放送禁止

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

放送禁止(ほうそうきんし)

ここでは放送事業者が、その放送内容のすべてもしくはその一部の放送を禁止する・あるいは禁止されるに至らないように定められた行為について述べる。

なお、公権力による放送事業者に対する放送(事業)そのものの禁止ないし制限(停波命令、免許の取り消しないし停止など)はここでは含まない。

概要[編集]

言論・表現の自由が認められていない、あるいは制限されているにおいては、その政府法令などを定め、検閲などにより特定の内容を含む番組などのすべてもしくは一部について禁止することがあるが、言論・表現の自由が認められている国においては、おおむね各放送事業者の自主的判断(自主規制)により、番組などのすべてもしくはその一部について、その放送を禁止する。

日本では、戦前の放送事業開始時は、逓信省郵政省を経て現・総務省)が微細かつ裁量的な放送禁止事項を定め、事前検閲を経た放送を行っていた。戦後は公権力による検閲を建前上禁じた日本国憲法第21条のもと、放送法5条に基づき、各放送事業者が、自主的に制定する放送コードである「番組基準」に従い、放送を行なっている[1]

表現の自由と放送禁止[編集]

イギリス1962年に出された、ピルキントン委員会報告書にある「よいテレビ放送の三大要素」の指摘が、同国の放送業界で「今なお妥当性を失わない見識」として位置づけられている。

  1. 番組の企画と内容は可能なかぎり広い範囲の題材の中から選択するという大衆の権利を尊重するものでなければならない。
  2. 題材のこの広い範囲のあらゆる部分で質の高いアプローチとプレゼンテーションがなされなければならない。
  3. これは何よりも重要なことであるが、テレビという強力なメディアに従事する人々はテレビには価値や道徳規準に影響を及ぼす力があり、また、すべての人びとの生活を豊かにする能力があることを十分意識しなければならない。放送事業者は、大衆のさなざまな好みや態度に注意を払い、それらを知っていなければならない。同時に、それらを変化させ成長させていく力があることを自覚し、その意味で指針を大衆に示すようにしなければならない。

類似の社会環境である日本の放送業界でも、この見識を前提に、自主規制のための細かな基準を各放送局(「よいテレビ放送の三大要素」ではあるが、ラジオでも)が独自に定め、放送の可否を独自に判断している。

放送禁止の対象[編集]

言論・表現の自由が認められている国において放送禁止の対象となるものは、おおむね社会通念に反する行為あるいは犯罪を肯定するような事項とされる。逆に言論・表現の自由が認められていない、あるいは制限されている国(多くの場合、絶対的な国家元首が存在する)においては、その国の王族・国家体制・元首・政治家などに対して礼を失した言葉や表現、侮蔑、批判も対象とされる。

日本の放送は「公共放送であるNHK」と「商業放送である民放」の2体制に大別される。どちらの番組基準も基本となる部分に変わりはなく、放送禁止は同様に行われているが、公共・商業放送の違いにより若干の差がある。

後述の日本と同様に言論、表現の自由を認めているドイツでは、ナチズムプロパガンダおよびこれに類する行為が刑法(第130条「民衆扇動罪」)により禁じられていることから、自主規制に加えて処罰の対象となる正式な「放送禁止用語」や「放送禁止表現」が存在する。国家社会主義ドイツ労働者党(Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei)を肯定的に扱ういくつかの言葉や表現で、特に同党のハーケンクロイツ(Hakenkreuz)(鉤十字)や、いくつかのシンボルに対する規制は厳しいが、近年になって、反ナチズムの高揚を目的とし「同党を明確に犯罪団体として侮蔑的(否定的)に扱う」ことを条件に、やや規制が緩和されている。なお、刑法により禁じられていることから、この規制は放送のみならず、出版インターネットなども広く対象となっている。

日本における放送禁止の対象[編集]

日本では、各法律および、日本放送協会(NHK)および民間放送(民放)の各局が自己制定している番組基準に基づいて、以下のような内容の放送が禁止されている。

  • 電波法に定められているもの
    • 特定の誰かが利益または損害を得るような虚偽(106条)
    • 日本国憲法またはその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する通信を発すること(107条)
      • 日本民間放送連盟放送基準第2章(7)「国および国の機関の権威を傷つけるような取り扱いはしない」の解説において、「国の象徴としての天皇もここに含まれる」としている[4]。天皇および皇室に対する否定的な扱いは(放送禁止とならないまでも)慎重になされる。
    • わいせつな通信を発すること(108条)
  • 個人情報の保護に関する法律に定められているもの
    • 個人情報が特定される(恐れのある)もの(50条3項) - 放送内容上必要のない個人情報その他を含む映像・コメントなど
  • 差別を助長する(恐れのある)言葉や表現
特に障害者を差別するような隠語発言は放送禁止である。NHKでは、福祉番組『きらっといきる』→『バリバラ』が存在するため可否の境目が問題となることもある。
また原爆水爆被爆者北朝鮮拉致被害者、およびオウム真理教事件など大規模なテロ事件の犠牲者ないしはその遺族を蔑視する表現も許されない。
刑事裁判の報道では、心神喪失を理由に無罪の判決を受けた被告人の実名は事実上放送禁止とする措置が取られている。
代表的な事例として精神異常機械魔術などで人工的に造り出す要素1970年代までにおける特撮テレビドラマの悪巧みに多用されていた。1995年に『怪奇大作戦』(円谷プロ第24話の「狂鬼人間」封印作品になったのを皮切りに、ヒーロー物のエピソードの多くは未放送になる作品も年を追う毎に多くなっていった。ただ、封印作品では無いため、放送を目的としない動画メディアであるビデオグラムへの収録は2021年現在までにおいても行われている。

