日本における売買春

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東京の吉原遊廓を描いたアンティーク葉書
1890年(明治23年)頃の日本における売春、日下部金兵衛撮影

日本における売買春(にほんにおけるばいばいしゅん)では、日本の歴史を通してずっと存在している日本売買春について述べる。1956年昭和31年)の売春防止法は「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない」と定めているが、この法律の抜け道と厳格でない解釈、ゆるい施行によって、国のGDPの0.4から0.5%に相当する年間推定2兆3千億にも上る性産業が許されている[要出典]

日本では、「性産業」は売買春と同義ではない。日本の法律が売買春を「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定義しているため、ほとんどの性風俗店が合法な性交を伴わないサービスのみを提供している[1]。『Pink Box: Inside Japan's Sex Clubs』の著者であるJoan Sinclairは、日本の性産業は皮肉にも「セックス以外の想像できる限りの全てを提供している」と述べている[2]

歴史[編集]

15世紀から、中国人朝鮮人、その他の東アジア人の滞在客が日本の売春宿にしばしば訪れていた[3]

この慣習は後に、「西洋」からの訪問者(主に南アジア人「ラスカー」と共に来るヨーロッパの商人)の間でも続いた[4]。これは、16世紀にポルトガルの船が日本に到着した時から始まった。この時、地方の日本人は、ポルトガル人天竺から来た人々であり、キリスト教は新たな「インドの教義」であると推測した。これらの誤った思い込みは、ポルトガル東インド会社の拠点がインドのゴア州にあり、ポルトガル船の乗組員の大部分がインド人キリスト教徒であったためである[5]。ポルトガル人の訪問者および南アジア人、アフリカ人乗組員は、しばしば日本の奴隷制度に従事していた。日本で、彼らは若い日本の女性や少女を買ったり攫ったりして、ポルトガル船における性奴隷として使用したり、マカオやその他の東南アジアアメリカ大陸インドポルトガル植民地に連れていったりした。これらの地域では、日本人奴隷とゴア州の商人のコミュニティーが17世紀初頭まで存在した[6]。後にオランダイギリスを含むヨーロッパの東インド会社が日本に訪問あるいは滞在する間に売買春に関与した[7]

江戸時代[編集]

1846年の吉原の地図

1617年江戸幕府は売買春を遊廓として知られる都市のはずれの特定の地域に制限する命令を出した。最も有名な遊廓は江戸(現在の東京)の吉原大坂新町京都嶋原である。

売春婦や高級売春婦は遊女として許可され、花魁太夫を頂点とする複雑なヒエラルキーに基づいて順位付けされた。この地区は囲いに覆われ、課税および出入管理のために保護された。浪人は死に瀕した親類のもとを訪ずれる時と年に一度の花見以外は遊廓に立ち入ることも遊女を連れ出すことも許されなかった。

戦前[編集]

開国および続く西洋化の波は日本の明治期に一連の変化をもたらした。日本の小説家、樋口一葉は、赤線地区における下層階級の売春婦の監禁や惨めな生活に注目し始めた。1872年(明治5年)、マリア・ルス号事件の結果として、明治政府部落民売春婦、その他の奴隷労働の形を解放する新たな法律を作ることとなった[8]。この法律は芸娼妓解放令と名付けられた。1900年、日本政府は明治33年内務省令第44号として売春婦の労働条件を規制する娼妓取締規則を発布した。

1908年、内務省は警察犯処罰令(明治41年内務省令第16号)の下で,私娼による密売淫は罰則をもって禁止とした。

からゆきさん[編集]

からゆきさん」(唐行きさん)は、19世紀後半に東アジア東南アジアに渡って、娼婦として働いた日本人女性である。これらの女性の多くは熊本県天草諸島の出身であると言われている[9]。天草諸島には長い間白い目で見られていた大きなキリスト教コミュニティーがあった。

「からゆきさん」として働くため海外へ渡った女性の多くは貧困に喘ぐ農家や漁師の家の娘であった。女性達を海外へ送った仲介者は貧しい農村地域の適当な年齢の娘を探し、公的な職務のために海外へ連れていくと伝え、親に対価を支払った。その後、仲介者は売春産業の人々に少女を売り渡した。そうした仲介者の中には得られた金銭で、海外で自身の売春宿を構えた者もいた[要出典]

明治の終わりは「からゆきさん」の黄金期であり、海外への航海にいった少女達は「女子軍」と愛情を込めて呼ばれた[要出典]。しかしながら、日本の国際化によって物事は変化し始め、程なくして「からゆきさん」は恥ずべきことと見なされた。1910年代および1920年代の間(明治43年~昭和4年)、海外の日本当局者は日本人売春宿を廃止し、日本の名声を保とうと熱心に取り組んだ[10][11]。日本人売春婦の多くは日本に戻ったが、一部は現地に残った。

