富士登山

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地理院地図 Googleマップ 富士山の位置

本記事では富士山への登山に関して解説する。

概要[編集]

歴史
江戸時代の富士登山。浮世絵「冨嶽三十六景 諸人登山」。北斎画。
富士登山は古来より、霊峰信仰として行われた。平安時代の貴族で学者の都良香が記した『富士山記』には富士山頂上の実情に近い風景描写がある。これは、良香本人が登頂、または実際に登頂した者に取材しなければ知り得ない記述であり、富士登山の歴史的記録として重要である。江戸時代には関東地方を中心に富士講が流行し、信仰目的の登山が増加した。観光目的の登山は明治期以降に盛んになった[1]
初の女性登頂者は高山たつ(1832年10月下旬)[2]、初の外国人登頂者は英国公使ラザフォード・オールコック(1860年7月)、初の外国人女性登頂者は英国公使ハリー・パークス夫人(1867年10月)である[3]
登山ルート
五合目以上の富士山(北西斜面、標高約2300mから)
富士山最高峰剣ヶ峰
現在使用されている登山道には静岡県側の「富士宮ルート」・「須走ルート」・「御殿場ルート」、山梨県側の「吉田ルート」の4ルートがある。登山者の約六割は吉田ルートを使用する[4] 。いずれのルートも登山の知識と経験、装備が欠かせない[5]
登山期間
富士登山の期間は、山開きの7月1日〜9月14日(山梨県側)もしくは7月10日〜9月10日(静岡県側)までである[5]。残雪の多い年は7月中旬まで登山道に雪が残り、ルートの開通が山開きに間にあわないことがしばしばある。この期間外は、万全な準備をしない者の登山が原則禁止されている[6]とくに積雪期・残雪期の無謀ともいえる登山は自殺に近い行為である[6]

気候[編集]

気温
富士山頂はケッペンの気候区分ツンドラ気候に分類されるほど寒冷である。最暖月の8月の平均気温は6℃で、最寒月の1月の平均気温はマイナス18℃である[7]。1981年2月27日には最低気温マイナス38.0℃を記録した[8]
富士山頂の平均風速は夏期で8m/s、冬期で20m/sである[9]。1966年9月25日には最大瞬間風速91m/sを、1942年4月5日には最大風速(10分間の平均風速)72.5m/sを記録した[8]。いずれも国内一位の記録である[8]
気圧
富士山頂の平均気圧は638ヘクトパスカル、0.63気圧である。富士山頂では水は88℃で沸騰し[10]、人間は高山病を発症する。

登山ルート[編集]

登山ルートは山梨県側に吉田ルート、静岡県側に富士宮ルート・須走ルート・御殿場ルートがある。各ルートの登山口(自動車道の終点)は「五合目」又は「新五合目」と呼ばれているが、その標高はルートによって大きく異なる。例えば富士宮ルートの五合目は標高2380mだが、御殿場ルートの新五合目は標高1440mである。

登山ルート
ルート名 登り
(km)
下り
(km)
五合目(新五合目)
の標高[11]
山小屋・売店の数[11] 標準所要時間[11] 車でのアクセス
  富士宮ルート 静岡県 5.0 5.0 2,380m 9(五合目1・頂上1含む)[12][13] 登り5時間10分・下り3時間30分 県道152号県道180号
  吉田ルート 山梨県 7.5 7.6 2,305m 23(五合目5・頂上4含む)[14] 登り5時間55分・下り3時間10分 富士スバルライン
  須走ルート 静岡県 7.8 6.2 1,970m 14(五合目2・頂上4含む)[15][16] 登り6時間55分・下り3時間 県道150号
  御殿場ルート 静岡県 11.0 8.5 1,440m 5(新五合目2含む)[17][18] 登り8時間20分・下り3時間30分
県道152号
プリンスルート[19] 静岡県 6.4 2,380m 6(五合目1含む)[20][21]

富士宮口五合目 〜 宝永第一火口 〜 山頂
登り6時間・下り2時間55分

県道152号・県道180号
吉田口登山道 山梨県 2,220m
(馬返しは1430m)
3(馬返し〜六合目)[22]

馬返し 〜 吉田口六合目
登り3時間40分・下り2時間10分

精進口登山道 山梨県 2,305m 0

精進湖民宿村 〜 河口湖口五合目
登り7時間25分・下り5時間45分

御殿場口登山道 静岡県 1,440m 1[23]

中央青少年交流の家 〜 御殿場口新五合目
登り3時間5分・下り2時間20分

須山口登山歩道 静岡県 1[24]

水ヶ塚公園 → 御殿場口六合目
登り5時間30分

須山口下山歩道 静岡県 1[25]

