差額室料

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差額室料(さがくしつりょう)とは、日本の公的医療保険において、特別の料金として患者が負担する費用のことをいう。差額室料を要する病室を特別療養環境室(通称「特別室」)といい、一般的には差額ベット代[1]の呼称も用いられる。

法令上に位置づけられたのは1984年(昭和59年)の改正法施行時であるが、実際にはそれ以前から各医療機関において運用されてきた[2]。1984年に特定療養費の一として導入され、2006年の改正法施行により保険外併用療養費(選定療養の一)に置き換えられた。なお1994年(平成6年)の診療報酬改訂により、従来の「特別の病室の提供」と「療養型病床群に係る特別の療養環境の提供」を「特別の療養環境の提供」として一本化している。また2020年(令和2年)の改正により外来診療にも差額室料の徴収が認められることとなった。

東京大学医学部附属病院では、国立大学の法人化に伴い増収の必要に迫られ、2001年(平成13年)に完成した入院棟について高額な差額ベッドは値下げし、医療現場でも差額ベッドを積極的に勧めてきた結果、差額ベッドの稼働率を大幅に増加させた[3]診療報酬は、診療行為ごとに一律に設定されているため、病院にとって、差額ベッドは数少ない利益増収策の一つである。

概説[編集]

療養環境の向上に対するニーズが高まりつつあることに対応して、患者の選択の機会を広げるために、より一層良好な療養環境を提供する以下の要件を満たす病床について保険医療機関(2006年までの特定承認保険医療機関を含む。以下同じ)の病床数の5割まで患者に妥当な範囲の負担を求めることを認めることとしたものである[4]。ただし、特定機能病院以外の保険医療機関であって、国又は地方公共団体が開設するものにあっては、その公的性格等にかんがみ、国が開設するものにあっては病床数の2割以下、地方公共団体が開設するものにあっては病床数の3割以下とする。療養環境については、患者が特別の負担をする上でふさわしい療養環境である必要があり、次の要件を充足するものでなければならない(平成6年3月16日保険発第26号、令和2年3月5日保医発0305第5号)[5][6]

  • 特別の療養環境に係る一の病室の病床数は4床以下であること。
  • 病室の面積は一人当たり6.4平方メートル以上であること。
  • 病床ごとのプライバシーの確保を図るための設備を備えていること。
  • 特別の療養環境として適切な設備を有すること[7]

差額室料について、厚生省(現「厚生労働省」)の通知「特定療養費に係る療養の基準の一部改正に伴う実施上の留意事項について(平成9年3月14日 保険発第30号)」では、下記のように定められている。

  • 患者への十分な情報提供を行い、患者の自由な選択と同意に基づいて行われる必要があり、患者の意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなければならないこと。したがって、特別療養環境室へ入院させ、患者に特別の料金を求めることができるのは、患者側の希望がある場合に限られるものであり、救急患者、術後患者等、治療上の必要から特別療養環境室へ入院させたような場合には、患者負担を求めてはならず、患者の病状の経過を観察しつつ、一般病床が空床となるのを待って、当該病床に移す等適切な措置を講ずるものであること。
  • 特別療養環境室への入院を希望する患者に対しては、特別療養環境室の設備構造、料金等について明確かつ懇切に説明し、患者側の同意を確認のうえ入院させること。この同意の確認は、料金等を明示した文書に患者側の署名を受けることにより行うものであること。

さらに保医発第0328001号(平成20年3月28日)では、患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合として、具体的に以下3つの例を挙げている[8]

1) 同意書による同意の確認を行っていない場合
2) 患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合
  • (例)救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とする者、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者
  • 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
  • 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
  • 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者(患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く。)
  • クロイツフェルト・ヤコブ病の患者(患者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室への入室を特に希望した場合を除く。)
3) 病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合
  • (例)MRSA等に感染している患者であって、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、実質的に患者の選択によらず入院させたと認められる者

