原野商法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Jump to navigation Jump to search
原野が高値で売れる

原野商法(げんやしょうほう)とは、原野などの価値の無い土地を騙して売りつける悪徳商法のことをいう。1960年代から1980年代が全盛期であり、新聞の折り込み広告や雑誌の広告などを使った勧誘が盛んに行われていた。

手口[編集]

夏のニセコ。詐欺師は夏の写真や風光明媚な場所の写真だけを見せる
冬のニセコ。北海道でも特にニセコは5月まで雪が降り積もるなど内地人の想像以上に過酷なので安易に土地に手を出してはいけない
  • 虚偽のリゾート開発や計画段階の新幹線高速道路建設の計画とリンクさせ、土地の値上がり確実であるとの虚偽の説明を行う。勧誘する地域とは遙かに離れた土地が投機目的の理由で斡旋されることから、現地を訪問して土地を検証することが困難であり、訪問したとしても売りつける土地とは違う他人の土地に案内するなど、追及をかわすさまざまな手口が用意されている。
  • 所有者は元々は一筆である土地の区割りを自由に分筆登記できる制度を悪用して、一坪数円程度の評価額しかない広大な原野の中に、あたかも区画整理が行われたかのような整然とした街区や道路の絵図を描くように細切れの分筆登記を行い、この架空の街区や道路の区画を一区画数百万円という高値で多数の被害者に売り捌くのである。
  • 被害者は虚偽のリゾート開発や公共事業の計画イメージが描かれたパンフレットと、街区状に分筆登記された公図に騙される形で、価値の無い土地を購入してしまう。こうした販売に先立ち、原野商法業者は芸能人政治家などの著名人やプロスポーツ選手等に無償で一部の街区を譲渡し、「○○氏も所有するリゾート計画地!」等といった騙し宣伝を行う布石を打つ場合もある。
  • 原野商法の舞台となる土地は、余りにも急峻で人里からも離れ過ぎているために、物理的に居住も耕作も不可能な場所である事が殆どで、現地を訪問しようとしても購入した区割りを特定することすら困難である場合も多い。当然ながらこうした人跡未踏の地は市街化区域としての範疇にすら入らない場所のため、宅地造成を始めとする開発行為を申請して許可を得ることもほぼ不可能に近い。
  • ネットのgoogle mapなどで現地を確認すれば被害を防げる可能性があるが、それでも騙されるのが詐欺であり、2010年代以降でも「金山」「水源地」「インターネットの仮想空間上の土地(バーチャル原野商法)」「中国人向けのリゾート」「中国の侵略に対する本土防衛上の重要拠点」などと称する新手が登場している。
  • 2010年代以降は、日本では原野商法そのものの被害よりも原野商法の被害者を狙った二次被害が急増している[1]。一方で、中国やシンガポールなどの海外富裕層に法外な価格で日本の土地を購入させる外国人相手の原野商法が急増している[2]
  • 「北海道の山林の買収を進める中国から日本の土地を守る」との名目で日本人に無価値な土地を買わせる手口もあるが、これは投資目的ではなく購入者が「経済的には無価値だが国防上は極めて重要な価値がある」土地だと納得した上で高値で購入するので、購入する本人からすると詐欺とは言い切れない。ただし、購入者の子孫は相続する遺産が土地の代金の分だけ減る上に、先祖の死後に無価値な土地を相続して税金を払い続けることになるので、土地を購入する前に家族に相談すべきである。

外国人相手の原野商法[編集]

日本人だけではなく、外国人も日本の原野を高値で買わされる。

2010年代以降、日本では原野商法そのものの被害よりも原野商法の被害者(いわゆる「カモ」)に対する二次被害が中心となる一方で、海外富裕層に法外な価格で日本の土地を購入させる外国人相手の土地取引が急増している[2]。特に中国人富裕層の間では、中国でも観光地として有名なニセコの土地が人気で、外国人に販売された北海道の土地の7割がニセコに集中しているという。もちろん販売されるのは観光施設や別荘として活用できるような土地ではなく、道路も通っていない上に年間のかなりの期間が雪に閉ざされる人跡未踏の原野であるが、外国人富裕層(いわゆる「成金」)の間では海外の有名観光地に土地を持つのがステータスと言うことと、また日本の庶民とは金銭的な価値観が違うこともあり(NHKの記事では評価額1500円の原野を5000万円で売ったケースが紹介されており、つまり1500円でも5000万円でも同じレベルのはした金に過ぎないという価値観)、地図の上では有名観光地域にあるというだけの人跡未踏の原野を法外な価格と納得した上で購入する人も多い、と業者は主張しており、2010年代に活発に販売された。海外富裕層相手のブローカーは、牧場経営などに失敗した日本人が多かったという。

