慰安婦問題日韓合意

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2014年8月の日米韓外相会合における岸田文雄外務大臣(左)と尹炳世外交部長官(右)

慰安婦問題日韓合意(いあんふもんだいにっかんごうい)は、2015年平成27年)12月28日の日韓外相会談でなされた日韓間の慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した日本政府大韓民国政府の合意である[1][2][3]

合意の共同記者発表[編集]

2015年(平成27年)12月28日に大韓民国(通称:韓国)ソウル外交部で行われた日本岸田文雄外務大臣と韓国の尹炳世外交部長官による外相会談後の共同記者発表[1]、両外相は「日韓間の慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と表明[2]。韓国政府が元慰安婦支援のため設立する財団に日本政府が10億円を拠出し、両国が協力していくことを確認した[1][4]。外相会談では、日韓両政府が今後国際連合など国際社会の場で慰安婦問題を巡って双方が非難し合うのを控えることも申し合わせるとともに[4]共同記者発表で両外相がその旨を表明した[2]。岸田外相は共同記者発表において「当時のの関与のもとに多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している」とし、「安倍晋三首相は日本国の首相として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に心からおわびと反省の気持ちを表明する」と述べた[2]。一方、尹長官は「両国が受け入れうる合意に達することができた。これまで至難だった交渉にピリオドを打ち、この場で交渉の妥結宣言ができることを大変うれしく思う」と語った[2]

また、尹長官は共同記者発表の中でソウルの在韓日本国大使館前に設置されている慰安婦を象徴する少女像(以下では『慰安婦像』との呼称を使用する[注釈 1])について「日本政府が大使館の安寧・威厳の維持[注釈 2]の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても可能な対応方向について関連団体との協議を行うことなどを通じて適切に解決されるよう努力する」と表明し[2]、岸田外相もソウル日本大使館前の慰安婦像の扱いについて記者団に「適切に移転がなされるものだと認識している」として慰安婦問題に「終止符を打った」と語った[4]。日韓両国はこの合意の際に公式な文書を交わさず、両国外相が共同記者会見を開いて合意内容を発表するという形式がとられた[9]

同日夜、日本の安倍首相と韓国の朴槿恵大統領は約15分間の首脳電話会談を行い[10]、両首脳は慰安婦問題をめぐる対応に関し11月の日中韓サミットの機会に行われた日韓首脳会談から協議を加速させ合意に至ったことを確認し評価した[10]。安倍首相は「日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明」し、「慰安婦問題を含めた日韓間の財産・請求権の問題は1965年の日韓請求権・経済協力協定で最終的かつ完全に解決済みとの我が国の立場に変わりはないが、今回の合意により慰安婦問題が『最終的かつ不可逆的に』解決されることを歓迎」した[10]。朴大統領は今次外相会談によって慰安婦問題に関し最終合意がなされたことを評価するとしたうえで新しい韓日関係を築くために互いに努力していきたいと述べた[10]

合意内容について[編集]

日韓両政府による慰安婦問題の解決を目的とした協議は2014年4月に開始され、2015年1月の第6次局長級協議において韓国側は日本側に「不可逆的な謝罪」を求めた[11]。一方の日本側は協議の初期段階では「最終的な解決」のみを求めていたが、韓国側が「不可逆的な謝罪」を要求した直後の2015年2月に行われた第1次ハイレベル協議から「最終的」のみならず「不可逆的」な解決を求めるに至り[11]、2015年4月の暫定合意では日本側の要求が反映され「最終的かつ不可逆的な解決」との文言が内容として盛り込まれた[11]。韓国外交部はこの暫定合意を受けて「不可逆的な解決」との文言は韓国国内からの強い反発を招くと危惧し、青瓦台(大韓民国大統領府)に対し合意内容から「不可逆的」の表現を削除するべきであると上申した[11]。しかし、朴槿恵政権は「不可逆的という文言の効果は日本側にも等しく及ぶものである」として上申を退け、正式の合意内容にも「不可逆的」という文言が盛り込まれた[11]。これについて「韓日日本軍慰安婦被害者問題の合意検討タスクフォース[注釈 3]」は、「韓国側が日本側に『不可逆的』な謝罪を要求したのは日本の内閣総理大臣による公式な謝罪を実現させたいという意図からであったが、韓国側は自らの意図を確実に合意内容へ反映させるべく積極的に努力することを怠った」としている[11]