御殿場口旧二合八勺 → 水ヶ塚公園
下り2時間20分

お鉢巡り 山梨県
静岡県
5[26]

山頂一周
時計回り1時間35分・反時計回り1時間35分

御中道 山梨県 2,305m 0

奥庭バス停 〜 大沢崩れ
登り1時間50分・下り1時間45分

宝永山遊歩道 静岡県 2,380m 1(五合目1含む)[27]

富士宮口五合目 〜 宝永第一火口 〜 宝永山
登り1時間55分・下り1時間20分

吉田口八合目よりご来光を望む

上記の所要時間は目安に過ぎない。また、混雑時(ご来光前後やお盆時期など)は渋滞でさらに時間がかかる。各登山ルートを登りきった場所(お鉢巡りルートとの合流点)を「頂上」または「山頂」と呼んでいるが、これらは標高3,776mの富士山最高地点の剣ヶ峰とは異なる場所である。各登山口の頂上又は山頂に到達しても、剣ヶ峰には行かない登山者も多い。

吉田ルート[編集]

富士スバルライン五合目ではレジャー化が進み、馬を使った観光業も見られる

山梨県鳴沢村富士吉田市の富士スバルライン五合目を出発し、富士山北側から山頂を目指すルート[28] 。登山口の標高は2305m。六合目で吉田口登山道と、本八合目で須走ルートと合流する。頂上には久須志神社がある。全登山者の六割以上がこのルートを利用する。吉田口登山道として世界文化遺産に登録されている。

利点
富士スバルライン五合目の標高が富士宮口五合目に次いで高い[28]。山小屋や救護所が多く、トラブルに見舞われても安心[28]。登山道の開通が比較的早い。9月上旬まで営業している山小屋がある。五合目から七合目まで馬に乗って体力をセーブできる。観光を主眼にした登山道で、初心者でも挑戦しやすい(最低限の知識と経験、装備は必要)。関東からのアクセスが良く、バスの本数も非常に多い。
難点
登山者が非常に多く、混雑する。駐車場や山小屋も混んでいる。早朝は八合目以上が渋滞しやすく、頂上で御来光を拝めないことがある。七合目付近から急な岩場になる。下山路に山小屋が一軒しかなく、ルートも登山路に比べて遠回りとなる[28]。山頂の久須志神社から剣ヶ峰まで約50分かかる。下山時に八合目の下江戸屋分岐で誤って須走口に降りてしまうことがある。人工物が多く、自然を満喫できない。マイカー規制の無い時期の週末は、富士山有料道路が渋滞することがある。七合目までの登山道には馬糞が落ちている。
主なアクセス
富士急行河口湖駅富士山駅
河口湖駅下車、登山バス(45分〜55分, 富士急山梨バス
富士山駅下車、登山バス(55分〜65分, 富士急山梨バス
河口湖駅富士山駅までのアクセス
首都圏各地、羽田空港、名古屋、京都、大阪、清水、静岡、三島などから高速バス
JR大月駅高尾駅東京駅より富士急行線(大月より手前は中央本線との直通運転)
JR新宿駅小山駅よりホリデー快速富士山
JR新宿駅より山梨富士号
高速バス(五合目直通)
新宿駅から2時間40分(京王バス富士急山梨バスフジエクスプレス
横浜駅から3時間10分(相鉄バスフジエクスプレス
センター北駅から3時間16分(東急トランセ富士急湘南バス
羽田空港から3時間32分(京浜急行バス富士急山梨バス

富士宮ルート[編集]

富士山頂郵便局
このポストに投函された郵便物には風景印が押される
登山バス(富士山本宮浅間大社横にて)

静岡県富士宮市の富士宮口五合目を出発し、富士山南側から山頂を目指すルート[29]。登山口の標高は2380m。頂上には浅間大社奥宮がある。静岡県側では最も利用者が多い。大宮・村山口登山道として世界文化遺産に登録されている。富士山古来の登山道である。

