後発開発途上国

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2008年時点の後発開発途上国(青色)。ブラックアフリカ東南南アジア地域に集中して分布している。(なお、緑色は指定を解除された国々。)

後発開発途上国(こうはつかいはつとじょうこく、: Least developed country、略語:LDC)とは、国際連合(国連)が定める世界のの社会的・経済的な分類の一つで、開発途上国の中でも特に開発が遅れている国々のことである。LDC(LDCs)という略語は、Less Developed Countries(開発途上国)の略語ともとれることから、両者の区別に注意を有する場合もある。

概要[編集]

1967年10月に77ヶ国グループが採択したアルジェ憲章(Charter of Algiers)[1]で初めて言及され、1971年11月に採択された国際連合総会決議2768に従って分類が始められた[2]2001年以降は国連総会決議56/227に基づき、国際連合事務局傘下の「後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国担当上級代表事務所」(UN-OHR-LLS)が後発開発途上国の開発支援を担っている[3]

後発開発途上国(LDC)を指して、貧困国(ひんこんこく)、第四世界(だいよんせかい)或いは最貧国(さいひんこく)という表現をする場合もある。第四世界という呼称は、アメリカ合衆国を中心とする資本主義国家群を第一世界ソビエト連邦を中心とする共産主義国家群を第二世界、どちらにも属さない国家群を第三世界と呼んでいたことによる。ただし、ソ連共産圏(第二世界)の崩壊後にこの区分はあまり使われていない。一方で「最貧国」という呼称も定着しているが、区分される国が国際連合加盟国全193か国のうち4分の1弱を占める47か国(2018年2月現在)もあるため、実情を示す上では不正確といえる。また、「最貧国」に属する全ての人が経済的に絶望的な貧困状態にあるという訳ではない。物々交換自給自足といった市場外での経済行為は経済指標に現れないので、ブータンなど平和な後発開発途上国には、市場にあまり関わることなく、独自の文化を守って平穏な暮らしをしている人々も多くいる。

LDCの多くは、広範囲にわたる武力衝突と不安定な政治によって国家が有する統治機構権力が脆弱になっている。これらの国の多くは民族紛争と長い間続いていた植民地主義の名残等々によって国の機軸が損なわれ、名目上は民主主義自由主義を標榜していても、実質的には独裁政治が行われているのが主である。アメリカシンクタンクの一つである平和基金会が毎年発表している「脆弱国家ランキング」の2017年版において、LDC44か国[4]の7割強に当る32か国がワースト50位以内に入っており、 脆弱度合いのカテゴリーで最悪の「Alert」(「警報」)に分類される35か国[5]の7割弱に当る24か国がLDCで占められている。そのため、LDCを指して「失敗国家」という表現もなされている。

2018年現在、低開発国の半分以上はサハラ以南のアフリカにある。(分布についてはLDCの多い地域と少ない地域参照。)

定義[編集]

後発開発途上国に認定されるには、国際連合経済社会理事会(ECOSOC)の審査で「国際連合開発計画委員会(CDP)の定めた基準に当てはまる」と認められた上で、国際連合総会の議決を受ける必要がある[6]

CDPが2009年に定めた後発開発途上国と認定するための3つの基準は下記の通り[7][6]。ただし、当該国の同意が前提となる[6]

  • I. 所得水準が低いこと。すなわち、一人当たりの国民総所得(GNI)の3年平均推定値が992米ドル以下であること。
  • II. 人的資源に乏しいこと。すなわち、HAI(Human Assets Index)と呼ばれる指標が一定値以下であること。HAIは、①カロリー摂取量、②健康に関する指標、及び③識字率に基づく。
  • III. 経済的に脆弱であること。すなわち、外的ショックに対する経済的脆弱性を表すEVI(Economic Vulnerability Index)と呼ばれる指標の値が一定以下であること。EVIは以下の下位指標に基づく。
  1. 農産物の生産量がどの程度安定しているか。
  2. 商品サービス輸出がどの程度安定しているか。
  3. GDPに反映される製造業サービス業の活動が全経済活動に対してどの程度の比率を占めるか。
  4. 人口の対数によって算出される該当国の国内市場の規模、及び天災によって影響を受ける人口の割合。