また同タスクフォースは、文言のうち「不可逆」は韓国側が日本に対して「謝罪の不可逆性」を求めて提示したものだが、交渉の中で日本側に「解決の不可逆性」に脈略を変更されたとしている。また、「最終的」との文言はは日本が要請をしたものであり、日本側が非公開のやり取りで、「今回の発表により、慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決されるので、挺対協などの各種団体などが不満を表明した場合であっても、韓国政府はそれに同調せず、説得していただきたい」と、挺対協などの団体の不満を韓国政府が説得するよう求めたとしている[11]

日本政府が拠出する10億円について尹炳世長官は2017年1月13日の韓国国会外交統一委員会にて、「(日本)政府の出資金が必要ということは、当然のことながら、我々の立場」とした上で、「(日本政府が)政府の責任を認め、謝罪と反省を行い、政府出資金が出てくれば、この三つが合わさることで我々の求める形に近づくことから、我々は(日本政府に)要求した」「金銭を取り戻すことが重要ではなく、その性質が重要」と答弁した[15]


日本の岸田文雄外相と韓国の尹炳世長官による共同記者発表(於ソウル、2015年12月28日)

1 岸田外務大臣

 日韓間の慰安婦問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、日本政府として、以下を申し述べる。

(1)慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。  安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。

(2)日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

(3)日本政府は上記を表明するとともに、上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。  あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

なお(2)の予算措置については、規模はおおむね10億円程度となった。以上については日韓両首脳の指示に基づいて行ってきた協議の結果であり、これをもって日韓関係が新時代に入ることを確信している。

2 尹(ユン)外交部長官

 韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、韓国政府として、以下を申し述べる。

(1)韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が上記 1.(2)で表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。

(2)韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。

(3)韓国政府は、今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

国交正常化50年の今年中に岸田外相とこれまでの交渉に終止符を打ち、この場で交渉妥結を宣言できることをうれしく思う。今回の合意のフォローアップ措置が着実な形で履行され、辛酸をなめさせられた元慰安婦の方々の名誉と尊厳が回復され、心の傷がいやされることを心より祈念する。 また両国の最もつらく厳しい懸案であった元慰安婦被害者問題の交渉が妥結したことを機に、来年からは新しい気持ちで、新しい日韓関係を切り開いていけることを期待する。

履行状況[編集]

在韓日本国大使館前に設置された慰安婦像

日本[編集]

日本政府は韓国政府が設立する元慰安婦を支援するための財団(「和解・癒やし財団」)に10億円拠出することを約束し、2016年8月31日に履行した[16][17]

韓国[編集]

「和解・癒やし財団」は日本からの拠出金をもとに、慰安婦への現金支給を行っている。2016年10月時点で、存命中の慰安婦46人中36人が支給済または支給の手続き中で、既に死去した慰安婦に対しては、35人の遺族が引き取りを表明している[18]。慰安婦像の移設は合意後も実施されていない。 2018年11月21日「和解・癒し財団」の解散を発表

合意直後の反応[編集]

日本側の反応[編集]

日本は与野党ともに歓迎の意向を表明している。村山富市元首相も「よく決断した」と評価した[19]。世論調査でも日韓合意は肯定的に受け止められた[20]

肯定的評価[編集]

