コンテンツにスキップ

土圧

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

土圧 (どあつ、英語: earth pressure)とは、地盤内におけるによる圧力のことで、状態によって水平土圧の値が変化する。擁壁に裏込めされた土により、擁壁には土圧が作用する。擁壁が転倒しないように設計を行うためには、土圧の算定が重要となる。

歴史

[編集]

クーロンの土圧理論

[編集]

1763年パリ条約でイギリスと講和をむすんだフランスは、その際、イギリスに占領されていたマルチニク島が返還され、その破壊された城と町とを再建しなければならなくなった。[1]1764年に再建案がまとまり、一団の軍技術者達がブレスト港からマルチニク島に向けて出港した。[1]その時1人の技術者が病気で倒れ、その代わりとしてクーロンが指名され、急遽赴任させられることになった。[1]

このマルチニク島におけるフォート・デ・フランスフランス語版(後のFort Desaix)の築城工事は大工事であった。その上、疫病の流行により技術者達が次々と倒れたため、当時27才のクーロンが実質的な責任者として城を完成させなければならなかった。彼は後にこの工事について、以下のように述べている。[1]

私は8年間、ほとんど唯一人で1200人もの人達を使いながら、フォート・ブルボン(後のFort Desaixのこと)の工事の責任者だった。この工事の最中に、しばしば仮定にもとづく計算や、小さなモデルによる実験をもとにした理論が、実際にはいかに不十分な指標にすぎないかということを経験させられた。そのため私は、技術者として事業に使えそうな、あらゆる分野の研究に、毎日毎日打ち込んでいた

1772年にマルチニク島から本国へ帰ったクーロンは、ブーシャン英語版で軍の勤務についた。[1]この翌年の1773年、マルチニク島での研究をもとに、フランス本国へ帰ってきて最初に発表した論文が、有名な土圧論の論文、『建築学に関して、静力学問題における最大・最小原理の応用について(Essai Sur une application des règles de Maximis et Minimis à quelques Problèmes de Statique, relatifs à l'Architecture)』である。[2]この論文は、最大・最小原理という統一的な観点から、さまざまな力学的問題を解いたものであり、「土圧論」もその一つの応用例であった。[2]この最大・最小の原理については、ダニエル・ベルヌーイレオンハルト・オイラーなどの後に変分法に発展する業績に影響を受けたものと思われる。[3]後にサンブナン英語版が認めていたことであるが、クーロンの論文は豊富な内容が非常に簡潔な形で書かれていたため、そのほとんどが専門分野で見落とされていた。[3]

現在、我々が一般にクーロンの土圧公式と呼んでいるのは、ミュラー・ブレスロー英語版が1906年に記したものである。[4]

ランキンの土圧理論

[編集]

いわゆる「ランキンの土圧論」が書かれたのは、ランキンがグラスゴー大学に着任したその翌年で、さらにその翌年、1857年、王立学士院の紀要(Philosophical Transactions)に、『緩い土の安定について(On the Stability of Loose Earth)』という題で掲載された。[5]このときランキンは37歳であり、これはクーロンが土圧論を発表したのと同じ年齢であった。[6]

この論文の内容は、彼が大学に勤めるようになり、講義の準備の際に土木工事や石工工事の安定について数学的な理論を再検討しているときに考え出したと述べている。[7]ランキンは父が顧問をしていたカレドニアン鉄道会社が進めていたいくつかの鉄道の建設に携わっていたことがあった[5]が、このときに擁壁に作用する土圧に関わりを持ったと考えられる。[7]

土圧と水圧の違い

[編集]

静止した状態にある水において、ある点における水圧はどの方向からも等しい大きさであり、水の単位体積重量にその点よりも上にある水の高さを乗ずることで得られる。土圧の場合、鉛直方向に関しては土の単位体積重量に深さを乗じた値が土圧となり、これは水と同様である。一方、水平方向は、土の単位体積重量に深さを乗じた値の0.4~0.7倍が土圧となる。土の状態によって水平土圧の値が変わり、それぞれ主働土圧、受働土圧、静止土圧と呼ばれる。

土圧の種類

[編集]
水平土圧と変位の関係

土圧の種類は3つあり、以下の通りである。

主働土圧
鉛直応力が卓越して土が破壊する時の水平土圧
受働土圧
水平応力が卓越して土が破壊する時の水平土圧
静止土圧
地盤内で静止している時の水平土圧

水平土圧と変位の関係は右図の通り。 また、地盤の状態はそれぞれ下図の通りである。それぞれは静止土圧係数、主働土圧係数、受働土圧係数である。

それぞれの地盤の状態

主働土圧と受働土圧の計算方法は2つ存在し、それぞれランキン土圧、クーロン土圧と呼ばれる。かつてはテルツァギの土圧図表による土圧計算も多く用いられていたが、現在はほぼ用いられていない[8][9]

ランキン土圧

[編集]

ランキン土圧を算出する時は下記のような仮定を用いている。

  1. 擁壁は考えない。(擁壁の摩擦及び形状は考えない。)
  2. 塑性平衡状態となる。モール・クーロンの破壊規準に従う。
  3. 傾斜角を考慮しない。
主働土圧の時の地盤の状態
主働土圧状態
モール・クーロンの破壊規準の主応力表示は下記の通りである。
主働土圧の時、最大主応力は、で最小主応力は、なので、上式に代入すると、以下の式を得る。
上式をについて整理する。
また、主働土圧係数を用いて上式を書く。
・・・・①
受働土圧状態
受働土圧の時の地盤の状態
モール・クーロンの破壊規準の主応力表示は下記の通りである。
受働土圧の時、最大主応力は、で最小主応力は、なので、上式に代入すると、以下の式を得る。
上式をについて整理する。
また、受働土圧係数を用いて上式を書く。
・・・・・②

