労働基準監督官

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労働基準監督官(ろうどうきじゅんかんとくかん)とは、日本の労働関係法令に基づいて、あらゆる種類の事業場に立ち入り、労働基準法労働安全衛生法等を遵守させるとともに、法律で定められた労働者の権利を守るために使用者を監督し、適切な労働環境を確保するよう指導することを任務とする厚生労働省の職員(国家公務員)である。ILO81号条約に規定される労働監督官にあたる。「労働Gメン」という呼称も使用されたこともある[1]

概要[編集]

主に厚生労働省の各部局等・都道府県労働局・労働基準監督署に配置され労働基準関係法令に係る行政事務を行っているが、労働基準関係法令違反事件に対して特別司法警察職員司法警察員)として犯罪捜査被疑者逮捕送検を行う権限がある。2013年度(平成25年度)の総人数は3,198人である。

手錠捕縄・腰縄は携帯することができるが小型武器(拳銃などの小火器類)の携帯や使用は認められておらず[2]逮捕術の訓練も行われていない。また、使用する車両も緊急自動車の指定も受けていない。これは職務の性質上、これらの権限を行使する必要性がほとんど無いからであると考えられる[3]

全国の年間送検事件数は、特別司法警察職員の中では海上保安官の次に多い。2012年(平成24年)の送検事件数は1,133件[4]

施行を所掌する法律[編集]

労働基準監督官が、その規定に違反する罪について特別司法警察職員の職務を行うことを定めた法律は以下の通りである(カッコ内は特別司法警察職員の根拠条項)。なお、司法警察職員のうち司法巡査はおらず、全員が司法警察員としての資格をもつ。これらの法律には労働基準監督官に行政処分又は行政調査の権限も与えている。

労働基準監督官採用試験により採用された職員は、基本的に「労働基準監督官」の官名を与えられるが、労働基準行政(厚生労働省労働基準局、都道府県労働局労働基準部、労働基準監督署の総称)に属する事務官、技官と同様の職務を行う官職に任用される場合もある。よって上記以外の労働基準行政が所掌する法律である、労働者災害補償保険法労働金庫法中小企業退職金共済法労働災害防止団体法社会保険労務士法労働保険の保険料の徴収等に関する法律、失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律、勤労者財産形成促進法労働時間等の設定の改善に関する特別措置法石綿による健康被害の救済に関する法律労働契約法過労死等防止対策推進法専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法も労働基準監督官が施行に携わる場合のある法律である。

また、労働者派遣法は職業安定行政が所掌する法律であるが、労働基準法及び労働安全衛生法等の適用にあたって労働基準監督官も解釈・参照する。

労働基準監督署に配置された労働基準監督官の主な業務[編集]

監督指導[編集]

労働基準監督官は、労働者を使用している事業所に立ち入り、労働基準法や労働安全衛生法など、監督官が施行に関する事務を所掌する労働基準関係法令の遵守状況について行政調査を行い、違法な行為が確認されれば、事業者・使用者に対して行政指導行政処分を行うことを主な業務としている。この調査と行政指導を実施する契機は、労働基準監督署の主体的な計画、労働者からの申し立て(申告)、重大な労働災害の発生など様々であり、また、方式も事業所への訪問や、事業者の呼び出しなど様々な態様で行われており、「監督指導」と総称されている。労働基準法は「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」(労基法第101条第1項)と規定し、労働基準監督官の立ち入り調査に法的な根拠を与えている。この「臨検」という用語から、監督官による立ち入り調査は「臨検」ないし「臨検監督」などと呼ばれている。労働安全衛生法にも同様に監督官の臨検権限の根拠となる規定があり、「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる」(労安法第91条第1項)。また、医師である労働基準監督官(現実には労働基準監督署には配属されていない)は、就業を禁止すべき伝染性の疾病にかかった疑いのある労働者の検診を行なうことができる(労安法第91条2項)。臨検にあたって監督官は「その身分を証明する証票を携帯しなければならない」(労基法第101条第2項)とされる。具体的な標章の形式は労働基準法施行規則に様式第18号として公表されている(労基法施行規則第52条)。労働安全衛生法の「立ち入り」(第91条第1項)「検診」(第91条第2項)も同様であり、その権限の行使にあたっては、「その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない」(労安法第101条第3項)。

