斎藤学 (精神科医)

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斎藤 学(さいとう さとる、1941年2月23日[1] - )は、日本の精神科医実業家

東京出身[1]1959年麻布高等学校卒。1967年慶應義塾大学医学部卒業。慶應医学部時代医局の先輩に小此木啓吾なだいなだがいる。就職先が決まらず医局からも出される所に、小此木啓吾がフランス留学を斡旋した。フランス政府給費留学生でフランスの精神病院に研究員として勤務した。帰国後なだいなだの紹介で旧国立療養所久里浜病院アルコール病棟、東京都精神医学総合研究所(八幡山)を経て、1995年より医療法人學風会斎藤學診療所を麻布に設立。(現医療法人學風会さいとうクリニック)(さいとうクリニック内非営利組織家族機能研究所)

また、斎藤自身が立ち上げた「株式会社アイエフエフ」「NPO法人日本トラウマサバイバー」「日本子どもの虐待防止研究会」および「日本嗜癖行動学会」理事長。

概要[編集]

1960年代後半、当時フロイトが精神医学の基盤とされていた慶應医学部の医局でフロイトの研究を行う。医局の先輩が出版した本を元に、また斎藤自身がフランスに留学名目でモラトリアムを行ってきたことから、同じような人が増えて社会現象になるはずだと予想した。しかし自身のモラトリアムにより勤め先を失いかけ、なだいなだから国立久里浜病院アルコール病棟を紹介され生活のため同病院に勤務することになった。

アルコール病棟で毎日アルコール依存患者を観察している時、アルコール依存は嗜癖行動と捉え嗜癖行動は家族関係や生育歴と密接であるということがアメリカから全く同様のケースがレポートされている事を本で知り、日本にも広めれば影響力が大きなことになると着目した。「小児科が児童虐待を見逃す場合、または精神科医がその後遺症に無関心という場合、法律家が死体となった児童にしか関心を示さないなどで児童虐待を見逃している(斎藤談話)」。

【児童虐待という概念を厚生省に持ち込み、厚生省を通じて広めた。児童虐待をそのように呼ぶことはあまりなかったのである。実際、日本の児童虐待は「しつけ」の名のもとに行われていた。日本は父権社会であり、「おやじ」は、地震や雷と同様な理不尽さがあったし、まだ地震や雷等の自然現象は科学的研究の対象であったが、「おやじ」はそうではない。 また、この事と関連して、1970年代から1980年代までは、家庭内暴力と言えば、暴れる中高生の問題で、親の子供に対する暴力については認知されていなかった。親が子供に手を上げるのは当然の親権だった。子供たちが暴れ始めても尚、何が原因なのか考えたり、虐待の問題に気づく人は全くというほどいなかった。単に不良少年の問題で片付けられていたのである。

おそらく彼の名が一般に知られるようになったきっかけは、共同通信社が全国43紙に配信した連載「仮面の家」である(横川和夫著)。この連載は、たいていその地域で最も読まれている新聞に連載されたため、アダルトチルドレンという用語と共に多く知られることとなった。ただし関東では東京新聞で連載され、また中日新聞では連載されなかったこともあり、関東や東海地方や関西では知名度は低かった。連載は後に同名で単行本化されたが、「あとがき」によると、斎藤や著者など連載に登場した人にはひっきりなしに電話がかかるようになったという。

親から自分をとり戻すための本―「傷ついた子ども」だったあなたへ』日本語訳文庫版(1999年)では解説を担当した[2]。】

【「アダルトチルドレン」を日本に紹介したのも彼であるが、定義を誤解したまま乱用するマスコミや学識者に愛想を尽かし、1990年代後半から、彼自身はこの用語を用いる事は全くしなくなった。そのかわりに提唱されたのがアダルトサヴァイヴァーなどの用語である。】

【近親姦の話を彼は初め、「ファンタジー」としてカルテに書いていたが、ある女性から、自分と弟は父から性被害に遭い、弟は精神分裂病と言われているとの電話を受け、この頃からこの問題に彼は深く立ち入るようになった[3]。】

【1990年代半ばになって、アメリカで過誤記憶論争が起こり、父による娘の性的虐待をめぐるジュディス・ハーマンの理論が、多くはカウンセラーによって作り出された贋の記憶だと主張する被告側が、一時的に法廷闘争で有利になった。日本では矢幡洋などが『危ない精神分析』を出版し、被告側すなわち虐待した(かも知れない)親の立場を擁護したが、そのさいにも斎藤は、原告側すなわち虐待された(かも知れない)子どもたちの立場で主張をした。結果的に、日本では同じ構図を持つ問題はもちあがったものの、アメリカであったようなメモリー・ウォーと呼ばれる大々的な法廷闘争に発展することはなかった。

