司書 (絵画)

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『司書』
イタリア語: Il Bibliotecario
英語: The Librarian
Porträtt. Karikatyr. Bibliotekarien. Guiseppe Arcimboldo - Skoklosters slott - 73759.tif
作者 ジュゼッペ・アルチンボルド
製作年 1566年
種類 油絵
寸法 97 cm × 71 cm (38 in × 28 in)
所蔵 スコークロステル城(スウェーデン

司書』(ししょ, : Il Bibliotecario, : The Librarian)は、ジュゼッペ・アルチンボルドによる絵画。司書と思われる人物の顔や体をすべて本で構成して描いたもので、アルチンボルドが神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世に仕えていた1566年頃に描かれた。マクシミリアンの側近であった歴史学者ヴォルフガング・ラツィウス英語版肖像画と考えられている[1]。現在はスウェーデンスコークロステル城英語版が所蔵している。

作品[編集]

作者アルチンボルドは1562年に神聖ローマ皇帝フェルディナント1世 (神聖ローマ皇帝)の、つづいてマクシミリアン2世の公式の肖像画家となり、マクシミリアンの側近たちを果物や野菜、花といった物を寄せ集めて顔を構成して肖像画を描いた[2] 。『司書』もその中の作品のひとつである[3]。成立年代はスコークロステル城では1562年と記されているが[3] 、より多くの資料は1566年としている[1][2][4][5]

描かれている人物は多数の書物を寄せ集めて作られており、画面に表れているだけでも26冊の書物を数えることができる。いずれも金箔文様を施した厚手の書物である。頭頂部は開いた本を置き、ページをばらけさせることによって髪の毛のように見せている。髭に見える部分は本の埃を払う毛ばたきでできており、眼にあたる部分には眼鏡が付けられている。左肩にはカーテンがかかっており、おそらくその背景に並んでいるはずの他の書物を覆い隠している(当時は本の保護のためこのように書棚をカーテンで覆うことがあった)[6]

この絵はもとはプラハ城に所蔵されていたが、1648年プラハの戦い英語版でスウェーデン軍によって略奪され、ハンス・クリストフ・フォン・ケーニヒスマルク英語版将軍の所有するところとなった[3]。現在はアルチンボルドの代表作のひとつ『ウェルトゥムヌス』とともに、スウェーデンのスコークロステル城が所蔵している。

『司書』のタイトルは後世に付けられたもので、20世紀初頭の目録から現れる。もともとのタイトルは何だったのか、あるいはそもそもタイトルがあったのかは不明である[1]。絵のモデルは1957年、美術史家のスヴェン・アルフォンスによって、ヴォルフガング・ラツィウスであると結論付けられた[1][5]

『司書』には、スコークロステル城所蔵のもののほかにも、作者不明の三つのヴァージョンが現存している[1] 。2011年に発表された科学的研究は、スコークロステル城の『司書』もアルチンボルドのオリジナルではなく、誰かわからない後世の画家による模写であると結論付けている[7]

批評[編集]

エングレーヴィングによる後世の模作(ゲオルク・フィリップ・ハースデルファー作)

1954年にアルチンボルドの詳細な分析書『ジュゼッペ・アルチンボルディの奇妙な絵』を出版したベンノ・ガイガードイツ語版は、『司書』について「16世紀の抽象美術の勝利」「これ以上にしゃれた作品、もしくは現代美術に近い作品はない」と賞賛している[4]グスタフ・ルネ・ホッケもアルチンボルドにシュルレアリスムなどの現代美術の先駆的表現を見出した一人であるが、肩にかかったカーテンを寒さのためと解釈し、優雅さに加えて知性も添えて描かれていると評した[8] (もっとも、カーテンはこれ以上本が増えると画面がうるさくなるため、それを防ぐための画面構成上の工夫と考えるのが妥当である)[6]

書物のモチーフに関して、この絵は伝統的に司書や学者といったものに対する賞賛の念が込められているとも、逆に風刺的な嘲笑が込められているとも解釈されてきた。この絵のモデルを「虚栄心の強いえせ学者」ラツィウスと同定したスヴェン・アルフォンスは、この絵はラツィウスをからかうために書かれた冷酷なジョークであると解釈しながらもこのように書いている「司書の職にあるものたちなら、彼を喜んで自分たちの一員として迎え入れるだろうし、彼は自分たちのものだと言い張るに違いない」[1]。『司書』を「図書専門職の視覚的な歴史を語るうえではずせないもの」になっていると述べるK.C.エルハードは、この絵は読むことよりも物質としての本を得ることにより興味を示す、書物収集家たちのパロディではないかとしている[1]

ブックアートなどを専門とする日本の美術学者中川素子は、背景を隠すカーテンによる神秘化の効果もあって「一つの閉じられた世界で至福を得ている人の雰囲気が非常によく出ている」とし、「針のような意地悪さはないが、それでも本や本を読む知識人の性格に対して、おかしみをもって接している様子がうかがえる」と評している[6]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g Elhard, K.C. (Spring 2005). “Reopening the Book on Arcimboldo's "Librarian"”. Libraries & Culture 40 (2): 115-127. doi:10.1353/lac.2005.0027. http://www.jstor.org/stable/25541905. 
  2. ^ a b Greggs, Jeffrey (December 2010). “Arcimboldo 1527–1593: Nature & Fantasy”. The New Criterion. pp. 49–50. http://books.google.com/books?id=ihmUGf5qOIIC&pg=PA50 
  3. ^ a b c Livrustkammaren och skoklosters slott med stiftelsen hallwylska museet: En myndighet tre museer”. 2013年9月3日閲覧。
  4. ^ a b Werner Kriegeskorte (2000). Arcimboldo. Ediz. Inglese. Taschen. p. 30. ISBN 978-3-8228-5993-3. http://books.google.com/books?id=JRdQzBJckdYC 
  5. ^ a b Thomas DaCosta Kaufmann (2009). Arcimboldo: Visual Jokes, Natural History, and Still-Life Painting. University of Chicago Press. p. 259. ISBN 978-0-226-42686-0. http://books.google.com/books?id=sRuI5laxCZIC&pg=PA259 
  6. ^ a b c 中川素子 『本の美術史』 1995年、75-78頁。
  7. ^ Frantisek Makes; Maria Brunskog (2011). Enzymatic Restoration and Authentication of Giuseppe Arcimboldo's "Vertumnus". Gotland University. ISBN 978-91-86343-08-8. http://books.google.com/books?id=QmJhtwAACAAJ 
  8. ^ ヴェルナー・クリーゲスコルテ 『ジュゼッペ・アルチンボルド』 Yuko Aoki訳、Tashen、2001年、30頁。

外部リンク[編集]