吸血鬼と精神分析
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| 吸血鬼と精神分析 | |
|---|---|
| 作者 | 笠井潔 |
| 国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
| ジャンル | 探偵小説 |
| 発表形態 | 雑誌連載 |
| 初出情報 | |
| 初出 | 「ジャーロ」13号(2003年9月) - 31号(2008年3月) |
| 初出時の題名 | 吸血鬼の精神分析 |
| 出版元 | 光文社 |
| 刊本情報 | |
| 出版元 | 光文社 |
| 出版年月日 | 2011年10月 |
| 総ページ数 | 803p |
| シリーズ情報 | |
| 前作 | オイディプス症候群 |
| 次作 | 煉獄の時 |
『吸血鬼と精神分析』(きゅうけつきとせいしんぶんせき)は、笠井潔の探偵小説。ミステリ総合誌『ジャーロ』で2003年から2008年まで連載され加筆改稿後、2011年10月に光文社から書籍化された。
1970年代のパリを主要舞台に、謎の日本人青年矢吹駆(ヤブキカケル)と大学生ナディア・モガールの活躍を描いた、連作ミステリーの第6作である。今作のミステリ的趣向のひとつは、亡命軍人の射殺事件で"ダイイング・メッセージ"と屍体の関係に、独自の解釈を案出している。パリで発生した脱血を死因とする連続猟奇殺人と、謀殺と推測される射殺事件の複雑な相関関係を解明していく。本作の試みのひとつとして、いわゆる"多重人格"をもたらす"解離"のメカニズムに、精神分析の側から迫っている。その意味でミステリと精神分析の、新たな可能性を示唆している[1]。恒例のカケルとの討論相手はフランスの哲学者・精神分析家のジャック・ラカンと、ブルガリア出身の記号学者・精神分析家のジュリア・クリステヴァをモデルにした人物で、鏡像段階に始まる発達論や記号学のシニフィアンとシニフィエに関する対話が交わされる。
あらすじ
[編集]
ポン・ヌフ
ミノタウロス島の事件以来、ナディアは心身の不調と鏡に映る顔が崩れて見える症状に悩まされていた。そのころモガール警視は二週連続で、金曜深夜から土曜朝にかけて女性が頸動脈から血を抜かれて殺害される"ヴァンピール"事件の捜査に追われて、娘のナディアとすれ違いがちだった。ナディアは中学時代の友人シモン・ロチルドとメトロで再会した二日後の木曜、心ならずも精神医ジュリア・ヴェルヌイユの診察室へ連れていかれ、面談で症状を伝え外傷神経症の説明を受けた。シモンとの帰路、診察室で入違ったタチアナ・マグレアヌと名乗る少女に呼び止められる。彼女はシモンに明日の深夜、サン・ドニのディスコ"ヴァンパイヤーハウス"に来てくれと懇願して立ち去った。シモンはジュリアの診察室でアルバイトしていることをナディアにうち明け、診察室以外で来談者に会うことは厳禁のため、代わりに行ってほしいと頼みこむ。翌日金曜深夜の11時過ぎ、ナディアは久々に"ヴァンパイヤーハウス"を訪れた。立ち居振る舞いこそ違えタチアナに酷似したストリゴイと呼ばれる少女が現れ、その軽快な踊りでフロアを席巻していた。彼女はナディアに自分はタチアナなどではなく、あなたのことも知らないと言う。
ナディアがピガールでストリゴイを見失った日の早朝、三週間前に射殺事件が起きた現場近くのバスティーユ広場にある"白馬小路"で、三人目の"ヴァンピール"事件の被害者が発見された。その翌日の夜、イリイチの足跡を追ってパリから姿を消していたカケルが帰国し、電話でナディアに至急バルべス警部に訊きたいことがあると連絡を依頼した。バルべスの部屋に三人が揃い、カケルはバルべスに射殺事件の詳細を尋ねた。