家族・私有財産・国家の起源

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Der Ursprung der Familie, des Privateigenthums und des Staats. (1884)

家族・私有財産・国家の起源』(かぞく・しゆうざいさん・こっかのきげん、ドイツ語Der Ursprung der Familie, des Privateigenthums und des Staats)は、1884年に初版が出版されたフリードリヒ・エンゲルスの著作。国家や一夫一婦制、私有財産を自明のものとする歴史観にたいして、それらが歴史的なもの、すなわちある条件のなかで生成し、またその条件の解消にともなって消滅(変化)するにすぎないと主張した。

成立の経緯[編集]

本書の序文に「以下の諸章は、ある程度まで遺言を執行したものである」とあるように、エンゲルスの盟友であったカール・マルクスが書いたルイス・ヘンリー・モーガンの『古代社会』の摘要(ノート)を使って、エンゲルスが独自に仕上げたものである。エンゲルスはマルクスの死後、1884年2月にこのノートを発見し、5月には脱稿するという異例の早さで執筆した。1884年段階では社会主義者取締法があり、それを考慮せざるをえなかったが、同法の廃止をうけて、4版では倍に増やした。増やした主要な部分は第2章の家族に関する章で、著作全体の3分の1以上をしめ、エンゲルスがもっとも重要視した章である。

本書の概略[編集]

本書は次の9つの章から成る。

  • 第1章 - 先史の文化諸段階
  • 第2章 - 家族
  • 第3章 - イロクォイ族の氏族
  • 第4章 - ギリシアの氏族
  • 第5章 - アテナイ国家の成立
  • 第6章 - ローマの氏族と国家
  • 第7章 - ケルト人とドイツ人の氏族
  • 第8章 - ドイツ人の国家の形成
  • 第9章 - 未開時代と文明時代 

各章の内容[編集]

第1章は 人間が動物界から分離したばかりの「過渡的な状態」である「野蛮」から、「未開」をへて、「文明」にいたる、人類社会の発展図を略述した章である。生活技術によって「野蛮」と「未開」に区分し、さらにそのなかを「上位・中位・下位」段階に分ける方法を用いている。

第2章は、内容的に(1)原始的な家族形態を復原し、今日の一夫一婦制の起源を明らかにする部分、(2)階級社会における一夫一婦制の批判、(3)では、どうやったら婦人は解放されるかという社会主義社会での家族と結婚という3つの部分が書かれている。イロクォイ族(イロコイ族)などアメリカ・インディアン、インドの部族において現存する家族制度と、血族呼称制度が矛盾している例をとりあげている。エンゲルスはここで「乱婚(無規律性交)→血族婚→プナルア婚→集団婚→対偶婚」という発展図式を考え、私有財産制度の成立とともに、母権制氏族社会が転覆され、「女性の世界史的敗北」(エンゲルス)がおきたとした。私有財産は家父長制から一夫一婦制へ移行し、それらは姦通と娼婦制度によって補完されるとした。そして社会主義=財産の主要部分である生産手段の私的所有の廃止によって、財産の相続を目的にした一夫一婦制の基礎は消滅すると主張した。

第2章家族四、一夫一婦婚家族において、エンゲルスは、「ナポレオン法典第312条(der Code Napoleon Art. 312)」に言及している。ナポレオン法典は日本の旧民法の土台となった民法典で、第312条は「婚姻中に受胎された子の父は──夫である」としており、ここから民法第772条が規定する「嫡出の推定」すなわち「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」が由来している。土屋保男訳及び原文は以下の通りである。

だがそれとともに、一夫一婦婚そのものの内部に第二の対立が発展してくる。自分の生存を婚外性交によって楽しいものにする夫のかたわらには、夫にかえりみられない妻がいる*1。そして*2リンゴは半分食ってしまえば、まるまる一個はもう手に残らないのと同じように、対立の一面は他の一面なしにはありえない。それにもかかわらず、夫たちは妻に迷いをさまさせられるまでは、それがありうると思っていたらしい。個別婚とともに、以前には知られなかった二人のおさだまりの社会的役者が登場する。妻のおさだまりの色男と妻に間男まおとこされた夫がそれである。男性は女性にたいして勝利をはくしたが、勝者に冠をかぶせる(81)仕事は高潔なことに敗者が引きうけた。個別婚と婚外性交とならんで、姦通が不可避な社会的制度になった──厳禁され厳罰に処されはするが、しかしこれを防遏(ぼうあつ)することの不可能な社会的制度に。子どもたちの父たる身分の確実性は、あいかわらずせいぜい道徳的信念に立脚していただけであって、この解きえない矛盾を解くために、ナポレオン法典第312条はこう規定した。すなわち、「L'enfant conçu pendant le mariage a pour père le mari.婚姻中に受胎された子の父は──夫である」。これが、3000年にわたる個別婚の最後の帰結である。(93頁)