  • 櫻井よしこは、日韓合意は両国関係を改善し、緊迫感が増す世界情勢の中で日米韓の協力を容易にしたとして、安全保障の観点から日本の短期的外交勝利を評価した。一方で、国際社会では「保守派の安倍晋三首相さえも強制連行や性奴隷を認めた」と逆に解釈され、歴史問題に関する国際社会の日本批判の厳しさは変わっていないと指摘した。だからこそ、安倍首相は以前よりずっと賢い永続的な情報発信をする重い責務を負っているのだと述べた[21]
  • 井上寿一は、「安倍首相は『慰安婦問題』を安全保障の観点から考えている」とし、「日韓合意の成否は双方が新しい安全保障関係を構築できるか否かにかかっている」との見解を示した。対立が続く両国の外交関係を修復するのは容易ではないとはいえ、アメリカを介して日韓が安保協力を進める余地が生まれたと評している[22]
  • 和田春樹によれば、日本軍慰安婦問題解決全国行動は、12月29日に「日本政府は、ようやく国家の責任を認めた。安倍政権がこれを認めたことは、四半世紀もの間、屈することなくたたかってきた日本軍慰安婦被害者と市民運動が勝ち取った成果である」と声明で評価し、一方で「総理大臣のお詫びと反省は、外相が代読、あるいは大統領に電話でお詫びするといった形ではなく、被害者が謝罪と受け止めることができる形で、改めて首相自身が公式に表明すること」とも批評した[23]
  • 日本の曹洞宗による「東国寺を支援する会」(慰安婦像設置を推進する日本唯一の団体)は、慰安婦問題に否定的だった安倍首相の急激な方針転換は、平和や人権を尊重する市民の声に屈したとして歓迎を表明した。[24]
  • 在日本大韓民国民団は、日韓合意を支持すると表明し[25]、2017年1月17日には、駐日大使の李俊揆にたいして合意が両国間で誠実に履行されていくことを文書で求めた[26]。在日本大韓民国民団の呉公太(オ・ゴンテ)団長は同月12日に、「釜山少女像はなくすべきだというのが在日同胞たちの共通した思い」と発言していたが、これに対して東京外国語大学の金富子教授は「民団団長の発言は在日同胞全体を代弁するものではない」と述べている[27]

否定的評価[編集]

  • 日本キリスト教協議会は、慰安婦問題日韓合意に対して、白紙撤回および「① 明確で公式的な方法での謝罪、② 謝罪の証としての賠償、③ 日本政府保有資料の全面公開と更なる真相究明、④ 歴史教科書への記述と追悼事業」を、韓国だけではなく北朝鮮を含んだ全世界に向けて行うことを求める宣言を発表した。[28]
  • 青山繁晴は、自身が日韓合意の直前に安倍首相に反対の意向を伝えたことを明かし、「安倍総理は、日本だけではなくアジアの史観を公正にするためにも再登板した。『軍の関与の下』という表現で自ら、嘘を致命的に固定する役割を果たしては、天命に反する。安倍総理の本願は『日米対等』だ。日韓合意は、オバマ大統領から要請されたから、対等への一手段として総理が決意した。総理はこれを機に『嘘は嘘である』と世界へ立証することも決断すべきだ」と主張した[29]
  • 水島総は、日韓合意を「河野談話と比較にならないほど国家的な重大過失だ」と批判し、「『慰安婦は性奴隷だった』といった韓国の主張を日本政府が公式に追認したと理解されても仕方ない。海外の報道機関でもそのように報道されている」と主張した[30]
  • 呉善花は、「(日韓合意)の賞味期限は半年間だ」、「日韓合意は口約束。(正式な外交文書である)1965年の日韓基本条約すら守らない韓国が、今回の合意を守るわけがない」と述べ、韓国側の出方を注視する必要があるとの考えを示した[31]
  • 西岡力は、日韓合意は安全保障の観点では評価できる部分があるにせよ、国際社会での相互批判を自制するとしたことにより、今後「断固たる反論」ができなくなるのではないかとの懸念を示した。さらに、国際社会では「日本政府が、第二次大戦中に20万人のアジア人女性を性奴隷として強制連行し、人権を蹂躙した事実を認め、韓国政府に10億円を支払うことに合意した」という虚偽が広がっているとして、日本国の名誉回復抜きの慰安婦合意は評価できないと主張した[32]
  • 吉見義明は、日韓両政府が被害者を抑圧して、解決したことにする強引なものであるとあるとした。さらに、「最終的かつ不可逆的に解決され」るということができるのは政府ではなく、被害者だけであるはずだと主張し、[33]和田春樹から合意を受け入れた慰安婦被害者に対する非難になるとして批判を受けた[23]

その他[編集]

