国民クイズ

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国民クイズ
ジャンル ディストピア
漫画
原作・原案など 杉元伶一
作画 加藤伸吉
出版社 講談社
掲載誌 モーニング
レーベル モーニングKC
発表期間 1993年
巻数 全4巻
テンプレート - ノート
プロジェクト 漫画
ポータル 漫画

国民クイズ』(こくみんクイズ)は、杉元伶一(原作)・加藤伸吉(作画)による漫画作品。『モーニング』(講談社)において、1993年に連載された。全4巻。

設定、台詞回しが現代社会へのアイロニーとなっているのが特徴のディストピア作品である。

一度絶版となったが、ファンの要望により太田出版から上下巻の復刻版が発行された。

あらすじ[編集]

近未来、日本は民主主義を捨て、国民一人一人がテレビ番組「国民クイズ」での合格によって特権を勝ち取る異形の全体主義国家となっていた。「国民クイズ」は「民主主義はもういらない、あなたのための全体主義」、「4時間の合法的な革命」、「ギブ・ザ・ピープル」をテーマに暴走の一途を辿る。

主人公のK井K一は、テレビ番組にして最高権力機関である「国民クイズ」の人気司会者。ところが彼は刑務所住まいだった。かつて、彼は売れない役者だったときに国民クイズに出て失格し、強制労働として司会をやらされていたためである。複雑な事情に流される別れた妻と娘の気持ちをよそに、皮肉にも有名かつ超人気司会者となり日々の番組をこなし続ける。ある日、娘に会うために脱走したK一は、娘を人質に国民クイズ体制崩壊計画への手助けを迫る佐渡島共和国の工作員と、そして、待遇の改善と家族との面会を随時許可するというクイズ省の官僚との双方に取引を交わす。

K一は国民クイズ体制を維持しようとする者と崩そうとする者との間に挟まれ、ついに誰もその結末が分からないその日のクイズ番組が始まる。

登場人物[編集]

K井K一
「国民クイズ」において司会を務める。過去には役者として活動していたが、アカデミー賞主演男優賞を希望賞品に国民クイズに出場し失格。その後、「B級戦犯」としての無償奉仕労働として司会業を行う。司会者としては国民支持率98%という圧倒的な人気を誇る。本名は川井啓一。別名KK27331号。
M田A子
K一とペアを組む副司会者。K一と同様、戦犯として奉仕労働をしている。元アイドルで本名不明。別名MM2206号。
D門E吉
国民クイズの番組ディレクター。K一を最も近くで管理する立場にあり、生放送中の指示も行っている。「第二次国民クイズ体制」発足後には、K一に代わり国民クイズ司会を行っている描写がある。本名不明。番組スタッフからは「ディー」と呼ばれている。
内藤
国民クイズ省本選局制作部長。本選局長のブレーン的立場であり、本選局の真の実力者。省内における本選局の地位向上のため、K一を利用しようとする。
森村茂三
国民クイズ省本選局局長。次期事務次官の有力候補であり、予選局や広報局を取り込んで現事務次官派と対立している。
村越
SS隊隊長。クイズ合格者の希望を施行する賞与局の中で、借金を返すなどホワイト・カラーの役人の業務範疇を超えた、殺人、縁切り等を引き受ける武闘派。銃器拷問洗脳などを使いこなす。
真部麻里子
K一の実の娘。K一の離婚後は母である市子の元で生活をしている。母は慕っているが、同居する祖母には反発している。K一の国民クイズ出場の真の意味を探る為に行動を起こす。
真部市子
K一の元妻。日本有数の総合商社、真部物産社長(終盤では社名が真部交易となっている)。創業者である父、真部松太郎の死後、その跡を継いで社長に就任した。K一とは社長就任後に離婚している。
憂木響子
佐渡島共和国国防軍特殊工作隊所属(第29話では中尉と自称しているが、第40話では中佐となっている)。佐渡島共和国の国民クイズ打倒計画に従い、日本国内に潜入し「本格派」と接触を図る。
南原聖次、菊池聡、谷川修
反国民クイズ統一戦線「本格派」の構成員。K一を暗殺しようとする。テレビ1台を買うのにローンを組むほど金が無い。

設定[編集]

