加速器駆動未臨界炉

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加速器駆動未臨界炉(かそくきくどうみりんかいろ、: accelerator-driven subcritical reactor、ADS)とは、加速器で未臨界状態の核燃料体系を駆動させるシステムを言う[1]。より具体的には、加速器によって加速された陽子線[2]をターゲットに照射して核破砕反応を起こし、それによって生成された中性子を臨界量に達しない核燃料を装荷した原子炉に照射することで核分裂反応を起こしてエネルギーを発生させる原子炉システムである。

原子炉自体は未臨界であるため、異常時には加速器を停止すれば急速に出力が低下するという利点があるが、技術的課題及び同様のシステムの運転経験が無いことなど開発課題も多い[3]。研究開発は進められているものの、平成21年時点で全体として「基礎研究段階」にあるとされる[4]

概要[編集]

超高温原子炉の一種で、半減期数万年の MA (マイナーアクチノイド)を核分裂で焼却できる事から「核のゴミ焼却炉」とも呼ばれている。核破砕ターゲットとしてビスマスが使用可能なことから鉛冷却高速炉の設計が有力視されている。

研究の進展[編集]

各国で研究が進んでおり、スイスパウル・シェラー研究所英語版で行われたMEGAPIE[5]と呼ばれる国際共同研究で、液体鉛ビスマスターゲットの運転に成功した[6]。 欧州では、ベルギー原子力研究センター英語版で、MYRRHA英語版とよばれる炉の建設が進んでいる。

日本国内では、放射性廃棄物処理のためにオメガ計画の一環として検討が進んでいる。京都大学京都大学原子炉実験所にて、既存の原子炉に、加速器を併設しトリウムに囲まれたタングステンターゲットに対して陽子線を照射する実験を行った[7]。また、J-PARCにおいて、マイナーアクチノイドの核変換処理目指して液体ビスマスターゲットに照射する実験が計画されている。[8]

ベルギーのMYRRHA計画[編集]

SCK•CENが熱出力5-10万kwのMYRRHA炉の建設準備を進めており、下記のスケジュールで2023年に運転開始の予定である[1]

  • 2015-2019年 建設
  • 2020-2022年 各施設の運転試験
  • 2023年    全力運転開始

利点[編集]

核変換技術の実現
TRU廃棄物や中性子吸収が大きすぎて燃料としては放棄されてきたウラン・プルトニウム近縁の核分裂物質に対し人工的に中性子を吹き込み核分裂させることで、熱の回収や半減期30年程度と短い核分裂生成物への変換ができる。これにより数万年に渡る保存が必要な放射性廃棄物の量を削減できる。同様の変換は高速増殖炉でも可能だが、これらは燃料の5%しか超長半減期核種を混入できない。これに対し加速器駆動未臨界炉ならば燃料の60%以上を超長半減期核種とでき、加速器駆動未臨界炉1基で原発10基が排出する超長半減期核種の処分が可能である。
また、プルサーマルに使用できなくなった高次化プルトニウムも燃焼可能であり、高速増殖炉無しでもU238(劣化ウラン)をプルトニウムに変化させて燃やしてウランを有効利用する核燃料サイクルを完成することができる。
高安全
臨界に達しておらず、また高速増殖炉に比べ燃料の反応度が低いため燃料から発生する中性子だけでは臨界状態が維持されない。そのため熱暴走や即発臨界、制御棒の故障による暴走の危険がなく本質的に安全である。また燃料1Lあたりの発熱量は高速増殖炉 (400-1000kw) に比べ低く、出力密度の低い安全な炉にすることができる。
高発電効率
一般的な軽水炉では中性子を吹き込めず、また臨界状態を維持するため、燃料被覆管には中性子透過性に優れるジルコニウム合金を用いている。しかしこの合金は高温でクリープ変形を起こしやすく運転温度を300℃に抑える必要があり、そのため熱効率は火力発電に劣る30%にとどまっている。これに対し本炉は中性子を人工的に吹き込むため、中性子透過性にこだわらず耐熱性の良い材料を燃料被覆管に用いることができる。そのため運転温度を軽水炉よりも高くできる可能性があり、この場合高温操業により熱効率の改善を図れる。特にヘリウム2次冷却であれば、超高温原子炉の一種として昼はガスタービン複合発電、夜は水素製造/エチレン製造/石炭液化など化学熱源として使用して、熱効率を1.7倍に改善した上、揚水コストを削減できる可能性がある。ただし現状では鉛ビスマスによる腐食問題を改善する必要がある。
高燃料増殖効率
大量の高速中性子が得られるので核燃料の増殖の効率が良い[9]

