安達太良山火山ガス遭難事故
安達太良山火山ガス遭難事故(あだたらやまかざんがすそうなんじこ)とは、1997年9月15日に福島県北部の安達太良山を登山中の登山会会員14名のうち4名が火山ガスの吸入による硫化水素中毒により死亡した事故である[1][2][3][4]。悪天候により登山道を見失い、火山ガス発生による立入禁止地域に立ち入ったことにより起きた[2][3][5]。この事故により、環境庁は環境基本計画による「国立公園内等における火山ガス中毒事故発生及び安全対策に関する緊急調査」を実施[6][7]。その結果をまとめた「わが国の火山ガスの実態及び火山ガス事故の状況調査報告」を刊行し、火山ガスが噴出しているないしは噴出の可能性が高い場所への対策を、自治体や環境庁に求められることとなった[8][9][10]。
事故経緯
[編集]1997年9月15日、東京都内の理容業者の登山会会員14名が、午前6時半ごろ、沼尻登山口より安達太良山登山を開始する[2][3]。午前9時半ごろ、沼ノ平の火口付近に到着したが、霧による悪天候で道を見失い、山頂が見えたため尾根に出るも、小石や砂による足場の悪さから沢に下りた[2][3]。2名は強烈な硫黄臭を感じたため、駆け足で無事沢を通過、それに続いた女性3名が次々と倒れ、救助しようとした女性1名も倒れた[2][11][3]。それを見て息を止めて駆け寄ったものは、一瞬息をしたところ猛烈な異臭がし救助できずに撤退[2][11]。先に沢を通過した2名が向こう側から危険を大声で伝えていたが、すでに間に合わなかった[11]。
即座に所持していたアマチュア無線で救助依頼をしようとするが、電波状況が悪く1時間余り経って連絡がついた[3]。11時半ごろ、ガスマスクなどの装備を携行し、救助隊が出発。福島県警察航空隊のヘリコプターも出動したが、霧による視界不良のため降下できず、救助隊の先遣隊が到着したのは14時頃となった[3]。事故発生と同時に入山制限が出され、原因判明の9月18日の午後6時まで、一般登山客の入山は制限された[11][3][12]。
先遣隊は、登山道より200m余り離れた沼ノ平の南東斜面の直径5mほどの狭い範囲内に4名の姿を発見[3]。救助するも、心肺停止状態であった[2][3]。
原因
[編集]9月17日、福島県警察は検視の結果、4名の遺体より硫化水素が検出されたことから、硫化水素ガスによる中毒死と断定[13]。遭難の翌日の9月16日の福島県警による現場検証で、捜査員が現場付近の空気を採取し分析したところ、致死量の1/5にあたる200ppmが観測されており、同日の天候状況や風向きなどから特異的に硫化水素ガスが溜まっていた可能性が示唆されている[14][5]。
1996年9月に、安達太良山沼ノ平火口で噴火があり、福島地方気象台などによる現地調査の結果、火山ガスによると思われる小動物の死骸などが散見されたことにより、立ち入らないよう入山者に注意を呼びかけ、ロープや柵を設けていたが、霧による視界不良のためそれら防護柵を避ける形で同地に至ってしまった[11][3]。その後、沼ノ平を経由するくろがね小屋から鉄山への登山道は閉鎖された[15][16]。また、沼尻登山口入口には同事故の慰霊碑が建立されている。
参考文献
[編集]- 火山性ガスが命を奪った ~安達太良山登山事故の警告~NHK クローズアップ現代 1997年9月25日
- 朝日新聞 1997年9月16日
- 福島民友新聞 1997年9月17日
- 火山ガス シンポジウム 日本山岳会 1998年9月19日
脚注
[編集]- ↑ “安達太良火山災害”. arukazan.jp. 2025年3月22日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 『読売新聞』1997年9月16日 全国版 東京夕刊 夕一面1頁「福島・安達太良山で火山ガス、女性4人死亡 登山サークル、火口へ迷い込む」(読売新聞東京本社)
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 「安達太良山ガス中毒:4人が死亡、登山を全面禁止に」『毎日新聞』毎日新聞社、1997年9月16日。オリジナルの1999年11月3日時点におけるアーカイブ。2025年4月20日閲覧。
- ↑ 「安達太良山ガス中毒:予想しない悲報に、遺族らはぼうぜん」『毎日新聞』毎日新聞社、1997年9月16日。オリジナルの1999年11月3日時点におけるアーカイブ。2025年4月20日閲覧。
- 1 2 “火山ガス災害危険個所の地形条件” (PDF). 国土地理院. 2025年4月20日閲覧。
- ↑ 『読売新聞』1998年3月23日 全国版 東京夕刊 夕一面1頁「火山ガス事故防止へ全国調査 警告ガイド作製へ/環境庁・通産省」(読売新聞東京本社)
- ↑ 『朝日新聞』1998年10月5日 朝刊 2社14頁「2/3は対策取られず 危険な火山ガス、57地域 通産省・環境庁」(朝日新聞東京本社)
- ↑ “シンポジウム1998 火山ガス”. 日本山岳会 (1998年9月19日). 2025年4月20日閲覧。
- ↑ “安達太良山火山ハザードマップ” (PDF). 福島県. 2025年4月20日閲覧。
- ↑ “火山ガス事故防止のために 有毒な火山ガスから身を守るための手引き” (PDF). 環境省自然保護局. 2025年4月20日閲覧。
- 1 2 3 4 5 『読売新聞』1997年9月16日 全国版 東京夕刊 夕社会19頁「火山ガスの福島・安達太良山 沢の底、悲痛な叫び 息止め助けに行ったが・・・」(読売新聞東京本社)
- ↑ 『朝日新聞』1997年9月18日 朝刊 福島0頁「安達太良山の入山規制解除へ ガス中毒の沼ノ平は当面の間続行/福島」(朝日新聞東京本社)
- ↑ 『読売新聞』1997年9月18日 全国版 東京朝刊 2社38頁「福島・安達太良山の登山者死亡事故 原因は硫化水素吸引」(読売新聞東京本社)
- ↑ 『朝日新聞』1997年9月17日 朝刊 2社34頁「安達太良山の死亡事故現場で高濃度の硫化水素」(朝日新聞東京本社)
- ↑ 『朝日新聞』1998年3月24日 朝刊 福島0頁「立ち入り禁止を継続 火山性ガス事故の安達太良山沼ノ平 /福島」(朝日新聞東京本社)
- ↑ “安達太良山” (PDF). 国土地理院. 2025年4月20日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 火山災害に係る検討について 国土交通省
- 安達太良山 有史以降の火山活動 気象庁
- 安達太良山-解説 - ウェイバックマシン(2007年11月15日アーカイブ分) 消防防災博物館
- 山岳情報 福島県警察本部
座標: 北緯37度37分32.0秒 東経140度16分34.0秒 / 北緯37.625556度 東経140.276111度