嘆きの天使 (ドクター・フー)
| 嘆きの天使 | |
|---|---|
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| 初登場 | 「まばたきするな」(2007年) |
| 作者 | スティーヴン・モファット |
| 詳細情報 | |
| 肩書き | 孤独な暗殺者 |
嘆きの天使(なげきのてんし、英:Weeping Angel)は、イギリスの長寿SFドラマ『ドクター・フー』に登場する架空の敵対的地球外生命体。何者にも観察されていない時にのみ動作可能であるため、観察者には石像のように見える。攻撃対象に触れることで食餌行動を行う性質を有しており、対象を過去へ時間移動させることで時間エネルギーを摂取する。2007年のエピソード「まばたきするな」に登場して以降様々な『ドクター・フー』のメディアで登場している。後の時代のエピソードでは天使の能力が拡張され、天使の画像が実際の嘆きの天使として実体化する、他の彫像を嘆きの天使に変換する、2回接触して対象を殺害する、といった能力が追加された。
嘆きの天使は脚本家スティーヴン・モファットにより制作された。モファットが制作にあたって受けたインスピレーションの1つには彼が墓地で遭遇した泣いている天使像があり、後日彼が再び同地を訪れるとその像は姿を消していた。嘆きの天使は女優によって物理的に演じられており、最終編集版ではフリーズフレームショットを用いて完全に静止しているように演出されている。嘆きの天使はスピンオフシリーズ『クラス -ねらわれたコールヒル高校-』の主要な敵対者としても計画されていたが、シリーズが打ち切られたため実現に至らなかった。
その初登場以降、嘆きの天使は最も人気かつ恐ろしい『ドクター・フー』のモンスターの1つとして繰り返しノミネートされている。天使は恐怖の要素に賞賛を受けている一方、能力の拡張や『ドクター・フー』メディアでの過剰露出を批判されてもいる。
説明
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嘆きの天使は時間エネルギーを糧とする地球外種族である。天使は犠牲者に触れて過去へ送り、この時間移動で生じるエネルギーを得る。天使は何者にも観察されていない時にのみ動作可能であり、観察されている場合は量子ゼノン効果(クォンタム・ロック)に束縛される[1]。
シリーズ中での嘆きの天使の役割は多岐にわたる。『ドクター・フー』のエピソード「まばたきするな」で初登場を果たした際、天使は単に生存のためだけに行動する腐肉食動物のような描写がされており[2]、またその行動も互いに独立していた[3]。しかし後のエピソードでは天使がより組織化された役割を持つように描写されている[2]。また後の登場では、天使の画像が実際の嘆きの天使として実体化する、他の彫像を嘆きの天使に変換する、対象の頸部を破壊して声帯を奪い音声コミュニケーションを行う、などの能力が追加された[2][3]。
「天使たちの村」ではさらに多くの能力が追加されており、人間を送る先の時代を指定する能力、2回接触することで犠牲者を殺害する能力、テレパシーによるコミュニケーション能力、他の生命体を天使に変換して輸送を実現する能力などがそれにあたる[3]。『ドクター・フー』第13シリーズで天使たちは地球外組織ディヴィジョンに所属しており、生存以外の組織的な動機を持つことが初めて描写された[3]。小型の天使である智天使も第7シリーズ「マンハッタン占領」に登場している[4]。
登場
[編集]嘆きの天使は2007年のエピソード「まばたきするな」で初登場した。当該エピソードにおいて天使は10代目ドクターとマーサ・ジョーンズを過去へ送り、ターディスとして知られるドクターのタイムマシンを彼の手から引き離した。天使はターディスを食糧として利用しようとするが、ドクターが21世紀の女性サリー・スパロウへメッセージを残し、スパロウを誘導して天使の行動を阻むことに成功する。ターディスはドクターのために過去へ戻り、天使たちは互いを視界に入れたことで動作を封じられた。
2010年の二部作エピソード「天使の時間」と「肉体と石」で天使は再登場した。惑星アルファヴァ・メトラクシスに墜落した宇宙船ビザンティアム号で1体の天使が輸送されており、11代目ドクターとエイミー・ポンド、リヴァー・ソング、および武装聖職者たちが天使の回収任務に向かう。宇宙船が墜落したアプラン寺院の中で聖職者たちは天使による襲撃を受け、またエイミーも映像記録中の天使との遭遇を経て、脳に残された像を介して精神への天使の侵入を許してしまう。最終的に、ビザンティアム号の墜落は寺院で休眠状態にあった嘆きの天使を船のエネルギーで復活させるために仕組まれていたことが発覚する。天使たちは開裂する時間の裂け目から漏れ出るエネルギーに注目するが、その裂け目が宇宙の終焉に伴って生じた致死的なものであることを悟り、拡大する裂け目から逃走を開始する。ドクターは天使たちを騙して裂け目に落とすことに成功し、エイミーの精神に潜んだ個体も含めて天使を消滅させた[2]。