利点
登山口の標高が高いので、他のルートよりも早く山頂に着く[29]。山小屋が多く、八合目には診療所(富士山衛生センター)もあり、トラブルに見舞われても安心。宝永山に立ち寄れる。浅間大社奥宮から剣ヶ峰まで20分で行ける。名古屋関西からのアクセスが良い(最近は関東からも行きやすくなった)。
難点
登りと下りが同じ道で、登山者も多く、混雑しやすい[29]。駐車場や山小屋も混んでいる。平均勾配が約29%と傾斜が厳しく、岩場が多い[29]。樹林帯がなく、陽射しが強い。人工物が多く、自然を満喫できない。マイカー規制されやすい。バスの本数が吉田ルートに比べて少ない。残雪が多く、7月中旬まで登山道が開通しない年がある。発病や転倒事故が多い。
主なアクセス
JR御殿場線
御殿場駅下車、登山バスで水ヶ塚公園下車(御殿場口新五合目経由で55分)、シャトルバスで富士宮口五合目(登り40分。30分間隔で運行[30]
JR身延線
富士宮駅下車、高速バス(1時間10分, 富士急行)
富士宮駅下車、登山バス(1時間20分〜1時間40分, 富士急静岡バス。新富士、富士発のバスも経由するため本数が多い。)
JR東海道本線
富士駅下車、登山バス(2時間〜2時間10分, 富士急静岡バス
JR東海道新幹線
新富士駅下車、登山バス(1時間55分〜2時間15分, 富士急静岡バス
三島駅下車、登山バス(2時間5分, 富士急静岡バス)
静岡駅下車、高速バス(2時間10分, 富士急行)

須走ルート[編集]

樹林に覆われた5合目付近の登山道
6合目の手前より山頂を仰ぐ

静岡県小山町の須走口五合目を出発し、富士山東側から山頂を目指すルート[31]。登山口の標高は1970m。本八合目で吉田ルートと合流する。頂上には久須志神社がある。須走口登山道として世界文化遺産に登録されている。古来からの登山道である。

利点
登山者が比較的少なく、本八合目まであまり混雑しない[31]。山小屋もそこそこある。景色に変化があり退屈しない。下山道に砂走りがある[31]。本六合目まで樹林帯で、陽射しが遮られる[31]。樹林帯を抜けると、朝は御来光を、夕方は影富士を見られる[31]。小富士(標高1979m)に立ち寄れる。
難点
本八合目より上は早朝に渋滞しやすい。駐車場は小さく、混んでいる。マイカー規制が行われることもある。登山口の標高が吉田口や富士宮口に比べ数百メートル低い。山頂の久須志神社から剣ヶ峰まで約50分かかる。転倒事故が多い。樹林帯で夜間や濃霧時に迷いやすい[31]
主なアクセス
JR御殿場線
御殿場駅下車、登山バス(1時間, 富士急行バス
小田急小田原線
新松田駅下車、登山バス(1時間30分, 富士急湘南バス
御殿場駅までのアクセス
小田急新宿駅からJR御殿場駅までは、直通の特急あさぎりや、小田急箱根高速バスの御殿場行きを使うと便利。
小田急新松田駅から徒歩3分のJR松田駅御殿場線に乗り換える方法もある。

御殿場ルート[編集]

静岡県御殿場市の御殿場口新五合目を出発し、富士山南東側から山頂を目指すルート。登山口の標高は1440m。頂上には銀明水(湧き水)がある。標高差・距離・歩行時間の長いルートで、健脚向けとされる[32]。旧二合八勺(標高2050m)以上は須山口登山道として世界文化遺産に登録されている。富士登山駅伝のコースである。

利点
登山者が非常に少なく、静かな登山を楽しめる[32]。駐車場も山小屋も空いている。駐車場が無料で、マイカー規制も行われない。人工物が少なく、自然を満喫できる。登山道の傾斜が比較的緩やかである[32]。登山道の上部からは、朝は御来光、夕方は影富士を見られる[32]。下山路に大砂走りがある[32]宝永山や二子山に立ち寄れる。関東からのアクセスが良い。プリンスルートを使えば、富士宮ルートの標高の高さと、御殿場ルートの静けさを良いところどりできる。(詳しくは皇太子の富士登山の項目を参照)
難点
登山者が非常に少なく、心細い。体力が不可欠。行動時間が長い。山小屋が少ない[32]。特に大石茶屋(標高1520m)と7.4合目(標高3100m)のわらじ館の間には山小屋やトイレ、救護所がない[32]。夜間や濃霧時に道に迷いやすい[32]。道迷いや疲労による遭難が多い[33]。樹林帯がなく陽射しが強い。景色の変化が乏しい。登山靴を消耗しやすい。バスの本数が少ない。
主なアクセス
JR御殿場線
御殿場駅下車、登山バス(40分, 富士急行バス
御殿場駅までのアクセス
小田急新宿駅からJR御殿場駅までは、直通の特急あさぎりや、小田急箱根高速バスの御殿場行きを使うと便利。
小田急新松田駅から徒歩3分のJR松田駅御殿場線に乗り換える方法もある。

ルートごとの登山者数[編集]

環境省と市の集計による7月1日〜8月31日の入山者数の推移は以下の通り[34][35][36][37]。赤外線カウンターによる登山者数調査であり、赤外線カウンターは登山者と下山者を識別しており、この数値は登山者数(入山者数)の数。括弧内はルートごとの8合目でのシェア。環境省は8合目に、市は5〜6合目に赤外線カウンターを設置している。

