外向性と内向性
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外向性と内向性(がいこうせいとないこうせい)は、性格の理論(人格心理学)における主要な特性の軸である。外向性 (extraversion) と内向性 (introversion) という用語は心理学者のカール・グスタフ・ユングによって大衆化され[1]、それらに対するより世間一般的な理解と心理学的な用法は、彼独自の意図によって異なってくる。外向性は、社交的、話好きであり、活発な振る舞いをする傾向がある一方、内向性は、孤独な振る舞いをし、外向性と比較してもっと控えめな傾向がある[2]。外向性と内向性は、比較的一つの連続体とみなされるが故に、一方が高くなるためには、もう片方を低くせねばならない。事実上、人格を表す総合的なモデルは、後述する様々な形を含んでいる。例としては、特性五因子論(ビッグファイブ)、ユングの分析心理学、ハンス・アイゼンクの三因子モデル、レイモンド・キャッテルの十六の人格因子、ミネソタ多面人格目録、そしてMBTIなどがある。
カール・ユングとMBTIの開発者らは、それぞれ異なった視野を展開しており、全ての人間は外向的な面と内向的な面のいずれも持っていて、かつ、どちらか一方はもう一つに対して支配的な傾向がある。しかし、ユングは対人的な振る舞いに視点を置かず、内向性は「精神的な内観的事象に興味を引いているのが特徴の態度・姿勢」(内面的な精神的活動に、視点を置いている)、また一方で外向性は、「外部のオブジェクトに対し興味の焦点が存在するという特徴を持つ態度・姿勢」(外部の世界に視点を置いている)と定義している[3]。
多様性[編集]
外向性[編集]
外向性は、外界の自分に対して第一に満足感を得る状態のことである。外向型の人は、人間同士の相互作用を楽しみ、あることに熱狂的かつ、おしゃべりであり、はっきりと主張しつつ、また他人と群れることの多い傾向がある。外向性の人は、他の人々の周囲にいることで精力的に活動し、繁栄する。またそれらの人々は、大きな社会的集団ー例えば、パーティー、を付き物とし、地域社会の活動、公共のデモ活動、およびビジネス・社会的な集団などであるーを付き物とすることに対して満足を得る。また、それらの人々はグループで作業する傾向もみられる[4]。外向型の人は、人々と過ごした時間を楽しむ場合を有り得、一人で時間を過ごした際の報酬は少なくなってくる。そのような人々は、他の人の周りにいるときに活気づけられる傾向がある。彼ら自身のみが居る場合、退屈しがちな傾向がある。
内向性[編集]
内向性とは、自分自身の精神状態に大部分は関心がある一面のことである[5]。内向型の者は、一般的に、控えめで内省的と知覚される[4]。いくらかの心理学者たちは、内向性の人々は、心理的なエネルギーが、自己の熟考を通して心身に拡大し、また他人との相互作用の間中ずっとそれは減少してゆく。これはユングの見方と似ているが、彼は物理学的なエネルギーとは違って精神的なエネルギーに焦点を当てていた。近代の少数の見方は相違を生み出している。
内向型の者は、読書、作文、コンピュータの使用、ハイキングおよび釣りなどといった独りでの活動にしばしば喜びを感じる。ライター、彫刻家、科学者、エンジニア、作曲家、発明家などといった原型的な人々のほとんどは、専ら内向的である。そういった人は時間を独りで過ごしやすく、また多くの人々と過ごした際の時間の報酬は少なくなりやすい。信頼は、内向型の者における最大の重要な美徳とは、価値ある人間関係を選ぶことであるといった意味では、重要な問題となる。彼らは孤立した活動や、あることに加わる前にその状況ーとりわけ、発達している幼児や青年期の人たちの状況ーを観察することを好む傾向がある[6]。内向者は、人としゃべる前はより分析的となる[7]。社会からの過大な勇気付けおよび刺激によって、閉口しやすいことがわかっている。
極端な人見知りのせいで内向者がミスをする、というのは一般的な誤解である。内向性は単なる選好である一方、内気というものは精神的な苦痛から生じる。内向者は社会的活動において孤独を好むが、「内気な」人々の如く、偶然知り合いと出会うことを怖がることが必ずしもあるわけではない[8]。スーザン・ケイン曰く、近代の西洋文化は、内向型の者の能力を誤って判断しており、それは才能、エネルギー、幸せの無駄につながっていると主張している[9]。彼女は、現代の社会が内向者に対して偏ったものとなっており、また、子供のころから社交的になるよう教育された人は将来幸せになると述べた上、内向性というものは、「失望と病理のあいだ」と考えられているとケインは述べている[10]。対照的に、ケインは内向性は「第二の面」ではなく、内向性の著名人であるJ・K・ローリング、アヴィーチー、[要出典]アイザック・ニュートン、アルベルト・アインシュタイン、マハトマ・ガンディー、ドクター・スース、ウィリアム・バトラー・イェイツ、スティーヴン・スピルバーグ、ラリー・ペイジなどといった内向者を例に、内向者と外向者の両方は社会を豊かにするとも述べている[10]。
両向性格[編集]