それに関連して、「中国に日本の水源が狙われている」という説が日本国内でインターネットの噂として起こり、後述の「水源地投資詐欺」につながった。NHKの2018年の記事によると、この説が起こったきっかけは、2010年に北海道議会における調査により、中国やシンガポールの法人や個人が北海道の土地を多数購入していることが発覚したことで、それを一部メディアなどが取り上げたことで有名になったという[2]。しかしNHKが調査した結果では、2018年までに土地が実際に水資源をめぐるビジネスなどに使われたケースは確認できず、NHKは「狙われていたのは水資源ではなく、海外の富裕層だった可能性」[2]を指摘している。

水源地投資詐欺[編集]

「水源地」と称して無価値な土地を売りつける商法。2010年代になって被害が急増した原野商法で、舞台となった鳥取県や北海道などの自治体や国民生活センターが注意を呼び掛けている[3][4]。 「大手飲料メーカーが関与している」と称するもの、また日中関係の悪化を背景に、「日本の水源地の買収を進めている中国から日本の水源を守るため」などと愛国心を利用した手口も目立っている。

ちなみに河川法に基づかない水利権の売買はできず、水源地の土地を購入しても水利権は得られない。また森林法林地開発許可制度により1ha以上の森林の開発には都道府県知事の許可が必要など複数の法的な制約があるため、日本人だろうと中国人だろうと大手飲料メーカーだろうと「水源地」を購入しても水源を利用できることはまずない。

中国脅威論[編集]

中国人に日本の原野を買われることが、日本国の防衛上の脅威になるという説を一部メディアなどが取り上げている。

産経新聞社編集委員の宮本雅史は、中国系資本がリゾートなどの名目で北海道の土地を買収し、そこを中国の自治区とすることで、北海道が「中国の32番目の省」[5](原文ママ。ちなみに中国の省の数は2018年現在で23省)となる危険性を指摘しており、「中国人に日本の土地を買われることを阻止するため」に中国人に先んじて原野を高値で購入する愛国的日本人が、詐欺師の口車に乗って無価値な土地を高値で購入しているのではなく、一人の日本人として中国と「目に見えない戦争」[5]を戦っているという見方もある。

一方で、中国脅威論を煽ることで無価値な土地の地価を吊り上げたうえで、日本円の投資先を探している中国系ファンドに土地を買わせるという手口もある(中国系投資ファンドに対し、「原野の買収を進める中国から日本の土地を守るため、日本の自治体や国が土地の買収を検討しているので、土地の値上がり確実である」との虚偽の説明を行う)[6]。日本の投資会社すら買わない無価値な土地が高値で売れる上、中国系企業が本当に日本の原野を購入したという実績も得られるので一石二鳥である。さらに、一度中国系資本に売った土地を、自治体や愛国的日本人に高値で転売することができれば一石三鳥である。このように、日本人だろうと中国人だろうと関係なくカモを見つけて無価値な物を売って大金を稼ぐのが詐欺師である。

当然のことながら中国人が日本の土地を買っても、そこは中国の領土にはならない。

二次被害[編集]

かつての原野商法の被害者に「土地を買いたい」などと言う話を持ち掛ける業者がいるが、原野は無価値なのでまともな買い手が付くはずが無く、そういう話は全て詐欺である。詐欺師の話を不用意に聞いてしまった時点でトラブルのもとになるので、耳を貸さずにきっぱりと断るように国民生活センターが注意している[7]

  • 原野商法に騙された人はカモリストに登録され、別の悪徳商法に遭うなど二次勧誘の対象となることが多い。悪徳商法業者にとっては格好の餌食である。
  • 原野商法の舞台となった土地で、「買い手が見つかった」とか地籍調査公共事業が行われると称して測量代を巻き上げる二次的な詐欺が存在する。本来、地籍調査や公共事業の測量は無料であるが、数十万円の高額な測量代を請求するケースがほとんど。中には、実際に測量もしていないのにその費用を詐取する業者もある。
  • 2010年代には「北海道の土地を欲しがる中国人から日本を守るため」と称して原野を売りつける商法とは逆に、「北海道の土地を欲しがる中国人やオーストラリア人に原野を売ってあげよう」と称して原野商法の被害者と近づき、原野の管理委託契約を締結させる詐欺も登場している[8]。なお、原野は人跡未踏の山奥に存在するという以前に、前述の通り森林法によって開発が規制されており、日本人だろうと中国人だろうと土地の利用が法的にできないため、原野商法でもしない限りは原野を欲しがって買う人はいない。
  • かつての原野商法の被害者に土地の売却を勧誘し、土地を下取りした上で、さらに高額で新たに別の原野を買わせる例が2010年代後半以降に急増している。手持ちの原野を売却できたと思って喜んでいたら、さらに高値で別の原野を購入する契約を結んでいたことを後で知ることになる。国民生活センターではこれを「売却勧誘-下取り型」と呼び、注意を呼び掛けている。
  • 原野商法の最盛期は1960年代から1970年代であったため、原野商法に騙された人は2010年代の時点で70代以上の高齢者が多い。そのため、「寿命を迎える前に『負の遺産』を整理しておきたい」と考える人が多く、それが2010年代以降の二次被害の激増の背景となっている。
  • 一方原野商法を展開する業者サイドも高齢化が進んでいる。というのも二次勧誘に使うカモリストは以前に原野商法を展開していた業者が契約者リスト(通称カモリスト)を温存していてそれを再利用するからである。原野商法の土地は価値がなく転売される可能性がゼロであるためカモリストが更新されることもなく、業者にとっては好都合である。
  • 2006年にいくつかの原野商法業者が東京都により公表された[9]