太平洋戦争大東亜戦争)の後、「からゆきさん」は日本の戦前の恥部としてほとんど知られていなかった。しかし、1972年(昭和47年)に山崎朋子が『サンダカン八番娼館-底辺女性史序章』を出版したことで、「からゆきさん」への関心が高まり、さらなる研究および報告の後押しをした[要出典]

からゆきさんの主な目的地は中国香港フィリピンボルネオタイインドネシアなどである。彼女達はしばしば西洋の軍人および中国人の強い要求があったアジアの西洋諸国植民地に送られた[12]シベリア満州(現在の中国東北部)、ハワイ北米米国カリフォルニア)、アフリカザンビア)にまで送られた女性の例も存在する。

20世紀後半に日本で踊り子や歌手、ホステス、ストリッパーとして働いていたアジア人女性は「ジャパゆきさん」と呼ばれることがあり、議論の中心となってきている[要出典]

戦後[編集]

第二次世界大戦の敗戦直後、日本を占領する連合国軍(GHQ)のための売春宿を組織するため、東久邇宮内閣によって特殊慰安施設協会 (RAA) が設立された。1945年(昭和20年)8月19日、内務省は「日本民族」の「純潔」を守るために連合国軍兵士のための売春業を設置するよう地方の役所に命じた。公式の募集では「『昭和のお吉』幾千人かの人柱の上に 狂瀾を阻む防波堤を築き、民族の純血を 百年の彼方に護持培養するとともに 戦後社会秩序の根本に 見えざる地下の柱たらんとす。」と述べられている[13]。こういったクラブは内閣審議官の児玉誉士夫笹川良一によってすぐに設置された。

連合国軍最高司令官 (SCAP) は1946年(昭和21年)に(RAAを含む)許可売春制度を廃止した。これによりいわゆる赤線が生まれ、このシステムの下で許可された夜の娯楽施設は、普通のディスコあるいはカフェのふりをして性的サービスを提供した。警察は伝統的に地図に赤い線を引くことでこういった施設の位置を管理していた。その他の地域では、いわゆる「青線」施設が、レストランやバー、その他の管理がきつくない業種のふりをして性的サービスを提供した。東京で最も有名な赤線地区は吉原および新宿二丁目であり、最も有名な青線地区は歌舞伎町であった。

1947年、婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令(昭和22年勅令第9号)が出され、売春婦として働くために女性を誘ったものが罰せられるようになったが、依然として売春そのものは合法であった。客引き売春婦に対してさらに法的な罰則を課すために、いくつかの法案が議会へ提出されたが、適切な刑罰の程度に関する論争によって可決されなかった。

1956年(昭和31年)5月24日、議会は売春防止法を可決し、1958年(昭和33年)4月から施行された。売春防止法は、対償を受け、又は受ける約束で性交を行うことを禁じた。これにより「赤線」および「青線」システムは消え、多くの有料性的サービスは「性的娯楽」法規の下での存続が許された(例: ソープランドファッションヘルス)。

宗教[編集]

神道[編集]

神道性交タブーとは見なさない。

仏教[編集]

性交に関する仏教の教えは極めて保守的である。「中庸の教義を遵守している仏教は極端な禁欲あるいは極端な寛容さのどちらも主張しない」[14]

世俗的仏教徒に関しては、性交に関する特別なルールはない。しかし、いかなる自慰行為も「不品行」であると見なされる[15]

現在の売買春[編集]

法律[編集]

1956年制定の売春防止法の第三条では「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。」と記されているが、この行為については罰則は定められていない。代わりに、人を売春の相手方となるように勧誘すること、人に売春を強要すること、他者との売春から対償を受けとること、「前払い」によって売春をするよう勧誘すること、人に売春をさせることを内容とする契約をすること、売春を行う場所を提供すること、売春をさせることを業とすること、業に要する資金、土地又は建物を提供すること、に罰則を課し禁じている[16]

売春の定義は、厳密に性交に限定されている。これは、オーラルセックスアナルセックス乳房による刺激、その他の性交を伴わない性行為といった多くの行為を売ることが合法であることを意味する。1948年(昭和23年)に風俗営業取締法が制定され、1985年(昭和60年)と1999年(平成11年)に改正された同法がこれらの商売を規制している。

種類[編集]

吉原のソープランド街(2008年)