世間一般における内向型・外向型の区別は相互的に相容れない関係にあるが、より同時代寄りの形質理論は、連続的なパーソナリティーの一つとして内向型・外向型のレベルを測定する[11]。両向性格者は、集団および人との相互作用において適度に心地よさを感じるのみならず、人ごみから離れて独りで時間を過ごすことをも愉しむ。より簡単に言うと、両向性格者とは、その場に応じて振る舞い方を変化させる人である。
ファセット[編集]
外向性のファセットは次のようになっている。
低い値の人の記述 | 高い値の人の記述 | |||
---|---|---|---|---|
説明 | 言葉 | ファセット | 言葉 | 説明 |
ゆったりしたペースの生活が好き。 | のんびり | 活発度 | 精力的 | スケジュールに予定が多く埋まっていて忙しい状態を好む。 |
特にグループの中では、話すより聞くほうが好き。 | 控えめ | 自己主張 | 強い自己主張 | 意見をはっきり述べ、場を支配する。グループを先導することに満足を覚える。 |
いつも真面目で、冗談をあまり言わない。 | 険しい | 明朗性 | 陽気 | 楽しい人で、その楽しさを人と分かち合う。 |
静かで、穏やかで、安全なことを好む。 | 平穏を求める | 刺激希求性 | 刺激を求める | リスクを負うことに興奮を覚え、いろいろ起こらないと退屈に感じる。 |
内向的で、人と打ち解けない。 | 遠慮がち | 親しみやすさ | 外向性 | すぐに友達ができ、人といると満足する。 |
自分に時間を使いたいと強く思う。 | 独立心が強い | 社交性 | 付き合い上手 | 人と一緒にいることを楽しむ。 |
相対的な普及[編集]
アメリカのライターであるスーザン・ケインによると、米国の人口のうち33-50%が内向者であると示した[12]。特有の部分母集団は高い普及率を有しており、そういったことは6000科目のMBTIを基にした世論調査の結果、弁護士の60%、知的財産権の代理人の90%は内向者であることが判明したことからもいえる[13]。
測定法[編集]
外向性と内向性の範囲は多くの場合、自己報告式の尺度によって測定されるほか、同じ地位にいる人々若しくは第三者による報告法も用いられる。自己報告式の尺度は、陳述[2]および語彙[14]が基になっている。尺度のタイプは精神測定的な対象者の性癖に対する評定や、実施されている研究のその時間や場所における窮屈感などによって決定される。
語彙的測定法はそれぞれにあった、外向者および内向者の内面を反映するような形容詞(「社交的」、「おしゃべり」、「控えめ」や「大人しい」などといったような言葉)を用いる。このとき、内向性を指しているような言葉は、被験者に連続している内向性・外向性の混合した尺度を創り出す為に暗号化される。
陳述式測定法は極めて沢山の単語から成り立っている傾向があり、それゆえに語彙的測定法よりも多くの場所を利用する。この場合、答弁者は、例えば「パーティー会場にいるときにより多くの違う人たちとおしゃべりを交わす」のか、あるいは、「他の人々がいることにある種の不愉快さを感じる」のかという風な、いわば「心の広さ」を尋ねられる[14]。陳述式の内向性・外向性を推し量る尺度は、北米の人々における語彙的測定法への精神的な意欲等を測定するのに対して向いている一方、一般的に北米の人々には文化相的な発達が見られる以上、他の地域と国家の人民に対して利用するのには向いていない面も存在している。[15]その例を挙げれば、パーティー会場において他人とよくしゃべるか否かを問う陳述式測定法は、アメリカ人こそそうあるものの、パーティーに参加しないような一部の人々は意味ありげに答えることが難しい。その上、植民地時代からの北米の言語による陳述の測定法は、外国人にアメリカ以外の国で測定しにくい効果ももたらす。例えば、目立たぬ場所で閉じこもったり、人々を魅了する方法を問うやり方はネイティヴではない英語話者にとって、「言葉の意味」以外の視点では到底理解しにくいのである。
アイゼンクの理論
心理学者のハンス・アイゼンクは個々人の「外向性・内向性」の等級を、いかに他人に対して社交的あるいは相互作用的であるかと定義づけた。こういった振る舞いの違いは、脳の生理機能の根本的な違いの結果とされている。[16]彼は皮質における抑制と、脳幹の通り道における上行性網状活性化システム(ARAS)に由来する刺激とを結びつけて論じた。[17]外向者は、その人たちの覚醒差を高めるために興奮と社会的な活動を努力して捜し求めるタイプである一方、内向者は、こういう覚醒を最小限にとどめようと、先述したような事柄を避けることに努力する傾向がある。アイゼンクは外向性のことを、「精神異常」や「神経質」などの特色を含んでいる、彼が発明したP-E-Nモデルのパーソナリティー特性の一部分であると明示した。
また彼は独自に、外向性というものは「一時的な感情の駆られやすさ」と「社交性」といった性癖が合わさったものであるとも暗示しており、後に、彼は活発さ、活動のレベル、興奮性といった複数の特性をも加えて説明している。これらの特性は、週末にパーティーへ行くという感じの習慣的な反応以上に目立つ、本人のパーソナリティー階層にいっそう関係するものとしている。