対策[編集]

  • 「宅地建物取引業者免許」の所持を業者に確認すること。所持していない場合は詐欺師である。
  • 土地の自治体に「課税評価額」を確認すること。国土交通省がホームページで公開している「土地総合情報システム」でも確認できる。不当に高い場合は詐欺師である。
  • 契約して8日以内ならクーリングオフが利用できる。
  • クーリングオフ期間を過ぎていた場合でも契約を取り消せることがあるので、まずは「188番」(消費者ホットライン)に電話すること。自治体の消費生活センターに相談できる。

所有者不明土地問題[編集]

原野商法に引っかかった購入者の子孫が原野を相続した際、無価値なのに固定資産税だけ取られる原野を手放したいと思う相続者が多いが、原野は無価値なので、日本の土地を欲しがっているとされる中国系企業に高値で買い取ってもらえるどころか、無料でもいらないとされ、日本の自治体にすら寄贈を断られる場合が多い。先祖の財産を相続する場合、原野だけ相続放棄するということもできないので、先祖が購入した無価値な土地の税金を子々孫々まで払い続けることになる。それを嫌がり、相続した土地の「登記が任意である」という抜け道を利用し、原野を登記せずに放置することで事実上の相続放棄を行う人が多い。この結果生まれるのが「所有者不明土地」である。

富士通総研榎並利博は、土地所有者不明問題が東日本大震災の復興事業の大きな障害となっていることを示すレポートを2017年3月30日開催の規制改革推進会議の投資等ワーキング・グループに提出し、その中で「原野商法の後遺症」により新たな問題が地方で発生していると指摘した[10]

その他[編集]

  • 原野商法に遭った土地は、地形の緩急に関係なく格子状に所有権が細分化されている。こうした土地に、後日、バイパス道路など本当の公共事業が計画されることがあるが、用地買収は難航する(地権者が遠方でかつ人数が多く、高い補償料を要求する)ため、再迂回ルートが設定されるなど、原野商法で売買された地域は忌避されることがある。
  • 原野商法の舞台は北海道の山奥、栃木県の那須、三重県の奥地山間部などに多い。
  • 原野商法で売買された土地は、購入した本人にも日本のどこにあるのか分からないことが多いが、中国資本による原野の買収を国防上の脅威として「北海道が危ない」キャンペーンを行っている産経新聞社では、サンケイツアーズとの協力の下で中国資本に買収された日本の山林や原野を視察するツアーを定期的に開催しているので、これに参加すると実際に売買された原野を現地に行って確認することが出来る[11]

関連項目[編集]

参照[編集]

  1. ^ より深刻に!「原野商法の二次被害」トラブル-原野や山林などの買い取り話には耳を貸さない!契約しない!- 国民生活センター
  2. ^ a b c d ”水資源が狙われている問題“を調べてみた NHK
  3. ^ 山林の権利購入における投資トラブルについて 鳥取県 森林・林業振興局
  4. ^ 環境保護にもなるもうけ話?水源地の権利を売ります!買います! 国民生活センター
  5. ^ a b 『爆買いされる日本の領土』宮本雅史、角川書店、2017年
  6. ^ 日本人ブローカーが仕掛けた「中国の北海道・山林買収」 日刊SPA!
  7. ^ 国民生活 2018年6月号【No.71】(2018年6月15日発行) 国民生活センター
  8. ^ 原野所有者に管理委託契約させた事業者に業務改善指示 東京都
  9. ^ “[https://web.archive.org/web/20060927122909/http://www.metro.tokyo.jp:80/INET/OSHIRASE/2006/09/20g9d300.htm 「あなたの土地、買いたがってる人がいるよ。」 同一人物を次々に紹介し測量・整地代金を不当に搾取・・・など 原野商法二次被害!!6社に対し指示・勧告!!]”. 2018年5月22日閲覧。
  10. ^ 会議情報は第11回投資等ワーキング・グループ 議事次第”. 内閣府 規制改革推進会議 会議情報. 2018年2月1日閲覧。 レポートは、電子政府から見た土地所有者不明問題 (pdf)”. 内閣府. 2018年2月1日閲覧。
  11. ^ 【北海道が危ない】学生16人が現地を視察 「われわれも問題意識を 」 - 産経ニュース

外部リンク[編集]