2011年のエピソード「閉ざされたホテル」でも天使はカメオ出演した。エピソードの舞台であるホテルの一室で発見されており、登場人物のうち一人が最も恐怖する存在の姿形であることが明かされた。

天使は2012年のエピソード「マンハッタン占領」で再登場した。天使はホテルに入った人物が寿命で死を迎える無限のタイムループを作り上げ、犠牲者の時間エネルギーを効率的に得るバタリーファームをニューヨークに成立させた。エイミーとその夫ローリー・ウィリアムズはタイムループを突破して天使の存在をニューヨークから消失させることに成功するが、生き延びていた1体の天使が2人を過去に時間移動させる。タイムループの突破によって生じたタイムパラドックスのためドクターは彼らを取り戻すことが不可能になった。その後も天使は複数回カメオ出演しており、2013年の「ドクターの時」[5]、2015年の「時空の果てで」[6]、2020年の「ダーレクの革命」[7]などで登場した。2016年のスピンオフシリーズ『クラス -ねらわれたコールヒル高校-』にもわずかに登場しており、天使を崇拝する集団である理事会が裏で糸を引いていたことが明らかにされる[8]。
天使は2021年の第13シリーズで再登場した。当該シリーズでは1体の天使がターディスのコントロールルームに出現して操縦し、小さな村に到着する。村は天使による襲撃を受け、かつて「ハロウィーンの黙示録」で天使に追われていた女性クレアが再び天使に捕らわれようとしている。クレアの精神世界に1体の天使が侵入していること、そしてその天使が「ディヴィジョン」と呼称される謎の組織から逃亡しようとしていることが明かされる。13代目ドクターはディヴィジョンや自身の過去に関する情報と引き換えに天使の逃亡の援助を打診するが、天使はドクターを裏切り、村に居る他の天使にドクターを引き渡す。当該の天使の個体は、ドクターをディヴィジョンに引き渡す代わりに自由を手に入れる密約を交わしていたためである。ドクターは天使に姿を変えられ[9]、ディヴィジョンの基地に輸送され、その後天使は姿を消す[10]。
他のメディア
[編集]嘆きの天使はスピンオフメディアにも登場する。2019年のバーチャルリアリティゲームDoctor Who: The Edge of Timeでは、天使がゲームプレイ要素として登場する[11]。2021年のモバイルゲーム『ドクター・フー:孤独な暗殺者』では、「まばたきするな」の天使がその後の復讐を試みる様子が描かれる[12]。ゲーム内において、プレイヤーはサポートキャラクターのラリー・ナイチンゲールの携帯電話を調査して彼の失踪の謎を解き明かし、天使の目論見を阻むことを目指す[13]。2022年のボードゲームDoctor Who: Don't Blinkにも天使は登場し、天使のプレイヤーはターディスの修理を完成させようとする他のプレイヤーを阻止することを目指す[14]。天使がイースターエッグやカメオ出演で登場するビデオゲームには、『コール オブ デューティ ブラックオプスIII』[15]、Lego Dimensions[16]、『ウィッチャー3 ワイルドハント』[17]などがある。
また天使はコミック[18]やオーディオドラマ[19]にも登場しており、玩具・彫像・衣装・カード・実物大の像なども製作されている[20]。
制作
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嘆きの天使は脚本家スティーヴン・モファットにより創作され、2007年のエピソード「まばたきするな」に登場した。モファットはドーセット州で休日を過ごす間にインスピレーションを得た。探索の間に彼は墓地に入り、そこで警告看板を発見し、忍び泣く天使像と遭遇した。彼が数年後に息子と共に同じ場所へ戻ってみると、天使像はそこに存在せず、またかつてそこに存在したという証拠も発見できなかった。モファットは「まばたきするな」で嘆きの天使を登場させた後も数年にわたって墓地の天使像について調査を試みたが、嘆きの天使が人気を博したがために難航することとなった[21]。モファットは観察が実験結果に影響を及ぼすという不確定性原理や、恐ろしいものを目にした際に目を覆う子供といったコンセプトにもインスピレーションを受けた[22]。モファットは観察されていた時にのみ命を吹き込まれる彫像として天使のアイディアを2006年に提出した[23]。「まばたきするな」の原初の台本の舞台指示では、天使が雨後している様子を見せることなく、その動作の結果だけが見えるように強調された[20]。