日本の性産業は様々な名称を用いる。ソープランドは、顧客がスタッフによってせっけんで洗われサービスを受ける浴場である。ファッションヘルスおよびピンクサロンは名目上マッサージあるいは審美処理店である。イメージクラブはテーマのある同様のマッサージあるいは審美処理店である。コールガールデリバリーヘルスシステムによって運営されている。フリーで売春を行う者は出会い系サイトによって潜在的な顧客と接触することができ、実際の売春行為は、法律上の問題を避けるために「援助交際」と呼ばれる。

東京都新宿区の娯楽・赤線地帯である歌舞伎町の広さはわずか0.34 km2であるが、およそ3千5百の性風俗店、ストリップ劇場、のぞき部屋、ソープランド、ポルノショップ、テレフォンクラブ、カラオケバーおよびクラブ等が存在する[要出典]警察庁の記録によれば、2012年に売春防止法違反で検挙された68人の外国人の内、56.4%が中国人、22.8%が韓国人、9.9%がタイ人、7.9%が台湾人であった[17]

用語[編集]

日本では性産業の婉曲表現としていくつかの用語が使用されている。

売春
文字通り「春を売る」あるいは「若さを売る」ことを意味するが、売春防止法といった法律の名称に含まれているように、現在は隠語としての機能はなく、対償を受け性交を行う行為を明確に指す。
水商売
合法、違法、それらの境界を含む全ての娯楽産業を指す幅広い用語である。
風俗
意味は「一般市民の日常生活の特色や世相」であるが、性産業を具体的に指すために一般的に使われる。しかし、法的にはダンスホール賭博なども示すため、性産業をより明確に表わすために「性風俗」という用語が代わりに使われる。

人身売買[編集]

国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告書によれば、日本は人身取引の被害者の主要な目的地の一つである[18]

主に東アジア東南アジア東欧ロシアラテンアメリカからの女性、男性、子供が営利目的の性的搾取のために日本へ売買されている[19]

脚注[編集]

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  1. ^ Hongo, Jun (2008年5月27日). “Law bends over backward to allow 'fuzoku'”. Japan Times. http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20080527i1.html 2013年6月10日閲覧。 
  2. ^ Kelts, Roland. “Interview with photographer Joan Sinclair”. 2013年6月10日閲覧。
  3. ^ Leupp, Gary P. (2003), Interracial Intimacy in Japan, en:Continuum International Publishing Group, p. 48, ISBN 0-8264-6074-7 
  4. ^ Leupp, Gary P. (2003), Interracial Intimacy in Japan, en:Continuum International Publishing Group, p. 49, ISBN 0-8264-6074-7 
  5. ^ Leupp, Gary P. (2003), Interracial Intimacy in Japan, en:Continuum International Publishing Group, p. 35, ISBN 0-8264-6074-7 
  6. ^ Leupp, Gary P. (2003), Interracial Intimacy in Japan, en:Continuum International Publishing Group, p. 52, ISBN 0-8264-6074-7 
  7. ^ Leupp, Gary P. (2003), Interracial Intimacy in Japan, en:Continuum International Publishing Group, p. 50, ISBN 0-8264-6074-7 
  8. ^ Downer, Leslie, Women of the Pleasure Quarters: The Secret History of the Geisha, Broadway,ISBN 0-7679-0490-7, page 97
  9. ^ Yamazaki, Tomoko, Sandakan Bordell Nr. 8, München 2005, ISBN 3-89129-406-9
  10. ^ Mayumi Yamamoto, "Spell of the Rebel, Monumental Apprehensions: Japanese Discourses in Pieter Erberveld," Indonesia 77 (April 2004): 124–127
  11. ^ William Bradley Horton, "Comfort Women in Indonesia: A Consideration of the Prewar Socio-Legal Context in Indonesia and Japan." Ajiataiheiyotokyu 10 (2008): 144–146.
  12. ^ Books, UK: Google, (2003-08), ISBN 978-9971-69-267-4, http://books.google.com/?id=Eo_Hav3qHYEC&pg=PA87&dq=karayuki+chinese+european#v=onepage&q=karayuki%20chinese%20european&f=false 
  13. ^ Herbert Bix, Hirohito and the making of modern Japan, 2001, p. 538, citing Kinkabara Samon and Takemae Eiji, Showashi: kokumin non naka no haran to gekido no hanseiki-zohoban, 1989, p. 244.
  14. ^ Buddhism and Sex”. Accesstoinsight.org (2011年6月16日). 2012年8月3日閲覧。
  15. ^ Sex and Buddhism - What Buddhism Teaches About Sex”. Buddhism.about.com. 2012年8月3日閲覧。
  16. ^ 売春防止法(昭和三十一年五月二十四日法律第百十八号)”. e-Gov法令検索. 法務省行政監理局. 2014年1月29日閲覧。
  17. ^ 警察庁刑事局組織犯罪対策部 国際捜査管理官 (2013年3月). “来日外国人犯罪の検挙状況 (平成24年)”. 2014年1月29日閲覧。
  18. ^ “UN highlights human trafficking”. BBC. (2007年3月26日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/6497799.stm 
  19. ^ United States Department of State, Trafficking in Persons Report 2009 - Japan, 16 June 2009, available at: http://www.refworld.org/docid/4a4214b0c.html [accessed 29 January 2014]