アイゼンクは、外向性を古代の医学の四大気質における「癇癪持ち」と「多血質(血色がよくて元気はつらつであるさま)」の特性、内向性を「冷静」と「憂鬱」の特性と同等にみなしている。[18]
生物学的な相違[編集]

外向性のレベルを定める生まれか育ちかの相対的な重要性は論議の的となりやすく、多くの研究で焦点となっている。双子の研究は、こういった相違にには39%~58%の遺伝子的要素が関わっていることを発見した。環境要素の観点から云うと、家族内で共有されている環境は、共有されていない個人的な環境よりも、ずっと重要性に欠けるというのが実態である[19]。
アイゼンクは、外向性を皮質覚醒の変動性に由来すると提案している。彼は内向者は外交者より活動のレベルが高いことを特徴としているので、外向者よりも慢性的に皮質が強く覚醒していると仮説を立てた。内向性よりも外向性がより多くの外部刺激を必要とすることは、この仮説の証拠として解釈されてきた。「外部の刺激」説に関する別の証拠は、一滴のレモン汁に反応した内向者は、外向者以上の唾液を分泌することである。これは、食物や社会的接触に反応する、脳の網状活性化システムの活動が増加しているためである[20]。
参考資料[編集]
- ^ Jung, C. G. (1921) Psychologische Typen, Rascher Verlag, Zurich – translation H.G. Baynes, 1923.
- ^ a b Thompson, Edmund R. (2008). “Development and Validation of an International English Big-Five Mini-Markers”. Personality and Individual Differences 45 (6): 542–8. doi:10.1016/j.paid.2008.06.013.
- ^ Jung, Carl (1995). Memories, Dreams, Reflections. London: Fontana Press. pp. 414–5. ISBN 0-00-654027-9
- ^ a b “Extraversion or Introversion”. The Myers & Briggs Foundation. 2018年11月13日閲覧。
- ^ Merriam Webster Dictionary.
- ^ Introversion Gale Encyclopedia of Childhood & Adolescence. Gale Research, 1998.
- ^ Laney, Marti Olsen (2002). The Introvert Advantage: How to Thrive in an Extrovert World. Workman Publishing. ISBN 0-7611-2369-5.
- ^ All About Shyness Meredith Whitten, Psych Central, August 21, 2001; Accessed 2007-08-02
- ^ Susan Cain. “Quiet: The Power of Introverts in a World That Can't Stop Talking”. www.cbsnews.com. 2015年10月5日閲覧。
- ^ a b “Book Review: Quiet: The Power of Introverts in a World That Can't Stop Talking by Susan Cain”. 2015年10月5日閲覧。
- ^ The OCEAN of Personality Personality Synopsis, Chapter 4: Trait Theory. AllPsych Online. Last updated March 23, 2004
- ^ Cain, Susan (2012), Quiet: The Power of Introverts in a World That Can't Stop Talking at page 3 (Introduction) and page 280 (note 11). • Goudreau, Jenna, "The Secret Power Of Introverts" (WebCite archive), Forbes, January 26, 2012.
- ^ Gordon, Leslie A. (2016年1月1日). “Most lawyers are introverted, and that's not necessarily a bad thing”. ABA Journal. 2016年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月13日閲覧。
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