モファットが番組の制作総指揮として初めてインタビューを受けた2009年に、嘆きの天使は番組に再登場することが明かされた[24]。モファットは2010ね年の二部作エピソード「天使の時間」と「肉体と石」で天使を再登場させた[25]。天使の人気が急上昇していたことから、モファットは人気の敵対者を再登場させることのリスクを理解していた。モファットによる天使の再登場は映画『エイリアン2』のアプローチに基づいており、天使の脅威を増強すること、そして天使の役割を腐肉食者的な振る舞いからより組織化された力へと変化させることが意図された[24]。天使はその後2012年に「マンハッタン占領」で再登場した[26]。モファットはエイミーとローリーがもっともらしく番組を去れるようにすること、またドクターに過去の過ちを思い出させる要素を加えることを意図し、未使用であったアイディアを嘆きの天使に盛り込んで再登場させることに決定した。また、モファットは自由の女神像を含めてニューヨークに数多くの彫像が存在することから、ニューヨークが舞台として機能すると考えた[27]。元々モファットは2015年のエピソード「時空の果てで」において嘆きの天使をメインの敵対者にする予定であったが、これは制作中に廃案となった[28]。
嘆きの天使は女優によって演じられている。天使の直立姿勢と天使のような態度を実現するため、天使の演技にはダンサーが起用された。天使用の衣装は複雑であり、着脱には長い時間を要し、また女優は撮影中約15時間起立している必要があった[29]。「まばたきするな」の時点で天使の衣装はポリフォームのスカート、ポリスチレンの翼、ベスト、頭部、および目のための着脱可能なパーツを伴ったフォームラテックスの顔からなり、この他に腕なども特殊メイクが行われた[20]。「天使の時間」「肉体と石」の二部作での再登場時には、メイクは女優の胸部と背中にまでおよんだ。天使の翼は女優が着用するコルセットに固定された[24]。天使の義肢の制作にはMillenium FXが協力した[29]。この二部作では天使の形態によって衣装が異なっており、腐敗したエンジェルは全身の衣装を使い、損傷した天使は割れた型を皮膚に貼り付け、脚に模様入りのタイツを着用した[24]。天使が完全に静止する演出にはフリーズフレームショットが用いられた[30]。天使は登場以来、様々な女優によって演じられている[5][29][31][32]。
天使は2016年のスピンオフドラマ『クラス -ねらわれたコールヒル高校-』のフィナーレでもわずかに登場した。シリーズの脚本家兼プロデューサーであるパトリック・ネスはより天使に焦点を当てた第2シリーズを計画し、嘆きの天使の故郷やそこで起きた内戦の描写を構想していたが、シリーズは第1シーズンのみで打ち切られた。ネスが構想していたもう一つの天使関連のエピソードのコンセプトは"Time Capsule"というものであり、主要登場人物らが天使によって過去に転送され、タイムカプセルを使って現代へ帰還する内容であった[8]。
天使は第13シリーズで再登場しており、モファットはシリーズの放送前[33]、および公式な告知以前にこのことを把握していた。後にモファットはユーモラスな謝罪動画を投稿しており、その内容は当時の制作総指揮であるクリス・チブナルによって送り込まれたと思われる天使の1体がモファットを過去へ送るというものであった[34]。チブナルは天使と13代目ドクターを対峙させることを望んでおり、天使の再登場を以前から計画していた[35]。キャストは天使との撮影に興奮していたが、撮影が寒冷な天候の下で行われたため、まばたきを押さえることが困難であった[36]。
評価と分析
[編集]評価
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嘆きの天使は一貫して人気の高い敵対者であり、様々なレビューや投票において番組史上最も恐ろしいモンスターの1つに位置付けられている[38][39][40]。Huw FullertonはRadio Timesの記事において、嘆きの天使について「正真正銘不気味である」とし、天使の独特な動きがその雰囲気の創出に寄与しているとした[40]。Envisioning LegalityにおいてPenny Croftsは天使が犠牲者の肉体的な不具合やまばたきを利用することで恐ろしい敵対者として振舞っていると主張した[41]。心理療法士のNoel McDermottは、嘆きの天使が視聴者に恐怖を呼び起こすのは脳が脅威を評価する仕組みによるものであるとし、シリーズの各エピソードで天使が周辺視野に常時存在し続けることがその恐怖をさらに増強していると述べた[30]。スティーヴン・モファットは天使の魅力について、だるまさんがころんだのような児戯や、いかなる彫像であれ秘密裏に偽装した嘆きの天使である可能性があるという考えに起因するとしている[37]。