吉田口 富士宮口 須走口 御殿場口 合計
6合目 8合目 8合目 8合目 新5合目 8合目 8合目
2005 141,472 108,247 (54%) 57,962 (29%) 25,416 (13%) 3,450 8,667 (4%) 200,292
2006 167,368 119,631 (54%) 61,611 (28%) 30,536 (14%) 3,608 9,232 (4%) 221,010
2007 194,007 132,980 (57%) 54,011 (23%) 33,394 (14%) 3,613 11,157 (5%) 231,542
2008 247,066 172,369 (56%) 64,034 (21%) 52,323 (17%) 4,078 16,624 (5%) 305,350
2009 241,436 169,217 (58%) 67,590 (23%) 43,861 (15%) 6,870 11,390 (4%) 292,058
2010 259,658 184,320 (57%) 78,614 (24%) 48,196 (15%) 8,754 9,845 (3%) 320,975
2011 228,775 165,038 (56%) 72,441 (25%) 40,179 (14%) 8,078 15,758 (5%) 293,416
2012 246,616 189,771 (60%) 77,755 (24%) 35,577 (11%) 9,789 15,462 (5%) 318,565
2013 232,682 179,720 (58%) 76,784 (25%) 36,508 (12%) 17,709 (6%) 310,721
2014 208,328 141,996 (58%) 57,054 (23%) 29,109 (12%) 15,503 (6%) 243,662

山小屋[編集]

吉田ルート・須走ルート上の山小屋群
吉田ルート山頂の様子

ほとんどの山小屋は簡易宿泊所の性質が強く、必要最低限の機能しか備えていない[38]。ゆえに過剰な期待は禁物である[38]

営業時期[編集]

山梨県側(吉田ルート)の山小屋は、一般的には夏山期間(7月1日~9月上旬)のみ営業するが、10月上旬までの営業や、通年営業も少数ある[39]。一方、静岡県側(富士宮ルート・須走ルート・御殿場ルート)の山小屋は、夏山期間終了の1~2週間前に営業を終了することがある[40]

設備[編集]

一般的には宿泊者向けの就寝スペースと食事スペース、トイレ程度である。宿泊者以外が利用できる食堂や売店、土産物屋を備えた山小屋もある[41]。風呂やシャワー、洗面所はない[38]

営業時間[編集]

小屋ごとに営業時間は異なる。24時間営業の山小屋もあるが、大半は夜から翌日早朝までは閉まる[38]

宿泊[編集]

九合目表口(静岡県側)の標示と公衆トイレ
予約制
山小屋は宿泊の予約を受け付けている。予約をしていないと定員を超えたときなどに宿泊を断られることがある。ほとんどの山小屋は混雑しているが、(難易度の高い)御殿場ルートの山小屋は比較的空いている。
宿泊料金
宿泊料金は素泊まりで一泊5,500円から6,500円、2食付で7,000円から8,000円程度である。なお、土日や休前日は1,000円程度料金が上乗せされることがある。ルートごとに宿泊料金がほぼ統一されている[42]。料金の支払いは現金が推奨され、クレジットカード、その他カードは使用できない[38]
寝室
基本的には男女相部屋の大部屋である。一人辺りのスペースは狭く、混雑時はさらに圧迫される[38]。個室を備えた山小屋もわずかにある[43]
食事
一般的に簡素で、夕食はレトルトカレー、朝食は炊き込みご飯おにぎりの弁当や類などである。一方、おかわりができる山小屋[44]や、レトルトではない食事の出る山小屋[45]もある。

トイレ[編集]

以前はほとんど垂れ流しで、山の斜面に垂れ流された排出物が、富士山の自然遺産としての世界遺産不推薦の原因の一つとなっていた。静岡県側を中心に、県や地元NPOにより早くからバイオトイレの試験的な導入が行われていたが、前述の世界遺産登録問題があってからは、山梨県側でも環境庁・環境省の指導で導入が進められた。今では、全ての山小屋のトイレが環境配慮型に切り替わった。

基本的に有料で、1回100円〜300円[46](山頂は300円、それ以外は200円が中心)の利用料金を支払う必要がある。臭気の問題から、小屋から少し離れて建てられている。処理方式はトイレごとに異なるので、利用に際しては利用方法や注意事項を確認する必要がある[38]。夏山期間以外は閉鎖される。

その他[編集]

一部の山小屋は、宿泊者以外の登山者の、屋内での雨宿りや休憩を禁止している[38]。こうした山小屋は非常時の避難所にはなりえない。しかし、有料又は無料で休憩できる山小屋もある。

危険性[編集]