以上のような臨検・立ち入り調査にあたって、相手方である使用者・事業者はこれを拒否したり、虚偽の陳述をすることに対して、労基法は罰則を以て臨んでおり、禁止している。ただし、刑事訴訟法上の捜索・検証・差押えや国税犯則取締法の「臨検、捜索又ハ差押」のように、相手が立ち入りを拒否した場合に有形力を行使して立ち入る即時強制はできず、罰則を背景に間接的に受け入れや協力を強制する間接強制にとどまる制度である。拒否した場合に送検された例もなく、実効性はない。。

なお、監督指導は事業所への訪問のみではなく、使用者を労働基準監督署に出頭させて実施する場合もある。労基法や労安法等においても「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる」(労基法第104条の2)、「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる」(労安法第100条第3項)と、監督署への出頭や報告を命じる根拠を定めている。臨検・立ち入りと同様に、出頭命令についても、これに不出頭で応えることは罰則の適用があり、間接的にこれに応じることが強制されている。しかし、不出頭をする事業者が多いため、すべての事業者に罰則の適用ができるような捜査を行うことはできず、現実には強制は不十分な状況となっている。

臨検において「尋問」「質問」の相手となる「使用者」とは労基法上、「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」であり、会社の役員や労働者に限られず、事業者から事務を委任された社会保険労務士も含まれる。その結果、臨検・立ち入りに会社の委任を受けた社会保険労務士が同席、労働基準監督官に対応する場合もある。しかし、臨検に社会保険労務士が単独で対応すると、社会保険労務士には臨検を代行して受ける権限がないということをいう労働基準監督署があるが、その会社の労働者1名が同行すれば臨検が受検可能である。この労働者は、パートであっても、労務管理の権限の全くない労働者でも指導文書に受け取りの署名さえできれば臨検の受検が認められている。このため、調査に出向きたい社会保険労務士が調査対象の会社のアルバイトとして1時間でも雇用されれば社会保険労務士による臨検も事実上可能となっている。社会保険労務士が顧問先の会社から労働者として雇用されることを禁止される法律はない。このため、労働基準監督署の抵抗には全く意味がない状況となっている。この場合、社会保険労務士を雇用していることを明らかにする社会保険労務士あての労働条件通知書の写しなどを持参すれば、社会保険労務士による臨検の受検が可能となっている。

労働安全衛生法上は、監督官のこの立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとされる(労働安全衛生法第91条4項)。犯罪捜査が主体ではないことから、立ち入りにあたり捜査令状の必要も無い(これらは捜査活動ではなく行政指導の範疇である。それゆえ、立ち入りやその内容に不服があっても行政不服審査法行政事件訴訟法で争うことはできない)。なお、特別司法警察職員として、家宅捜索・逮捕の際は警察と同じく裁判所が発行する令状が必要である。

安全衛生に関する一部の事項については、法違反が認められ、緊急の必要がある場合、行政指導にとどまらず、行政処分によって、事業者に一定の作為・不作為の義務を新たに課す措置も行われる。具体的には、労働基準法上の寄宿舎については、「全部又は一部の使用の停止、変更その他必要な事項」を即時に命ずる権限(即時処分権)が認められている(労働基準法第103条)。また、労働安全衛生法の危害防止措置基準に違反する事実があるために労働者に急迫した危険があるときは、監督官は、即時に作業の全部又は一部の停止、建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更その他労働災害を防止するため必要な事項を命ずることができる」(労安法第98条3項)。この行政処分は「使用停止等処分」と呼ばれる。なお、労安法に違反する事実がない場合においても、労働災害発生の急迫した危険があり、かつ、緊急の必要があるときは、必要な限度において、他当該労働災害を防止するため必要な応急の措置を講ずることを命ずることができる(労働安全衛生法第99条)が、実際に発動されたことは一度もない。

監督指導のうち、労働基準監督署が毎月一定の計画に基づいて実施する監督は「定期監督」と呼ばれる。これは、経済動向・労働災害発生状況・遵法状況などの分析結果を基に、1年間あるいは複数年間にわたる監督対象事業場のリストをあらかじめ作成して実施される。平成24年の定期監督の実施件数は134,295件[5]。方式としては、事務所・工場・建設工事現場などを原則として事前の予告なく訪問する。なお予告を行う立入りは国際基準に反するものであるが、実際には予告を行う場合もある。定期監督で発覚する法令違反としては、時間外労働、安全基準などが多くなっている。{{要出典|また「若者の使い捨て」等ブラック企業の疑いのある事業所、労働災害の多い業種に重点監督を行うが、対象は膨大であり一部の企業を見せしめ的に立ち入っているような状況である。最近では、違反のあった事業者を公表して制裁を課すことが行われており、行政が事実上の制裁を課すことが行政の対応として適当か疑問視されている。