  • 日本共産党は「合意はあくまで問題解決の出発点」「すべての慰安婦被害者が人間としての尊厳を回復してこそ真の解決となる」「そのために日本政府は韓国政府と協力して誠実に力をつくさなければならない」としている[34]
  • 山口二郎は「日本右派が韓国女性を誹謗中傷することも、不可逆解決に反する」「安倍政権自民党右派及びその背後の右翼の無知、偏見を的確に批判し、日本政府の公式見解に反することを厳しく処断することができるかどうかが問われる」などの見方を示した。産経新聞は「民間の言論をも『処断』するよう政府に求め、言論の自由への抑圧を主張したとも受け止められかねない発言だ」と山口の発言を批判した[35]
  • アジア女性基金のフォローアップ事業で外務省から年間1000万円の資金提供を受けていた慰安婦を支援するNGO団体は「和解・癒やし財団」の設立に伴ってフォローアップ事業による資金提供の停止されることに対して、資金の提供を継続することを求めている。[36]

韓国側の反応[編集]

朴槿恵大統領は、合意が行われた12月28日に国民向け談話を発表し、「韓日関係改善と大局的見地から、今回の合意について(元慰安婦の)被害者と国民の皆さんが理解してくださるよう願う」と呼びかけた[37]が、韓国の与党セヌリ党は「日本政府の責任を明示したという点で相当に進展した」として歓迎する一方で、韓国の最大野党である「共に民主党」は「決して受け入れられない」と失望を表明した[38]在日本大韓民国民団は韓国の主要三紙に意見広告を掲載し、合意が「満足できる水準でないとしても、…結果を導き出した。」と支持することを表明、韓国国民にも「大局的見地から合意案を受け入れるよう」訴えた[39]。一方で韓国挺身隊問題対策協議会は「被害者と国民の望みを徹底的に裏切った外交的談合」と非難している[40]

また、この合意の後、「日帝強占下サハリン強制動員抑留被害者韓国残留遺族会」や韓国人原爆被爆者などの「慰安婦」被害以外の戦後補償を求める団体・個人も、韓国政府が日本政府と交渉するよう求めている。なお韓国政府は、サハリン残留問題、原爆被爆者問題についても日韓請求権問題では解決していないとの立場である。[41]

韓国世論調査リアルメーターでは、野党「共に民主党」支持層を中心に慰安婦像の移転について否定的な意見が多数を占め、66%が反対している[42][43]

合意について、釜山大学准教授のロバート・E・ケリーは、「民主的な選挙で選ばれた大統領が結んだ」ため、「もし合意をほごにすれば、国際的な合意を守れない国という不信感を持たれることは避け難い」としている[44]

元慰安婦の反応[編集]

元慰安婦の一人(ソウル在住)は、毎日新聞のインタビューに応え、「(合意は)とても良かったと考えている。子孫にまで持ち越さず、私たちの代で解決してくれた」と賛同を表明し、合意を着実に履行するよう求めた。慰安婦像についても、別の場所に移しても良いと回答した[45]

2017年12月24日時点で生存している元慰安婦32人中24人の75%が既に慰安婦合意に賛成して、日本が拠出した見舞金1億ウォンを受け取っている。合意当時は46人中36人の約78%が合意に賛成して見舞金1億ウォンを受けとっていた[46]

合意当時に反対する慰安婦団体である韓国挺身隊問題対策協議会ナヌムの家に属する慰安婦たちも「和解・癒やし財団」事業に自発的に参加することを韓国政府に明らかにしているが、韓国挺身隊問題対策協議会のユン・ミヒャン代表は「政府が意思表明が困難なハルモニを利用している」と批判し、合意に反対をしている[47][48]

合意破棄を求める世論を受けていたムン・ジェイン政権も合意に賛意が多数派を占める元慰安婦から直接同意を得る方法で、合意破棄しないことで日韓の外交葛藤を解決しようとしていると報道された[49]

国際社会の反応[編集]

アメリカ合衆国で唯一、公共の場に慰安婦像を設置しているカリフォルニア州グレンデール市ナジャリアン英語版市長は2016年4月、「外交上の成功を歓迎する」「両国の行動で解決することを喜んでいる」とし、「オバマ大統領も先週、両国の首脳と会い、改めて(合意を)支持した。グレンデール市も支持する」との声明を表明した[50]。アメリカ政府に加えて、ドイツオーストラリアイギリスカナダシンガポール、国際連合(UN)、欧州連合(EU)など主要先進国や国際機関などは日韓合意の支持を表明した[51]

