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哺乳瓶

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
哺乳瓶で粉ミルクをお湯で溶き乳首をつけたところ

哺乳瓶(ほにゅうびん)とは、乳児ミルクを与える際(授乳)に用いる[1]

概説

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乳首のついた瓶でミルク(溶かした粉ミルク乳児用液体ミルクあるいは母乳)を入れて用いる。乳児の吸啜反射を利用した器具だが、哺乳瓶は適度な圧差が生じるように設計されておりビニール袋等による代用は難しい[1](なお災害時など非常時には紙コップやスプーンで代用する方法がある[1])。

日本の法規上は「ほ乳用具」という分類で家庭用品品質表示法の適用対象とされており、雑貨工業品品質表示規程に定めがある[2]

母乳が出にくいまたは出ない時、乳児の食欲が分泌される母乳の量を上回り不足がみられる時、(母親が病気や怪我のために抗生物質を服用しているなど)母乳が授乳に適さない状態にある場合、母親が留守の場合等々にミルクを入れて用いられている。また予め搾乳して冷蔵・冷凍しておいた母乳を授乳するのに使われることもある。

また、ミルクだけでなく乳児に果汁お茶を与える場合にも用いる。

なお、のほか、家庭のペットや動物園の動物(哺乳類)の子に対して使用することもある。

歴史

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古代から中世までの哺乳用具

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哺乳瓶が発明される以前、乳児の食事は主に母親からの授乳によって行われた[3]。しかし、母乳が出にくい、妊産婦が死亡した、などの要因により母親からの授乳ができない事例は古代より見られ、紀元前1550年頃の『エーベルス・パピルス』(古代エジプト医学について記したパピルス)にも乳汁分泌不全英語版への対処に関する記述がある[3]。母親による授乳以外では乳母による授乳が主流であり、直接乳房から母乳を与える手段以外の記述は少なかった[3]。その後も紀元前950年頃の古代ギリシア紀元前3世紀から4世紀までの古代ローマに乳母に関する記述がみられた[3]

動物の形をした、セラミック製の哺乳用具。紀元前1350年から紀元前800年までのものとされる。レーゲンスブルク歴史博物館英語版所蔵、2013年撮影。

授乳に用いる器具の記述は乳母と比べて少ないものの、そのような器具は古代より存在した[3]。たとえば、紀元前20世紀以降の新生児の墓から粘土製の用具が出土している。この用具は楕円形で、乳首の形の飲み口がついており、はじめランプに油を注ぐための用具だと思われたが、動物のの残滓が検出されたため用具が哺乳用であること、動物の乳が古代より母乳の代わりとして使われたことが判明した[3]。以降哺乳用具が木、セラミックス、牛の角などさまざまな材料で作られ、特に中世では穴のあいた牛の角が主流だった[3]

15世紀から18世紀まで

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18世紀のしろめ製哺乳用具。

18世紀になると、しろめで作られた哺乳用具が多く見られるようになり、一例としてロンドンにあるミドルセックス病院英語版の医者ヒュー・スミス英語版が1770年に発明した「バビー・ポット」(bubby-pot、しろめ製)がある[3]。バビー・ポットは小さなコーヒーポットのような見た目で、注ぎ口がノブの形になっており、通常の注ぎ口のような大きな穴の代わりに、小さな穴が3から4つ空いている[3]。この小さな穴にぼろ布を通すことで、ぼろ布が哺乳瓶の乳首のような役割を果たし、乳児はぼろ布で遊んだり、ぼろ布からミルクを飲んだりできる[3]

バビー・ポットのほかに、16世紀から18世紀までのヨーロッパでは乳児にパン粥を食べさせるパップ・ボート(pap boat)も使用されたが、バビー・ポット、パップ・ボートともに洗いにくく、細菌が残留しやすいことから、乳児の健康を脅かすことになり、乳の保存と消毒の技術がまだ成立していなかったこともあり、19世紀初には哺乳用具で授乳された乳児の3分の1が死亡した、とする研究がある[3]

19世紀から20世紀中期まで

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フランスの「ビベロン」(Biberon)哺乳瓶。
20世紀初のイギリスで作られたアレクサンドラ哺乳瓶。

