組織「日本イコモス国内委員会」の岡田保良副委員長(国士舘大教授)は2018年2月8日に宮崎県庁で行われた講演の中で、「政府が選定する国内の推薦候補地について、2019年度までに追加など見直し作業を行う可能性がある」との見解を示した[29]。日本イコモス国内委員会は2017年12月8日に、将来的に世界遺産になる可能性がある日本の20世紀遺産を選定している。

上掲文化遺産推薦に向けた公募の内、「松島の貝塚群」は2021年に登録審査予定の「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」に加えることを検討すべきとされており[25]、松本城は暫定リスト掲載の彦根城や公募に名乗りを上げなかった犬山城と合わせて既登録の姫路城への「近世日本の木造天守閣式城郭」といったような枠組みでの拡張登録が模索されている。また、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の登録に尽力し内閣官房参与も務めた加藤康子黒部ダム[30]、そして日本イコモス国内委員会委員長・文化審議会世界遺産特別委員会委員長を務めた西村幸夫と元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎らも黒部に加え立山の砂防システムの登録の可能性を公言しており、立山の自然環境を含めれば複合遺産の可能性もあると示唆している[31]。特に西村は今後の日本の世界遺産について、ユネスコが認める保存活用事例(アダプティブユース遺産と創造性)も勘案しつつ、近代化遺産産業遺産稼働遺産としての土木土工構築物戦後建築に移行せざるをえないのではないかと言及する[32][注 7]

さらに既存登録地の京都ではかねてから古都京都の文化財の拡張登録が取り沙汰されているほか、群馬で富岡製糸場と絹産業遺産群の拡張登録や、和歌山では紀伊山地の霊場と参詣道の再拡張登録を目指す動きもある。

自然遺産に関しては、日本の世界遺産条約締約作業に携わった筑波大学吉田正人が、上記の「自然遺産推薦に向けた選定」は気候地形に応じた植生を基にユネスコと自然遺産諮問機関の国際自然保護連合(IUCN)が重視する生物多様性固有種生態系を中心としたものでえると指摘した。その観点からすれば「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」をもって打ち止めの感はあるが、(1)ユネスコとIUCNが推奨する海洋域への展開として除外された奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島の海洋域や小笠原諸島の海洋域への拡張登録、(2)登録基準ⅷが示す「地球の歴史」については第1に地質分野として生物圏が評価された小笠原諸島の中から西之島だけ分離独立させることの現実性[注 8]、第2に太平洋プレート北米プレートユーラシアプレートフィリピン海プレートの4つが衝突する上に形成された弧状列島の特異さと地震火山にみられる現在進行形の地質活動が物語るダイナミックな地球の胎動を表現すること、また第3に公海の世界遺産への注目を受けた海底域からの世界遺産推薦の可能性を挙げ、日本海溝伊豆・小笠原海溝などのプレート境界線、その延長線上に位置する小笠原諸島-伊豆諸島伊豆半島丹沢山地を一体的に捉えた視点の検討を提唱する[33]

加えて吉田は、1982年にIUCNが発行した『世界の優れた自然地域』(The World's Greatest Natural areas)に将来の自然遺産候補として阿寒国立公園日光国立公園富士箱根伊豆国立公園が上げられており、いずれも「自然遺産推薦に向けた選定」で俎上(そじょう)した後、日光日光の社寺として、富士山富士山-信仰の対象と芸術の源泉として文化遺産に鞍替えして登録された点に着目すると文化的景観の要素も含む複合遺産の可能性も示唆し、日光は男体山中禅寺湖から流れ落ちる華厳滝など自然崇拝の要素、富士山は前述の海底から地上に至る地質活動の終着点として、さらに阿寒湖界隈はアイヌ文化との密接な関係を備えるとした[33][注 9]

今後の在り方について[編集]

新型コロナウイルス感染症の流行により2020年に開催予定であった第44回世界遺産委員会が延期となったため、文化庁文化審議会世界文化遺産部会は2022年に審査を受ける国内候補選定を行わないことにした[34]

このような社会情勢に加え、ユネスコと世界遺産委員会が世界遺産に求める条件が多様化したこと(以下に列挙)などをうけ、2020年10~11月にかけて文化審議会世界文化遺産部会は今後の世界遺産の在り方について協議を始めた[37]