後発開発途上国のリストは3年に一度見直しが行われており、3つの基準のうち2つ以上を2年連続して上回っていれば指定から外れることができる。ただし、GNIについては905米ドルではなく、1,086米ドルを超えなければならない。

LDCをめぐる諸問題[編集]

LDCに分類される国々には、開発の進展を妨げる共通の諸問題がいくつか見られる。

内陸国[編集]

後発開発途上国には、アフリカアジア内陸国が多い。内陸国は、隣国の港湾の賃貸料やそこまでの輸送費などがかかるために、貿易の利益が少なくなる他、港湾のある隣国の情勢に左右されることが多く、経済活動が不安定である。

小島嶼開発途上国[編集]

オセアニア北アメリカの後発開発途上国は、いずれも小島嶼開発途上国(SIDS)にも分類されている。SIDSは小さなで国土が構成されるため、少人口、自然災害に脆いといった脆弱性を抱えており、持続可能な開発が困難だとされている。

内戦・行政機能の低下[編集]

いくつかの後発開発途上国は、政府の行政機能低下や列強内政干渉によって「失敗国家化」が進んでおり、場所によっては深刻な内戦状態となっている。

アフガニスタン1919年の独立以来比較的安定的な治世を保っていたが、1978年アフガニスタン人民民主党による蜂起以降断続的な内戦(アフガニスタン内戦)に陥っており、国際支援に依存しないと国家予算が成り立たない財政破綻状態となっている。

ソマリア1982年からいわゆるソマリア内戦が表面化し、1991年バーレ社会主義政権が崩壊すると無政府状態になった。武装しなければ街頭に出られず(それでも命の危険がある)、2012年の統一政府樹立後も首都モガディシュ以外は軍閥を土台とする各地の自治国ソマリランドの支配下にあり、アル・シャバブ によるテロ活動も続いている。

コンゴ民主共和国1960年の独立直後に勃発したコンゴ動乱で旧宗主国ベルギーを初めとする列強の介入を受け、国内が分裂状態となった。その後、ザイール政権末期から断続的に発生した第一次第二次コンゴ戦争に周辺諸国が介入し、その後も紛争が続くことで中央政府の統治が全土に行き届かないでいる。

自然災害[編集]

後発開発途上国は、社会基盤が脆弱な故に巨大な自然災害に対処しきれない場合があり、他の国では減災が可能な事例で被害を拡大させる傾向がある。

ハイチでは2010年大地震が発生し、政情不安で社会基盤が脆弱だったこともあって被害が拡大した。首都のポルトープランスを直撃して多数の死傷者が出たが、2012年現在、復興作業が進められている。

ネパールでも2015年大地震が発生し、ハイチと同様に社会基盤が脆弱だったため被害が拡大した。

ミャンマーでは、2008年5月に大型のサイクロン(台風)がやってきて、たくさんの家や動物、人間を直撃した。これも社会基盤が脆弱なため、被害が拡大した。

バヌアツでも、2015年3月サイクロンがやってきて、10人以上が死亡した。これも社会基盤が脆弱なため、被害が拡大した。

飢餓[編集]

後発開発途上国を形成する大きな問題が飢餓である。厳しい気候や耕作に不適な土質の地域では農業が充分に発展せず、食料輸入を行うための財政力もないため、「生活に必要な栄養を自給できない状態」にある。

食料生産国の多くは、自国の穀物を保護を目的に、他国から輸入された穀物に高い関税をかけている。このような状況において後発開発途上国では、肥料を利用するなどして生産を拡大しても輸出を伸ばすことができず、生産過剰となり、結果として、豊作貧乏に陥ってしまう。 そうなることを避けるために、後発開発途上国では、肥料などを利用しない粗放農業をとらざるを得ない。そのような状態だと、自然災害や紛争などによる悪影響を受けやすくなり、飢餓がより深刻化する。

インフラ未整備[編集]

電気水道を初めとするインフラストラクチャーの整備状況は、安定供給・不安定供給・供給なしの3段階に分かれるが、最貧国では首都でも安定供給でない場合が多い。

道路も国内の最重要幹線が未舗装鉄道も皆無。あるいは幹線系でも正常な運行が困難というケースが多く、経済活動に悪影響を与える。

現在のLDC[編集]

