天網

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Jump to navigation Jump to search

天網(てんもう、中国語: 天网工程拼音: tiān wǎng)とは、中華人民共和国本土(大陸地区)において実施されているAIを用いた監視カメラを中心とするコンピュータネットワークである[1][2]

名称[編集]

英訳すると、AIの危険性を訴えたジェームズ・キャメロンSF映画ターミネーター』に登場するコンピュータスカイネット」と同名であることから英語圏や日本の一部メディアでは「スカイネット英語: Sky Net)」と呼んでいる[3][4][5][6][7]

概要[編集]

2000年代から中国各地で試験的に導入され[8]2012年首都である北京市でも本格導入が始まって2015年に農村部を除く市内の100%をカバーしたと発表され[9]2018年には16の直轄市自治区で運用されており[10]2020年までの中国全土の導入を目指している[8]2017年貴陽市BBCの記者がシステムを試した際は7分で身元を特定されて拘束されている[11][12]。速度は1秒で中国国民、2秒で全世界の人々を照合可能な毎秒30億回とされ[10]、これと組み合わせるために中国公安部音声指紋虹彩DNAなど他の生体認証のデーターベースも構築しているとされる[13][14][15]。中国では天網と思われるAIネットワークと連動してインターネットの閲覧履歴にもアクセスできる[16]とされるサングラス型のスマートグラス[17]を着けた警察官が100ミリ秒(0.1秒)で容疑者を特定して逮捕にも成功しており[18]、2018年時点で2000人超の犯罪者が天網で逮捕されたという[10]警察犬[7]に擬態したドローン[19]パトカー[20]顔認証カメラが搭載され、5万ボルト[21]テーザー銃を装備した世界初[22]の警察用武装ロボットも顔認証を行いながら群衆を監視している[23][24][25]。2017年時点で中国は1億7000万台の世界最大の監視カメラネットワークを構築しているとされ[26]、監視カメラ業界ではさらに3年での4億台の設置を目指す政府の後押しで急成長した中国企業がシェア世界一となっている[27][28]。また、この顔認証AI技術はアジアアフリカ南米など世界の公的機関にも輸出されており[29][30]、各国で中国のように人権抑圧に利用される可能性が懸念されている[31]

中国ではディープラーニングが国民に対する当局の監視強化を目的に急速に普及しており[32][33][34]、中国は世界のディープラーニング用サーバーの4分の3を占めているとされる[35]。米国政府によれば2013年からディープラーニングに関する論文数では中国が米国を超えて世界一となっている[36]。また、グーグルフェイスブックマイクロソフトなど欧米の大手IT企業相手に国際大会にも優勝する水準のAIデータ処理技術を持つ中国企業「商湯科技」が天網を支えているとされている[37][38][39]。治安対策へのAIの国家規模の本格的利用を中国は世界で初めて表明し[40]、企業や軍で働く中国国民の脳波と感情をヘルメットや帽子に埋め込んだセンサーからAIで監視するシステムも政府は推し進めており[41][42]、中国国外のメディアは「頂層設計」と中国共産党で呼ばれているこの習政権の政策を「デジタル独裁」[43][44][45]「デジタル警察国家」[46]「デジタル・レーニン主義」[47][48][49][50]と評し、中国の国営放送であるCCTVではこのようなAIによる監視社会管理社会化を習近平総書記の功績の1つに挙げている[51]

議論[編集]

中国の反体制派弾圧に利用されていると伝える欧米などのメディアに対し[52][53][54]、中国の国営紙である環球時報は天網は専ら犯罪者に対して利用されていると反論している[55]

中国メディアなどから問題点も指摘されており、化粧アクセサリーを使った顔認識のディープラーニングを欺く手口が挙げられている[56]

出典[編集]

