救急医療

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スター・オブ・ライフ : 米国などでは救急医療のシンボルとしてしばしば用いられている。
足の骨折の治療
ICU
プレホスピタルケアのためのキットの数々(en:Lincolnshire Integrated Voluntary Emergency Serviceリンカンシャーのボランティア組織による救急医療活動のもの
心肺蘇生(のトレーニング光景)

救急医療(きゅうきゅういりょう、Emergency medicine)とは、人間を突然に襲う外傷感染症などの疾病、すなわち「急性病態」を扱う医療である [1]

概要[編集]

「救急医療は医の原点」ともいわれるが、救急医療は常に人類とともにあったともいえる。

「迅速な119番通報」「迅速な心肺蘇生法」「迅速な除細動」「迅速な二次救命処置」の4つを「救命の連鎖(Chain of survival)」と呼ぶこともある[1]

急性期、超急性期への対応[編集]

急性病態は時間とともに病態が急速に変化し、その間の適切な処置によって転帰(病気の結果)が変化する余地が大きい。特に、心肺停止状態では救急車到着までの間の蘇生処置が転帰に大きく関わり、来院時心肺停止 (CPAOA) の予後・救命率は非常に悪い。 また、外傷や血管破裂により出血がある場合(内出血も含む)循環動態を安定させる為に止血を行う、また肝臓損傷している場合、プリングル法、パッキング方(ガーゼにてパッキングを一時的に行い)ダメージコントロール手術を検討する。

プレホスピタルケアの重要性[編集]

急性病態の場合、救急車到着前・病院到着前の処置(=プレホスピタル・ケア)が非常に重要となってくる。救急救命士制度の創設により、救急車内での処置が拡大されている(メディカル・コントロール)。また、救急救命士のスキル向上のためにACLS(二次救命処置)やJPTEC(病院前外傷処置)を受講する救急救命士も増加している。

一般人でも自動車運転免許取得の際には心肺蘇生法人工呼吸心臓マッサージ)の受講が必須項目とされている。さらに防災意識・救急医療への関心が強い人々はAED(自動体外式除細動器)やBLS(一次救命処置、AED操作法含む)の講習、防災士講習を受けている。こうしたプレホスピタルでの処置が救命率に非常に大きく関わっている。

トリアージ・救命の優先[編集]

メキシコのERセンターのトリアージ表示。

患者が救急医療を利用する場合には、生命の危機が迫っている、耐えがたい苦痛があるなどの緊急性があることを意味するが、通常、自分で病状の軽重を判断することは困難である。このため病状は軽くとも不安が強く救急医療を求める人々も多い。このため、まずこれらの緊急性の判断がなされる。また、複数の傷病者が発生している場合には重症の患者を最優先にする事(トリアージ)も行われ、「救命できる可能性が高く、より重症な患者」の診療が最優先とされる。

日本では診療報酬として、院内トリアージ実施料が設定されている。

各国の制度[編集]

イタリアの救急車

アメリカ[編集]

ニューヨークの場合、救急救命室が比較的大きな病院に医療センターが設置されており、救急車タクシー(救急車は有料で600ドルほど掛かるため)で搬入される患者を受け入れている。ただし、2012年現在、アメリカでは国民皆保険制度が完全施行されておらず、救急救命室には医療費支払い能力のない軽症患者も多く訪れるため、トリアージが行われる状況になっている[2]

イギリス[編集]

イギリスの救急医療は国民保健サービス(NHS)によって提供され、救急部門についてはあらゆる万人(観光者、移民を含む)に対して自己負担なしであり[3]トリアージが常時実施されている[4]救急搬送については医学的必要性が認められる場合に限るが、自己負担はなし。

フランス[編集]

フランスの救急医療は、Service d'Aide Médicale Urgente(SAMU、救急医療支援サービス)が中心となり通報を受け付け、かつ全体の指揮を執る。

日本[編集]

現在の日本救急医療施設における患者受け入れ体制は、施設ごとに違いが見られるが、まず、大きく分けると「集中治療型(critical care型)」と「救急初期診療型」の二つに分けられる。そして、「救急初期診療型」は「ER型」と「各科相乗り型」の二つに分けることができる。「集中治療型(critical care型)」は3次救急施設の救急医療体制で、「各科相乗り型」は1・2次救急施設で比較的多く見られる救急医療体制である。