近年、ユネスコ・世界遺産委員会は、災害等を含めた管理体制と被災時における適正な復旧手法の事前構築、緩衝地帯を含めた景観保護や開発の監視・規制[38]、世界遺産管理のエッセンシャルワーカーとしてのサイトマネージャーの育成、文化遺産維持に必要な文化資材の確保、遺産の価値や意義の周知徹底[注 10]、保存活動への地域コミュニティの関与、世界遺産が与える地域貢献の具体案、観光公害対策[注 11]を求めるようになり、こうした条件に対応できる物件・地域(自治体等の地方行政機関)でなければ世界遺産の候補とすることは難しいとした。

また物件そのものも、ユネスコや諮問機関がこれまで行ってきたテーマ研究に基づく「世界遺産リストにまだ充分に反映されていない分野」[注 12]から選定すべきとし、これは前述の西村の意見とも合致しているほか、イコモスによる「遺産としての農村景観に関する原則」[39]に基づき地域多様性を反映する一般家屋や集落景観の可能性も示唆。

文化ナショナリズムが台頭していることをうけ、国際軋轢(あつれき)を生まない物件にする配慮も必要とする。

さらに、国連機関の一員であるユネスコは、国連が推進する持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みから持続可能な開発のための文化を採択し、持続可能な開発を世界遺産にも反映させるべく求めるようになり、今後の世界遺産登録を目指す際には官民一体となった対応が不可欠とされる。SDGs目標11「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」の第4項に「世界の文化遺産および自然遺産の保全・開発制限取り組みを強化する」と明記されており、特に世界遺産候補地周辺での開発は慎重かつ国際ルールに則った適切なもので実施しなければならない。

こうしたことを踏まえ、2021年1月21日に開催した文化審議会世界文化遺産部会は新たに推薦されるべき候補として、(1)地震洪水といった防災に係るもの、(2)対象の保護に無形文化遺産が必要不可分に関わっているもの、(3)独自の信仰形態を表すもの、(4)自然の尊重や自然との共生という古来からの精神を体現したもの、(5)自然環境と生活の相互作用が独自の文化的価値を表現しているもの、(6)その時代の日本文化を象徴する資産が全国に展開されているもの、(7)戦後の復興を象徴するもの、という指標を示した。また2021年2月4日の同部会では、トランスバウンダリー(国境を超える遺産)での国際協調も重視するとし[40]、ユネスコの求めに沿った複数の都道府県をまたぐシリアル・ノミネーションの増加を指摘。2005年、2006年のように単体の自治体推挙による公募制は採らないことや各既登録地の拡張登録を模索すること、自然との共生や相互作用を意識して自然面での保護根拠にエコパークやジオパークを充てる試みなどを決めた[41]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

[編集]

  1. ^ 橋野鉄鉱山の採掘場と運搬路を含む。
  2. ^ 引用記事[6]にある2024年推薦予定の点は、文化庁としては2020年3月30日の締め切り分を2022年登録審査候補分扱いとしている。
  3. ^ 足利学校、弘道館、閑谷学校は2011年に「近代の教育遺産」(茨城県、栃木県、岡山県、大分県)として推挙。
  4. ^ 「北海道・北東北の縄文遺跡群」とは別件。
  5. ^ 山形県では2009年6月に現職を破って知事に当選した吉村美栄子が、登録推進事業の中止を打ち出した[26]
  6. ^ 知床は2005年に、小笠原諸島は2011年に、それぞれ世界遺産登録。奄美・琉球は2020年に審議予定であった。
  7. ^ 黒部・立山では、使われなくなったレンガ造りの黒部川第二発電所を再利用した下山芸術の森発電所美術館や世界的建築家・磯崎新による立山博物館展示館など、西村が指摘する条件に沿う施設も充実している。
  8. ^ 小笠原の登録基準ⅷを追加する「軽微な変更」の方が現実的。
  9. ^ 阿寒湖では「自然遺産推薦に向けた選定」の際に評価対象とされなかったマリモの生育圏を自然遺産にする動きがある。
  10. ^ ヘリテージツーリズム世界遺産と博物館の計画
  11. ^ オーバーツーリズムによる環境負荷軽減を目指した来訪者コントロール、また世界遺産がクラスター発生地とならぬよう新型コロナウイルス感染拡大防止の観点も含む。
  12. ^ 「世界遺産リストにまだ充分に反映されていない分野」とは以下を指す。産業遺産・土木遺産・運河文化の道20世紀建築近代都市都市遺産聖なる山岩絵先史時代遺跡・化石人類遺跡。