事業場に法令違反の事実がある場合においては、労働者は、その事実を労働基準監督官等に申告することができる(労基法第104条・労安法第97条など)。これにより、労働者からサービス残業解雇(解雇手続(予告解雇及び解雇予告手当)のみを扱い、解雇の理由については労基法上の解雇制限(労災休業中の解雇、産前産後休業中の解雇)のみを取り扱い、解雇理由は扱わない。)・賃金不払・労災隠し[6]など、所管する法令の違反事実があるという旨の申告があった場合は、労働基準監督官による監督指導が実施される。申告を契機として実施される監督指導は「申告監督」と呼ばれる。申告は、「定期監督」とは別に、労働基準監督官が上述の監督権限を行使する主要な契機の一つとなっている。なお、労働契約法そのものは契約自体が労働基準法違反でない限りは監督官の指導対象ではない。平成24年の申告処理件数は25,418件[5]

申告を受けた労働基準監督官が、監督義務を負うかという問題については、「労働者が労働基準監督官に対して事業場における同法違反の事実を通告するもので、労働基準監督官の使用者に対する監督権発動の一契機をなすものではあっても、監督官に対してこれに対応して調査などの措置をとるべき職務上の作為義務まで負わせるものではない」とする判例がある[7]。申告による処理を行うかどうかは、窓口で対応した担当官の判断となる。労働者個別の民事的な権利救済は都道府県労働局によるあっせんや、さらに終局的には裁判所の役目であり、労働基準監督署は治安機関であるため、民事不介入という限界がある。また、労働者の家族など労働者以外からの申告は、法律上認められていない。労働者が死亡した場合の遺族にも申告は、法律上認められていない。

申告監督の場合、圧倒的に賃金不払の事例が多く、次いで解雇、最低賃金等の事例となっている[5]

災害時監督・災害調査

労働災害が発生した場合に行われ、災害原因の究明と再発防止指導を主として行う。労働基準関係法令の遵守状況は災害の発生と強い関連があると思われる場合には確認し、法令違反があった場合は是正勧告を行う。(災害調査は、法律違反の有無を調査する臨検とは法的性質が違い、主に災害の原因を調査するもので、労働基準監督署に強制的な調査権はないとされている。)

再監督

是正勧告・使用停止命令を出した法令違反の是正状況を確認する。また事業場からの是正・改善報告を求めることもある。是正されていない場合でも刑事事件に切り替えられることは実際には少ない。平成24年の再監督件数は13,807件[5]

なお、災害調査で災害と密接に関係がある重大・悪質な法令違反が認められた場合、告訴告発がなされた場合は、是正勧告を行わず(情況により行うこともある)、即時に刑事事件に切り替えられる。定期監督、申告監督、災害時監督で重大・悪質な法令違反が認められた場合は、是正勧告を行わず(情況により行うこともある)即時に刑事事件に切り替えられることもあるが、極めて稀である。そして、賃金未払の場合は、刑事事件へ切り替えられた後も支払うよう指導をすることも多い。

司法警察員の職務[編集]

労働基準監督官は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、じん肺法、作業環境測定法、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法、賃金の支払の確保等に関する法律及び家内労働法違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察員の職務を行う(労基法102条、安衛法第92条、最賃法第33条、じん肺法第43条、作業環境測定法第14条、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法第14条、賃金の支払の確保等に関する法律第11条、家内労働法第31条)。いわゆる特別司法警察職員の制度の一つである。具体的には、監督指導を通じて覚知した上記労働基準関係法令違反の被疑事件の一部や告訴・告発を受けた事件について、警察等の他の捜査機関と同様に、刑事訴訟法による捜査を行い、事件を検察庁送致・送付する。刑事訴訟法上の権限は警察法の定める一般の警察と変わるところはなく、強制の処分」である捜索・検証・差押のほか、被疑者を逮捕・勾留することも可能である。ただし、逮捕・勾留の実績は年間数件程度である[3]。逮捕・拘留が少ない背景として、専用の拘置施設を持たず、警察等の他の捜査機関との捜査共助協定も締結していないことも指摘されているが、労働基準監督官のマンパワーのなさが主要因である。

