抒情小曲集

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

抒情小曲集』(じょじょうしょうきょくしゅう、ノルウェー語: Lyriske stykker)は、エドヴァルド・グリーグが1867年から1903年にかけて作曲した、全66曲からなるピアノ曲集。6~8曲ごとにまとめられて出版され、全10集からなる。

「蝶々」(作品43-1)、「春に寄す」(作品43-6)、「トロルドハウゲンの婚礼の日」(作品65-6)などはとりわけ有名。

個々の曲名は、音楽之友社「グリーグ 抒情小曲集 1・2」(舘野泉解説)による。

グリーグによる「蝶々」1903年録音。リマスター済。
グリーグによる「トロルドハウゲンの婚礼の日」。1906年録音。

第1集 作品12[編集]

1867年に出版。この時期は、ニーナ・ハーゲルップとの結婚の年で、翌1868年にピアノ協奏曲を作曲するなど、充実した創作期の作品である。後の作品集と比較すると、音形は単純で、複雑な技巧は必要としないながらも、すでにグリーグらしさは発揮されている。

  1. アリエッタ
    変ホ長調。ポコ・アンダンテというゆったりとしたテンポで開始される。この曲はおよそ34年後に、『余韻』として戻ってくる。
  2. ワルツ
    単純な曲ではあるが、グリーグならではの味わいをもつ。
  3. 夜警の歌
    シェイクスピアの『マクベス』から霊感を受けて作曲された。中間部は「夜の精たち」と題され、和音はラッパの音をあらわす。
  4. 妖精の踊り
  5. 民謡
  6. ノルウェーの旋律
  7. アルバムの綴り(アルバムリーフ)
  8. 祖国の歌
    短いながらも、堂々とした曲。

第2集 作品38[編集]

1883年に出版。第1集から16年の隔たりがある。ピアノ協奏曲『ペール・ギュント』の音楽を作曲し、名声は揺るがないものとなったが、以降ピアノや歌曲、室内楽作品等を中心に手がけるようになっていく。

  1. 子守り歌
    その名の通り、静かで美しい作品。主部はト長調。ト短調の中間部からト長調への転調が、絶妙。
  2. 民謡
    ホ短調。4分の3拍子。アレグロ・コン・モートの付点音符が特徴的な軽快な舞曲風。
  3. メロディ
  4. ハリング(ノルウェー舞曲)
  5. 飛びはね踊り
    スプリング・ダンスとも訳される。ノルウェーの舞曲の一種である。
  6. エレジー
  7. ワルツ
    ポコ・アレグロ。ホ短調。
  8. カノン
    起伏の大きな、左右の手の対旋律による進行。シューマンの影響がうかがえる。

第3集 作品43[編集]

第2集の翌年に作曲されたが、出版は1886年。ヨーロッパ各地への演奏旅行の合間に書かれた曲。全体的に春の喜びに溢れている。

グリーグによる「蝶々」1903年録音。リマスター済。
  1. ちょうちょう(蝶々)
    細かい流れるような音列が蝶々の飛翔を表現している。分散された音符の中からしっとりわき上がるメロディは、優しさにあふれている。
  2. 孤独なさすらい人
  3. 故郷にて
  4. 小鳥
    32分音符のトレモロが小鳥のさえずりを表現している。アレグロ・レッジェーロ(軽やかに)。
  5. 愛の歌
    非常に甘美な旋律をたっぷりと歌いながら演奏する。
  6. 春に寄す
    4分の6拍子。右手の和音の連打のもとに、左手の旋律が浮かび上がる。このリズム感は、シベリウス交響曲第2番の冒頭と共通する点がある。

第4集 作品47[編集]

1888年に出版。作品は1885年に遡るものもある。「アルバムの綴り」、「ハリング」、「飛び跳ね踊り」等、他の曲集と重複する名前の曲がある。

  1. 即興的ワルツ
  2. アルバムの綴り
  3. メロディ
  4. ハリング
  5. メランコリー
  6. 飛びはね踊り
  7. 悲歌(エレジー)

第5集 作品54[編集]