Hiermit entwickelt sich aber ein zweiter Gegensatz innerhalb der Monogamie selbst. Neben dem, sein Dasein durch den Hetärismus verschönernden Ehemann steht die vernachlässigte Gattin.{25} Und man kann nicht die eine Seite des Gegensatzes haben ohne die andre, ebensowenig wie man noch einen ganzen Apfel in der Hand hat, nachdem man die eine Hälfte <70> gegessen. Trotzdem scheint dies die Meinung der Männer gewesen zu sein, bis ihre Frauen sie eines Bessern belehrten. Mit der Einzelehe treten zwei ständige gesellschaftliche Charakterfiguren auf, die früher unbekannt waren: der ständige Liebhaber der Frau und der Hahnrei. Die Männer hatten den Sieg über die Weiber errungen, aber die Krönung übernahmen großmütig die Besiegten. Neben der Einzelehe und dem Hetärismus wurde der Ehebruch eine unvermeidliche gesellschaftliche Einrichtung - verpönt, hart bestraft, aber ununterdrückbar. Die sichre Vaterschaft der Kinder beruhte nach wie vor höchstens auf moralischer Überzeugung, und um den unlöslichen Widerspruch zu lösen, dekretierte der Code Napoleon Art. 312:

"L'enfant conçu pendant le mariage a pour père le mari; das während der Ehe empfangne Kind hat zum Vater - den Ehemann."

Das ist das letzte Resultat von dreitausend Jahren Einzelehe.

出典:http://www.mlwerke.de/me/me21/me21_036.htm

第3章は、アメリカ先住民であるイロクォイ族の氏族制度を復元しようとしている。氏族は国家以前の社会組織であるとして、そこでは原始的な民主制度が存在していたのではないかということをイロクォイ族を観察したモーガンの記録をもとに主張していく。

以後、第4から8章はギリシア、ローマ、ドイツの氏族制度と国家の成立についての考察になっている。いずれも氏族は国家に先行する社会組織であり、史書や現行制度の痕跡からそれを証明しようとしている。ただし、一様なものではなく、民族ごとに豊かな形態があることをエンゲルスは叙述している。

第9章は全体を理論的に結論づけてまとめた章である。第1章の貧困な生活技術史は9章にいたってこれまでの叙述をとりいれた豊富な内容となって再現される。ついで国家の発生についての理論的総括がおこなわれ、この部分はマルクス主義国家論の基礎の一つとなった。最後に、エンゲルスは「文明批判」をおこない、文明が金属貨幣と利子、商人、私的土地所有と抵当、奴隷労働を「発明」し、その結果、どのような惨禍がもたらされたのかを告発する。そして、氏族がつくりだした民主的な社会が共産主義になって高次の形で復元されると主張した。

マルクスとエンゲルスの古代史への関心[編集]

マルクス・エンゲルスは『共産党宣言』において「これまでのすべての歴史は階級闘争の歴史である」と書いたのち、これに注をくわえ、原始状態を別とした。マルクスが1859年に『経済学批判』を書いた時点で、すべての民族の歴史の入り口に原始共産制社会があったと考えた。こうした理論を豊富化するために、マルクスもエンゲルスも古代史の研究を熱心におこなった。ゲオルグ・ルートヴィヒ・フォン・マウラーの『ドイツ村落制度の歴史』や、マクシム・マクシモーヴィッチ・コヴァレフスキーの『共同体的土地所有 その解体の原因、経過および結果』、サー・ヘンリー・ジェームズ・サムナ・メーンの『初期制度史講義』、サー・ジョン・ラボックの『文明の起源と人類の原始状態』などのノートがつくられた。また、J・J・バッハオーフェンの『母権論』からも大きな影響を受けており、エンゲルスは本書の序文でバッハオーフェンについて言及している。

日本語翻訳の歴史[編集]

1908年堺利彦が『男女関係の進化』として翻訳を発表した。ただし、弾圧を回避するために国家論部分などは翻訳されなかった。現在、『家族・私有財産・国家の起源』として、岩波文庫(1979年;戸原四郎 訳)、新日本出版社(1999年;土屋保男 訳)などから出版されている。