  1. ^ Facial recognition, AI and big data poised to boost Chinese public safety”. 人民網 (2017年12月23日). 2017年10月17日閲覧。
  2. ^ 「天網」が覆う中国の超監視社会”. 日本経済新聞 (2018年6月1日). 2018年6月1日閲覧。
  3. ^ 政府主導で成長、社会「監視」ビジネス”. フォーブス (2017年12月23日). 2017年7月26日閲覧。
  4. ^ 中国14億人「完全管理」ディストピア実現へ 街なかAI監視カメラ+顔認証+ネット履歴+犯罪歴…”. 産経ニュース (2017年12月23日). 2017年12月4日閲覧。
  5. ^ Big brother is watching you! China installs 'the world's most advanced video surveillance system' with over 20 million AI-equipped street cameras”. デイリー・メール (2017年12月23日). 2017年9月30日閲覧。
  6. ^ RPT-China eyes "black tech" to boost security as parliament meets”. ロイター (2018年3月15日). 2018年3月12日閲覧。
  7. ^ a b How artificial intelligence will change the face of security in China”. サウスチャイナ・モーニング・ポスト (2018年3月12日). 2018年3月15日閲覧。
  8. ^ a b 中国の監視カメラネットワーク「天網」--逃亡者を「見逃す」ことも?”. ZDNet (2017年12月23日). 2016年1月12日閲覧。
  9. ^ 中国:北京の監視カメラ網が完成、市街地100%カバー”. newsclip (2017年12月23日). 2015年10月8日閲覧。
  10. ^ a b c AI監視システム「天網」、16省市で運用=毎秒30億回の照合可能、精度99.8%―中国”. Record China (2018年3月26日). 2018年3月26日閲覧。
  11. ^ In Your Face: China’s all-seeing state”. BBC (2017年12月23日). 2017年12月10日閲覧。
  12. ^ 中国AI監視システム、わずか7分間でターゲットを「確保」”. 大紀元 (2017年12月23日). 2017年12月10日閲覧。
  13. ^ “市民のDNA採取を進める中国、その真の構想とは”. ウォール・ストリート・ジャーナル. (2017年12月28日). http://jp.wsj.com/articles/SB12575784894043093953704583601141252296164 2018年2月18日閲覧。 
  14. ^ 中国:少数民族からDNAサンプルを数百万人規模で採取”. ヒューマン・ライツ・ウォッチ (2017年12月13日). 2018年2月18日閲覧。
  15. ^ 中国:音声認証データの収集 プライバシーへの脅威”. ヒューマン・ライツ・ウォッチ (2017年10月23日). 2018年2月18日閲覧。
  16. ^ 中国警察がロボコップ化! 「顔認証グラス」は犯罪者も誤魔化せない”. ニューズウィーク (2018年2月8日). 2018年3月16日閲覧。
  17. ^ AIと顔認証で不審者監視=少数民族の人権侵害懸念も-中国”. AFPBB (2018年2月10日). 2018年2月11日閲覧。
  18. ^ 顔認証メガネで旅行者をスキャン —— 中国、すでに7人を駅で逮捕”. ビジネスインサイダー (2018年2月9日). 2018年2月11日閲覧。
  19. ^ 中国「ニセ鳩」上空から監視する鳥型ドローン すでに30の機関が導入”. 大紀元 (2018年6月28日). 2018年7月16日閲覧。
  20. ^ MITが注目する中国「メグビー」の顔認証技術。双子も見破り中国公安当局も活用”. ハーバービジネスオンライン (2017年4月21日). 2018年2月17日閲覧。
  21. ^ フシンシャハッケン…中国空港に「ロボコップ」が誕生しました”. ギズモード (2016年9月30日). 2018年3月2日閲覧。
  22. ^ China Debuts Anbot, The Police Robot” (英語). Popular Science (2016年4月27日). 2018年3月26日閲覧。
  23. ^ 焦点:中国、ブラックテクノロジー駆使して監視国家構築へ”. ロイター (2018年3月26日). 2018年3月15日閲覧。
  24. ^ Robocops have been deployed in busy city centre in bid to control holiday crowds” (英語). デイリー・ミラー. 2017年10月13日閲覧。
  25. ^ Robocops have been deployed in busy city centre in bid to control holiday crowds” (英語). チャイナ・デイリー (2018年2月8日). 2018年3月1日閲覧。
  26. ^ 中国の監視網がたちまち人を特定 AI付き監視カメラ全国に”. BBC (2017年12月26日). 2017年12月11日閲覧。
  27. ^ 監視カメラ世界トップの海康 急成長”. 日本経済新聞 (2017年12月26日). 2017年11月29日閲覧。
  28. ^ 中国製の監視カメラ、米国の至る所に「目」”. ウォール・ストリート・ジャーナル (2017年12月26日). 2017年11月29日閲覧。
  29. ^ China Is Taking Its AI Around The World. This Should Scare The US”. Medium (2018年8月14日). 2018年9月4日閲覧。
