小膠細胞

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小膠細胞

小膠細胞(しょうこうさいぼう、英語: Microglia、日本語: ミクログリア)は、脳脊髄中に存在するグリア細胞の一種。中枢神経系における細胞の約5〜20%を占めている[1]Hortega細胞とも呼ばれる。他のグリア細胞は外胚葉由来であるのに対してミクログリアは中胚葉由来である。

マクロファージ様の食作用(神経食現象)を有し、神経組織が炎症変性などの障害を受けると、ミクログリアは活性化し、病変の修復に関与する。Fc受容体補体受容体MHCの発現、インターロイキン-1の分泌を行い、中枢神経系免疫担当細胞としての役割を有する可能性が示唆されている。

ミクログリアが正常な機能を失うことで精神疾患を発症するとする報告がある[2]

検査[編集]

PET検査
PET検査により神経炎症が確認された慢性疲労症候群(CFS)患者の頭部CT検査MRI検査は、明らかな異常所見がなかったとの報告がある。保険診療で認められている検査では神経炎症を判別することは困難とされ、ミクログリアの活性化を評価できるPET検査が必要であることが示された[3]

ミクログリアの活性化[編集]

インターフェロン誘発のうつ病の原因
インターフェロン(IFN-α)の副作用の一つであるうつ病の原因は、IFN-αが脳内のミクログリアを活性化し、海馬ニューロン新生を阻害するためだという報告がある[4][5]
HANSの病態
HPVワクチン(ガーダシル)を注射したマウスの免疫組織化学分析では、海馬のCA1領域においてミクログリアの活性化が明らかとなった。アジュバントアルミニウムによるものと示唆された[6]
HPVワクチンの副反応とされるHANS(子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群)の病態は、アジュバントが原因のミクログリアの活性化と示唆された[7]

神経食現象[編集]

神経細胞を除去
神経食現象 (英語版とは、壊死した神経細胞を除去する目的で細胞周囲および細胞内にグリア細胞が集合する現象。ウイルス感染中毒などで認められる[8][9]
アルツハイマー病の予防
イソ-α酸はミクログリアを活性化させ、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβの蓄積を抑え、脳内の炎症を抑制する[10][11]

神経炎症[編集]

神経変性を引起
ミクログリアの活性化は炎症性サイトカインを放出し細胞傷害を惹起する。それは脳内の炎症であり、神経変性中枢神経系炎症応答を引き起こす[12]
神経因性疼痛の病態
神経因性疼痛の病態としてミクログリアの活性化が引き起こされる。
慢性疲労症候群
重症の慢性疲労症候群(CFS)では、脳内ミクログリアの活性化による神経炎症が起こっていた[3]

シナプス新生の促進[編集]

脳の神経回路形成
ミクログリアが神経細胞に接触することによってシナプスの新生を促し、大脳皮質の脳回路を形成している[13][14]

ミクログリアの抑制[編集]

慢性疲労症候群の改善
ミクログリアの活性化を抑える薬剤は慢性疲労症候群の特効薬として開発が始まっている[3]
インターフェロン(IFN-α)誘発のうつ病を改善
上記のうつ病に対しては、ミクログリアの活性化を抑制する薬剤を投与することで改善できるという[4]。動物実験(マウス)では、IFN-α誘発性の抑うつ行動がミノサイクリン処置で抑制された。ミノサイクリンは、IFN-α誘発性のうつ病患者の治療に有望な薬剤と示唆された[5]

神経保護[編集]

一般的に神経保護とは、グリア細胞の活性化を抑制することを指しており、髄鞘(ミエリン鞘)の形成を指してはいない。

ミノサイクリンの臨床試験
ミクログリアの活性化を抑制する薬剤として知られているミノサイクリンの鎮痛効果を検証する第III相の臨床試験が東京大学医学部附属病院2012年から行われている[15]

神経毒性[編集]

アポトーシスを誘導
ミノサイクリン(40mg/kg)投与後、幼若マウスの脳細胞アポトーシスと神経変性が誘導された[16]
ミノサイクリン(45mg/kg)数日投与は、新生児マウスの脳で広範なニューロン死を引き起こし、ミクログリア標識 (IBA1を増加させた。ミクログリア抑制剤として最も一般的なミノサイクリンは、予想に反してミクログリアを増加させた[17]
塩化アルミニウム
塩化アルミニウム神経毒として確立されている。ミクログリアの活性化を抑制する作用、血液脳関門(BBB)における膜機能の変化などが示唆されている[18][19][20][21]