出典[編集]

  1. ^ a b 我が国の暫定一覧表記載文化遺産”. 文化庁. 2017年5月26日閲覧。
  2. ^ Tentative List (Japan)” (英語). 2017年5月26日閲覧。
  3. ^ 世界遺産、鎌倉推薦の活動休止 県と3市」『神奈川新聞』、2019年11月22日。2019年11月23日閲覧。
  4. ^ 彦根城、世界遺産へ一歩 県と市が推薦書原案を提出」『中日新聞』、2020年4月3日。 [リンク切れ]
  5. ^ a b 20年度の世界遺産候補の選定見送り」『共同通信』、2020年6月29日。
  6. ^ 「飛鳥・藤原の宮都」を世界遺産登録へ 県が推薦書素案提出」『産経新聞』、2020年3月31日。[リンク切れ]
  7. ^ 縄文遺跡群を推薦=20年の世界遺産候補―文化審」『時事通信社』、2018年7月19日。2018年7月19日閲覧。[リンク切れ]
  8. ^ 「奄美・沖縄」を世界自然遺産に推薦へ 菅義偉官房長官表明」『産経新聞』、2018年11月2日。2018年11月2日閲覧。 [リンク切れ]
  9. ^ 令和元年度における世界文化遺産の推薦候補の選定について文化庁、2019年7月30日)
  10. ^ 縄文遺跡群の推薦書提出 21年、世界遺産登録を審査」『日本経済新聞』、2020年1月20日。
  11. ^ 北海道・北東北の縄文遺跡群、9月にイコモスが現地調査」『函館新聞』、2020年8月29日。2020年8月31日閲覧。[リンク切れ]
  12. ^ a b Summary Records of the meeting of the Bureau of the 44th session of the World Heritage Committee, 16 October 2020 (online meeting) World Heritage Centre
  13. ^ 金の生産体制に普遍的価値 佐渡金銀山 世界遺産へ推薦書原案提出」『新潟日報』、2020年4月2日。
  14. ^ 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 世界自然遺産候補地科学委員会
  15. ^ a b Amami-Oshima Island, Tokunoshima Island, the northern part of Okinawa Island and Iriomote Island
  16. ^ 「奄美・琉球」の世界遺産暫定一覧表への記載について(お知らせ)環境省、2013年1月31日)(2014年4月29日閲覧)
  17. ^ “「奄美・琉球」の候補入り保留 世界遺産登録でユネスコ”. 日本経済新聞. (2013年4月6日). http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0600M_W3A400C1CR0000/ 2014年4月29日閲覧。 
  18. ^ 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島の世界遺産一覧表への記載推薦に関する今後の方針について(環境省、2018年6月1日)
  19. ^ 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産一覧表への記載に係る国際自然保護連合(IUCN)による現地調査について 環境省2019年9月27日
  20. ^ 残念だが「やむを得ない」世界遺産委延期で地元」『産経新聞』、2020年4月15日。
  21. ^ 「出島 世界遺産候補に」『西日本新聞』、2010年2月18日、1面。
  22. ^ ライト建築が世界文化遺産へ… 芦屋の旧宅も将来の追加候補に」『読売新聞』、2019年7月5日。2019年7月5日閲覧。
  23. ^ 西村幸夫 (2008). “暫定リストの近況”. 世界遺産年報2008. 日経ナショナルジオグラフィック社. p. 38 
  24. ^ 佐滝 2009, p. 172-173.
  25. ^ a b 世界遺産暫定一覧表候補の文化遺産
  26. ^ 佐滝剛弘『「世界遺産」の真実 - 過剰な期待、大いなる誤解』祥伝社祥伝社新書〉、2009年、188-191頁。
  27. ^ 日本ユネスコ協会連盟『世界遺産年報2004』平凡社、47-49頁。
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  37. ^ 第2回文化審議会世界文化遺産部会[35]、同第3回会合[36]
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関連項目[編集]

外部リンク[編集]