未払い賃金立替払事業にかかる調査[編集]

政府は、労働者災害補償保険の適用事業の事業主のうち、一定の要件に該当する者が破産手続開始の決定を受けたり、事実上倒産するに至った場合において、破産・倒産に近接する期間内に退職した労働者に係る未払賃金があるときは、未払賃金のうち一定の範囲内のものを当該事業主に代わつて立替え払いするものとされている(賃金の支払の確保等に関する法律第7条第1項)。これは「未払賃金立替払制度」、「未払賃金の立替払事業」と呼ばれている。破産手続開始の決定等を受けた事業の場合は、裁判所や破産管財人等が未払い賃金額等を証明する書類を労働者に発行することになっている。しかし、「事業活動に著しい支障を生じたことにより」「事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払能力がない」状態となった事業主のうち、破産手続開始の決定等を受けない者については、所轄労働基準監督署長がそのような状態にあることを「認定」し(施行令第2条第1項第4号、施行規則)、かつ労働者の未払い賃金額等を「確認」(法第7条、施行規則第12条)する制度となっており、法文上、労働基準監督官は上司の命を受けて、労働基準監督署長とともに、その施行事務をつかさどる行政庁に定められている(法第10条、施行規則第21条第2項)。

許可・認定にかかる調査[編集]

労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法に定められた様々な許可及び認定のうち、労働基準監督署長の権限とされたものは、労働基準監督署に配置された労働基準監督官も、署長の補助機関として調査を行っている。

集団指導[編集]

多数の事業場を恣意的な基準で一度に呼び出して、労働基準関係法令の遵守、労働災害発生の防止などについて説明する。

労働相談・窓口業務[編集]

各労働基準監督署内には申告につながる法律違反に限らず労働相談を受け付ける窓口が設置されていて、労働者等からの相談に対し無料で対応する。匿名の相談も可能である。しかし、匿名のままでは事業場に対して指導はできない。

また労働基準監督署が提出先となっている各種届出・申請を受付・審査し、必要があれば提出書類等の補正を求める。

労働基準監督官が行う捜査[編集]

捜査に関する規定は特に存在せず、実務上は犯罪捜査規範国家公安委員会規則)を準用している。

賃金不払の捜査の流れ[編集]

  • 被害者(賃金を支払ってもらえない者)が労働基準法による労働者であることを確定する。
  • 支払う義務がある者、支払うべき金額、支払い方法、支払い場所、支払日などを確定する。
  • 実際に支払われていないことを確定する。
  • 有責性、特に支払いの期待可能性を確定する(行政機関等への捜査関係事項照会も活用する)。
  • 「使用者の社会通念上なすべき最善の努力を傾注し何人がその地位にあっても賃金の遅払いはやむを得なかったであろうと認められる場合には本条(労働基準法第24条)違反の違法性は阻却される。」[8] という判決の考え方は今なお支配的である。

労働災害の捜査の流れ[編集]

  • 労働災害の発生現場の検証実況見分を行い、労働災害の発生状況を明らかにする。
  • 労働安全衛生法に定められている措置をすべき者を確定する。
  • 労働安全衛生法に定められている措置を怠っていたことを確定する。

以上の流れであり、賃金不払ほどの労力は要しない捜査である。しかし、新聞の一面をかざるような大事故、あるいは爆発中毒放射線障害など特異な労働災害の場合は捜査に長期間を要することも多い。なお、警察も労働災害のうち大事故などについては業務上過失致死傷罪の容疑で捜査を進めているので、検察庁へは、労基署と警察が同じ日に送検するよう事前調整されることもある。

他の捜査機関との合同捜査[編集]

他の捜査機関との合同捜査は災害現場で実況見分を合同ではなく同時に行うこと以外にはほぼ行われていない。可能性があるのは、労基署は労働基準法違反、警察は職業安定法違反や労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(労働者派遣法)などであるが、実際に合同捜査を行った例はない。

また、人身取引対策行動計画に基づき、人身売買に関連して、外国人労働者への強制労働などの労働基準法違反がある場合にも、警察入国管理局と合同捜査を行うよう、厚生労働省から指示は出されていない。

労働基準監督官の採用及び採用後の処遇について[編集]

