接続詞省略

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接続詞省略(せつぞくししょうりゃく、または連(結)辞省略、Asyndeton (複数形: Asyndeta) / asyndetism, 古代ギリシア語: ἀσύνδετον)とは、一連の繋がりのあるから故意に接続詞を省略する修辞技法のこと。

概略[編集]

接続詞省略の最も有名な例は、「来た、見た、勝った(Veni, vidi, vici)」である。接続詞省略の使用は文のリズムを加速させ、ある概念をより記憶に残るようにする効果を持たせることができる。より一般的に、文法では、asyndetic coordination(接続詞省略の等位関係)は、連言肢間に等位接続詞が存在しない等位関係である。

アリストテレスはその著書『弁論術』の中で、接続詞省略の効果をこう書いている。

接続詞省略と同語反復は、紙上の演説では大いに非難されるが、実際の演説においてはそうではない。動的な効果を持っているそれらの表現技法を、弁論家はたびたび用いている。

(中略)

ここでは豊富な表現が求められる。あたかもそれらの言葉がひとまとまりであるかのように、同じ調子や特徴で話される、などということがあってはならない。加えて、接続詞省略には特別な性質がある。接続詞は多数のものを1つにまとめる語であるため、もしそれが取り除かれると、その逆が起こる。つまり、1つのものが多数になるのである。それゆえ、接続詞省略は強調[1]を生み出す。 — アリストテレス、『弁論術』第3巻第12章第2-4節 (1413b)

アリストテレスは『弁論術』の最後でも接続詞省略の効果について書いていて、最後には実際に接続詞省略を用いている。

結論には接続詞省略のスタイルが相応しく、また、演説の本論と結論の間に違いを設けることができる。
「私は論じ終えた。諸君らはそれを聞いた。事実は提示された。諸君らの裁決をお願いする。(εἴρηκα, ἀκηκόατε, ἔχετε, κρίνατε.) 」 — アリストテレス、『弁論術』第3巻第19章第6節 (1420a)

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接続詞省略の有名な例は、アメリカ合衆国の政治的演説の中に多く見ることができる。

and that government of the people, by the people, for the people shall not perish from the earth.
人民の、人民による、人民のための政治は地上から消え去らないだろう) — エイブラハム・リンカーンゲティスバーグ演説から)
...that we shall pay any price, bear any burden, meet any hardship, support any friend, oppose any foe to assure the survival and the success of liberty
(我々はどんな犠牲も払おう、どんな重荷も背負おう、どんな困難にも出会おう、どんな友人をも支持しよう、どんな敵とも対抗しよう、自由の存続と成功を確実なものにするためなら) — ジョン・F・ケネディ(1961年1月20日の大統領就任演説から)

アメリカ独立宣言」にも、イギリス人に言及した部分で接続詞省略が使われている。

We must... hold them, as we hold the rest of mankind, Enemies in War, in Peace Friends.
(我々は彼らを……その他の人々にそうであるように、戦時には敵、平和の時には友人とすべし)

なお、この文(英文)は交錯配列法にもなっている。

ウィンストン・チャーチルの有名な演説「We shall fight on the beaches」は、接続詞省略を頻繁かつ広範に使用した例である。

We shall go on to the end, we shall fight in France, we shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our Island, whatever the cost may be, we shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender. . .
(我々は最後まで続う、我々はフランスで戦う、我々は海で戦う、我々は高まる信頼と高まる強さの気運とともに戦う、我々は我々の島を防衛する、いかなる犠牲があろうとも、我々は海岸で戦う、我々は上陸して戦う、我々は野で町で戦う、我々は丘で戦う。我々は決して敵に降伏しない……)

接続詞省略と対称的なのが、1個の等位接続詞を使って記述される「接続詞を含んだ構文」(Syndeton, Syndetic Coordination)および、複数の等位接続詞を使って記述される「接続詞畳用(連辞畳用)」である。

参考文献[編集]

  • Aristotle. Art of Rhetoric. Translated by J. H. Freese. Revised by Gisela Striker. Loeb Classical Library 193. Cambridge, MA: Harvard University Press, 2020.
  • Corbett, Edward P.J. Classical Rhetoric for the Modern Student. Oxford University Press, New York, 1971.
  • Smyth, Herbert Weir (1920). Greek Grammar. Cambridge MA: Harvard University Press, p. 674. ISBN 0-674-36250-0.

脚注[編集]

  1. ^ 古希: αὔξησις, : amplification。あるものごとや行為が置かれた状況を強調することで、弁論の効果と主張の重要性を高めることを目的としている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]