問題点[編集]

  • 高速中性子発生手段としては加速器より核融合のほうが効率が優れており、加速器駆動未臨界炉でできる事の多くは核融合でも可能。但し加速器駆動未臨界炉は核融合(2038年頃、実証炉運転開始目標)より早期に実現する可能性が高い。
  • 2005年現在 実用化には大電流陽子加速器が必要であり、現在建設中の最新の加速器の運転に成功して、それを36基使ってやっと28万KW実証炉を動かせるレベルで、加速器の大出力化がまだまだ発展途上なこと
    • 追記 2011年現在 FFAG型加速器の進歩が著しく直径36m程度のFFAG型加速器1基で臨界が得られそうである[10]
  • 炉自体としては2.7万KWの加速器を使って80万KWの熱出力を得て、電気出力25-40万KW前後だが、2.7万kw加速器の食うエネルギー分 (6-10%) は高速増殖炉より効率が良くない点が挙げられる。高速増殖炉の研究が優先されてきた理由は主としてこの点であったが、近年の研究で、軽水炉または超高温原子炉10基と加速器駆動未臨界炉1基を組み合わせた場合、超高温原子炉10基と加速器駆動未臨界炉1基の加重平均の総合エネルギー効率では、ナトリウム高速増殖炉11基と比べ、さして遜色ないというレポートもある。(ナトリウム高速増殖炉はナトリウムの沸点が低く、高温ガス炉に比べて低温操業になり熱効率上不利)
  • 加速器駆動未臨界炉の本質的な弱点ではないが、現在日本で構想されているものは溶融金属(鉛ビスマス)をヘリウムガスではなく水で冷やす設計。2次冷却が水の場合、低熱効率操業になってしまう事と、水素/水蒸気爆発の危険がゼロではないこと。(2次冷却材がガスならこの問題は発生しない)
  • 鉛ビスマスは、ナトリウムのように水にいれると水素を発生して爆発する金属ではなく、事故時に水をかけても安全な点が評価できる。しかし鉄よりイオン化傾向が低いために、かつては容器の鋼材が腐食する問題が発生した。また1960-1970年代にロシアの潜水艦で使用された際には、当時、鉛ビスマス液体金属中の酸素濃度管理の重要性がわかっていなかったために腐食剥離物や液体金属酸化物でスラグが発生し、また液体金属流路設計の悪さもあいまって閉塞除熱不良を起こした経験があり、当時の知見と電子制御技術・耐腐食材料技術では解決困難だった。また微量のポロニウムが発生するのでその除去も問題であった。
    • 追記 2011年現在 クロム比率の大きな特殊鋼を用いて内側に(イオン化傾向の大きい)アルミスパッタリング加工をすることで耐腐食問題は400度以下から700度近辺まで改善されてきている。(超高温炉の場合、950度以上なのでもう一段の開発が必要)。また鉛ビスマス中の酸素濃度を電子制御管理することが、腐食やスラグ発生抑止に有効だと判明している。流路設計では、プール型(圧力容器に2次冷却材熱交換器を内蔵した形式)で万一、機器故障でスラグが発生しても流路閉塞しない流路設計が採用されている。ポロニウム対策としては中性子捕獲反応で鉛→ビスマス→ポロニウムと遷移するのでビスマスを使わず100%鉛を使い、早めに交換することや、ベーキング技術の応用で解決可能との研究報告も出ており、東京工業大学を中心に、鉛ビスマス冷却材の研究進展が著しい。(尚、ビスマスは高温超伝導素材として期待されており、鉛からビスマスを除去する工程はビスマスに販路がある)

脚注[編集]

  1. ^ 現状と将来(2003)
  2. ^ 数百MeV以上に加速する。JAERI-Rev(2005) 用語-2 『加速器駆動未臨界炉(ADS)』
  3. ^ JAERI-Rev(2005) 用語-2 『加速器駆動未臨界炉(ADS)』
  4. ^ 平成21年報告書 p.35
  5. ^ http://megapie.web.psi.ch/
  6. ^ http://www.jaea.go.jp/02/press2006/p07020701/index.html
  7. ^ KUCA既設加速器を用いたADS予備実験
  8. ^ 核変換実験施設とは
  9. ^ カルロ・ルビアはそのままでは燃えないトリウムを未臨界体系で増殖し、核分裂させるトリウム燃料サイクルへの応用を考えた。
  10. ^ http://hadron.kek.jp/FFAG/FFAG_CLUB/2003_04_26/20030426_shiroya.pdf[出典無効]

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]