干しいも

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  • 干しいも
  • 干し芋
  • 干し藷
  • ほしいも
干しいもの例
干しいもの一種「きんこ」(三重県志摩市の特産品)

干しいも(ほしいも)は、蒸したサツマイモを薄く切って天日干ししたもので、乾燥いもとも呼ぶ[1][2]静岡県が発祥とされ[3]日本での生産量は茨城県がもっとも多い[4]

概要[編集]

サツマイモを蒸して乾燥させた食品である。茨城県の郷土料理の一つであり、県内の全域で伝承されている[4]静岡県の郷土料理である切り干し芋を参考にして、茨城県那珂郡前渡村の照沼勘太郎によって1895年(明治28年)に開発された[5]

類似する食品は日本全国で作られてはいるが、総生産量の約9割が茨城県で生産されている[6]。これらの正式名は「甘藷蒸切干」[7]だが、ほかに「乾燥芋(かんそういも、かんそいも)」「きっぽし」「いもかち」などと呼ばれることもある。これらはもともと煮切干という製法で製造されていたが、後に蒸切干という製法が一般化した[6]

特徴[編集]

適度な水分を含むため、粘度のある噛み応えとサツマイモらしい甘味が特徴的である。そのまま生で食べてもよいが、火であぶる(焼き方で後述する)と柔らかくなり甘味も増し、また表面を軽く焦がすことにより香ばしさが生まれる。

栄養面でも優れている。コレステロールは含まれず、整腸作用のある食物繊維を多く含む。ビタミンB1ビタミンCカリウムにも富んでいる[8]アルカリ性食品に分類されることも、健康に良い根拠として挙がる場合がある[7]

大きさは原料のサツマイモによって様々。形状は3種類ほどある。店頭で販売されているありふれた形状は「平干し(ひらぼし)」であり、一片が長さ10 - 15cmで幅5cm程度の細長い薄板状のものであり、芋を薄切り(スライス)してから干したものである。「丸干し(まるぼし)」は長さ10cm、直径2 - 3cm程度で、紡錘形とも棒状とも言えるもので、芋を薄切りにしないで芋の形のまま干したものである。近年は食べやすさを考慮し「角棒状の細切り」の商品も出回っている。

なお表面が白い粉で覆われている場合があるが、これは芋の自己分解で生まれた糖分が表面に出て結晶化したもので、カビではない。安心して食べて良い。

後述するように複雑な製法ではないが、時間と手間がかかるため、価格は1袋500gで1000程度するものもある。また製造時の端切れを集めたものを「切甲(せっこう)」「しろた」と言い[9]、通常品の半値程度で販売されている。形が整っていないために二級品扱いで安価ではあるが、味は変わらない。家庭でも作ることができるが、美味しく仕上げるには蒸し方にある程度のコツが必要となる。

歴史[編集]

茨城県ひたちなか市阿字ケ浦町の航空写真(2012年10月16日)。照沼勘太郎が干し芋を開発した茨城県那珂郡前渡村前浜に該当する

干しいもの発祥は、静岡県御前崎市の切り干し芋といわれており、1824年に栗林庄蔵が煮切干での製造に成功した[6]1892年頃には静岡県の大庭林蔵と稲垣甚七が蒸切干の製法を実用化した[6]。切り干し芋は保存食として全国各地に広まった。日露戦争野戦食としても活用され、「軍人いも」と呼ばれた。

静岡県の切り干し芋が茨城県に伝わったのは、那珂郡前渡村の照沼勘太郎がきっかけである[5][注釈 1]。勘太郎の乗った船が静岡県沖で難破したところ、救助された勘太郎はそこで切り干し芋の存在を知った[4]。帰郷した勘太郎は、静岡県の切り干し芋を参考にし、1895年に干しいもを完成させた[5]

さらに1908年になると、静岡県から茨城県那珂湊(現在のひたちなか市)に製法が伝わり生産が本格化した[6]。導入経過は2説あり、一説には煎餅屋の湯浅藤七という人物が導入し、宮崎利七が静岡からの技術支援を受けて、那珂湊の水産干物加工設備を流用して企業化した[10]。異説としては、小池誠司(吉兵衛)・大内地山兄弟が、茨城県知事森正隆に献策して、静岡からの技術者2名の派遣を受けて製造を始めたとする。ただし、後者の小池らの事業はごく小規模に個人レベルで行っただけと見られる。その後、原料のサツマイモに適した土壌だったことや、冬の乾燥した気候が生産に適していたことから茨城県での生産量が増加[8]。1955年には茨城県が総生産量で首位となった[6]

茨城県の官民も地元の名産としてアピールしている。照沼勘太郎らが暮らしていたひたちなか市阿字ヶ浦町は干しいもの生産がさかんであるが[11]、その地に鎮座する堀出神社は、2019年に干しいも生産者やサツマイモ農家など地元経済界の協力を得て「ほしいも神社」を境内末社として創建した[12]。境内には顕彰碑が建立され、宮崎利七翁、湯浅藤七翁、小池吉兵衛翁、大和田熊太郎翁、白土松吉翁の5柱を「ほしいもの神様」と位置づけて[13]、その功績を称えている。

ひたちなか商工会議所は、干しいもを使ったパイ菓子開発や歴史を紹介する書籍『ほしいも学校』出版など「ほしいも魅力発信プロジェクト」で、日本商工会議所から2019年度「全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」に選ばれた[14]

製法[編集]

薄切りにした芋をビニールハウスで天日干ししている様子
原料になる玉豊種のサツマイモ

収穫後のサツマイモを水で洗って、皮をつけたまま1 - 2時間ほどかけて蒸し上げる。蒸し器から出した後、皮をむき、すだれに広げ冬場の寒風を利用して天日で1週間程度干す[8]