2018年2月時点において、後発開発途上国に分類されている国は以下の47ヶ国である[8]

2016年末のUNCTAD(国際連合貿易開発会議)の報告書によると、LDCは2025年までに48か国から32か国まで減少する見通しである。特にアジアではカンボジアを除く全ての国がLDCから卒業する見込みであり、オセアニア地域の国も全域がLDCから除外される見込みである。一方で、アフリカでは依然として30か国がLDCに留まると見られている[9][10]。また、ハイチもLDCに留まると見られている。

アジア (9ヶ国)[編集]

アフリカ (33ヶ国)[編集]

オセアニア (4ヶ国)[編集]

北アメリカ (1ヶ国)[編集]

かつてのLDC[編集]

かつて後発開発途上国に分類されていたが、現在指定を解除された国は以下の通り[15][16]

LDCの多い地域と少ない地域[編集]

LDCの多い地域[編集]

後発開発途上国の過半数は、アフリカブラックアフリカ)にある。また、アフリカ以外で後発開発途上国が多い地域としては、東南アジアの北部・南アジアが挙げられる。

LDCの少ない地域[編集]

北アメリカの後発開発途上国はハイチのみであり、西アジアの後発開発途上国はイエメンのみである。また、ヨーロッパ東アジア中央アジア南アメリカには後発開発途上国が1ヶ国もない。

脚注[編集]

  1. ^ CHARTER OF ALGIERS(『アルジェ憲章』全文)”. The Group of 77 at the united nations. 2018年2月16日閲覧。
  2. ^ http://www.unitar.org/resource/sites/unitar.org.resource/files/document-pdf/GA-2767-XXVI.pdf
  3. ^ About UN-OHRLLS”. UN-OHRLLS. United Nations. 2013年5月11日閲覧。
  4. ^ キリバスツバルバヌアツの3か国はランキングに含まれていない。
  5. ^ 不安定の要因となる12の指標を各10点満点合計120点で採点し、90点以上を取った国が分類される。その為、分類される国の数は年によって変動する。
  6. ^ a b c 外務省: 後発開発途上国”. 外務省 (2012年12月). 2018年2月16日閲覧。
  7. ^ 国際連合のWebページ - The Criteria for the identification of the LDCs
  8. ^ unctad.org | UN list of Least Developed Countries 2016年4月6日閲覧。
  9. ^ http://unctad.org/en/Pages/PressRelease.aspx?OriginalVersionID=384 国際連合貿易開発会議(2016年12月13日)2017年1月4日閲覧。
  10. ^ カンボジア 2025年までは後発開発途上国のままか 国連報告書 CAMBODIA BUSINESS PARTNERS(2016年12月16日)2017年1月4日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 内陸開発途上国でもある。
  12. ^ UN-OHRLLS About LDCs. Retrieved 2015-12-12.
  13. ^ a b c d e f g h i 小島嶼開発途上国でもある。
  14. ^ Country profiles Archived 2010年3月17日, at the Wayback Machine., Least Developed Countries, UN-OHRLLS. Accessed on line April 16, 2008.
  15. ^ Delegates in Preparatory Meeting Express Concern about Shortage of Countries 'Graduating' from Least-Developed Status over Last Decade”. Mmdnewswire.com. 2014年2月22日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2014年7月28日閲覧。
  16. ^ Istanbul forum offers chance to recommit to helping world’s poorest nations”. Un.org (2011年1月10日). 2014年7月28日閲覧。
  17. ^ UN Handbook on the LDC Category (PDF)”. 2014年7月28日閲覧。
  18. ^ "About Sikkim" from the Government of Sikkim's website”. Sikkim.gov.in. 2009年5月25日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2014年7月28日閲覧。
  19. ^ 国連における後発開発途上国のカテゴリーと卒業問題(森田智) 外務省調査月報2011年No.4
  20. ^ Criteria for Identification and Graduation of LDCs”. UN-OHRLLS website. 2018年2月16日閲覧。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

外部リンク[編集]