擬軌道尾行性の補題

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数学力学系理論において、擬軌道尾行性の補題(ぎきどうびこうせいのほだい、: shadowing lemma)とは、ある双曲型不変集合の近くでの擬軌道の挙動に関する補題である。大雑把に言うと、この定理では、すべての擬軌道(各ステップ毎に丸め誤差を含む、数値的に計算された軌道と考えることが出来る[1])は(わずかに初期値が変動された)ある真の軌道に一様に近い所で留まることが示されている。言い換えると、擬軌道は真の軌道に「尾行される」ということになる。この補題がデジタルカオスに対して利用できないことは、International Journal of Bifurcation and Chaos,[2] Sec. 2.2.3 で示されている。

正式な内容[編集]

距離空間 (Xd) からそれ自身への写像 f : X → X が与えられたとき、ε-擬軌道(あるいは ε-軌道)は、 の ε-近傍に が属するような点列 として定義される。

双曲型不変集合の近くで、次が成り立つ[3]:Λ を微分同相 f の双曲型不変集合とする。このとき、次の性質を持つ Λ の近傍 U が存在する:任意の δ > 0 に対して、ある ε > 0 が存在し、U に留まる任意の(有限あるいは無限)ε-擬軌道はある真の軌道の δ-近傍に留まる。すなわち

参考文献[編集]

  1. ^ Weisstein, Eric W. "Shadowing Theorem". mathworld.wolfram.com (英語).
  2. ^ Shujun Li, Guanrong Chen and Xuanqin Mou (2005). “On the Dynamical Degradation of Digital Piecewise Linear Chaotic Maps”. International Journal of Bifurcation and Chaos 15 (10): 3119–3151. doi:10.1142/S0218127405014052. 
  3. ^ A. Katok, B. Hasselblatt, Introduction to the modern theory of dynamical systems, Theorem 18.1.2.