天正かるた
天正かるたとは、16世紀、ポルトガルより日本に伝えられたカードゲームを国産化したもの。「カルタ」とは、ポルトガル語で「カード」を意味する。いわゆるトランプの一種である。この系統のカードの総称として「天正かるた」あるいは「天正系」と呼ばれ、これは天正年間に製造され始めたことに由来する。またこれを使った遊技法として「テンショ」「テンシュ」などの呼称にもなっている。
棍棒(波宇/巴宇)、刀剣(伊須波多/伊須/伊寸)、金貨(於宇留/於留/遠々留)、聖杯(古津不/骨扶/乞浮)の4種類の紋標(スート)、1(豆牟(ツン)/虫)から9までの数札と女王(十)、騎馬(馬/牟末)、国王(切/岐利/腰)の絵札で構成される計48枚。最初はラテン系(イタリア、ポルトガル、スペイン)のカードの忠実な模倣であったが、国王や騎馬の鎧兜が日本の武士のように変化して、やがて「うんすんかるた」や「すんくんかるた」のように枚数を拡張して多人数が遊べるように対応したかるたも作られた。
兵庫県芦屋市滴翠美術館には、「天正かるた」の棍棒の国王の札が唯1枚所蔵されており、その札の裏面には「三池住貞次」の文字が入れられていることから、九州、三池(福岡県大牟田市)を日本のかるた発祥の地として「三池カルタ・歴史資料館」が設立されている。神戸市立博物館には、重箱に作り替えられた版木が残存しているため、図像の全貌を窺うことができ、これをもとに復刻版も作られている。
変遷[編集]
16世紀のポルトガルやスペインのカードは、「ドラゴンカード」といわれ、1の札には西洋の竜を描き、刀剣と棍棒では竜と格闘している様子を、また、棍棒の2には男性の人物を入れるなど、他の国のカードにはほとんど見られない特徴を持っていた(w:Spanish playing cards#Extinct Portuguese pattern参照)。初期の「天正かるた」はこの特徴を忠実に模倣しているが、天正系のカードとされる後世の札は、徐々に日本風に変化していった。「うんすんかるた」に竜や女性が描かれるのはこの名残であるが、やがて元の絵を想像することは到底困難と思われるほどにデフォルメされていく。これは、仏壇に置いてあった「天正かるた」から、キリシタンではないかと疑われて大騒ぎになるという事件が起こったりしたため、こういった誤解を避けるため、意図的に聖杯の図像は天地を逆に描かれるようになった。またトリックテイキング系の技法が「うんすんかるた」に集約され、「読み」や「めくり」の技法においては4つの紋標を明確に識別する必要がないこと、そして、安価に早くかるたを製造するために簡略化していったものと考えられる。
製造元による各地への物品流通事情により、「地方札」と呼ばれる様々な札が生み出され、ローカルルール化が促進され、個別の技法が考案されていった。また、カブやキンゴの技法に特化するため、4スートから1スートになったものもあり、これは現在も販売される「株札」に継承されている。
これら「地方札」は、明治35年(1902年)の骨牌税の導入によって売り上げが激減した。さらにはかるたの製造数を監視するために綿密な帳簿作りが課せられ、弱小製造元は廃業に追い込まれていった。その後、京都や大阪を中心とする製造元が地方の需要に応えていったが、これらも昭和中期までには生産を中止していった。一部の札は現在でも入手が可能ではあるが、これは研究者やコレクターを対象に復刻されたものがほとんどで、実際に遊ぶために販売されているのは「株札」のみといっていい。尚、地方札の名称は、京都や大阪を中心とする製造元が品名を識別するために使用した業界用語であるため、実際の使用地における呼称ではない場合がほとんどである。