19世紀中期になると、哺乳用具とその乳首に大きな革新があった[3]。1841年に米国マサチューセッツ州の医者チャールズ・M・ウィンドシップ(Charles M. Windship)が「人工乳房」(Artificial Breast)と名付けられた、ガラス製で乳房を模した形の哺乳瓶の特許を取得した[4][5]。1845年にイギリスで楕円状のガラス製哺乳瓶が発売され[5]、後に国王エドワード7世の妻アレクサンドラの名前をとって「アレクサンドラ哺乳瓶」(Alexandra Feeding Bottle)という製品名になった[6]。この哺乳瓶はミルクを入れた後、栓つきのゴム製のチューブをつけ、乳児がチューブの先にある乳首で飲むという使い方だった[6][7]。1851年にフランスでもガラス製哺乳瓶が作られており、この哺乳瓶には通気孔があり、象牙製のピンで乳の流速を変えられるようになった[3]。哺乳瓶が作られた後もスプーンで与えたり、直接乳首から飲ませるほうが主流だったが、1896年にボート形で構造がよりシンプルな哺乳瓶がイギリスで発売され、人気を博した[3]。もっとも、アレクサンドラ哺乳瓶も人気を博した結果、その亜種が200種類以上制作され、20世紀初までイギリスとアメリカで普及した[5]。日本でも1871年(明治4年)に「乳母いらず」という商品名でアレクサンドラ哺乳瓶が発売された[8]。1900年代には滅菌器の発明により、哺乳瓶が滅菌器での使用に適した円筒形になった[5]

「乳母いらず」の広告、1871年6月『新聞雑誌』より。

哺乳瓶の乳首については、1845年に最初のイギリス領インドゴム製乳首が作られたが(ニューヨークのエリヤ・プラット(Elijah Pratt)が特許を取得[5])、この乳首は悪臭を放つうえ、味も悪かった[3]。1851年のフランスの哺乳瓶ではコルク製で、ゴム製より優れるとされたが[5]、いずれにせよこの時代では皮革製が好まれた[3]。それ以外では金属(ピューターまたは銀)、ガラス、象牙、木で作られた乳首が存在したが[5]、最終的にはゴム製の乳首が改良を経て20世紀初に導入が進んだ[3]

哺乳瓶でミルクを飲む乳児、1922年撮影。

哺乳瓶が発明された後もその衛生管理が問題になっており、夏には哺乳瓶に残留するミルクの腐敗により乳児が死亡する事例も多かった[3]。特にアレクサンドラ哺乳瓶と一緒に使われるゴム製のチューブは洗浄が不可能だったから、「殺人ボトル」(Murder Bottle)という蔑称がつけられるほどだった[7]。しかし、哺乳瓶の普及とともに乳児用ミルクの開発が進んだため、最初は乳児用ミルクのせいと勘違いされ、やがて病気の病原体説が大衆に受け入れられると対策が進んだ[3]。1894年にアメリカの医師ルーサー・エメット・ホルト英語版が著書『小児のケアと哺育』(The Care and Feeding of Children)で「長い管のついた(乳首)は複雑すぎて清潔に保つことが困難である」と批判し、より単純な乳首を推奨したことで、シアーズ・ローバック社は1896年より哺乳瓶に直接取り付ける乳首を発売、1910年代までにゴム管付き装具の販売を終了した[9]。1914年に米国労働省下の児童局英語版が手引書『乳児のケア』(Infant Care)を出版し、哺乳瓶について病原菌が繁殖しにくいものを選ぶべきとし、首が短く、肩がなだらかで、冷蔵庫や滅菌器に入れやすい8オンスの目盛り付きのものを推奨したことで、これが哺乳瓶の事実上の標準規格となった[10]

現代

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哺乳瓶を使用しているところ

哺乳瓶は現代でも広く使用され、その市場規模は拡大を続けている。グランド・ビュー・リサーチ社(Grand View Research)による概算では、2018年時点の全世界の市場規模は26億米ドルで[11]、2024年時点で38.6億米ドルになっている[12]

構造と素材

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哺乳瓶を分解したところ
乳首の部分

本体は構造的に主に乳首と瓶に二分される。この本体に蓋が付いている[13]。乳首は授乳のための小さな穴がほぼ中央にあいている。瓶は円筒状のものや、握りやすいように凹みをつけたものがある。

乳首の素材は天然ゴムシリコーンが主流である。

瓶はガラス若しくはプラスチック(ポリカーボネート)製が主流で、いずれも耐熱性があり、消毒して繰り返し使用する。また外出時や災害時向けに、洗浄や消毒を必要としないポリプロピレン製使い捨て哺乳瓶も市販されている[14]