労働基準監督官の採用試験は区分別になっており、労働基準監督官A(法文系)と労働基準監督官B(理工系)の2つに分かれる。いずれも大学卒業程度の知識が問われる。

ただし、監督官は労働行政のオールラウンドプレーヤーであることが求められていて、採用されてからの配置においては区分別はほとんど考慮されない。区分別は事実上、試験問題の違いのみにとどまる。法文系の者は労働安全衛生に必須である理工系分野について、理工系の者は行政に必須である法文系分野について、それぞれの知識を実務及び研修の場において習得することが求められている。昨今の事務官・技官の採用制限から、全ての労働局の事務を監督官がするものと事実上され、採用要項にも労災業務や、安全業務に配置されることが前提となっている。監督官の中には、事務官と監督官の職域の区別が曖昧で、労働基準監督官採用試験の意味が薄れている指摘があり、実際それによる不満も退職者も多い。また、総事業場数のうち1年間に監督が行われる事業場数は、定期・申告・再監督すべて合わせても毎年5%未満であり、全ての事業場を監督するには監督官の数が絶対的に足りていないのが現状である。

採用後は独立行政法人労働政策研究・研修機構に属する労働大学校(埼玉県朝霞市)における研修が採用時、採用5年目、監督署課長就任時、監督署長就任時などに行われるほか、必要に応じて管区警察学校日本原子力研究開発機構自衛隊海上保安庁在日米軍施設などへ派遣されて必要な知識の習得を行う。

警察官のような厳密な服制に基づく制服類は無く、都道府県労働局(職業安定、雇用均等部門を除く)・労働基準監督署に配置された労働基準監督官・厚生労働事務官・厚生労働技官には作業服(春夏用は水色、秋冬用は紺色)が支給されているが着用の義務があるわけでもなく、制服という扱いではなく単に作業服の扱いである。

労働基準監督官採用試験に合格した者のほか、一般職の職員の給与に関する法律別表第1の行政職俸給表(一)における「3級」以上の厚生労働事務官及び厚生労働技官が、労働基準監督官に任用される資格を有する。労働基準監督官採用試験によらず労働基準監督官に任用された者は、いわば「例外的規定」によって任用された者である。単に「労働基準監督官」とは、通常は厚生労働省が行う労働基準監督官採用試験に合格したのちに労働基準監督官として任用された者を指す。

  • 都道府県労働局長、労働基準監督署長等のポストは労働基準法により、労働基準監督官であることが要件となっている。労働基準監督官以外の者がこれらのポストに任用される場合、簡単に「労働基準監督官」としての発令がなされる。このため、労働基準監督官の特有の業務を行ったことのない者が都道府県労働局長、労働基準監督署長等に就任することとなっており、労働基準法により労働基準監督官であることが要件になっていることの意味は失われている。
  • 都道府県労働局長は、本省の(多くはキャリア組)厚生労働事務官・厚生労働技官が就任する。

大規模局には「特別司法監督官(特司監)」と呼ばれる捜査専門の役職が設置されている労働局が存在する[9]

労働基準監督官の昇進[編集]

採用からの3年間は、出身都道府県の属する地方以外の労働基準監督署に配置され、第一線の業務経験を習得する。その狙いは、どんな産業特性・雇用情勢でも対応できる監督官となることである。特に地方の署に配属される者は、マンパワーが不足していることから分担制が取れないため、あらゆる業務をこなせなければならない。

この後、労働基準監督官の昇進経路は、本人の希望と能力に応じて、2通りに分かれる。

地方勤務を選択した者

採用から3年後の広域異動時に他の都道府県労働局へ異動した者は大部分が、その4年後(採用から7年後)に希望する都道府県労働局へ異動し(いわゆる「2局7年」の育成ルール)、その後は同一の都道府県労働局管内で勤務する。監督署の副主任監督官・係長、労働局係長、監督署主任監督官・課長あるいは労働局(総務・人事・企画・監督など)主要係長等、監督署第一方面主任監督官、労働局課・室長補佐あるいは専門官等、監督署次長、小規模監督署長、中規模監督署長あるいは労働局課・室長、主任専門官等、大規模監督署長と昇進する。各都道府県労働局管内で最も序列の高い監督署は筆頭署と呼ばれるが、筆頭署の署長に就任できず退官する者も少なくない。

