品川猿

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品川猿』(しながわざる)は、村上春樹短編小説

概要[編集]

初出 書き下ろし
収録書籍 東京奇譚集』(新潮社、2005年9月)

東京奇譚集』に収められた小説の中で唯一の書き下ろし作品である。その他の4編は『新潮』2005年3月号から6月号まで「東京奇譚集」という副題付きで掲載された。

英訳[編集]

タイトル A Shinagawa Monkey
翻訳 フィリップ・ガブリエル
初出 ザ・ニューヨーカー』2006年2月13日号[1]
収録書籍 Blind Willow, Sleeping Woman』(クノップフ社、2006年7月)

各国語の翻訳の詳細は「めくらやなぎと眠る女 (短編小説集)#翻訳」および「東京奇譚集#翻訳」を参照のこと。

あらすじ[編集]

大田区にあるホンダの販売店に勤める安藤みずき(結婚前の名前は「大沢みずき」)は、1年ばかり前からときどき自分の名前が思い出せなくなった。相手から出し抜けに名前を尋ねられると、頭の中が空白になってしまう。名前がどうやっても出てこない。夫はみずきより4つ年上の30歳で、製薬会社の研究室に勤務している。二人は品川区の新築のマンションに暮らしている。

ある日、品川区の広報誌を読んでいるときに、区役所で「心の悩み相談室」が開かれているという記事が目にとまった。みずきは区役所に赴き、カウンセラーの坂木哲子の面談を受ける。坂木に「名前に関連して思い出せる出来事はあるか」と問われ、高校生のとき1学年下だった松中優子という生徒に関する、あるエピソードを思い出す。

高校3年の10月、寮の自室で翌日の予習をしていると、松中優子が訪ねてきた。

「みずきさんはこれまで、嫉妬の感情というものを経験したことがありますか?」

「ないと思うよ」とみずきは言った[注 1][注 2]

「今から実家に戻ります」と、寮のみずきの部屋で松中優子は言った。そして、寮に戻るまで自分の名札を預かってほしいと言ってみずきに名札を差し出した。彼女の親はたしか金沢で老舗旅館の経営をしていた[注 3]

「いいわよ」とみずきは言った。

「いないあいだに猿にとられたりしないように」と松中優子は言った。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ みずきと松中の間で嫉妬に関する問答がこのあと続くが、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(2013年)でも「嫉妬」は大きく取り上げられている。そのような感情を生まれてから一度も体験したことがないと語る多崎つくるは、あるとき激しい嫉妬に苛まれる夢を見る。そしてこう述べる。「嫉妬とは――つくるが夢の中で理解したところでは――世界で最も絶望的な牢獄だった。なぜならそれは囚人が自らを閉じ込めた牢獄であるからだ」[2]
  2. ^ 2015年1月に開設したウェブサイト「村上さんのところ」で、読者からの質問に対し村上はこう答えている。「信じてもらえないかもしれないけど、僕は嫉妬心ってほとんどないんです。どういうものかもずっとよくわかりませんでした。最近になって、夢で見て『ああ、 嫉妬心ってこういう感情か』とやっとわかったんですが」[3]
  3. ^ 実家が金沢市の老舗旅館である松中について、みずきは「私たちの寮の中では間違いなくいちばん美人でした」「成績もかなり上の方だったと聞いています」と語っている。短編小説「今は亡き王女のための」(1984年)にも、「石川県だかどこかそのあたりの、江戸時代からつづいている有名な高級旅館の娘」で「成績もずっとトップクラスで、おまけに美人」[4]という女性が登場する。

出典[編集]

関連項目[編集]