種類[編集]
4スート系[編集]
棍棒、刀剣、金貨、聖杯の4スート各12枚計48枚+鬼札、白札等。
- 小松(こまつ) 1~12 計48枚 福井県・和歌山県で使われていたが、現在は福井県の2地区で別々の技法で遊ばれている。福井県越前市の矢船町カルタ保存会によって伝承、保存されてきたが現在は解散している。京都の松井天狗堂の全面支援の元、平成8年、9年、11年の三度復刻された。「最後の読みカルタ」として、デザイン的にも歴史的にも周知されている。技法も読み系「カックリ」、めくり系「ジュウダン」、合わせ系「シリンマ」と多彩で公開されている。本来48枚構成であるが、鬼札・白札を入れて50枚構成のものもある。一は「龍」、十は「従卒」、十一は「馬」、十二は「王」の絵文字をデフォルメしたものが書かれている。
- 赤八(あかはち) 1~12 鬼札 白札 計50枚 近畿、中国、四国地方、宮崎。技法「タオシ」が有名である。めくり札とも呼ばれる。
- 伊勢(いせ) 1~12 幽霊札 計49枚 「東海のシーラカンス」の異名を持ち、愛知・岐阜を中心に広範囲の地域で遊ばれ、丸八とも呼ばれていた。司法資料第121号に詳しく記載されている。めくり系「テンショ」、読み系「ショッショ」「イスリ」など技法も多彩である。
- 三ツ扇(みつおうぎ) 1~12 鬼札 計49枚 北陸地方と北海道。何故か「岩伍覚え書」(宮尾登美子、昭和52年)の函に中尾清花堂製のデザインが採用されている。
- 福徳(ふくとく) 1~12 鬼札 白札 計50枚 福井、石川、富山、長野、群馬、栃木。めくり技法「テンシュ」「八十八」「千十(セントウ)」が確認されている。
- 惣金福徳(そうきんふくとく) 1~12 鬼札 白札 計50枚 北陸地方。福徳をベースに全ての札に銀彩が施されている。
- 桜川(さくらがわ) 1~12 白札 計49枚 石川、富山。四の第三札(金貨)に商標が描かれる。六の札にも書いてある場合があるが、特に加算役にはならない。
- 黒馬(くろうま) 1~12 馬札 白札 計50枚 新潟、静岡、岩手、青森、北海道。
- 黒札(くろふだ) 1~12 鬼札 計49枚 青森、岩手、北海道。技法「どんちく」をはじめ、めくり系技法「めくりっこ」も最近発見された。
- 金極(きんぎょく) 1~12 鬼札 計49枚 岡山、鳥取。2008年岡山県の旧家から出てくる。パオの5に金彩で千成瓢箪が描かれていることから「千成」の異名を持つ。
- 馬かるた(うまかるた) 1~12 鬼札 計48枚 秋田、山形。
1スート系[編集]
- 金貨(豆といわれる)
- 九度山(くどやま)1~12 各4枚 鬼札 白札 計50枚 和歌山、香川、島根、鳥取。技法「金吾/キンゴ」。十から十二までは絵札[1]。二に特殊札がある。
- 大二(だいに)1~10 各4枚 鬼札 蔵札(地蔵) 白札 計43枚 おもに九州地方。めくり系技法「九十六/クジュロク」[2]。三と四の札のうち特殊札(背景が赤の札)が一枚ある(画像参照)。三をすべて取ると「三役(さんやく)」、四をすべてとると「四役(しやく)」という点数計算に上乗せできる加点役になる。二の札は四枚全部が特殊札で、一枚が十点(トランプでいう絵札扱い)となっている。
- 小丸(こまる)1~10 各4枚 鬼札 白札 計42枚 おもに中国地方。技法「ヨシ」。手本引の豆札(まめふだ)にデザインが受け継がれる(手本引の繰り札の一から六)[3]。
- 目札(めふだ)1~10 各4枚 鬼札 白札 計42枚 おもに四国地方。大二札と似ているが、三の札の並びが「左上から右下」と反対になっている。
- 棍棒(筋といわれる)