国連女性差別撤廃委員会は、2016年3月に公表された対日審査会合に関する最終見解で、日本政府の取組みはなお不十分と指摘し、日韓合意を実行に移す際には元慰安婦の意見に十分配慮するよう日本政府に勧告した。前回2009年の会合で日本政府に勧告していた元慰安婦らへの賠償や加害者の訴追などを含む慰安婦問題の「持続的な解決」を探る努力を依然実行していないとして「遺憾の意」を示し、日韓合意について「元慰安婦らを中心としたアプローチを完全には取っていない」と指摘、元慰安婦らの「真実、正義、償いを求める権利」を保証し彼女らの立場に寄り添った解決を目指すよう求めた[52]

国連の自由権規約委員会は、2016年3月に開かれた日本などの人権状況に関する会合で、日韓合意について元慰安婦らへの謝罪表明や責任の認識を「大きな進展だ」として前進がみられたと評価する一方、人権侵害行為調査や加害者の刑事責任追及などは「努力がみられない」と指摘した。国連では日韓合意をめぐり、ゼイド・ラアド・ゼイド・アル・フセイン人権高等弁務官が「元慰安婦被害者自身から疑問の声が出ていることは非常に重大だ」と述べるなど、批判的な論調が相次いでいた。[53]

国連の潘基文事務総長は2016年1月、朴槿恵大統領との電話会談で、日韓合意について祝福し、「朴大統領がビジョンを持ち、正しい勇断を下したことを歴史は正しく評価する」とした[54]。潘の後任の事務総長アントニオ・グテーレスは、2017年5月27日に安倍晋三首相と会談し、日本政府はグテーレスが日韓合意を支持する考えを示したと発表したが、翌28日に国連事務総長報道官は、慰安婦問題をめぐる日韓合意の内容に「言及しなかった」と述べ、双方の主張に食い違いが生じた。報道官は同声明で、グテーレスは日韓両国間の合意に基づき慰安婦問題を解決すべきだという点には同意したが、特定の合意内容には触れず、具体的解決策は両国間で決めるべきという「原則」について語ったと指摘した[55]

2017年5月12日、国連拷問禁止委員会は韓国に対する最終見解において、日韓合意について「両国による合意を歓迎するが、被害者に対する補償や名誉回復、真相解明、再発防止の約束などについては十分なものとは言えない」と指摘した。その上で、被害者への補償と名誉回復が行われるよう両国は合意を見直すべきだとし、事実上、合意を巡る再交渉を促した[56]

合意後の経緯[編集]

「誠実な履行」要求[編集]

2016年1月31日、韓国外交部は日本政府が国連女性差別撤廃委員会に「どこにも軍と官憲による慰安婦強制連行は確認されなかった」とする答弁書を提出したことを受け、「日本は慰安婦合意の精神と趣旨を毀損する言動を慎み、被害者の方々の名誉を回復するという立場を行動で見せることを促す」とした[57]。また同年2月2日には、林聖男外務第1次官が在韓日本大使に抗議し、合意の「誠実な履行」を求めた[58]

追加支援の要請[編集]

2016年9月29日、韓国の外交部報道官は記者会見で、安倍晋三総理大臣が謝罪の手紙を慰安婦に送るという韓国の元慰安婦支援財団が求めている追加の措置に関連し、「韓国政府としても、日本側が慰安婦被害者の方々の心の傷を癒やす、そうした追加的な措置をとるよう期待している」と述べた[59]が、9月30日の記者会見で岸田文雄外務大臣は「日韓合意の着実な実施が重要だと日韓で一致している。日韓合意は昨年12月に発表されたとおりで、それ以上でもそれ以下でもない。追加的な措置については一切合意されていない」と追加の措置をとることを否定した[60][61]

2016年10月3日、韓国国連大使の呉俊は「昨年12月に合意したからといって、国連など国際舞台で議論が継続されることに直接影響を及ぼすものではない。国際問題、多国間の問題として、慰安婦問題、戦時中の女性への性暴力問題は終わっていない」と発言した。[62]