  30. ^ 中国で実用化進む「顔認識AI」が世界に拡散 大幅な効率化も”. フォーブス (2017年12月2日). 2018年5月5日閲覧。
  31. ^ Ecuador’s All-Seeing Eye Is Made in China”. フォーリン・ポリシー (2018年8月9日). 2018年8月11日閲覧。
  32. ^ “顔認証で市民監視、中国の新たなAIツール”. ウォール・ストリート・ジャーナル. (2017年6月30日). http://jp.wsj.com/articles/SB11588421679375374726504583234572468806316 2018年2月7日閲覧。 
  33. ^ “アングル:中国の顔認証技術に活況投資、監視用の需要も後押し”. ロイター. (2017年11月18日). https://jp.reuters.com/article/china-facial-recognition-firms-idJPKBN1DF0PT 2018年2月11日閲覧。 
  34. ^ “中国の「超AI監視社会」--新疆ウイグル自治区では“体内”まで監視!”. 週刊プレイボーイ. (2018年2月3日). http://wpb.shueisha.co.jp/2018/02/03/99109/ 2018年2月11日閲覧。 
  35. ^ “中国、新疆ウイグル自治区で顔認識システム運用をテスト。指定地域から300m以上離れると当局に警告”. Engadget. (2018年1月20日). http://japanese.engadget.com/2018/01/19/300m/ 2018年2月7日閲覧。 
  36. ^ “中国が「AI超大国」になる動きは、もはや誰にも止められない”. WIRED. (2017年8月16日). https://wired.jp/2017/08/16/america-china-ai-ascension/ 2018年2月11日閲覧。 
  37. ^ “AIの世界王者決定戦「ImageNet」で中国チームが上位を独占”. フォーブス. (2017年8月8日). https://forbesjapan.com/articles/detail/17213 2018年2月11日閲覧。 
  38. ^ “中国IT大手の副業:政府に手を貸す情報スパイ”. ウォール・ストリート・ジャーナル. (2017年12月14日). http://jp.wsj.com/articles/SB12451388080357464819004583548930479434870 2018年2月11日閲覧。 
  39. ^ China pours millions into facial recognition start-up Face++”. ファイナンシャル・タイムズ (2017年12月26日). 2017年11月1日閲覧。
  40. ^ 中国がAI活用のテロ対策 6兆8000億円投入の狙い”. NEWSポストセブン (2018年2月18日). 2017年10月8日閲覧。
  41. ^ 労働者の脳波をスキャンして管理する「感情監視システム」が中国で開発されて実際に現場へ投入されている”. GIGAZINE (2018年5月7日). 2018年5月7日閲覧。
  42. ^ 中国企業、脳波ヘルメットで従業員の「感情」を監視”. MITテクノロジーレビュー (2018年5月7日). 2018年5月1日閲覧。
  43. ^ China’s digital dictatorship”. エコノミスト (2018年7月31日). 2016年12月17日閲覧。
  44. ^ 中国「デジタル独裁」、結末は小説を超えるか”. ウォール・ストリート・ジャーナル (2018年7月31日). 2018年3月2日閲覧。
  45. ^ 中国の全人代が開幕 デジタル独裁に進む隣国”. 毎日新聞 (2018年7月31日). 2018年3月6日閲覧。
  46. ^ Does China’s digital police state have echoes in the West?”. エコノミスト (2018年6月8日). 2018年7月31日閲覧。
  47. ^ 習近平氏、「ビッグデータ独裁」の中国目指す”. ウォール・ストリート・ジャーナル (2017年10月18日). 2018年7月31日閲覧。
  48. ^ 「デジタル・レーニン主義」で中国経済が世界最先端におどり出た”. 現代ビジネス (2018年3月30日). 2018年7月31日閲覧。
  49. ^ デジタル・レーニン主義、ビッグデータとAI活用、中国で構築進む壮大な社会管理システム”. Record China (2018年5月29日). 2018年7月31日閲覧。
  50. ^ マルクスの夢 中国の夢(大機小機)”. 日本経済新聞 (2018年5月29日). 2018年7月31日閲覧。
  51. ^ 中国のAI犯罪者追跡システム「天網」に物議…2000万台の監視カメラとDBが連動”. ROBOTEER (2017年12月23日). 2017年9月30日閲覧。
  52. ^ 时事大家谈:从采集DNA到天网工程,管控犯罪还是管控社会?”. ボイス・オブ・アメリカ (2017年12月23日). 2017年12月19日閲覧。
  53. ^ 中国 AI監視カメラシステムで国民監視 犯罪検挙には使われず”. エキサイト (2017年12月23日). 2017年9月29日閲覧。
  54. ^ 人工知能監視システムを実現 ビッグブラザー社会に向かう中国”. 大紀元 (2017年12月23日). 2017年10月2日閲覧。
  55. ^ Western report on Skynet bigoted, fatuous”. 環球時報 (2017年12月23日). 2017年12月10日閲覧。
  56. ^ 中国に広がる自動顔認識システムとそれを欺くファッション技術”. THE ZERO/ONE (2017年12月23日). 2017年12月4日閲覧。

関連項目[編集]