どの局の番組基準も基本となる部分に変わりはなく、放送禁止は同様に行われているが、若干の差がある。

例えば、企業名・商品名(商標)の取り扱いにおいてその差が大きい。

なお、ストレートニュースで事件・事故、リコールを扱う場合や、経済系情報番組[8]で個別経営者へのインタビューを放送する場合、NHKの番組公式SNSアカウントの紹介および番組とSNSとの連動企画によるSNS名のアピール、ドキュメンタリー番組における全編に渡った商品開発秘話[9]などは例外である。つまり、特に消費者を保護する必要がある、または実名を出さないと番組の企画意図や伝えるべき内容が正しく伝わらない場合に限り、NHKも企業名と商品名を正確に伝える。

放送禁止対象の経年変化[編集]

放送禁止の対象となるものは、法改正のみならず世論動向などにより時代とともに変化していくため、古い番組内容の再放送の際、問題になる。コメントについては該当する部分を消すといった処置が行われる。その一方で、犯罪を肯定・助長しないものであれば、放送前にあらかじめ「作品のオリジナリティを重視する」旨の断りを入れて、オリジナルのまま放送することもある。

  • 過去[10]、法規制の緩い時代に撮影された映画やドラマ等において、シートベルトヘルメットなどを着用していない状態で乗り物を運転する場面。
    • テレビドラマの制作などでは、おもに財政的な事情により、私有地ではなく公道を使う場合が多くなり[11]、この場合には例外なくヘルメット、シートベルトが必須、悪役でも車を運転する際はシートベルトを締め、オートバイを運転する際はヘルメットをかぶる。そうでない場面を表現する場合、これを後で画像処理により除くのに費用がかかることから、NHKで番組の規制基準が見直された2008年ごろを境に、この種のシーンの撮影は行わなくなっている[12]
  • 2005年ごろから、番組制作・放送の可否は放送局判断よりも視聴者意見によるところが大きくなり、各放送局ともに「問題となりそうな部分ははじめから避ける=ことなかれ主義」傾向があり、放送上の規範逸脱表現はあたりさわりのない範囲にとどめざるを得なくなっている[要出典]
  • 2008年、NHKは「放送可能用語」を公開した。詳しくは放送禁止用語を参照のこと。

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ 日本民間放送連盟編『放送ハンドブック:文化をになう民放の業務知識』東洋経済新報社 1992年3月16日(原著1991年5月23日)、第4刷(ISBN 4492760857)pp.77-78他
  2. ^ なお、モールス符号自体の放送は禁止されていない。局名告知の際のコールサインや、ニュース速報を示す文字列「NEWS」をサウンドロゴとして流すなどの用法がみられる。モールス符号#電信以外の使用例参照。
  3. ^ 1999年1月31日をもってモールス符号による遭難通信の取扱いが廃止されたため、これ以降はノーカットの放送が原則として可能になっている。
  4. ^ 「民放連 放送基準解説書2014」(一般社団法人日本民間放送連盟発行、2014年9月)
  5. ^ 事前に自主規制され、制作の際に描写されなかった例を挙げる。『エスパー魔美』(藤子・F・不二雄)の「ずっこけお正月」では、中学生である、主人公の佐倉魔美の間違え飲酒が重要な要素となっているため、後半以降は完全にアニメオリジナルエピソードの当該作にしては数少ないテレビアニメ化されたことがなかった原作漫画のエピソードである。また、『苺ましまろ』の原作漫画版で、主要登場人物の伊藤伸恵が16歳の高校生であるにもかかわらず飲酒・喫煙していることから、アニメ作品や、アニメを原作としたゲームでは、「21歳の短大生」という成年者へと設定が変更されている。そのため、テレビアニメ版の第1話では、原作設定を匂わせる要素が最初の発言である。
  6. ^ 「テトラポッド」は(日本テトラポッド→株式会社テトラ→)不動テトラの登録商標。
  7. ^ 「QRコード」の名称はデンソーウェーブの登録商標。
  8. ^ 2017年度までBS1で放送されていた『経済フロントライン』『経済最前線』など。
  9. ^ プロジェクトX ~挑戦者たち~』など。ただし、『チコちゃんに叱られる!』などのシーン単位での商品開発秘話は対象外
  10. ^ 日本では、1985年施行の改正道路交通法により自動車高速道・自動車専用道において前席(運転席・助手席)でのシートベルト着用が、罰則付きで義務付けられた(一般自動車道については1992年11月1日から)。また、1986年施行の改正道路交通法により、原付一種(50cc)を含む、全てのバイクの運転でヘルメットの着用が義務化された。
  11. ^ 仮面ライダードライブのように、諸事情で私有地を使用した例はある。
  12. ^ 日本民間放送連盟編『放送ハンドブック改訂版』日経BP社、2007年4月7日(原著2007年4月7日)、第1刷(ISBN 978-4-8222-9194-5)「放送倫理」編[要ページ番号]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]