2016年10月12日、韓国最大野党の共に民主党姜昌一議員は韓国人元慰安婦が生活するナヌムの家を訪問し、「私たちはお金ではなく、(日本政府の)謝罪を受けたい」という韓国人元慰安婦に対し「いつか日本国王[63]や首相が来てひざまずいて謝罪するでしょう」と述べた[64]

2016年10月13日、韓国の尹炳世外相が1970年に西ドイツ首相ヴィリー・ブラントがワルシャワでナチス虐殺の犠牲者に謝罪したワルシャワでの跪きを取り上げ、韓国人の感性に訴える措置を追加で行うことを求めたが、日本側は拒否をした[65]

2016年12月30日、朝日新聞は社説で、日本政府が合意事項で約束した「元慰安婦支援のため設立する財団に日本政府が10億円拠出」を履行したことについて、慰安婦の3割が金銭の受領を拒否していることを挙げて「日本政府が真に謝罪していないとして反発を強めている。」「元慰安婦らに寄り添いつつ、不幸な歴史を教訓として、永遠の不戦の誓いなど普遍的な問題に昇華させ、人権の向上に努めることではないのか。」と追加の措置の必要性を説き、「慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決」は合意内容を履行することだけではなく、日韓の心が通い合わないと根本的な解決は図れないと主張した[66]

日本総領事館前の慰安婦像[編集]

韓国人による慰安婦像の建立は合意後も国内外で盛んに行われ、崔順実ゲート事件による朴槿恵大統領の職務停止後はとりわけ勢いをつけ、2016年12月30日には釜山市東区の日本総領事館前の路上にも慰安婦像が釜山市東区の許可を得て設置された。2017年1月6日、日本政府は対抗措置として、

  1. 長嶺安政駐韓国日本大使と森本康敬在釜山日本総領事の一時帰国
  2. 日韓通貨スワップ協定協議の中断
  3. 日韓ハイレベル経済協議の延期
  4. 在釜山総領事館職員による釜山市関連行事への参加見合わせ

を発表した[67][68]

麻生太郎副総理財務大臣は2017年1月10日、『日韓通貨スワップ協定協議の中断』に関し、「約束した話が守られないなら(韓国に)貸した金も返ってこない」と早期再開に否定的な見解を示した[69][70]

日本の市民団体の日本平和委員会は2017年3月、反対派の韓国市民団体が釜山の慰安婦像の前で開催した集会に参加し、「安倍晋三政権は慰安婦の歴史をゆがめ、朝鮮をはじめとするアジアの女性に性奴隷であることを強いた事実も無視している」と批判を行っている。[71]

慰安婦像の撤去についての見解 [編集]

  • 亜細亜大学教授の野副伸一は、韓国政府は慰安婦像について「適切に解決されるよう努力する」と約束したが、拘束力のある文書化はされていないとしている[72]
  • 中央大学教授の吉見義明は、合意によって韓国政府は「少女像の撤去のために努力するという義務を負うことになったし、国際社会でこの(慰安婦)問題を再び取り上げないという約束までした」としている[73]
  • 新潟県立大学教授の浅羽祐樹は、慰安婦像の撤去について、「少女像についても、『撤去』が明示的に盛り込まれたわけではない。韓国政府は『関連団体』と協議することで『適切に解決されるように努力する』という文言になっている」としている[74]
  • 国際大学准教授の熊谷奈緒子は、合意において韓国政府が日本大使館前の慰安婦像について「適切に解決されるよう努力する」としている点について、「日本側としては『移設』や『撤去』として理解されている」とした上で、慰安婦像の移転について「努力目標というレベルにある」ともしている[75]
  • シドニー大学のリオネル・バビッチは、合意は慰安婦像について「適切に解決されるよう努力する」としているが、「どのようにそれが行われるのかは不透明で、また韓国は像を撤去するとの約束もしていない」としている[76][77]
  • ポモナ・カレッジのトム・リー助教授は同様の点について、「日本側は像が撤去されることを確認することから譲歩したが、合意はいつ、どのようにということを示していない」としている[78][79]

合意破棄の運動[編集]