内務省管轄の警視庁から国防省管轄の国家憲兵隊へ捜査が引継がれたこと、被害者はルーマニアから亡命した高級将校でうつ伏せた右手の先に"DORAC"と血文字が残されていたこと、隣人がエレベーターに乗り込む金髪の若い女の後ろ姿を目撃したこと、寝室の写真立てにルーマニアから亡命した女子体操選手タチアナ・マグレアヌの写真が飾られていたこと。タチアナへの聴取で、同時に亡命した中年男性ダニエル・ルブリョフと同居しており、被害者とは一度外食しただけで事件当夜のアリバイも確認済みと応えた。カケルはバルべスに"ヴァンピール"事件の意見を問われると、現状では推理の支点になる現象が特定できないこと、遺留品や屍体遺棄現場に動物の徴が添えられていることを指摘するにとどまった。
12月17日土曜朝に"ヴァンピール"四人目の被害者が、セーヌ川の人工中州"白鳥の散歩道"で発見された。警察内では来週金曜も被害者がでた場合、捜査責任者の更迭が表面化する。警視庁の捜査で被害者間の共通項が浮上した。いずれも直接間接に精神分析家ジャック・シャブロルに繋りアリバイも確認できなかったが、容疑を絞り込むには決め手が欠けた。12月23日金曜になって容疑者たちは、警察の監視を振り切って動きだす。ナディアは不審に思った人物の元に駆けつけたが、すでにカケルが監視していた。刑事の眼をすり抜けた不審者を追跡した二人は、パリ郊外イヴリー=シュル=セーヌの河岸通りに面した煉瓦造りの工場跡にたどり着く。
背中合わせの愛と狂気がすれ違う、奇怪な犯罪現象を起した人間相関のメカニズムが分解される。闇に潜んだ"ヴァンピール"はカケルの策略によって遂に出現した。
主な登場人物
[編集]- ジュリア・ヴェルヌイユ ルーマニア出身の精神医、ブカレスト大学卒
- モーリス・ヴェルヌイユ ジュリアの元夫、精神医
- シモン・ロチルド ジュリアの診療所のアルバイト学生、パリ第八大学在学
- ジャック・シャブロル ジュリアの師事する精神分析団体"フロイト回帰"派代表
- ロラン・クレマン パリ第八大学精神分析学科教授、"フロイト回帰"派の一員
- タチアナ・マグレアヌ ルーマニアから亡命した元女子体操選手
- マルセル・ロンサーヌ タチアナのボーイフレンド、パリ政治学院卒
- ストリゴイ サン・ドニのディスコ"ヴァンパイヤーハウス"に出没する少女
- ダニエル・ルブリョフ タチアナと亡命した保護者で同居人の古書店員
- ニコラエ・ルブリョフ ダニエルの父親、農業集団化政策への抗議で殺害された
- アテウ ルーマニア対外情報部工作員
- グリゴレ・チモフチェ 射殺された亡命ルーマニア陸軍中将
- カトリーヌ・ドゥミ "ヴァンピール"第一の被害者、証券会社勤務
- ジャンヌ・メルマン "ヴァンピール"第二の被害者、中学校教師
- ドミニク・ラパン "ヴァンピール"第三の被害者、ナンテール出身の家出少女
- ドワノー ブールジュから来た国家憲兵隊大尉
- ルネ・モガール パリ警視庁司法警察局警視
- ナディア・モガール ルネの娘
- ジャン=ポール・バルべス ルネの部下、警部
- 矢吹駆 謎の日本人青年
- ニコライ・イリイチ・モルチャノフ 秘密政治結社"ラモール・ルージュ"の中心人物
書籍
[編集]- 2011年10月 四六上製本 光文社 ISBN 978-4-334-92783-7
- 2013年7月 カッパ・ノベルス 光文社 ISBN 978-4-334-07716-7
- 2015年7月(上下巻)光文社文庫 上巻 ISBN 978-4-334-76935-2、下巻 ISBN 978-4-334-76936-9
- 2025年5月 創元推理文庫 東京創元社 ISBN 978-4-488-41512-9
評価
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脚注
[編集]出典
[編集]- ↑ “笠井潔「吸血鬼と精神分析」書評 戦後思想を問う本格ミステリ( 評者 斎藤環 )”. 好書好日. 株式会社 朝日新聞社(朝⽇新聞2012年1月8日掲載). 2026年7月3日閲覧。