戦士症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

戦士症候群(せんししょうこうぐん)は、1980年代の日本においてオカルト雑誌の読者コーナーに端を発したサブカルチャー現象

概要[編集]

1980年代、オカルト雑誌『ムー』(学研)の文通コーナー「コンタクト・プラザ」や『トワイライトゾーン』(ワールドフォトプレス)、『マヤ』(学研)の文通コーナーに、以下に述べるパターンの投稿が多発し[注 1]、やがて投稿コーナーのほとんどがそれらで埋め尽くされてしまう現象が起こった[1]

投稿の内容は、「自分は目覚めた戦士」で「仲間の戦士を探しています」という戦士パターンと、「自分は前世の記憶を取り戻した転生者」で「前世で繋がっていた仲間を探しています」という転生者パターンという2パターンおよびそのミックスに大きく分類される[2]

戦士に目覚めて仲間を探す戦士パターンは、平井和正石ノ森章太郎の『幻魔大戦シリーズ』(特に1983年公開の劇場版『幻魔大戦』)の影響を強く受けており[3]、来たるべき最終戦争(ハルマゲドン)を戦うという目的も含め、五島勉の『ノストラダムスの大予言』がベースとなっている[4]。また、転生者パターンはテレビアニメムーの白鯨』や冬木るりかの『アリーズ』など、転生した仲間たちと共に敵と戦うといった当時流行した作品に影響を受けた設定が多い[5]

1986年から『花とゆめ』で連載された日渡早紀の漫画『ぼくの地球を守って』は、この戦士症候群にヒントを得ており[注 2]、作中では「学嫌社」のオカルト雑誌『ブー』上で仲間を募る設定である[6]

投稿例[編集]

  • 「前世名が神夢、在夢、星音という三人の男性を探しています。早く目覚めて連絡を」[7]
  • 「せい、ゆうや、せいや、ゆう、夕顔という5人の名前に何かを感じた方は連絡を」[8]
  • 「前世アトランティスの戦士だった方、石の塔の戦いを覚えている方、最終戦士の方、エリア、ジェイ、マイナ、カルラの名を知っている方」[9]
  • 「戦士、巫女、天使、妖精、金星人、竜族の民の方、ぜひお手紙ください。戦士でありながら巫女でもある私です」[10]
  • 「サヴァーリア、ウェリファリア、カイ・シヴァ、アメリアの名に覚えのある方、ピンときた方、長生族、水龍族の方、アトランティスの巫女、火、土、水、嵐のどれかを操れる方お手紙ください。こちらはサラ・ウェア・アメリアです」[11]
  • 「霧風、涼風、時風、白羽の名におぼえのある方か私を仲間と感じる方、助けてください! わたしはひとりぼっちです。またフェーディア、イディス、レオーラ、ファーミュ、フレード、リュシュ、ティアンという言葉についてなにか知っていたらおしえてください、それと戦士の方、どうか私に最終戦争のことをくわしくおしえてください」[12]

余波[編集]

1989年8月16日、徳島県徳島市で小中学生の女子3名が解熱剤を大量に飲む自殺ごっこをして病院に運ばれる事件が起きた。彼女たちは紙に書いた筋書きを作っており、「前世は美しいお姫様のミリナやミルシャー」であり、「前世を覗くために一度死んで戻るつもりだった」と語った[13]。この事件の年、日渡は『ぼくの地球を守って』8巻で、フィクションと現実の区別をつけてほしいと読者に向けて書いている[14]

考察[編集]

  • 浅羽通明は、当時のコミックマーケットが一次創作の発表の場から二次創作の場に変貌したことを例に挙げて「同人誌とは作品を発表する場ではなく、商業芸術を自分らの思い入れで奪回し解体する過程で、自分たち仲間の連体が再生産されてゆく媒体」とし、そういったレトリックを共有できる、見えない共同体の同じ成員と投稿者は重なるとしている[15]。また「何もかも、価値観までも金で買える現代、自分の存在理由をどこに求めればよいのか」という世の中で、「自分が特別な存在であってほしい青春のナルチシズムと、その裏返しの無力感。焦り」が、「高校に通う今の平凡な自分は、実は仮の姿なのだ」という方向に投稿者を発展させているとしている[16]
  • 新山哲は、実際に投稿者とコンタクトを取ったところ、彼女らはごく普通の少女であったとし、その種の投稿はコミュニケーションとして、またアイデンティティの自給自足としての想像であり、本人たちもわかった上でやっているのではないかとしている[17]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 浅羽の取材によれば、当時の『ムー』は読者投稿の選択に編集部は介在せず、到着順の掲載であった。
  2. ^ 同作品が生まれる前、1984年ごろからすでに同種の投稿が見受けられる。

出典[編集]

  1. ^ 浅羽、14頁。
  2. ^ 浅羽、15-17頁。
  3. ^ 浅羽、18-19頁。
  4. ^ 浅羽、15頁。
  5. ^ 浅羽、20頁。
  6. ^ 浅羽、11頁。
  7. ^ 「コンタクト・プラザ」『ムー』、1987年7月号。
  8. ^ 「コンタクト・プラザ」『ムー』、1986年8月号。
  9. ^ 「コンタクト・プラザ」『ムー』、1988年4月号。
  10. ^ 「コンタクト・プラザ」『ムー』、1987年9月号。
  11. ^ 「コンタクト・プラザ」『ムー』、1988年11月号。
  12. ^ 「コンタクト・プラザ」『ムー』、1987年6月号。
  13. ^ 週刊新潮、1989年8月31日号、25頁。
  14. ^ 日渡早紀『ぼくの地球を守って』白泉社、1989年12月初版。
  15. ^ 浅羽、22頁。
  16. ^ 浅羽、23頁。
  17. ^ 「前世少女という異界」『いまどきの神サマ』JICC出版局、1990年7月発行。

参考文献[編集]

  • 浅羽通明「オカルト雑誌を恐怖に震わせた謎の投稿少女たち!」『うわさの本』 JICC出版局、1989年4月25日発行

関連項目[編集]