韓国内では、もともと野党を中心に慰安婦日韓合意そのものに反対があったが[38][40]、2016年10月に朴槿恵大統領の友人崔順実による国政介入疑惑が発覚すると、合意も「崔順実容疑者に操られていたのではないのか」との批判が起こり合意撤廃の機運はさらに盛り上がった[80][81][82]

2016年9月5日、合意に反対している最大野党「共に民主党」所属の姜昌一議員(日韓議員連盟幹事長)はインタビューで「(合意は)国家を拘束する条約や協定ではなく、安倍(晋三)政権と朴槿恵政権の約束にすぎない」として「両政権がやったことだから、再交渉の必要はないが、われわれは認めていない」と主張しており、長嶺安政駐韓大使と会談した際、こうした認識を伝えたという一方で「互いに良い方向を模索していくべきだ」とも述べた[83]

10月12日には、外交統一委員会の議員らが毎年訪れている韓国人慰安婦が生活するナヌムの家を訪問し、日本軍慰安婦のイ・ヨンスから「10億円を返して、『和解・癒やし財団』を廃止せよ」「なぜ(政府が)勝手にするのですか。それはいけません。」と叱責を受け、要望を果たすことを約束した[84]

10月18日、韓国女性家族部長官の姜恩姫朝鮮語版は、合意について「多くの被害女性の方々は賛成し、この合意に感謝の気持ちを表現している。」「反対している方もいらっしゃるが、現在把握しているところでは少数だ。」と述べた[85]

しかし、10月24日に発覚した崔順実ゲート事件朴槿恵大統領が失墜すると、韓国挺身隊問題対策協議会と慰安婦は、集会などで合意破棄と「和解・癒やし財団」に対しても「初めから存在理由がなく、即刻解散すべきだ」との主張を始め[80]、12月には韓国の次期大統領選挙有力候補9人が慰安婦問題日韓合意の再交渉または廃棄を選挙公約に掲げ[81]、韓国最大野党の共に民主党も政権交代が実現した場合、日韓合意を破棄することを公約とした[82]

文在寅政権[編集]

韓国側の政権交代後に行われた合意検証で、「15年の合意では慰安婦被害者問題の真の問題点を解決できない」としながらも、「再交渉は要求しない」とする新方針を発表した。これについて、韓国の朝鮮日報は、「再交渉しないが履行もしない玉虫色」「合意を引っかき回し、元慰安婦と日本の不満ばかり増幅させた」と報じている。また中央日報は、「日本の感情は悪化し、韓日関係は最悪になった」と日韓関係の悪化に懸念を示した。[86][87]

この新方針について、日本政府は「合意に至る過程に問題があったとは考えられない」「合意を変更しようとすれば日韓関係がマネージ不能となり断じて受け入れられない」とする外務相談話を発表し、また日本の河野外相は「一方的な公表は遺憾」とするコメントを発表[88][89]、安倍首相は、合意を「1ミリも動かさない」と周囲に語った[90]

また産経新聞は、合意の検証について、「国内向けの時間稼ぎ」であると批判している[91]

2017年5月3日、韓国女性家族省は従軍慰安婦問題に関する報告書を発表し、報告では、ソウルの日本大使館前の慰安婦像(原文では少女像)の撤去は約束ではなく、「本質的な合意が誠実に履行されようやく検討される『付随的な合意』にすぎない」とした。なお「(報告書の)内容は研究陣の意見で、女性家族省の公式の立場ではない」としている[92]

2017年5月10日、合意に批判的な共に民主党候補の文在寅が韓国大統領に当選し、政権交代となった。文は5月11日にも安倍晋三と電話会談を行ったが、その中で慰安婦合意について「国民の大多数が心情的に合意を受け入れられないのが現実」と述べた[93]

2017年6月12日、二階俊博が安倍晋三の特使として訪韓。二階と会談した文大統領は「日本が韓国国民の心情をくみ取ろうとする努力が重要だ」と伝え[94]、韓国与党の「共に民主党秋美愛代表は、慰安婦を「性奴隷」とした上で、日本の謝罪と再交渉を求めた[94]

2017年7月10日、日本政府は、韓国の鄭鉉栢女性家族相が慰安婦関連資料の世界記憶遺産への登録を政府予算を拠出して支援する考えを示したことについて、日韓合意の趣旨に反するとして抗議した[95]

