太陽のない街
『太陽のない街』(たいようのないまち)は、徳永直による1929年の日本の小説。1930年に藤田満雄、小野宮吉脚色、村山知義演出で舞台化。1954年6月には日高澄子主演で、山本薩夫監督によって映画化された。
目次
小説の概要[編集]
1929年6月号から雑誌『戦旗』に連載された。作者の徳永が経験した1926年の東京都文京区小石川にある共同印刷(作中では「大同印刷」となっている)のストライキ、いわゆる「共同印刷争議」を題材とした作品である。舞台は小石川区の白山御殿町など、印刷工場の周囲に立地した「不良住宅地区」と呼ばれた貧民居住地で、台地と台地の間の水田や湿地が埋め立てられ、不良住宅地が形成されていく様子が示されている[1]。
あらすじ[編集]
評価[編集]
作品は、ストライキの実態や、労働者側が敗北に追いこまれるという、労働者のたたかいをリアルに描いたことから、発表直後から文壇でも評判になり、蔵原惟人や川端康成が賞賛、連載完結を待たずに、1929年12月に戦旗社から単行本が刊行された。徳永は、この作品で一躍プロレタリア文学の新進作家として認められ、『中央公論』などの総合雑誌にも作品を発表し、専業作家への道を進むことになった。
今日でも、表現の斬新さ、争議を扱った長編としての目新しさが注目される反面、「虚構性」、人物像の形象などで成功していない点があるとの指摘もある[2]。
絶版をめぐって[編集]
戦時体制が厳しくなってきた1937年12月、徳永はこの小説の絶版を表明する。その翌日、中野重治・宮本百合子たちが執筆禁止になったことを見ると、この絶版声明が徳永を執筆禁止から逃れさせたと、浦西和彦は指摘している。戦後、この絶版声明は撤回された。
1950年、岩波文庫に収録の際に、作者による「解説」が付され、当時の状況が回想された。[3]
翻訳と海外への紹介[編集]
1930年にドイツ語版、1932年ロシア語版、1940年にチェコ語版、1954年にルーマニア語版が出版されている。ミシガン大学のヘザー・ボゥエン=ストライク教授らも「The Sunless Street」として研究している。
関連文献[編集]
- 徳永直「『太陽のない街』のころ--弾圧の近代化」『世界春秋』(世界出版社、1949年12月)
- 日本共産党東京都中部地区氷川下細胞「"太陽のない街"の伝統の旗」『前衛』1955年8月)
- 浦西和彦「徳永直『太陽のない街』発表年月・共同印刷争議・設定年月・絶版について」『国文学』(関西大学国文学会、1973年12月)
- 国岡彬一「『太陽のない街』--文体と労働者作家 (プロレタリア文学<特集>)」『日本文学』(日本文学協会編、1976年6月)
- 小田実「小説世界のなかで-6-『人びと(デモス)』を描くということ--徳永直『太陽のない街』」『文芸』(河出書房新社)1978年10月)
- 海野弘「日本の一九二〇年代--都市と文学-10-徳永直『太陽のない街』」『海』(中央公論社)1982年10月)
- 岩渕剛「徳永直--『太陽のない街』とその周辺」『國文學 解釈と教材の研究』(學燈社)2009年1月)
舞台[編集]
- 1930年2月、左翼劇場第14回公演として、藤田満雄、小野宮吉脚色、村山知義演出、築地小劇場で初演[4]
- 同年3月、再演。左翼劇場第15回公演として、築地小劇場で、滝沢修、山本安英、三島雅夫、小沢栄太郎、細川ちか子、高橋豊子、丸山定夫、原泉らの出演で上演。
- 1931年6月、福岡市大博劇場で左翼劇場公演[5]。
- 1946年、新協劇団41回公演として、有楽座で上演。
- 1970年11月、村山知義脚色、東京芸術座第28回公演で上演。
関連文献[編集]
- 正木喜勝「東京左翼劇場の理論と実践−『全線』と『太陽のない街』の上演分析−」『演劇学論叢』5号(2002年12月)
映画[編集]
- 1954年6月24日公開。新星映画製作、独立映画配給。
- チェコスロバキア国際映画祭名誉賞受賞作品。
スタッフ[編集]
- 製作:嵯峨善兵
- 監督:山本薩夫
- 脚色:立野三郎(クレジット上は脚本)
- 撮影:前田実
- 照明:吉沢欣三
- 録音:岡崎三千雄
- 美術:久保一雄
- 音楽:飯田信夫
- 編集:河野秋和
- 製作進行:三木浩
- 監督助手:中村純一、橘祐典、酒井修
- 現像:電通映画社
キャスト[編集]
- 春木高枝:日高澄子
- 萩村:二本柳寛
- 春木加代:桂通子(新人)
- 宮地:原保美
- おきみ:岸旗江
- 父:薄田研二
- 房ちゃん:小田切みき(日活)
- 黒岩:多々良純
- 松太郎の婆:北林谷栄
- 国尾社長:東野英治郎
- 赤木蘭子
- おきみの父:宮口精二
- 原泉
- 高木:永田靖
- 中井:信欣三
- 演説する青年:高原駿雄
- 石塚:加藤嘉
- 井上源一:殿山泰司
- 眼鏡の男:神田隆
- 警視庁特高課長:安部徹
- 大川社長:清水将夫
- 古屋専務:三島雅夫
- 澄ちゃん:徳永街子
- 守山:玉川伊佐男
- 組の男:花沢徳衛
- 田中敬子
- 深見泰三
- 島田屯
- 特高刑事:清水元
- 特高刑事:西村晃
- 中村栄二
- 織田政雄
- 小峰千代子
- 石島房太郎
- 清村耕二
- 戸田春子
- 春日俊二
- 田中筆子
- 織本順吉
- 原ひさ子
- 小栗一也
- 三田国夫
- 今村源兵
- 浜村純
- 望月伸光
- 和沢昌治
- 関京子
- 林孝一
- 大友純
- 山田(大川の秘書):野々村湨(*野々村潔)
- 議長(団交集会):寄山進(*寄山弘)
- 倉田地三
- 垂水悟郎
- 浮田佐武郎
- 後藤陽吉
- 重役:嵯峨善兵(*ノンクレジット)
- 人形製作・出演:人形劇団プーク
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出典[編集]
- ^ 『東京大学が文京区になかったら: 「文化のまち」はいかに生まれたか』伊藤毅、 樺山紘一、 初田香成、 橋元貴、 森朋久、 松山恵、 赤松加寿江、 勝田俊輔、NTT出版, 2018, p101
- ^ 批評を考える会/2009年4月 徳永直『太陽のない街』とその周辺
- ^ なお、2018年の新字・新かな版への改版の際、徳永執筆の文章は「作品について」と改題され、あらたに鎌田慧による「解説」が付された。
- ^ 『太陽のない街』ポスター 法政大学大原社研_OISR.ORG20世紀ポスター展
- ^ 法政大学大原社研_OISR.ORG20世紀ポスター展〔諸運動ポスター117〕諸運動ポスター 左翼劇場『太陽のない街』九州地方公演