  • 集中治療型救急システムとは、主に重症患者(3次救急患者)の治療を目的としたもので、救急患者の診断や初期治療という救急初期診療ではなく、重症患者(3次救急患者)に対する集中治療が主体となる。
  • ER型救急システムとは、基本的に全ての救急患者に対応する救急初期診療型で、ERドクター(ER専門医)は全ての科の初期診療を行う。ERドクターは初期診療後、入院が必要な患者を担当科に振り分け、入院や手術には関与しない。
  • 相乗り型救急システムとは、各科の救急担当医を集めて救急患者に対応するシステム。この型の特徴は最初に救急外来で患者に対応した者(看護師研修医など)が担当科(担当医)を指定して、患者を受け入れることになる。そして、患者が入院する場合は、救急外来で担当した科がそのまま入院も担当する。日本の救急システムは、この型が最も多い[5]
日本の救急車

初期(一次)救急医療[編集]

「入院の必要がなく外来で対処しうる帰宅可能な患者」への対応機関。整備は市町村の責務とされている。主に内科、外科を診療科目とするが、住民の要望の高まりと必要性から小児科を加える自治体もある。

  • 在宅当番医制(休日(日曜日・祝日)に診察を行う当番病院・診療所)
  • 休日歯科診療所
  • 休日夜間急患センター(人口5万人以上の市に1つ)
  • 小児初期救急センター

二次救急医療[編集]

「入院治療を必要とする患者」に対応する機関。都道府県が定めた医療圏域(二次医療圏)ごとに整備するため、市町村の垣根を越えた整備が必要なことが多い。近年は小児救急医療へ対応するため、通常の二次救急(内科、外科、脳外科等)とは別に小児二次救急医療の体制を独自に組む医療圏もある。肺炎脳梗塞など。

  • 中規模救急病院
  • 病院群輪番制(救急指定病院が、救急患者のたらい回しをしないため、当番病院を定めて休日、夜間の救急医療に当たる方式)
  • センター方式/共同利用型病院(中核となる救急指定病院に当番で他の病院や開業している医師が集まり、休日や夜間の救急医療に当たる方式)
  • 小児救急医療支援事業
  • 小児救急医療拠点病院
  • 地域周産期母子医療センター

三次救急医療[編集]

二次救急医療では対応できない複数診療科にわたる特に高度な処置が必要、または重篤な患者への対応機関。平たく言えば、「ICU(集中治療室)で加療する必要がある患者」への医療を指す。心筋梗塞脳卒中多発外傷、重症頭部外傷など。

救急救命士[編集]

日本ではCPAOA(到着時心肺停止)の社会復帰率の低さから救急医療の強化が求められ、それに応じて救急救命士が法制化された。これは、医師の指示のもとに輸液ルート確保、食道閉鎖式チューブ等による気道確保、電気的除細動が認められる資格である。また2004年7月から、病院にて30症例の気管挿管の実習を修了した救急救命士には気管挿管が認められた(気管挿管認定救急救命士)。さらに2006年4月から講習および実習の後、強心剤(アドレナリン)の薬剤投与を行うことが認められた(薬剤投与認定救急救命士)。

患者のモラルの低下[編集]

救急車の出動件数は年々増加の一歩をたどり、これに伴って救急車の到着時間、病院収容までの時間が延びている現状がある。
その背景として 「無料である」。「虫歯が痛い」、「夜間のタクシー代わり」、「どこの病院に行っていいかわからないから」、「救急車を使えば優先的に診てもらえるから」 という悪質な利用もみられ、社会問題化している。呆れたことに、定期通院に救急車を呼ぶ事例まで存在するという。
このため、総務省消防庁では「救急車利用の適正化」を訴えている[6] 。また、上記のような悪質な利用者や、救急車の必要が無い軽症患者に対して、「救急車の有料化」の是非についても議論されているが賛否両論あり、結論は出ていない。

脚注[編集]

参考図書[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]