娑婆
| 仏教用語 サハー,しゃば | |
|---|---|
| パーリ語 |
सह (Saha) |
| サンスクリット語 |
सहा (IAST: Sahā) |
| チベット語 |
མི་འཇེད་འཇིག་རྟེན་ Wylie: mi 'jed 'jig rten |
| 中国語 |
娑婆, 忍土 (拼音: Suōpó) |
| 日本語 |
娑婆 , 忍土 (ローマ字: Shaba) |
| 朝鮮語 |
사바 (RR: Saba) |
| ベトナム語 | Sa bà |
娑婆(しゃば、さば、梵: sahā, サハー)は、仏教において、釈迦が衆生を教化するこの世界、すなわちこの世のこと[1][2]。仏教における三千世界の総称であり、娑婆世界、娑界ともいう[1]。「サハー」には、その意味を表す「忍土(にんど) 」という意訳語もある。忍土とは、「苦しみを耐え忍ぶ場所」という意味である[3]。
仏教用語から転じた用法としては、第一に人間の世界、この世、俗世間、第二に 刑務所内や軍隊・遊郭・寄宿舎などの自由が束縛されている世界に対して、その外の自由な世界を指す[1]。
仏教宇宙観の基礎となるのは「小世界」と呼ばれる一つの完結した世界である。その構造は物理的領域と天界の領域に大別される。
物理的構造
• 中心: 世界の中心には須弥山(しゅみせん)がそびえ立つ。高さは8万4千由旬。
• 日月: 須弥山の中腹には一つの太陽と一つの月が周回している。
• 七金山と香水海: 須弥山の麓の周りには、七つの金の山(持霜山、持軸山、池水山、善見山、馬耳山、障礙山、持地山)と、七つの香水の海が交互に取り巻いている。
• 鹹水海と鉄囲山: 第七の金の山の外側には広大な鹹水(かんすい)の海があり、その外周を大鉄囲山(だいてっちせん)が囲んでいる。
• 四大洲: 鹹水の海には四つの方角にそれぞれ大陸が存在する。
◦ 東勝神洲(とうしょうしんしゅう)
◦ 南瞻部洲(なんせんぶしゅう) - 我々の住む地球はこの大陸に位置する。
◦ 西牛貨洲(さいごけしゅう)
◦ 北倶盧洲(ほっくるしゅう)
• 地獄: 大鉄囲山の地下1千由旬の場所には、八大地獄および大小様々な地獄が存在する。
天界の構造
小世界には、三界(欲界・色界・無色界)のうち、欲界の全ての天と色界の一部が含まれる。
• 欲界六天(地居天と空居天):
◦ 地居天(地上に依存する天):
1. 四王天: 須弥山の中腹の四方に位置する。東方を治める持国天、南方を治める増長天、西方を治める広目天、北方を治める多聞天(毘沙門天)の四天王が住む。彼らは著名な仏法の守護神である。
2. 忉利天(とうりてん): 須弥山の山頂に位置する。中央に天主が住み、四方にそれぞれ八つの天国があり、合計三十三天となる。
◦ 空居天(空中に依存する天): 3. 夜摩天(やまてん) 4. 兜率天(とそつてん) 5. 化楽天(けらくてん) 6. 他化自在天(たけじざいてん)
• 色界初禅三天:
◦ 欲界六天の上位に位置する色界十八天のうち、最初の三つの天(初禅天)までが、一つの小世界に含まれる最上部となる。
小世界を基本単位として、宇宙は1,000倍単位の階層構造を形成している。各階層は、下位の世界群に加え、さらに高次の天界を含むことで定義される。
階層
構成要素
含まれる上位の天界
小世界
須弥山を中心とした基本単位
欲界六天 + 色界の初禅三天
小千世界
1,000の小世界
(1,000の小世界群の上に)色界の二禅三天
中千世界
1,000の小千世界
(1,000の小千世界群の上に)色界の三禅三天
大千世界
1,000の中千世界
(1,000の中千世界群の上に)色界の四禅九天 + 無色界四天
• 小千世界: 1,000個の小世界と、それらの上部に位置する色界の「二禅三天」を合わせて構成される。
• 中千世界: 1,000個の小千世界と、それらの上部に位置する色界の「三禅三天」を合わせて構成される。
• 大千世界: 1,000個の中千世界と、それらの上部に位置する色界の「四禅九天」および無色界の「四空天」を合わせて構成される。
「三千大千世界」という名称は、小千世界、中千世界、大千世界という三つの「千の位」の世界を合わせた総称である。これは単なる空間的な広がりを示すだけでなく、仏教において極めて重要な意味を持つ。
• 定義: 1,000(小千)× 1,000(中千)× 1,000(大千)という構造を持つ宇宙全体を指す。
• 宗教的意義: 三千大千世界は、一人の仏が教えを説き、衆生を導く範囲とされる。このため「一仏土(いちぶつど)」とも呼ばれる。これは、一人の仏の力が及ぶ教化の領域が、この広大無辺な宇宙全体に等しいことを示唆している。
原語と漢訳
[編集]原語とされる梵: sahāは「大地」を意味し[1]、動詞の梵: sahは「忍ぶ」「堪ふ」を意味する[2]。漢訳では sahā は忍土、忍界、堪忍、堪忍土、娑訶(しゃか)、索訶(さくか)、堪忍(たんにん)、能忍などと訳される[1]。娑婆の原語を梵: sabhāとする場合には、雑会(ぞうえ)と漢訳された[1][2]。
—悲華経 第5巻[2]
日本での用例
[編集]江戸時代になり、吉原などの遊郭では、金さえ出せば身分に関係なく、自由に心ゆくまで遊べるということから、遊郭を「浄土」に見立て、郭(くるわ)の外の世界を娑婆と呼んだ。しかし一方、「籠の鳥」になっている遊女の視点から見ると、郭の中は地獄で、外の世界である「娑婆」こそ、自由に過ごせる人間的な世界である。この「遊女の視点」の意味合いのほうがだんだん一般的になっていき、軍隊や刑務所、閉鎖病棟などの拘束を受ける場所と外の世界を対比して、自由に過ごせる外の世界という肯定的な意味合いで娑婆と表現するようになった。
2017年現在、日本の公娼制度や軍隊は廃止になったが、刑務所や自衛隊(営内居住が義務となる自衛隊員)、社会的入院を強いられる病院、老人ホームなどに対し、外(俗世)の世界を『娑婆』と言うことが多い。