— 保医発第0328001号 平成20年3月28日

外来医療に係る特別の療養環境の提供については、特別の療養環境の適切な提供を確保するため、診療に要する時間が長時間にわたる場合に限り特別の療養環境を提供することができるものであること。具体的には、一連の診療に要する時間が概ね1時間を超える場合をいうものであること。また療養環境については、患者が特別の負担をする上でふさわしい療養環境である必要があり、次の要件を充足するものでなければならないこと(令和2年3月5日保医発0305第5号)。

  • 特別療養環境室は完全な個室環境を生じさせることができるものに限られ、間仕切り等により個人の区画を確保するようなものは認められないこと。
  • 患者が静穏な環境下で受診できる構造設備等が確保されていること。

特別の療養環境の提供を受ける患者は他の患者に比べ予約の順位が優先されるなど、療養環境の提供以外の便宜を図ることは認められないこと(令和2年3月5日保医発0305第5号)。

2020年(令和2年)7月1日現在、特別の療養環境の選定療養費を徴収していると地方厚生(支)局長に報告された病床数が267,034で、当該医療機関における総病床数の19.9%にあたり、そのうち過半の182,246床が1人室(個室)となっている。1日当たりの徴収額の平均は6527円で、個室に限れば8221円、最高額は385,000円、最低額は50円であった[9]

差額ベッド代の高額な病院[編集]

差額ベッド代(1日、最高料金)の高額な上位10病院。全日本民主医療機関連合会[10]発表(2004年)[11]

問題点[編集]

特別療養環境室へ患者の希望でなく治療上の必要性により入院させたり、十分な説明なく入院させたにもかかわらず、差額室料を患者に請求している医療機関が多く、トラブルが頻発している[12]。また、入院希望先に差額ベッドしか空きがなければ、他の病院を探すことを余儀なくされることもあり[13]、患者の医療を受ける機会の平等を担保する方策について論議すべきとの主張がある[3]

一方で、全日本民主医療機関連合会(民医連)加盟病院、日本医療福祉生活協同組合連合会(医療福祉生協連)加盟病院、徳洲会病院など、差額ベッドを徴収しない病院も存在する[14][15]

脚注[編集]