富士山を安全に登るためには、他の山と同様、登山の知識と経験、装備が不可欠である。しかし知名度の高さや五合目までのアクセスの良さが災いし、それらを欠いた登山者がしばしば入山し、遭難している。遭難の主な原因は、疲労や体力不足、装備不備、悪天候、高山病、持病、過密スケジュールなどである[47]。御殿場ルートでは疲労と道迷い、須走ルートでは転倒、富士宮ルートでは転倒と発病が多い[48]。静岡県側の3ルート(御殿場ルート、須走ルート、富士宮ルート)では、平成15年から24年までに390名が遭難し、33名が死亡、150名が重軽傷を負っている。山梨県側の吉田ルートも似たような状況である[49]

天候急変
富士山では天候が急変しやすく、強風、濃霧、落雷に警戒が必要である[50]
落石
富士山では落石がたびたび発生する。石を落さないためには、登山道を外れて歩かないこと、浮石を踏まないことが大切である。
1980年の富士山大規模落石事故では、12人が死亡、29人が重軽傷を負い、吉田口の下山ルートが変更されるなどの影響があった。
低体温症
標高が高く、風も強い富士山では、低体温症になる危険が高まる。気温は100メートル登るごとに0.4度から0.6度低下し、体感気温は風速が1m強まるごとに1.0度低下するためである[51]
低体温症を予防するためには、悪天候時は行動しないか、防寒着やセパレートタイプの雨具、化繊の(綿素材ではない)肌着を着込むのがよい。
高山病
富士山固有の危険の一つに高山病(高度障害)がある。七合目付近から高山病の症状を訴える者が増え、高度が上がるほどその率が高くなる。人によっては五合目でも高山病にかかることがある。
高山病の症状がひどいときは、直ちに下山しなければならない。五合目や山小屋などで販売されている酸素缶には、症状を一時的に和らげる効果しかない。
高山病を予防するためには、五合目付近で数時間の高所順化をするか、こまめに水分補給や休憩をとるのがよい[52]
火山活動
富士山は噴火警戒レベル1の活火山である。1707年の宝永大噴火を最後に噴火していないが、1960年代まで山頂火口付近で噴気があり、今でも火山性の地震地殻変動が観測されている。将来の噴火が懸念されている。
「富士登山における安全確保のためのガイドライン」[6]は登山者に対して、突発的な噴火に備えてヘルメットを持参するよう呼びかけている。
弾丸登山(夜間登山)
弾丸登山は遭難の遠因として問題視されている。山梨・静岡両県は弾丸登山の自粛を呼び掛けている[53]
シーズンオフの登山
原則禁止されている。
とくに積雪期・残雪期の富士山はきわめて危険で、ベテラン登山家も命を落としかねない。例えば2009年12月、8000m峰二峰の登頂経験のある片山右京らが遭難、同伴者二名が死亡した。2013年12月には、エベレストを含む8000m三峰の登頂経験のある人物が遭難死した[54]
大量遭難事故も繰り返し起きており、1954年11月には15人が、1960年11月には11人が、1972年3月には24人が死亡した。

遭難者数[編集]

静岡県警および山梨県警による遭難者数の統計は以下の通り[6]

遭難者数 うち死亡・行方不明者数
夏期 夏期以外 夏期 夏期以外
2003年 31 15 0 1
2004年 22 15 0 5
2005年 15 15 3 4
2006年 15 15 1 3
2007年 23 17 0 3
2008年 43 13 5 3
2009年 44 13 6 4
2010年 49 17 4 4
2011年 39 22 2 4
2012年 42 34 1 12
2013年 84 37 2 11
2014年 61 19 4 6

その他[編集]

影富士

マイカー規制[編集]

環境保護および駐車場の過剰混雑のため、登山シーズンはマイカー規制が富士スバルライン(吉田ルート)・ふじあざみライン(須走ルート)・富士山スカイライン(富士宮ルート)で行われている。五合目の駐車場が利用できなくなる。2015年は7月10日〜9月10日が規制対象である。

規制対象日(2015年)

  • 富士スバルライン:7月10日〜8月31日
  • ふじあざみライン:7月17日〜8月23日、7月10日〜9月6日の休前日・休日
  • 富士山スカイライン:7月10日〜9月10日

代替駐車場

  • 富士スバルライン:富士北麓駐車場
  • ふじあざみライン:須走多目的広場
  • 富士山スカイライン:水ヶ塚公園

代替駐車場から五合目まではシャトルバスが30分間隔で運行されている。

皇太子の富士登山[編集]