全国異動を選択した者

「2局7年」の中途で厚生労働省へ異動した者は、その後の異動は都心部のみに支払われる手当(地方に行っても、何年間は支払いが継続するため)のために本省と地方局とを行ったり来たりする。具体的には、本省では労働行政の企画・立案を行い、地方局では前線業務を行う。本省係長、都道府県労働局課長、本省課長補佐・専門官等、都道府県労働局部長、都道府県労働局長あるいは本省課・室長と昇進する。 ただし、都道府県労働局長あるいは本省課・室長は基本的に「キャリア」のポストであり、監督官として採用された者がこれらのポストにまで昇進する者は一部である。人事ブロックの基幹労働局長(北海道、宮城、埼玉、東京、新潟、愛知、大阪、広島、香川、福岡)まで昇進する者はごく限られた者である。

昇進の仕組みなど

昇進は試験制度によらず、採用年次、年齢、能力による選考を行うとされているが、実際のところ、採用年次と年齢が重要視されて、能力評価はほとんど機能しておらず、能力評価より情実人事が行われている。労働基準監督官として採用されたあとの数年間で、人事を行う労働基準監督官に気に入られれば、事実上、署長もしくはこれと同程度のポスト就任が約束されている。地方勤務を選択した者でも、採用7年経過時点で行政職俸給表(一)3級(いわゆる「係長」級)に昇任し、またこの時点で監督署主任監督官・課長の昇進資格を得る。その後、おおむね、40歳代前半には行政職俸給表(一)5級(監督署課長、次長級)に昇任する。しかし、行政職俸給表(一)6級(監督署長級)以降は都道府県労働局や労働基準監督署へ配分された定数が限られていることから、昇任が頭打ちとなる傾向にある。

労働基準監督官の役職[編集]

労働基準監督官には警察官のような階級は無い。地方の出先機関である都道府県労働局労働基準監督署の場合、役職によって上下関係が位置づけられ、都道府県労働局と労働基準監督署で労働基準監督官が就任する役職を比較すると概ね次のようになる。

  • 労働局長
  • 労働局部長(監督署長級)
  • 労働局課・室長、主任専門官等(監督署長級)
  • 労働局課・室長補佐、専門官等(監督署長、次長、第一方面主任監督官級)
  • 労働局係長等(監督署主任監督官、課長、副主任監督官、係長級)

地方勤務者の役職の序列(例)[編集]

  • 筆頭署長、大規模署長
  • 中規模署長、局課・室長、局人事計画官、局主任監察監督官、局統括特別司法監督官、局主任賃金指導官、局主任産業安全専門官、局主任労働衛生専門官など
  • 中~大規模署次長、小規模署長、局総務課長補佐、局企画室長補佐、局監察監督官、局副統括特別司法監督官など
  • 中~大規模署第一方面主任監督官、局課・室長補佐、局労働紛争調整官、局特別司法監督官、局専門監督官、局賃金指導官、局産業安全専門官、局労働衛生専門官など
  • 中規模署第一課長、中~大規模署の次席の主任監督官、中~大規模署の安全衛生課長
  • 小規模署第一課長、局総務・人事・企画・監督係長
  • 中~大規模署の三席以下の主任監督官、小~中規模署の課長、局係長
  • 署の副主任監督官・監督係長、局係長

脚注[編集]

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  1. ^ 最近の使用例では、「週刊ダイヤモンド」2014年12月20日号特集「労基署がやってくる!」など。
  2. ^ 警棒警戒仗などは用法によっては武器類似の効果が得られるものの、法令上所持・使用を規制される「武器」ではないため、所持・使用は可能である。なお、警棒・警戒仗は施設警備を行なう警備員も所持を認められる場合がある類のものである。軽犯罪法第1条第2号参照
  3. ^ a b http://trickybarracks.web.fc2.com/special/laber.html
  4. ^ 資料出所:労働基準法に基づく監督業務実施状況。http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11202000-Roudoukijunkyoku-Kantokuka/0000029138.pdf
  5. ^ a b c d 平成24年労働基準監督年報
  6. ^ セクシャルハラスメントパワーハラスメントそのものは原則として監督対象ではないが、セクハラ・パワハラが原因で労災が発生した場合には労働事務官が労災給付の認定調査を行う場合がある。
  7. ^ 東京高裁判決1981年3月26日(昭和55年 (行コ) 97)東京労基局長事件
  8. ^ 名古屋地裁判決。昭和25年10月16日
  9. ^ http://trickybarracks.web.fc2.com/special/laber_e1.html

関連項目[編集]

外部リンク[編集]