家事労働


家事労働(かじろうどう)とは、マルクス経済学用語の一つ。これは家庭内において主婦が行っている家事というものも労働であるという概念である。労働は本来はそれに応じて賃金が支払われるが、家事労働の場合は賃金が支払われない無償労働であることが問題となる。従来は家事は職場の外で行われることで労働とみなされていなかったが、資本主義社会においては家事は労働力の再生産に不可欠な行為であり、資本主義経済を成り立たせるためにも不可欠であることから労働であると主張されるようになった[1]。労働は自給自足社会においては家庭を意味する本質的な事柄であったが、社会が分業化されることにより労働は社会参加して賃金を獲得するための手段へと変わっていき、家事のみが家庭に残っていることから、現代では家事労働が家庭の本質的な意味であると見られる[2]。
近年の統計・政策上は、家事労働は無償労働の枠組みの中で継続的に計測されている[3]。総務省統計局は社会生活基本調査の「家事関連時間」を男女共同参画や少子化対策の基礎資料と位置付け、15歳以上では2021年に家事関連時間へ1日を費やす割合が男性3.8%、女性14.7%であったと示している[4]。また、6歳未満の子供を持つ夫婦と子供の世帯では、2021年の週全体平均で夫の家事関連時間は2時間00分、妻は7時間33分であり、負担差は縮小しつつも残っている[4]。このため家事労働は、家庭内分業の偏りを把握する指標としても扱われている[4]。
さらに、内閣府の無償労働推計では、炊事・掃除・洗濯・家庭雑事などの家事活動は、第三者による代替が可能であるため、「一般的な生産の境界」内の活動として整理され、国民経済計算の中枢体系とは別にサテライト勘定で貨幣評価されている[3]。2021年の家事活動の貨幣評価額(OC法)を男女別にみると、男性は32.3兆円、女性は111.3兆円であり、家事労働の規模を市場経済と比較可能な形で示す試みが継続している[3]。一方で、量的研究が捉えやすい炊事・掃除・洗濯などの作業だけではなく、生活時間のやりくりや予定の組み立てといった「世帯のマネジメント」も家事労働に含まれると論じられている[5]。
家計生産
[編集]家事労働は家計生産(英: household production)として経済学で次のように定義されてきた。すなわち「家計の構成員の自らの資本と彼らの自らの無給労働(英: unpaid labor)を使った、彼ら自らの消費のための、彼らによる財とサービスの生産。財とサービスは、諸家計自らが使う住宅ないし居住(英語: dwelling)、食事、衣類の洗濯、養育を含むもののために、彼らにより生産される。家計生産の過程は、最終消費財へ中間財が費やされる転換を巻き込む。諸家計は彼らのものの資本と彼らのものの労働を用いる[6]。」家計の水準で生ずる財とサービスは一般的にそれらが生産されたところの国内で消費される、そして国内消費に寄与する[7]。
家事賃金
[編集]International Wages for Housework Campaignは、作家で活動家のセルマ・ジェームズ(英語: Selma James )により、1972年にイタリアとパドヴァで共同創立されたグローバルな社会運動だった。その運動は、いかに家事と保育がすべての産業労働の基礎であるかの認知を高めるよう組織された、そしてこれらの無意義でない仕事は賃金労働として支払われるよう補償されるべきとの要求を権利として主張した[8]。
この運動は誰も語ってこなかった不払い労働を暴露するものであり、イギリスでは賃金をどのような仕組みで支払えばよいかという政策論議の代わりに資金をどこから引き出すかについて議論した。今では離婚調停の時に家事労働を考慮に入れるようになったのはこの運動によるものである[9]。
脚注
[編集]- ↑ 伊田久美子「再生産労働概念の再検討 : 構造調整プログラムを中心に」『女性学研究』第19巻、大阪府立大学女性学センター、2012年3月、112-129頁、CRID 1390290699861111552、doi:10.24729/00004878、hdl:10466/13713、ISSN 0918-7901。
- ↑ 相馬信子「家庭の生産的機能について」『横浜国立大学人文紀要. 第一類哲学・社会科学』第14巻、横浜国立大学、1968年12月、45-56頁、CRID 1050001202686978944、hdl:10131/2479、ISSN 0513-5621。
- 1 2 3 “無償労働の貨幣評価(概要版)” (PDF). 内閣府経済社会総合研究所 (2023年7月). 2026年3月18日閲覧。
- 1 2 3 “我が国における家事関連時間の男女の差―生活時間からみたジェンダーギャップ―” (PDF). 総務省統計局 (2023年7月). 2026年3月18日閲覧。
- ↑ 山田, 昌弘「世帯のマネジメントという家事労働」『社会学評論』第70巻第4号、2020年、343-359頁、doi:10.4057/jsr.70.343。
- ↑ Ironmonger, D. (2000年2月2日). “Household Production and the Household Economy”. Ideas.prepec.org. 2015年7月2日閲覧。
- ↑ “Domestic Consumption”. Dictionary.cambridge.org. 2015年7月2日閲覧。
- ↑ James, Is Transformation Possible? They Say We Can't. We must., Off Our Backs. Inc., p. 42, JSTOR 20838923
- ↑ D・グレーバー『ブルシット・ジョブ』岩波書店、2020年、353頁。