神経発達への影響[編集]

スパイン密度の減少
ミノサイクリンを腹腔内投与したマウスは、ミクログリアを選択的に除去したマウスと同様に、スパイン密度の有意な減少がみられた。幼若期にミクログリアが活性化していたことから、発達期のスパイン形成にミクログリアの活性化が重要と考えられた。ミクログリアが正常な機能を失うことで精神疾患を発症する報告もある[2]
遺伝子除去によるミクログリアの抑制は、その後のスパイン密度(興奮性シナプス)を減少させた。また、発達期におけるミクログリアの活性化をミノサイクリンで抑制させたところ、シナプス形成が減少したことから、ミクログリアの数だけでなく状態もシナプス形成に重要であることが明らかとなった[13][14]

薬剤の影響[編集]

活性化させる薬剤[編集]

ミクログリアの活性化や増殖を促進させる可能性がある薬剤[22]

主な作用 代表的な薬剤
ドーパミン受容体作動薬 プラミペキソール
精神刺激薬 メチルフェニデート
サイトカイン類 インターフェロン[4][5]
ワクチン HPVワクチンガーダシル[6][7]
抗生物質 ミノサイクリン(低用量)[23]
α酸 イソ-α酸[10][11]

抑制させる薬剤[編集]

潜在的にミクログリアの活性化や増殖を抑制、または炎症性ミクログリアを減少させる薬剤[22]

薬剤分類 代表例
抗生物質 ミノサイクリン(高用量)[14]
アルミニウム化合物 塩化アルミニウム[21]
経口血糖降下薬(糖尿病治療薬) ピオグリタゾン[24][25][26]
麻酔薬 ケタミン[27][28][注 1]プロポフォール[29][30][31]
神経弛緩薬 クロルプロマジンチオリダジン
ロキサピン
非定型抗精神病薬 アリピプラゾールクロザピン[32]
オランザピンクエチアピン
リスペリドンジプラシドン
気分安定薬 カルバマゼピンバルプロ酸リチウム
三環系 アミトリプチリンクロミプラミン
イミプラミンノルトリプチリン
SSRI シタロプラムエスシタロプラム
フルオキセチンフルボキサミン
パロキセチンセルトラリン
抗うつ薬 ベンラファキシンブプロピオン
ベンゾジアゼピン系抗不安薬 クロナゼパムジアゼパム
認知増強剤 ドネペジルガランタミンメマンチン
他の薬物 デキストロメトルファンキニジン
アマンタジン

関連項目[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 神経因性疼痛に対するケタミンの鎮痛作用はNMDA受容体拮抗作用では説明がつかない。

出典[編集]

  1. ^ Yasui M, Yoshimura T, Takeuchi S, Tokizane K, Tsuda M, Inoue K, Kiyama H. (2014-9). “A chronic fatigue syndrome model demonstrates mechanical allodynia and muscular hyperalgesia via spinal microglial activation.”. Glia. 62 (9): 1407-17. doi:10.1002/glia.22687. PMID 24852223. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/glia.22687/abstract 2016年9月11日閲覧。. 
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  3. ^ a b c 慢性疲労症候群の病態機序とその治療” (2016年). 2016年9月16日閲覧。
  4. ^ a b c インターフェロンによるうつ病のメカニズムと対策澤本和延研究室、名古屋市立大学(2015年1月15日)、2016年9月22日閲覧
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  6. ^ a b “Behavioral abnormalities in female mice following administration of aluminum adjuvants and the human papillomavirus (HPV) vaccine Gardasil.”. Immunobiology. (Springer US.): 1-14. (2016-07-16). doi:10.1007/s12026-016-8826-6. ISSN 0257-277X. PMID 27421722. https://link.springer.com/article/10.1007/s12026-016-8826-6. 
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  9. ^ 板倉智敏、後藤直彰編 『獣医病理組織カラーアトラス 改版増補』 文永堂出版 1998年 ISBN 4830030852
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参考文献[編集]

  • 日本獣医解剖学会編集 『獣医組織学 改訂第二版』 学窓社 2003年 ISBN 4873621135

外部リンク[編集]