御殿場口・7合9勺に位置する山小屋・赤岩八合館。2008年に皇太子徳仁親王が富士登山を行った際の宿泊地となった。

2008年8月7日8月8日に、登山を趣味とする皇太子徳仁親王が20年ぶりに富士登山を行った。1988年にも富士登山を試みたものの途中で悪天候で引き返したが、天候にも恵まれ山頂まで到達できた。富士宮口五合目から登山を開始し、混雑する富士宮口登山道から新六合目で分かれて宝永山に到着後に御殿場口登山道に入り[55]、御殿場口7.9合目の山小屋(赤岩八合館)に1泊した後、翌朝6時30分頃、無事登頂とお鉢巡りを行った。下山は御殿場口の大砂走り経由で、そのまま御殿場口新五合目まで下り、昼までに下山を完了した。[56]

登頂の際、富士山頂で見た日の出を見て詩を詠んでいる。

「雲の上(へ)に太陽の光はいできたり富士の山はだ赤く照らせり」

御殿場市観光協会では皇太子の辿ったルートを、登山口となる富士宮口五合目の標高の高さと、御殿場口の静けさや下山ルートの大砂走りなどの魅力を兼ね備えた「プリンスルート」[57]として宣伝を始めた。このルートは従来は荒れていた区間もあったが、皇太子一行の通行に先立ち再整備されたものである。道標等も整備され、「プリンスルート」の名称も道標や案内図に正式に採用されている。マイカー登山者の利便性を考慮し、2009年シーズン以降、富士宮口のマイカー規制時に二合目の水ヶ塚公園駐車場と御殿場口新五合目の間にシャトルバスを運転している。また、このルートを使う登山者の増加に伴い、休館状態だった御殿場口の山小屋「わらじ館」が2011年から本格的に営業を再開した。

御来光と影富士[編集]

御来光とは高山で拝む日の出のことである。阿弥陀如来等、仏陀の出現に日の出を例えた表現である。富士山では御来光を頂上で見ようという登山者が多く、日の出直前の頂上付近は渋滞で動かなくなることもある。山小屋の前や登山道の途中でご来光を迎える事もある。影富士とは富士山自身のが日没前や日の出の直後に、太陽の反対側の雲海や地表に投影することである。御殿場ルートでは、登山道のどこからでも御来光と影富士を見ることができる。山頂にも、日の出直後の影富士を見ることができる地点がある。

案内標識[編集]

山梨県側の登山道(吉田ルート)の呼び方が「吉田口」と「河口湖口」の2種類が混用されていたり標識が統一されておらず分かりにくかったうえ、不必要な場所に標識が乱立しており必要な標識の認識の妨げとなっていた。また、外国語表記が少なく増加し続ける外国人登山者に不親切であった。そのため2009年の山開きに間に合うよう案内標識の統一が図られ標識の乱立も改善された。その結果、山梨県側の登山道については「吉田口」(吉田ルート。ただし五合目は「富士スバルライン五合目」)の名称で統一され[58]、標識の枚数も整理されて大きく減少した。この新標識は基本的に日本語・英語中国語韓国語の計4ヶ国語で表記されており、外国人にもわかりやすくなった。[59]また、各登山道で標識の色も統一された。

9月登山(夏期)[編集]

静岡県側は9月10日、山梨県側は9月14日で登山道が通行止めになる。9月に入ると営業している山小屋が少なくなり、宿泊・休憩・飲料水・食事・トイレの提供の問題により、登山者は徐々に少なくなる。静岡県側は、9月最初の日曜日を過ぎると富士宮ルートと御殿場ルートの七合目以上の山小屋及び須走ルートの多くの山小屋は閉鎖される。山梨県側は、吉田ルートの山小屋については、9月上旬まで大多数の山小屋が営業し、9月14日の閉山の直前まで営業するところが多いが、山頂の山小屋は8月下旬から徐々に休業し始める。

夏期以外の登山[編集]

「富士登山における安全確保のためのガイドライン(主に夏山期間以外における注意事項)」[6]は、「気象条件が特に厳しいために遭難事故が発生するリスクが非常に高くなっている」ことや、「積雪期には傾斜が急な斜面が広範囲に渡って凍結するため、転倒等で滑落した場合に死亡事故につながる可能性が高い」ことなどを根拠に、「万全な準備をしない登山者の登山(スキー・スノーボードによる滑走を含む)」を禁止している。また、充分な技術・経験・知識・装備・計画のある登山者にも、登山計画書を所轄の警察署に必ず提出するよう要求している。

五合目以上の登山道は夏山期間以外は閉鎖される。御中道など5合目周辺も冬期は積雪し登山道が閉鎖される。2014年は12月1日に閉鎖し、2015年は6月20日に開通した[60]。吉田口登山道は、5合目より下に関しては、富士山駅〜馬返のバスは2015年は5月2日〜11月3日がバスの運行期間[61]。冬期は積雪する。