テレビ番組「国民クイズ」
日本国政府国民クイズ省が提供するクイズ番組。毎日夜7時~11時までの4時間放送される。内容は、500名の出場者および希望賞品の紹介、過去に合格した者の賞与映像、ふるい落としクイズ、決勝、エンディングという流れで、番組の合間には日本政府の各省庁及び関係機関等の風刺が効いたCMが流される。
日本国憲法第12章 国民クイズ(国民クイズの地位)
第104条「国民クイズは国権の最高機関であり、その決定は国権の最高意思、最高法規として、行政立法司法、その他ありとあらゆるものに絶対・無制限に優先する。本憲法もその例外ではない。」とされている。
予選
挑戦者はまず「希望する賞品」を提示し、コンピューターが希望の大きさによって得点を算出する。それに「生まれつきの個体差のハンデを無くす」ためにIQの値を掛けた数値がそれぞれの目標得点となる。
(参考・「犬を探して欲しい」:190点、「100億円欲しい」:1,559,802点、「エッフェル塔が欲しい」:60,211,905点)。
全国各地で行われる地方予選に出場し、その目標得点の50%を獲得したら本選進出。
ふるい落としクイズ
本選では、まず予選突破者500名による「ふるい落としクイズ」が行われ、ここからが毎日テレビで放映される。
三択クイズが計100問出題され、正解で100ポイント獲得、不正解・無回答で100ポイントマイナスされる。
決勝進出ノルマは10,000点、すなわち全問正解が必要となる。問題は一見まともなクイズもあるが、「まだ世間に出回っていない情報が出題され、クイズ直後に突然政府広報が入る」「最終問題がサイコロの目を当てる」など、最終的には運の強さで決定される。
予選脱落者は顔面にスライムを掛けられ、さらにK一の「消え失せなさい!」という声と共に穴に落とされ、その後は強制労働に従事することとなる。
決勝「賢者の国」
決勝は決勝進出者の数だけ出題される(6人なら6問)。
問題の前に賭け点を提示する。これは持ち点に関わらず無制限であり、いきなり目標得点分を賭ける事も可能。
クイズは早押し形式で行われ、一問につき一人しか解答することは出来ない。一人が押したら、他の挑戦者は解答者の正解・不正解に関わらず全員即減点。
目標得点分を見事獲得すれば、希望賞品は国民クイズ省賞与局及び賞罰施行委員会(通称:SS隊)により、ありとあらゆる国家権力を使い叶えられる。しかし1点でも足りなければ不合格者となり、ランクA~Dの「戦犯判決」を受け、強制労働や財産没収などの過酷な罰を課せられる(B級:刑務所の掃除夫20年など、またK一もB級不合格者である)。ちなみに、A級不合格者の没収財産に関しては、人間を含めて競売日本武道館での公開オークション)にかけられ、換金された上で国庫に入れられる。
B級不合格者の強制労働は、シベリアでさせられることが多いようで、作品内で「シベリア送り」という言葉が幾度も出てくる。ちなみにシベリアに送られたB級不合格者の平均生存年数は5年。
賞与映像
叶えられた賞品に関しては、それが絵的に面白い物だった場合は後日の国民クイズで華々しく公開される(SS隊による殺人依頼の敢行など。政治的意図も多分に含まれる)。
番外:こくみんといっしょ
子供に議会制民主主義の問題点と国民クイズ体制の優越性を解説するための別枠の番組。クイズではなく、ドラマ形式。
番外:特別報道番組 映像で見る国民クイズの歴史
国民クイズ体制樹立に至るまでの歴史を振り返る番組。「国民クイズの日」である8月15日に放映される。

その他の設定[編集]

  • 国民クイズ省および国民クイズ本選のスタジオは、かつて国会議事堂であった建物内にある。本選に参加できる500人という数は、衆議院議員の数に準じた設定と思われる。ただし、国民クイズ省の別館はカタツムリ状の現代建築で、服役中の不合格者に家族が面会できる場などが設けられている。
  • 国民クイズ省の内局には本選局や地方予選局のほか、保安局、情報調査局、海外派兵局などがある。この海外派兵局が中東の紛争解決やロスの寿司屋の警備のために、原子力空母大原麗子」やミサイル艦島倉千代子」などを引き連れて戦争さながらの上陸作戦を敢行した。なお、海外派兵局は自衛隊とは別組織だが、文民統制に従い、局長会議でも採決に加わらないとするのが局長の主義で、それ以前にクイズ合格者には絶対服従である。
  • 国民クイズ体制に反対する者が過去に「佐渡島の日本からの独立」を希望賞品に掲げて出場し合格している。そのため作品内では佐渡島共和国が日本と敵対する独立国家として存在し、日本に対して様々な干渉を仕掛けてくる。佐渡島共和国軍の軍人佐渡おけさを図案化したと思われる帽章制帽を着用している。
  • 作品中の日本は世界最大の経済大国であり、なおかつ最大の核保有国でもある。アメリカから第7艦隊をレンタルするなど、軍事大国でもある。こうした武力・経済力を背景に日本は国連の理事長国となっており、文字通り世界をひれ伏せさせている。領土が樺太を含む模様。
  • K井K一とM田A子は、左耳に無線イアフォンを装着させられており、番組ディレクターからの指令の声が届けられるようになっている。この特殊イアフォンは、耳たぶに穴を開けることで装着する構造であるため、取り外し・取り付けが煩雑なのか(不可能なのか)、業務時間外でもK一は外さない。M田がイアフォンを着けたまま水に入っているシーンもあり、防水性と思われる。
  • 国民クイズ体制は、あなたのための全体主義を標榜する一方、主権在民でもある。また、究極の官僚支配体制であるが、政治家が一定の影響力を持っており、投票制度も形骸化しつつ残っている。場合によっては首相が国民クイズ省の官僚をシベリア送りにすることも出来る。
  • 天皇制と宮内庁は残存しており、学校において「歌え君が代、掲げよ日の丸」と命じている。