使用法

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消毒

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飲み残しの洗浄が不十分であると、サルモネラ菌サカザキ菌などが繁殖して次回以降の使用時に食中毒感染症の原因となるおそれがある。このため日本厚生労働省は、世界保健機関(WHO)などが策定したガイドラインを都道府県に周知し、徹底した洗浄による滅菌を求めている。特に夜中において、毎回の念入りな消毒が保護者の負担になっている問題が指摘されている。小児科学助産学の専門家でも、特に乳児の免疫力が高まる生後3カ月以降は、過度な洗浄は不要という意見もある[15]

電子レンジ
専用の容器や袋に哺乳瓶と水を入れ3分ほどレンジアップし加熱する方法と、専用の容器に水を入れそれと哺乳瓶をレンジ庫内に入れ5分ほど加熱する方法がある。
煮沸
水を張った鍋に哺乳瓶を入れ沸騰させる。時間は本により6~20分ほどで乳首は後入れ。
消毒液
薬液に1時間以上浸す。薬液は次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする場合が多い。これは牛乳の成分が同成分を食塩に分解してしまうからであり、消毒液程度の濃度ならば、人体に全く無害だといわれているためである(一般に塩素系洗剤を誤飲した場合の対処法として牛乳を飲ませるのはこのためである)

保温

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哺乳瓶専用の保温器がある[13](ボトルウォーマー)。

注意点

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東京都の調査[16]によれば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を推奨使用濃度では使う限りは、ビスフェノールAの溶出に影響を及ぼさないとしているが、洗浄時のすすぎが不十分で、酸素系漂白洗浄剤及び食器洗浄機用洗浄剤が残り付着した物を、加熱・乾燥すると、ビスフェノールAの溶出量が増加することが判明したため、(ポリカーボネート製哺乳瓶には)「アルカリ性洗浄剤の使用はさけるべき」としている。また、洗浄前に、固着したミルク分の完全除去を推奨している。

脚注

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  1. 1 2 3 妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン”. 東京都福祉保健局. 2019年6月7日閲覧。
  2. 雑貨工業品品質表示規程”. 消費者庁. 2013年5月23日閲覧。
  3. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 Stevens, Emily E; Patrick, Thelma E; Pickler, Rita (1 January 2009). “A History of Infant Feeding”. Journal of Perinatal Education (英語). 18 (2): 32–39. doi:10.1624/105812409X426314. PMC 2684040. PMID 20190854.
  4. “Artificial Breast”. National Museum of American History (英語). 2026年2月23日閲覧.
  5. 1 2 3 4 5 6 7 Greenberg, Martin H. (1980). Smith, George F.; Vidyasagar, Dharmapuri. eds. “Neonatal Feeding” (英語). Historical Review and Recent Advances in Neonatal and Perinatal Medicine (Mead Johnson Nutritional Division).
  6. 1 2 “Glass feeding bottle, London, England, 1901-1918”. The Science Museum Group (英語). 2026年2月23日閲覧.
  7. 1 2 “Feeding bottle”. Museum Wales (英語). 2026年2月23日閲覧.
  8. <その21>衛生器具 母乳に近づけ、脳を育てる-哺乳瓶と粉ミルク-”. 内藤記念くすり博物館. 2026年2月23日閲覧。
  9. 吉岡 2013, p. 270.
  10. 吉岡 2013, p. 271.
  11. “Baby Bottle Market Size (2019 - 2025)”. Grand View Research (英語). 2019年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2026年2月23日閲覧.
  12. “Baby Bottle Market (2025 - 2033)”. Grand View Research (英語). 2026年2月23日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2026年2月23日閲覧.
  13. 1 2 意匠分類定義カード(C5) 特許庁
  14. 哺乳瓶 - 全ての医療製品メ-カ-”. www.medicalexpo.com. 2020年4月16日閲覧。
  15. 哺乳瓶の消毒 本当に必要?夜中も毎回「しんどい」洗剤だけでも菌除去■飲み残しは注意朝日新聞』夕刊2019年1月28日(1面)2019年3月5日閲覧。
  16. ポリカーボネート製ほ乳びんからのビスフェノールAの溶出に及ぼすアルカリ性洗浄剤の影響『東京都立衛生研究所 研究年報』2000年

参考文献

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関連項目

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