製品の形状には主流の平干しのほか、丸干し、角干し、焼き干しいもなどがある[6]。平干しはピアノ線などを使って1cm程度の厚さに切ってから干される。切らずにそのまま干した「丸干しいも」の場合、20日間ほどのより長期の乾燥が必要になる。良く乾燥させた方が保存性は高くなるが、食感は固くなる。

サツマイモの甘味を増やすため、サツマイモを収穫後に寒気にあて糖化させるなどの工夫もしている。

近年は、衛生確保のためビニールハウスを張って乾燥させていることが多い。また近年は雨量が増えて天日乾燥が難しくなったため、機械乾燥で生産されるものもある。蒸すのではなく、茹でたものを干す場合もあるが、この場合デンプン糊化しないので蒸したものより固くなる。

原料となるサツマイモの品種は玉豊種(タマユタカ、農林22号)が主で、いずみ種(泉13号)も使用される。2005年頃からは、新品種の玉乙女種も使用されている。ベニマサリや紅はるかを使ったものもある。主力の玉豊種は今では干しいもの専用品種に近いサツマイモで、1961年から使用されるようになった。他の品種と比べて大型で、外皮、肉色とも白く、食感はホクホクではなくネットリしている。生では白いのに、干すと飴色に変わる[15]

サツマイモの収穫後に製造されるため、必然的に干しいもの製造は冬季から初春に行われるが、冷凍保存されたものが一年を通じて流通している。

産地[編集]

県別の生産高では茨城県(ひたちなか市東海村)が全国第1位となっているほか、冬のからっ風が強い群馬県明治時代に産業化が始められた静岡県長崎県などで生産が多い[16]。最近では茨城県の業者による技術指導の下、中国産も出回っているが、国産に比べ甘味や食感に差異がある。

食用方法[編集]

保存 [編集]

室温保存も可能であるが、保存料等は使われておらず、さらに最近のものは食感を良くするため乾燥しすぎないようにしているのでカビが発生しやすい。このため冷蔵庫での保存が好ましい。冷凍にすれば長期保存が可能である。なお、適切な保存がされずにカビが生えてしまい、クレームを招くことの多い商品の一つであるが、前述の結晶化した糖分がカビと見間違えられただけのケースもある[17]

店頭販売用の干しいもは、密封性の高いフィルムで作られた包装袋に脱酸素剤と同封することで、日持ちを向上させている。

焼き方 [編集]

干し芋の焼き方についてはオーブン電子レンジストーブの直熱などで温める方法がある。

伝承区域[編集]

参考資料[編集]

  • 先﨑千尋 『ほしいも百年百話』茨城新聞社〈いばらきBOOKS〉、2010年。ISBN 978-4872732504 
  • 有限責任事業組合ほしいも学校 編 『ほしいも学校』、株式会社佐藤卓デザイン事務所、2010年10月23日。 

脚注[編集]

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註釈[編集]

  1. ^ 1954年、茨城県那珂郡前渡村の一部は那珂湊町に編入され、前渡村の残部は勝田町に編入された。

出典[編集]

  1. ^ 小学館「デジタル大辞泉」. “干し藷”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年5月15日閲覧。
  2. ^ 小学館「精選版 日本国語大辞典」. “干藷・乾藷”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年5月15日閲覧。
  3. ^ 切り干しいも 静岡県 | うちの郷土料理:農林水産省”. 農林水産省. 2022年5月15日閲覧。
  4. ^ a b c d 干しいも 茨城県 | うちの郷土料理:農林水産省”. 農林水産省. 2022年5月15日閲覧。
  5. ^ a b c 先﨑千尋「『ほしいも文庫』と『白土松吉文庫』の誕生」『いも類振興情報』117号、いも類振興会、2013年10月、35頁。
  6. ^ a b c d e f g かんしょの需要変化と品種の動向”. 独立行政法人農畜産業振興機構. 2020年5月2日閲覧。
  7. ^ a b ほしいも”. 発見!! いばらき. 茨城県 (2015年4月1日). 2016年3月5日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2015年11月5日閲覧。
  8. ^ a b c ひたちなか市 農政課 農業振興係. “たべたいもん♪ ほしいもーん☀ その1”. ひたちなか市. 2010年3月6日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2010年4月30日閲覧。
  9. ^ 干しいもパイ「ほっしぃ〜も」商品化-規格外の切れ端を活用”. 水戸経済新聞 (2010年4月22日). 2019年12月24日閲覧。
  10. ^ かんしょ”. 発見!! いばらき. 茨城県 (2015年4月2日). 2017年2月15日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2015年11月5日閲覧。
  11. ^ 干し芋神社について | 株式会社照沼|干し芋・さつまいも(茨城県産・有機栽培の紅はるか)の生産・販売”. 照沼 (2020年11月30日). 2022年5月17日閲覧。
  12. ^ 茨城・ひたちなかに「ほしいも神社」鳥居は黄金色”. 日本経済新聞 (2019年11月25日). 2019年12月24日閲覧。
  13. ^ ほしいも神社のご由緒 HISTORY|ほしいも神社”. ほしいも神社 - 堀出神社. 2022年5月17日閲覧。
  14. ^ 日商の観光大賞に茨城・ひたちなか商議所 干し芋活用を評価”. 日本経済新聞ニュースサイト (2019年12月2日). 2020年1月14日閲覧。
  15. ^ ほしいも”. JAひたちなか. 2009年2月10日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2010年4月30日閲覧。
  16. ^ 干し芋展”. さつまいも館長日記. 日本いも類研究会 (1993年1月14日). 2007年5月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年5月4日閲覧。
  17. ^ 芋Q&A”. 幸田商店. 2010年4月4日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2010年4月30日閲覧。

関連人物[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]