1891年に出版。「抒情小曲集」の中心をなす完成度の高いもの。最初の4曲は作曲者により「抒情組曲」として管弦楽へ編曲されている。

  1. 羊飼いの少年
    憂いをおびたフルートの響きを模した旋律。
  2. ノルウェーの農民行進曲
  3. 小人の行進
    原曲名は「トロルの行進」であるが、巨大なトロルではなく、茶目っけのある子供のようなトロルをイメージしている。
  4. 夜想曲
  5. スケルツォ
  6. 鐘の音
    空5度の和音を中心とした旋律。生前、グリーグはこの曲の出版を認めなかった。

第6集 作品57[編集]

1893年に出版。フランスの保養地マントンで作曲された。祖国への郷愁とヨーロッパ的なスタイルが同居している。

  1. 過ぎ去った日々
  2. ガーデ(ゲーゼ)
    デンマークの作曲家、ニルス・ゲーゼ没後の回想として作曲された。
  3. 幻影
  4. 秘密
  5. 彼女は踊る
  6. 郷愁
    ノルウェーの山峡地帯の山羊笛の音を模した旋律。

第7集 作品62[編集]

1895年に出版。トロルドハウゲンで作曲された。体調が次第に悪化していった時期の作品。玉石混淆と言われることもある。

  1. 風の精
  2. 感謝
  3. フランス風セレナード
  4. 小川
  5. 夢想
  6. 家路
    3部形式。家路を急ぐ主部と、過去を回想するカンタービレの中間部とからなる。

第8集 作品65[編集]

1896年に出版。舘野泉によれば第5曲をはじめとして「バラード調」の曲が多い。

グリーグによる「トロルドハウゲンの婚礼の日」。1906年録音。
  1. 青春の日々から
    哀愁を帯びたメロディと、躍動的な中間部が対照的な、やや大規模の曲。
  2. 農民の歌
  3. 憂うつ
  4. サロン
  5. バラード調で
  6. トロルドハウゲンの婚礼の日
    抒情小曲中でもっとも大規模で、人気のある曲。

第9集 作品68[編集]

1898年に書かれ1899年に出版。2~3分の小さな曲ばかり。第4曲と第5曲は1899年にグリーグ自身がオーケストラ(基本は弦楽合奏だが第4曲のみオーボエホルンが1本ずつ使用されている)に編曲している。

  1. 水夫の歌
    輪郭のはっきりした快活な曲。2分の2拍子、ハ長調というのもわかりやすい。
  2. おばあさんのメヌエット
    おばあさんにしては軽快で動きの激しいメヌエット。
  3. あなたのそばに
    ロマンティックで甘美なメロディ。愛妻ニーナへの想いを綴った曲。
  4. 山の夕べ
    山羊笛を摸す単音のメロディが続き(オーケストラ版ではこれをオーボエが延々と吹く)、中間部ではffで最高潮に達する。
  5. ゆりかごの歌
    ホ長調。アレグロ・トランキラメンテ。pの目立つ曲。グリーグ夫妻はひとり娘をわずか1歳で失った(その後は子供に恵まれなかった)。その子への追想の曲となっている。
  6. 憂うつなワルツ

第10集 作品71[編集]

20世紀に入り、1901年5月に5曲を作曲。1901年に出版。

  1. 昔々
    スウェーデン民謡とノルウェー舞曲による3部形式の曲。
  2. 夏の夕べ
    ノルウェーの夏の夕暮れをグリーグらしい独特な曲で仕上げている、とても美しく抒情的な曲である。
  3. 小妖精
    こちらの駆け回る妖精は、おなじみのトロルではなく、パックである。
  4. 森の静けさ
    レントの落ち着いた曲。ppで始まり、pppで終わる。
  5. ハリング
  6. 過去
    半音ずつの下降で、抒情小曲集全体の終わりを告げる。
  7. 余韻
    第1集第1曲の「アリエッタ」を3拍子に変奏したワルツ。最初のト音および終結のト音にはフェルマータが付けられ、余韻を残す。

全曲を録音したピアニスト[編集]

  1. ユハニ・ラゲルスペッツ
  2. ホーカン・アウストボ
  3. ダニエル・アドニ
  4. ゲルハルト・オピッツ (RCA)
  5. エヴァ・クナルダール (BIS)
  6. 舘野泉
  7. アイナル・ステーン=ノックレベルグ (ナクソス
  8. フローリアン・ヘンシェル
  9. エヴァ・ポブウォツカポーランド語版
  10. アルド・チッコリーニ (Cascavelle)

関連項目[編集]