  1. ^ 入院にかかる費用「差額ベッド代」って何ですか?住友生命
  2. ^ 昭和49年3月29日保発第21号、昭和53年1月28日保発第9号及び昭和56年5月29日保発第43号において診療報酬の算定上の留意事項として特別室の扱いが示されていて、昭和59年の改正法施行時においてもこれらの取扱いによることとされた。
  3. ^ a b 柳原一哉 (2006年11月8日). “分かる!差額ベッド(下)個室志向…増収の柱”. Sankei WEB. http://www.sankei.co.jp/yuyulife/iryo/200611/iry061108001.htm 2020年2月14日閲覧。 
  4. ^ 厚生労働大臣が次に掲げる要件を満たすものとして承認した保険医療機関にあっては、当該承認に係る病床割合まで患者に妥当な範囲の負担を求めることが認められる(令和2年3月5日保医発0305第5号)。
    • 当該保険医療機関の所在地を含む区域(医療法第30条の4第2項第10号に規定する区域をいう。)における療養病床(同法第7条第2項第4号に規定する療養病床をいう)及び一般病床(同法第7条第2項第5号に規定する一般病床をいう。以下同じ。)の数が、同法第30条の4第1項に規定する医療計画において定める当該区域の療養病床及び一般病床に係る基準病床数に既に達しており、かつ、特別の療養環境に係る病床数の当該保険医療機関の病床数に対する割合を増加しても患者が療養の給付を受けることに支障を来すおそれがないこと。この場合においては、当該保険医療機関におけるこれまでの特別の病室の稼働の状況、特別の病室の申し込みの状況等を勘案し、当該保険医療機関の特別の病室を増加しても、患者が療養の給付を受けることに支障を来すおそれがないかどうか判断するものとすること。
    • 経験を有する常勤の相談員により、特別の療養環境の提供に係る病室への入退室及び特別の料金等に関する相談体制が常時とられていること。
    • 必要に応じ、患者を適切かつ迅速に他の保険医療機関に紹介することができる等の他の保険医療機関との連携体制が整えられていること。
    • 当該保険医療機関における特別の療養環境の提供に係る病室の全てについて、一の病室の病床数が2床以下であり、かつ、病室の面積及び設備については要件を充足するものであること。
    • 算定告示別表第一医科診療報酬点数表(「医科点数表」)第1章第2部第1節又は別表第二歯科診療報酬点数表(「歯科点数表」)第1章第2部第1節に規定する急性期一般入院基本料、7対1入院基本料及び10対1入院基本料、療養病棟入院基本料(特別入院基本料等を除く。)並びに有床診療所入院基本料1及び有床診療所入院基本料4を算定する保険医療機関であること。
    • 医療法施行規則第19条第1項第1号及び第2号に定める医師及び歯科医師の員数を満たしていること。
    • 厚生労働大臣から当該承認を受ける前6月間において掲示事項等告示第3の基準に違反したことがなく、かつ現に違反していないこと。
  5. ^ 患者が事実上特別の負担なしでは入院できないような運営を行う保険医療機関については、患者の受診の機会が妨げられる恐れがあり、保険医療機関の性格から当を得ないものと認められるので、保険医療機関の指定又は更新による再指定に当たっては、十分改善がなされた上で、これを行う等の措置も考慮すること。保険医療機関は、特別の療養環境の提供に係る病床数、特別の料金等を定期的に地方厚生(支)局長に報告するとともに、当該事項を定め又は変更しようとする場合には、別紙様式1により地方厚生(支)局長にその都度報告するものとすること(令和2年3月5日保医発0305第5号)。
  6. ^ 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している者(HIV感染者)が個室に入院した場合には、HIV感染者本人の希望の有無にかかわらず、治療上の必要から入室したものとみなして、基本的に重症者等療養環境特別加算の対象とすることとし、特別の料金の徴収を行ってはならないこと。ただし、HIV感染者が通常の個室よりも特別の設備の整った個室(専用の浴室、台所、電話等が備えられており、「特室」等と称されているものをいう)への入室を特に希望した場合には、当該HIV感染者から特別の料金の徴収を行うことは差し支えないこと。この際、患者の同意を確認する文書については、従来どおり必要なものとするが、その場合には、患者の希望する内容を十分に確認することとし、その希望する個室の内容を具体的に文書に患者に記載させた上で、患者の署名を受けることとすること。なお、この場合にあっても、医療機関の側から当該個室しか空いていないなどとしてHIV感染者に対し当該個室への入室を勧めることのないようにすること(平成8年4月24日保険発第64号)。
  7. ^ 「適切な設備」として、平成6年3月16日保険発第26号では「個人用の私物の収納設備」「個人用の照明」「小机等及び椅子」を挙げていた。
  8. ^ 厚生労働省 保険局医療課長 保医発第0328001号
  9. ^ 主な選定療養に係る報告状況2021年9月15日の第488回中央社会保険医療協議会総会に示された資料
  10. ^ 同連合会加盟病院は、差額ベッド代を徴収していない。
  11. ^ いつでも元気 2004年9月号 Archived 2007年11月6日, at the Wayback Machine.
  12. ^ 柳原一哉 (2006年11月6日). “分かる!差額ベッド(上) トラブル頻発、返還例も”. Sankei WEB. http://www.sankei.co.jp/yuyulife/iryo/200611/iry061106001.htm 2020年2月14日閲覧。 
  13. ^ 柳原一哉 (2006年11月7日). “分かる!差額ベッド(中)ルール徹底が必要”. Sankei WEB. http://www.sankei.co.jp/yuyulife/iryo/200611/iry061107003.htm 2020年2月14日閲覧。 
  14. ^ 差額ベッドのない病院/いま注目、「こんな病院があったのね!」/差額とるより患者とともに医療改善の運動を全日本民主医療機関連合会、いつでも元気2004年9月付、2008年5月31日閲覧。
  15. ^ 「差額料なし」やれます」『朝日新聞』朝刊、2001年1月31日、19頁。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

特別療養環境室に関する基準、差額室料(「特別の料金」)の扱い等について定められている。