絵柄[編集]

  • 解剖学的に正確な知識を持って人体を描く。例えば、歯の形を場所に応じて的確に描き分け、凶暴な性格の村越は犬歯を大きめにする一方、臼歯のくぼみまで表現するなどしている。しかし、極端なデフォルメもまた、加藤の絵の特徴である。
  • 扉絵や、聖母が拘束衣のK一の尻を叩くシーンなど、マックス・エルンストらに影響を受けたものが見られる。
  • 日本が舞台だが、トルコバルカン・南東欧のような風景が混ざる。2階部分が1階部分より外に飛び出した建物など。モスクはない。
  • 見逃しがちな、とぼけた文字の書き込みも魅力のひとつ。例えば、作中に登場するプロレス団体SGW(Soul & Groove Wrestling)は、裏の名前は「Sugoku Gotsui Watashitachi」で国民クイズ体制打破を目指す反政府組織である。

矛盾[編集]

細やかな設定がこの作品の魅力であるが、矛盾とも思える箇所もいくつかある。

K一の拘束年数
K一のB級戦犯としての拘束年数は20年である。K一の現在の残り年数は14年。つまり6年の奉仕活動を終えている計算になる。しかし妻とは国民クイズに出る前に別れていたはずだが別れたのは4年前という設定になっている(最低でも6年以上前でないとズレが生じる)。
ロサンゼルス襲撃
ロサンゼルス寿司屋を営んでいる兄を持つ国民クイズ合格者は「ロスで寿司屋をしている兄がこれまで8回強盗に入られ3回撃たれた」ため寿司屋の保護を求めている。しかし賞与映像の際の現地レポーターは「強盗が5回しか入っていないのは好運」と報じている。
本選への出場条件
第1話では予選で目標得点の50%を獲得すれば本選への出場権が得られているが、第29話で描かれている地方予選の模様では、係員が全問正解しないと本選には出場できない旨を参加者に説明している。
ふるい落としクイズの得点
問題数が偶数、正解でも不正解でも得点の増減は各問ごとに100点という構造上、結果得点は必ず6,800のように3桁目が偶数となるはずであるが、現実には5,100など奇数となっている例がある。
決勝クイズの回答形式
最初の出題では3択による選択式として叙述されているが、説明なしに、出場者が自ら回答を述べる方式に変更される。選択式では、物語の山場である狂乱の夜が構築できないのも事実だが、「せっかくの3択よ!ヤマ勘でも答えるわ!!」という最初の回答者の声はどうなったのか不明。
関税自主権
世界最強の国であるはずの日本が、外国米の輸入と国産米の消費低迷を抑えられないでいる。
派閥抗争
本選局派と対立する事務次官派の情報調査局を筆頭に、国民クイズ省内の全局が脱走したK一を探していたというのに、キレ者のはずの内藤がK一脱走の事実は本選局の一部しか知らないと発言。

書誌情報[編集]

その他[編集]

ゲンロン所属の編集者・徳久倫康は、自身が提唱する「クイズ形式の国民投票」を本作にちなみ「国民クイズ2.0」と命名した。なお徳久はクイズを本作のような全体主義ではなく民主主義を支援するものとして捉えており、想定する状況は本作の設定とは異なる[1]

脚注[編集]

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  1. ^ 思想地図β vol.3 日本 2.0』ゲンロン、2012年、484-510頁。ISBN 978-4-9905243-5-7

関連項目[編集]

  • キンクス - 杉元は「国民クイズ」を、キンクスのGive the People what they wantを聞いて思いついたと語っている。