2017年12月19日、安倍総理大臣が韓国の康京和外相と首相官邸で会談し、慰安婦問題日韓合意の履行を強く求めた[96]。26日に菅義偉官房長官が閣議後の記者会見で日韓合意について「国際社会が高く評価している。互いが実行に移していくことが極めて大事だ」と強調した。[97]

2017年12月28日、韓国大統領府報道官から、日韓合意には内容及び手続き面で重大な欠陥があるとして、日韓合意では問題の解決がなされないとする文大統領の声明が出された[98]。声明は、交渉はその過程で慰安婦への十分な説明がなされないまま谷内正太郎国家安全保障局長と李丙琪大統領秘書室長との間で進められたものであると指摘し、「問題が再燃するほかない」とした[99]

これを受け、外務省の金杉憲治アジア大洋州局長から駐日大韓民国大使館に対し、「合意の維持以外に政策的な選択肢はない」との申し入れがなされた[100][101]。また、同日より2日間にわたり、大韓民国国軍による、F-15E (航空機)等が参加する竹島防御訓練がなされることが表明されたことを受け、金杉局長より駐日大韓民国大使館に対し、強い抗議が合わせてなされた[102][103]

2018年1月2日、朴元淳ソウル市長はテレビ番組に出演し、「日韓合意の再交渉は「不可避だと考える」」と述べた[104]

2018年1月9日に韓国の康京和外交部長官は、「(日韓合意は)公式な合意だった事実は否定できない」として日本政府に合意の再交渉を求めないとししつつ、慰安婦の尊厳の回復や心の傷を癒す努力を続けることを日本政府に要求した。さらに日本政府が支払った10億円の代わりに韓国政府の予算から充当するという新方針を発表した[105]。これに関して、文在寅大統領は「日本が心をこめて謝罪してこそ(被害者の)おばあさんたちも日本を許すことができ、それが完全な慰安婦問題の解決だと思う」と述べた上で、「両国政府が条件をやり取りする方法で被害者を排除し、解決を図ったこと自体が間違った方法だった」との見解を述べている[106]

2018年1月9日、韓国の康京和外交部長官は、合意は慰安婦問題の真の解決にならないとしたものの、合意の再交渉は求めないとした[107]

2018年1月12日、安倍首相は官邸で記者団に対し、日韓合意について「日本側は約束したことは全て誠意をもって実行している」と述べた[108]

2018年3月1日、文在寅大統領は「三・一独立運動」の記念式典で「加害者である日本が『終わった』と言ってはいけない」と、2015年12月の日韓合意を履行するよう求める日本をけん制した。[109] 2018年5月29日、韓国与党・共に民主党秋美愛代表は記者会見で慰安婦像の撤去について問われると「少女像は全世界に、国を失った国家の少女を性的奴隷にした日本を平和的な方法で告発するもの」と述べ、撤去を求める日本に対して「このような質問を受けるということ自体が慰安婦被害者に申し訳ない」と不快感を示した。[110]

2018年11月21日、韓国政府は「和解・癒やし財団」の解散を発表[111]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 外務省はソウルの日本大使館前などに設置された慰安婦を象徴する少女像の呼称を「慰安婦像」に統一することを2017年2月に決定している[5]
  2. ^ 外交関係に関するウィーン条約第22条第2項により、同条約の当事国たる接受国は「公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する[6][7]。」韓国は1970年12月28日に同条約に批准している[8]
  3. ^ 慰安婦問題日韓合意について全体的に検討することを目的として2017年7月31日付で韓国外交部に設置された康京和長官直属の委員会[12][13]。委員会は検討を進め、2017年12月27日に検討結果を発表した[11][14]

出典[編集]

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  110. ^ 中央日報 2018年05月30日08時02分  日本記者の「少女像移転」質問に韓国与党代表「少女像は陰険な物でない」[32]
  111. ^ “韓国政府 慰安婦財団解散を発表=韓日間の「亀裂拡大」必至”. 聯合ニュース. (2018年11月21日). https://jp.yna.co.kr/view/AJP20181121001000882?section=japan-relationship/index 2018年11月21日閲覧。 

外部リンク[編集]