Josephine WatsonはTechRadarにおいて、「まばたきするな」における嘆きの天使の役割を強調し、それが根本的に独特であると論じた。ワトソンはCG効果でなく女優を用いたこと、カメラアングルを調整したことなど、エピソード中で天使を恐ろしい存在として強調する監督の選択が秀でていたと主張した[30]。Gender and Contemporary Horror in TelevisionにおいてKhara Lukancicもこの観点を強調しており、エピソードの音楽や効果音およびカメラアングルの使用によって、天使が恐るべき敵であることを視聴者が直ちに理解できると主張した[2]。
James WhitbrookはGizmodoにおいて、「天使たちの村」における天使の役割を批判した。彼はエピソードの序盤においてホラー要素が効果的に利用されていたと主張したが、エピソードを通して具体的な動機や数多くの新たな力が与えられたことで謎に満ちた天使の特性が剥奪されたとも感じ、全体として天使の脅威が弱まったと感じた[3]。Adi TantimedhはBleeding Coolで初登場以降に追加された様々な能力によって天使の恐怖性が向上したと賞賛しつつ、登場が多いため敵対者としての威圧感が全体として十分でないとも評価した[22]。
分析
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書籍Doctor Who and Philosophy: Bigger on the Insideにおいて、Michelle SaintとPeter A. Frenchは番組における嘆きの天使の役割を分析した。同書では、ダーレクやサイバーマンといった他の人気な敵対者と異なり天使が穏やかな雰囲気を帯びていること、そして天使の本質的な美しさが視聴者へより生々しい反応を引き起こしていると論じられた。彼らは人の人生を覆すことの可能な天使の能力が恐ろしい点であるとし、1体の天使に立ち向かうことがいかに困難であるかという無力感、そしてまばたきのような些末な行動が死に直結することといった点で恐怖をもたらしていると主張した。これにより視聴者は個人的な強い脅威を喚起されることになる[42]。Croftsも同様の主張をしており、未知への恐怖が使用されていること、そして天使が登場人物のアイデンティティを時間移動で奪い去ることから、天使が「理解を超えた種類の暴力」を獲得していると論じた。彼女は人々が自分の所在する場所や時間にいかに影響されているか、そしてそこから離れることがいかに深く影響を与えるかを強調した[41]。
Lukancicは天使の女性的な外見を分析し、魔女やCrone (en) といった様々な敵対的な女性の元型とのコンビネーションとして嘆きの天使が機能していると論じた。天使が対象を殺害したり通常のルーティンを破ったりすると、天使の風貌はより男性的で怪物的なものに変化する傾向がある。この描写から同書では、番組が男性的な敵対者をより残虐性と悪性に結び付けていると論じられた[2]。書籍The Doctor's Monsters: Meanings of the Monstrous in Doctor Whoでは、「まばたきするな」で登場した嘆きの天使の固有の能力は、天使が能力を持ちながらも変化や適応を不能としていることの象徴として論じられた。天使は単一の能力しか持たず、それが適用可能な物語の数には限りがあるためである。さらに同書は、サリー・スパロウという一般人が天使を打倒してみせたことについて、科学と論理を用いて敵対者を倒すという『ドクター・フー』の核心的なテーマを強調していると指摘した[43]。Croftsはユースティティアと嘆きの天使の共通点について外見と行動の両方の観点で分析し、天使と正義との間に存在する繋がりが強調されているとした。彼女は正義の中に潜む腐敗を天使が体現していると主張し、理由や動機もなく危害を加える天使の能力の恐怖を強調した。天使による時間移動を経て犠牲者に与えられる精神的苦痛は囚人の投獄になぞらえられている。いずれの場合においても、人間は腐敗した正義の名の下に人生を突如として変容させられ精神の負担を強いられることになる[41]。
嘆きの天使にちなんで命名されたハッキングツールにWeeping Angelがある。これは2014年にCIAとMI5が共同開発したものであり、スマートテレビを介した秘密情報収集の目的で使用された。適切なテレビにインストールされると、テレビの電源が切れているように見せかけながら周囲を録画することが可能となる[44][45]。
出典
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関連項目
[編集]- サイレンス (ドクター・フー) - 同じくスティーヴン・モファットが考案した、視線を外すとそれに関する記憶を忘却する地球外生命体。
- SCP-173 - 嘆きの天使と同時期に公開された、視線を外すと頸椎の圧断や絞殺といった方法で観察者を殺傷するSCPオブジェクト。
外部リンク
[編集]- Weeping Angels - 『ドクター・フー』公式webサイト