クーロン土圧

[編集]

クーロン土圧を算出する時は下記のような仮定を用いている。

  1. 粘着力の無い砂質土を対象とする
  2. 壁体の背後の土の中に直線状の滑り面が生じ、くさび状の土塊が滑り面に沿って動く

クーロン土圧はランキン土圧よりも適用範囲が広く、壁体との摩擦、壁体の傾斜、背後の地表面の傾斜も考慮している。

主働土圧状態
クーロンの主働土圧計算時の地盤の状態は下図の通りである。
主働土圧の時の地盤の状態
主働土圧の時の連力図
右図を連力図という。土のくさびの重量は既知。3つ力のベクトルが閉じた 三角形になるように主働土圧の合力と滑り面に作用する力の大きさを決める。その時のが滑り面の角度となる。
(土と壁体の摩擦角内部摩擦角は既知、は土や擁壁の形を決めるものなので既知)
連力図に着目すると、正弦定理より以下の関係式を得る。
したがって、は以下の通り。
は土の重さなので別途計算する必要がある。
つまり、土塊の体積を計算し、土の単位体積重量を乗ずればよい。
この時、土の体積は単位奥行きあたりの体積であるので、実質的には土くさびの面積を求めればよい。
右図より土くさびの面積は以下の通りとなる。
土くさびの面積
また、正弦定理より以下の関係式を得る。
を壁体の高さを用いて表す。
以上より土くさびの面積は以下の通りである。
したがって、土の重さは以下のように得られる。
つまり、クーロンの主働土圧は以下のように導かれる。
の最適解は極限定理の上界定理の考え方からを最大とする時のとなる。
すなわち、以下の関係を満たす時のが最適解となり、その時のがクーロンの主働土圧となる。
クーロンの主働土圧は以下の通りである。
受働土圧状態
クーロンの受働土圧計算時の地盤の状態は下図の通りである。
受働土圧の時の地盤の状態
主働土圧と同様に連力図を用いて解く。正弦定理より以下の関係式を得る。
受働土圧の時の連力図
したがって、は以下の通り。
また、右図より土くさびの面積は以下の通りとなる。
土くさびの面積
また、正弦定理より以下の関係式を得る。
を壁体の高さを用いて表す。
以上より土くさびの面積は以下の通りである。
したがって、土の重さは以下のように得られる。
つまり、クーロンの受働土圧は以下のように導かれる。
の最適解は極限定理の上界定理の考え方からを最大とする時のとなる。
すなわち、以下の関係を満たす時のが最適解となり、その時のがクーロンの受働土圧となる。
クーロンの受働土圧は以下の通りである。

ランキン土圧とクーロン土圧の相違

[編集]

ランキン土圧における仮定は、以下の通りである。

この時主働土圧および、受働土圧は以下のように得られる。

主働土圧
先ほどと同様に上界定理を用いる。
この方程式を解くと、は次のように得られる。
この時の主働土圧は次のように得られる。
受働土圧
先ほどと同様に上界定理を用いる。
この方程式を解くと、は次のように得られる。
この時の受働土圧は次のように得られる。

ランキン土圧とクーロン土圧は一見違う理論のように見えるが、実は同じである。ただし、適用できる対象がやや異なるので下に表にしてまとめた。

ランキン土圧とクーロン土圧の違い
壁体との摩擦壁体の形地盤の形土材料土の内部摩擦
ランキン土圧 考慮しない考慮しない考慮しないc,考慮する
クーロン土圧 考慮する考慮する考慮する材のみ考慮する

参考文献

[編集]
  • 石原研而『土質力学』丸善、2001年。ISBN 978-4-621-04948-8 
  • 地盤工学会『地盤工学用語辞典』丸善、2001年。ISBN 4-88644-073-8 
  • 最上武雄「土質力学を築いた人々(<小特集>土質力学の発展に貢献した人々)」『土と基礎』第31巻第11号、1983年、5-14頁。 
  • 網干壽夫「C. A. Coulomb(クーロン)(<小特集>土質力学の発展に貢献した人々)」『土と基礎』第31巻第11号、1983年、15-21頁。 
  • 大原資生「W. J. M. Rankine(ランキン)(<小特集>土質力学の発展に貢献した人々)」『土と基礎』第31巻第11号、1983年、26-28頁。 
  • 坂本功「土質基礎の回顧と点描:10.クーロンとランキン:古典土圧論の二人の生涯」『土と基礎』第22巻第9号、1974年、70-76頁。 

脚注

[編集]
  1. 1 2 3 4 5 網干(1983) p16
  2. 1 2 坂本(1974) p71
  3. 1 2 最上(1983) p9
  4. 右城猛「クーロンの土圧理論に関する考察」『土木技術』2003年、58巻6号、p85
  5. 1 2 坂本(1974) p74
  6. 坂本(1974) p75
  7. 1 2 大原(1983) p27
  8. 土圧を受ける構造物の設計 1』1987年。doi:10.11501/125988662025年9月22日閲覧
  9. 右城猛. 主働土圧算定における粘着力の経験的評価”. 2025年9月23日閲覧。

関連項目

[編集]