大気圧潜水服

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大気圧潜水服
1710年代に John Lethbridge が作った装備
Carmagnolle兄弟が作った装備

大気圧潜水服(英語;Atmospheric diving suit、略称ADS)とは、潜水士スキンダイビングスクーバダイビングより深く深海潜水するために身に着ける潜水用具である。水圧の影響を受けないよう硬くて機密性のある全身を覆う形状をしている。

概要[編集]

人間が潜水する方式には、大きく分けて2種類存在し、それぞれを「軟式潜水(環境圧潜水)」と「硬式潜水(大気圧潜水)」という。軟式潜水(環境圧潜水)とは、水圧に晒された状態で潜るスキンダイビング等を言う。硬式潜水(大気圧潜水)は、人間が水の影響から保護され、通常の大気圧で活動できるような潜水艦や大気圧潜水服によって潜る方式の事である[1]

そのままの状態で潜れるため、特別な混合ガスは必要なく、環境圧潜水で起きる減圧症窒素中毒なども起きない[2]

関節部の自由度が低く重いので行動には制限がかかり、使用環境の温度などの問題も受ける[3]

素材[編集]

歴史[編集]

初期[編集]

1715年に、イギリスの発明家 John Lethbridge が発明した。この装備は1719年に水深 60フィート(18 m)まで潜り、難破船から銀を回収するのに使用された[4]。木製の樽から手だけ出せるような構造であった。

関節部をアコーディオンジョイント(蛇腹関節)としたものが、イギリス人 W. H. Taylor によって1838年に設計された。バラストタンクで浮き沈みの制御も考案したが、当時の技術では重さと嵩張りのためなのか生産はされなかった[4]

1856年に完全に密閉された大気圧潜水服が、Lodner D. Phillipsによって設計された。樽の端がドーム状で、関節部にはボールジョイントとソケットジョイントが使用され、肩と肘、膝と腰が動くようになっていた。のぞき窓、バラストタンク、出口、手動クランクプロペラ、地上から空気を送り込む部分などが備えられていたが、実物は作られなかったようだ[4]

1882年にフランスのマルセイユにいたCarmagnolle兄弟によって、きちんとした人間型の大気圧潜水服が作られた。関節が、それぞれの脚に4つ(両足8か所)、腕に6つ(両腕12か所)、ボディに2つの計 22か所あった。ただ関節部は完璧な防水にはなっていない。

近代[編集]

ヴィクトリア朝には、多くの大気圧潜水服が設計製造されたが、いずれも水圧がかかった状態でスムーズに動かせる水密性を維持できる関節が実現できなかった。それが打開されたのが、Joseph Salim Peress が1932年に開発した 軽量なマグネシウムと油を使用した関節を採用した Tritoniaスーツである。

しかし、1940年代から1960年代まで大気圧潜水服の開発は、環境圧潜水の生理学的問題を解決することで深海に挑むことに注力する時流によって停滞した。スキューバ装備の開発は著しいものがあったが、やがて限界を迎えたことで再び大気圧潜水服が日の目を浴びるようになった。そしてTritoniaが倉庫から約30年ぶりに掘り起こされた。Peressは、著名ダイバーである Jim Jarret の名前を冠した大気圧潜水服を開発する会社からのオファーを受諾した[5]。そして1971年11月に最初のモデルが開発され、1974年に実用化されたのが、JIM suit英語版である。

ギャラリー[編集]

出典[編集]

  1. ^ 野澤徹, 「ダイビングで使う呼吸ガスについて」『Medical Gases』 16巻 1号 2014年 p.15-22, 日本医療ガス学会, doi:10.32263/medicalgases.16.1_15
  2. ^ WASP Specifications”. 2014年2月27日閲覧。
  3. ^ 楢木暢雄, 毛利元彦「大気圧潜水の現状と操作者の生体負担 (PDF) 」 『海洋科学技術センター試験研究報告』第36号、海洋科学技術センター、1997年9月、 53-61頁、 ISSN 0387382XNAID 40004227048
  4. ^ a b c Then and Now: Atmospheric Diving Suits”. UnderWater magazine (March-April 2001). 2008年12月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年3月18日閲覧。
  5. ^ Carter Jr, RC (1976). “Evaluation of JIM: A One-Atmosphere Diving Suit”. US Navy Experimental Diving Unit Technical Report NEDU-05-76. http://archive.rubicon-foundation.org/4790 2008年7月22日閲覧。. 
  • Harris, Gary L (1995). Ironsuit: The History of the Atmospheric Diving Suit. Best Pub. Co.. ISBN 0-941332-25-X 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]