お鉢巡り[編集]

剣ヶ峰より見た富士山の八神峰(山頂の峰々)と大内院(火口)

お鉢巡りとは、富士山山頂の火口を一周することである。富士山は山頂(登山道を登りきった場所)まで登って下山する登山者が多く、お鉢巡りはあまり多くない。時間と体力があり、天候に恵まれていないと実行は難しい。残雪が多い年はお鉢巡りルートに雪があるため、途中までしか行けないことがある。

郵便[編集]

富士山頂郵便局で投函された郵便物には基本的には風景印が押印される。窓口に出された郵便物だけでなく、局前のポストに投函された郵便物でも風景印が押印される。窓口では登山証明書も発行している。

金剛杖に焼印を押す様子

金剛杖と焼印・刻印[編集]

近年は軽量な金属製のストックを使う登山者が増えているが、富士山では昔ながらの木製の金剛杖の使用も多い。この金剛杖には日章旗旭日旗などをつけて販売されることも多いほか、各山小屋では記念の焼印を有料で行っている。このため、すべての小屋の焼印を集め、杖を焼印でいっぱいにした登山者を多く見かける。金剛杖を購入した小屋や宿泊した小屋は焼印代を免除することが一般的である。雨天時は焼印を行わない所もある。

富士宮市の富士山本宮浅間大社の本宮や、山頂の富士山本宮浅間大社奥宮および久須志神社では、金剛杖への朱肉刻印を有料で行っている。

携帯電話[編集]

登山シーズン中は山小屋に臨時の基地局が置かれるうえ、多くの場所では麓からの電波も受信できるため、NTTドコモauソフトバンクなどが利用可能[62][63]。全キャリア LTE も対応[64][65]。ただし、山頂の火口側など、山小屋からの電波も麓からの電波も届きにくい場所では電波が極めて弱く、圏外になることがある。auは旧富士山測候所に基地局がある[63]。山小屋ではコンセントの数は限られており、借用は原則認められないためコンセントでの充電は行えない。市販の携帯電話用充電器(マルチソーラーチャージャーなど)の持ち込みが必要になる。

荷揚げのブルドーザー

物資の運搬[編集]

五合目〜山頂の物資の輸送はブルドーザークローラーダンプにより行われている。他山域で行われているヘリコプターでの輸送よりも、悪天候に強く大量輸送ができるというメリットがあるが、多くの車両の購入費用や保守費用の他、ブルドーザー道の保守費用がかかるため、ヘリコプター輸送よりも商品に対する価格上乗せ額が大きくなる。吉田ルートではブルドーザー道は下山道としても利用されている。このブルドーザー輸送は、富士山レーダー建設を機に従来の馬方組合と強力組合が合同して始めたものである。

清掃登山[編集]

富士山の登山道や周辺には非常にゴミが多かったことなどが一因となり、富士山の世界自然遺産登録が実現しなかった[66]ことを踏まえ、富士山美化のために、NPO企業などが毎年清掃登山活動を行っている。アルピニスト野口健も一部の活動に参加し、活動参加者が増えるとともに登山道周辺のゴミは減ってきている。[67]

脚注[編集]

