十日間の不思議

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十日間の不思議
Ten Days' Wonder
著者 エラリイ・クイーン
発行日 1948年
ジャンル 推理小説
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
形態 文学作品
前作 フォックス家の殺人
次作 ダブル・ダブル
ウィキポータル 文学
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十日間の不思議』(とおかかんのふしぎ、Ten Days' Wonder )は、1948年に発表されたエラリイ・クイーンの長編推理小説

エラリイ・クイーン(作者と同名の探偵)が登場する作品であり、架空の町ライツヴィルを舞台にした作品の第3話[1]である。

あらすじ[編集]

彫刻家のハワード・ヴァン・ホーンは気が付くと血まみれで安宿にいた。自分の血らしい。記憶喪失の間に犯罪に関係したのではと不安になる。彼はこのところ、こういう記憶喪失が相次いで起こっている。服を脱いで寝ようとしたら、次の瞬間、400マイル離れたドライブインにいた。その間、5日と半日。次は、26時間後に発見され、その後の8時間の記憶がない。その後、頻発、3、4週間続くこともあれば、握拳される場所も、ボストン、ニューヨーク、プロビデンスとまちまち。今回、血まみれだったことで、エラリーに相談した。彼は1939年、大戦前のパリで、画学生としてエラリーと知り合った。エラリイは彼の病気を調べるため彼の故郷ライツヴィルを訪れる。エラリーにとっては、ライツヴィルは三回目の訪問。

ヴァン・ホーン家は、ハワードの父ディーズと継母のサリー、叔父ウルファートがいる。ハワードは捨て子から養子に、サリーは貧民街で工場を経営していた両親の子。ただし、ディーズの工場買収で首にされ、両親の死後、ディーズの経済援助で学校に行き、大卒後、ディーズと結婚。今あるものは、すべてディーズによって作られたもの。しかし、そのハワードとサリーが義母と養子の間で恋仲になっている。二人の恋文を収めた宝石箱が盗難にあい、宝石は戻ったものの、恋文が戻ってこない。その恋文を手に入れた者が2人を恐喝してきた。恐喝者にお金を払うため、ハワードは泥棒に見せかけて、父の金庫からお金を盗んだのだが、…。そうとしらない父は、町の美術館建設計画に、息子に玄関の彫刻をやらせてくれるならという条件で、多額の寄付をしようとしている。恐喝者との交渉には、エラリーが出向き、手紙を取り戻してきた。 その翌日、ディーズが、ハワードの本当の両親の身元が判明した。30年前依頼して不首尾に終わった探偵の代わりに、新しい探偵社に依賴。全てが判明、本当の両親は農夫で既にふたりともなくなっていた。ということで、ディーズの弟ウルファートは、養子と「妻」になったばかりの女と自分の間で遺産の配分はどうなるんだ、と問いただす。そこで、この家にはさらにディーズの老母も住んでいることが明らかになる。ここまでで5日が経過。 そして、恐喝者から再度の金の要求が来て、狼狽するハワードとサリー。エラリーは、ディーズにあなたの命が危ないと警告したが、殺害されたのは、彼の妻サリーだった。しかも、寝ていたハワードの指には、サリーの血痕が認められる。前夜も彼は無意識のまま、車を走らせて実の両親の墓のある墓地までドライブしたのに、覚えていない。エラリーは、判断を誤ったのか。ハワードの記憶喪失中の行動の意味は一体どんな意味があるのか。妻と養子の息子の不倫をディーズは掌握していたのか。ウルファートの遺産狙いは成功するのかを巡って物語は、謎解きに入っていく。

主な登場人物[編集]

  • ハウ(ハワード)・ヴァン・ホーン - ライツヴィル出身の彫刻家。パリでエラリーと知り合う。
  • ディーズ(ディードリッチ)・ヴァン・ホーン - ライツヴィルの企業家で地元の政治家。ハワードの養父。
  • サリー(セイラ)・ヴァン・ホーン - ディードリッチの後妻。ハワードの年下の継母。
  • ウルフ(ウルファート)・ヴァン・ホーン - ディードリッチの弟。甥のハワードとは不仲。ホーン財閥の実務を担当している。
  • ヴァン・ホーン未亡人 - ディードリッチとウルファートの母親。百歳の高齢ながら自立し、聖書とともに毎日を生きる。亡夫(二兄弟の父)は宣教師だった。
  • ローラ - ヴァン・ホーン家の家政婦。
  • エラリイ・クイーン - 推理作家の名探偵。ライツヴィルのヴァン・ホーン宅に滞在する。

提示される謎[編集]

  • 見立て殺人(十戒)
  • 恐喝者の正体は誰か。
  • ヴァン・ホーン家でエラリイが目撃した徘徊する謎の老婆は何者か。

特記事項[編集]

  • 作中で登場人物が「ライト家の騒動」と「フォックス事件」について語っており、『災厄の町』、『フォックス家の殺人』のネタバレがある[2]
  • 鮎川哲也は本作の文中に事実と異なる記述があり、読者に対しアンフェアであると述べている[3]
  • ライツヴィルから戻ったエラリイが、世界を回って数々の事件を調べる旅に出たと言及されるが、この期間のエピソードはのちに『エラリー・クイーンの国際事件簿』[4]として発表される。

作品の評価[編集]

  • ハヤカワベスト100・85位
  • EQアンケート45位
  • エラリー・クイーン・ファンクラブ会員40名の採点による「クイーン長編ランキング」9位[5]

日本語訳[編集]

映画化[編集]

1971年、フランスの監督クロード・シャブルによって映画化された。フランス語のタイトルは、" La Décade prodigieuse"(英訳のタイトルは、"Ten Days' Wonder")である。ディードリッチ役がオーソン・ウェルズ、ハワード役がアンソニー・パーキンス、サリー役がマルレーヌ・ジョベール。エラリーは、探偵ではなく、ハワードの恩師の哲学教授という設定で、ミシェル・ピコリが演じた。

脚注[編集]

  1. ^ 『災厄の町』『フォックス家の殺人』に続くシリーズ3作目
  2. ^ エラリイ自身は作中人物の指摘した真相を否定しているものの、両事件の核心に触れる記述がある。
  3. ^ 『十日間の不思議』ハヤカワ文庫(青田勝)巻末の解説
  4. ^ 1964年 『エラリー・クイーンの国際事件簿 (Ellery Queen's International Case Book)』(リー単独作品)
  5. ^ 『エラリー・クイーン Perfect Guide』(株式会社ぶんか社、2004年)に掲載。