推薦文献[編集]

  • 荒木経惟. Tokyo Lucky Hole. Köln; New York: Taschen, 1997. ISBN 3-8228-8189-9. 768 pages. Black and white photographs of Shinjuku sex workers, clients, and businesses taken 1983–5.
  • Associated Press. "Women turn to selling sexual favors in Japan"[リンク切れ]. Taipei Times, December 9, 2002, p. 11. Accessed 11 October 2006.
  • Bornoff, Nicholas. Pink Samurai: Love, Marriage and Sex in Contemporary Japan. New York: Pocket Books, 1991. ISBN 0-671-74265-5.
  • Clements, Steven Langhorne. Tokyo Pink Guide. Tokyo: Yenbooks, 1993. ISBN 0-8048-1915-7.
  • Constantine, Peter. Japan's Sex Trade: A Journey Through Japan's Erotic Subcultures. Tokyo: Yenbooks, 1993. ISBN 4-900737-00-3.
  • "The Day the Red Lights Went Out in Japan". MSN-Mainichi Daily News. April 1, 2008. Accessed April 2, 2008.
  • De Becker, J. E. The Nightless City ... or, The "History of the Yoshiwara Yūkwaku"., 4th ed. rev. Yokohama [etc.] M. Nössler & Co.; London, Probsthain & Co., 1905. ISBN 1-933330-38-4.
  • De Becker, J. E. The Nightless City: Geisha and Courtesan Life in Old Tokyo (reprint). Mineola, N.Y.: Dover Publications, 2007. ISBN 0-486-45563-7.
  • De Mente, Boye Lafayette. Mizu Shobai: The Pleasure Girls and Flesh Pots of Japan. London: Ortolan Press, 1966.
  • De Mente, Boye Lafayette. Sex and the Japanese: The Sensual Side of Japan. Rutland, Vermont: Tuttle Publishing, 2006. ISBN 0-8048-3826-7.
  • De Mente, Boye Lafayette. Tadahito Nadamoto (illus.). Some Prefer Geisha: The Lively Art of Mistress Keeping in Japan. Rutland, Vermont: Charles E. Tuttle Co., 1966.
  • Fitzpatrick, William. Tokyo After Dark. New York: McFadden Books, 1965.
  • French, Howard W. "Japan's Red Light 'Scouts' and Their Gullible Discoveries". The New York Times. November 15, 2001. Accessed 11 October 2006.
  • Goodwin, Janet R. Selling Songs and Smiles: The Sex Trade in Heian and Kamakura Japan. Honolulu: University of Hawai’i Press, 2007. ISBN 0-8248-3068-7, ISBN 0-8248-3097-0.
  • Japan The Trafficking of Women.
  • Kamiyama, Masuo. "The day Japan's red lights flickered out". MSN-Mainichi Daily News. February 25, 2006. Accessed 11 October 2006.
  • Kattoulas, Velisarios. "Human Trafficking: Bright Lights, Brutal Life"[リンク切れ]. Far East Economic Review. August 3, 2000. Accessed 11 October 2006.
  • Longstreet, Stephen, and Ethel Longstreet. Yoshiwara: City of the Senses. New York: McKay, 1970.
  • McMurtrie, Douglas C. Ancient Prostitution in Japan. Whitefish, Montana: Kessinger Publishing, 2005. ISBN 1-4253-7206-6. Originally published in Stone, Lee Alexander (ed.). The Story of Phallicism volume 2. Chicago: Pascal Covici, 1927. Reprinted Whitefish, Montana: Kessinger Publishing, 2003. ISBN 0-7661-4115-2.
  • Seigle, Cecilia Segawa. Yoshiwara: The Glittering World of ihe Japanese Courtesan. Honolulu: University of Hawaii Press, 1993. ISBN 0-8248-1488-6.
  • Sinclair, Joan (2006). Pink Box: Inside Japan's Sex Clubs. New York: Harry N. Abrams. ISBN 0-8109-9259-0. 
  • The World's Oldest Debate? Prostitution and the State in Imperial Japan, 1900–1945
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関連項目[編集]

外部リンク[編集]