のちに斎藤は、患者が訴える近親姦の挿話がたんなるファンタジーではなく、日本においても記憶の回想によるものであることを実証的に提示していった。たとえば、1993年に過食症の女性患者52名、比較群の健康女性52人に近親姦の被害調査を行ったところ、健康女性の2%、過食症の女性患者の21%が18歳までに近親姦の被害に遭っているという結果が得られた例を挙げている[4]

一方では、社会学の立場から近親姦の問題への精神医学の対応を批判したレイチェルなどの批判を受け入れ、精神科医の自戒をうながす書物も訳した。】

著書[編集]

  • 女性とアルコール依存症 海鳴社 1983
  • 嗜癖行動と家族 過食症・アルコール依存症からの回復 有斐閣選書 1984
  • アルコール依存症の精神病理 金剛出版 1985
  • ネットワーク・セラピー アルコール依存症からの脱出 彩古書房 1985
  • アルコール依存症に関する12章(編)有斐閣選書 1986
  • 女らしさの病い 臨床精神医学と女性論 波田あい子共編 誠信書房 1986
  • アルコール依存症とはなにか こころとからだの病の基礎知識 ヘルスワーク協会 1988
  • 家族依存症 仕事中毒から過食まで 誠信書房 1989 のち新潮文庫
  • カナリアの歌 "食"が気になる人たちの手記(編)どうぶつ社 1991 のち学陽書房女性文庫
  • あかるく拒食ゲンキに過食 伊藤比呂美共著 平凡社 1992
  • 子供の愛し方がわからない親たち 児童虐待、何が起こっているか、どうすべきか 講談社 1992
  • 生きるのが怖い少女たち 過食・拒食の病理をさぐる 光文社 1993 (カッパ・サイエンス)
  • 児童虐待 危機介入編(編)金剛出版 1994
  • 「家族」という名の孤独 講談社 1995 のち+α文庫
  • 薬物乱用と家族 ヘルスワーク協会 1995
  • 魂の家族を求めて 私のセルフヘルプ・グループ論 日本評論社 1995 のち小学館文庫
  • アダルト・チルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す 学陽書房 1996 のち文庫
  • 家族の中の心の病 「よい子」たちの過食と拒食 講談社+α文庫 1997
  • 「自分のために生きていける」ということ 寂しくて、退屈な人たちへ 大和書房 1997
  • 「家族」はこわい 母性化時代の父の役割 日本経済新聞社 1997 のち新潮文庫
  • いじめをなくす親子関係 労働旬報社 1997
  • なぜ、私たちの哀しみは「食」に向かうのか 冨田香里共著 講談社 1998
  • 児童虐待 臨床編(編)金剛出版 1998
  • インナーマザーは支配する 侵入する「お母さん」は危ない 新講社 1998
  • 子別れレッスン 「おっぱい男」と「わがまま妻」 久田恵共著 学陽書房 1999
  • 子どもたちは、いま トリイ・ヘイデン共著 早川書房 1999
  • 封印された叫び 心的外傷と記憶 講談社 1999
  • 依存と虐待(編)日本評論社 1999 (こころの科学セレクション)
  • 家族の闇をさぐる 現代の親子関係 小学館 2001
  • 男の勘ちがい 毎日新聞社 2004
  • インナーマザー あなたを責めつづけるこころの中の「お母さん」 新講社 2004
  • 自分の居場所のみつけかた 大和書房 2006
  • 家族パラドクス アディクション・家族問題症状に隠された真実 中央法規出版 2007
  • 「家族神話」があなたをしばる 元気になるための家族療法 日本放送出版協会・生活人新書 2008
  • 「毒親」の子どもたちへ メタモル出版 2015

翻訳[編集]

  • 女性の不安 ウーマン・パワーとしての不安エネルギー活用法 ヘレン・A.ドゥローシス 誠信書房 1983
  • 買い物しすぎる女たち キャロリン・ウェッソン 講談社 1992 のち+α文庫
  • 食べすぎてしまう女たち 「愛」の依存症 ジェニーン・ロス 講談社 1996 のち+α文庫
  • フェミニズムとアディクション 共依存セラピーを見直す クラウディア・ベプコ 日本評論社 1997
  • 『父-娘 近親姦-「家族」の闇を照らす 』(ジュディス・ハーマン、2000)

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b 『読売年鑑 2016年版』(読売新聞東京本社、2016年)p.368
  2. ^ 『親から自分をとり戻すための本―「傷ついた子ども」だったあなたへ』(原著作者マーガレット・ラインホルド。1990年出版の書物の1995年の日本語訳の文庫版。1999年) 374ページ ISBN 4-02-261257-6
  3. ^ 『子供の愛し方が分からない親たち』(斎藤学、1992年) 197・198・204~206ページ ISBN 4-06-206144-9
  4. ^ 『家族の闇をさぐる—現代の親子関係』(斎藤学、2001年) 169・170ページ ISBN 4-09-387247-3

外部リンク[編集]