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  1. ^ 毎夏約30万人を魅了する富士登山|富士山に登ろう
  2. ^ 富士山に初めて登った日本人女性は変装していた|富士山NET
  3. ^ ふじあざみ64号(2)|富士砂防事務所
  4. ^ 平成28年夏期の富士山登山者数の中間発表(第1回)について(お知らせ)|関東地方環境事務所
  5. ^ a b 登山の前に必ず知っておくこと|富士登山オフィシャルサイト
  6. ^ a b c d e 富士登山における安全確保のためのガイドライン|富士登山オフィシャルサイト
  7. ^ 富士山年・月ごとの値(気象庁)
  8. ^ a b c 富士山頂の風や気温で、最もすごかった記録|富士山NET
  9. ^ 富士山 平均風速の月平均値(m/s)|気象庁
  10. ^ 富士山頂の測候所|富士山NET
  11. ^ a b c 昭文社 山と高原地図 31.富士山 御坂・愛鷹 2013
  12. ^ 五合目レストセンター、宝永山荘、雲海荘、御来光山荘、富士山表口元祖七合目、池田館、萬年雪山荘、胸突山荘、頂上富士館
  13. ^ 五合目レストセンターは売店
  14. ^ 雲上閣、五合園レストハウス、富士山みはらし、こみたけ売店、スカイパレス富士、花小屋、日の出館、七合目トモエ館、鎌岩館、富士一館、鳥居荘、東洋館、太子館、蓬莱館、白雲荘、元祖室、本八合目富士山ホテル、本八合目トモエ館、御来光館、山口屋、扇屋、東京屋、山口屋支店
  15. ^ 東富士山荘、菊屋、吉野家、長田山荘、瀬戸館、太陽館、見晴館、江戸屋、胸突江戸屋、御来光館、山口屋、扇屋、東京屋、山口屋支店
  16. ^ 東京屋(山頂)、吉野家(下山路・砂払五合)、東富士山荘は売店
  17. ^ 富士急小屋ハーフマウンテン、大石茶屋、わらじ館、砂走館、赤磐八合館
  18. ^ 富士急小屋ハーフマウンテンは売店
  19. ^ 2008年に皇太子徳仁親王が利用したことより命名された。現在は標識にも書かれている正式名称。
  20. ^ 五合目レストセンター、宝永山荘、雲海荘、わらじ館、砂走館、赤磐八合館
  21. ^ 五合目レストセンターは売店
  22. ^ おやすみ処、佐藤小屋、里見平・景観荘
  23. ^ 富士急小屋ハーフマウンテン
  24. ^ スカイポート水ヶ塚
  25. ^ スカイポート水ヶ塚
  26. ^ 山口屋支店、扇屋、東京屋、山口屋、頂上富士館
  27. ^ 五合目レストセンター
  28. ^ a b c d 吉田ルート|富士登山オフィシャルサイト
  29. ^ a b c d 富士宮ルート|富士登山オフィシャルサイト
  30. ^ 静岡県/富士山マイカー規制 - 静岡県公式ホームページ
  31. ^ a b c d e f 須走ルート|富士登山オフィシャルサイト
  32. ^ a b c d e f g h 御殿場ルート|富士山オフィシャルサイト
  33. ^ 富士山における山岳遭難を防ぐために 平成25年3月 静岡県警察本部 地域部地域課
  34. ^ 報道発表:平成25年夏期の富士山登山者数について(お知らせ)- 関東地方環境事務所
  35. ^ 統計センターしずおか/平成24年度季節調査(夏季)
  36. ^ <その他>報道発表:平成26年夏期の富士山の中間発表(第2回)について(お知らせ) [関東地方環境事務所]
  37. ^ 富士登山者数について(9月16日掲載)- 山梨県富士吉田市
  38. ^ a b c d e f g h 山小屋情報|富士登山オフィシャルサイト
  39. ^ 山小屋のご案内|富士山ガイド.com
  40. ^ 山小屋案内|静岡県小山町
  41. ^ 御殿場ルートの大石茶屋など
  42. ^ 富士山の山小屋宿泊料金一覧|富士さんぽ
  43. ^ 吉田ルートの鎌岩館
  44. ^ 御殿場ルートのわらじ館
  45. ^ 御殿場ルートの大石茶屋
  46. ^ 富士山のトイレ|利用のための情報|富士登山オフィシャルサイト
  47. ^ 富士登山における安全確保のためのガイドライン
  48. ^ 遭難・事故のリスク情報|富士登山オフィシャルサイト
  49. ^ 遭難・事故のリスク情報|富士登山オフィシャルサイト
  50. ^ 富士登山における安全確保のためのガイドライン
  51. ^ 富士登山における安全確保のためのガイドライン
  52. ^ 富士登山情報|山梨県警察
  53. ^ 富士登山情報|山梨県警察
  54. ^ 「エベレスト登山歴ある大ベテランが…」4人富士山滑落で関係者|47News
  55. ^ 登山者が少なく警備が簡単で、多くの登山者に影響を与えることの少ないため
  56. ^ 産経ニュース 2008.8.8 08:26
  57. ^ プリンスルートで富士登山 - 御殿場市観光協会
  58. ^ ただし、富士山五口協議会の公式ポスターなど、麓の出発点としての吉田口、河口湖口の名称はその後も使われている。
  59. ^ 富士山:もう迷わない 乱立の標識、統一(毎日新聞)2009年6月25日
  60. ^ 山梨県/富士山 御中道 通行情報
  61. ^ 富士山駅~中の茶屋・馬返 (馬返バス) - 富士急行バス
  62. ^ 地域からのお知らせ(東海) : 富士山頂でも携帯電話がご利用可能に | お知らせ | NTTドコモ
  63. ^ a b 富士山の山頂におけるauサービスエリア拡充について
  64. ^ 富士山において「Xi」サービスを提供開始
  65. ^ 富士山頂において、iPhone 5 でLTEがご利用いただけます
  66. ^ 『富士山が世界遺産になる日』小田全宏(著)、PHP研究所、2006年、ISBN 4-569-64733-2
  67. ^ 『富士山を汚すのは誰か』野口健(著)、角川書店、2008年、ISBN 978-4-04-710142-5

関連項目[編集]

外部リンク[編集]