冷却材喪失事故

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冷却材喪失事故(れいきゃくざいそうしつじこ、英語: loss-of-coolant accident, LOCA)は、原子炉圧力容器内の冷却材が、減少する事故またはすべて失われる事故である。原子炉圧力容器またはそれにつながる配管が破損して破損個所から冷却材が漏れ出すこと、または、冷却が十分になされないことにより冷却材が蒸発することによって起こる。適切な対応を執らない場合、冷却材喪失事故は炉心の損傷をもたらす場合がある。非常用炉心冷却装置英語: emergency core cooling system, ECCS)は、いずれも冷却材喪失事故への対処専用に設けられている。

経過[編集]

原子炉には、内部で発生させた熱を排熱し電力に変換するため、冷却材が使用されている。この冷却材の流れが滞ったり失われたりすると、システムが核分裂連鎖反応を非常停止させることになっている。しかし核分裂が停止しても、放射性崩壊によって核燃料はかなりの熱を発生させ続ける。最大出力からシャットダウンした原子炉の核燃料が生み出す崩壊熱は、最大出力の温度と比べて、およそ5パーセントから6パーセントに匹敵する[1]。この熱を冷却するため原子炉には冗長化された冷却系が備えられているが、これらの冷却系がいずれも冷却機能を喪失した場合、崩壊熱は核燃料の温度を上昇させ炉心溶融へと至りうる。

冷却機能の喪失として、たとえば冷却材として水を用いる原子炉(軽水炉など)ではその水の供給が途絶えるなどして冷却ができなくなることなどがある。蒸発した冷却水は圧力が過度に上昇した場合逃がし弁によって放出されてしまうため、仮に追加の冷却水が供給されないと原子炉が空焚き状態になってしまうのである。 これを防ぐため、原子炉にはECCSを始めとして複数の予備冷却水注入系が装備されている。しかしながら人為的なミス等によって冷却材の注入がすべて停止した場合、炉心を除熱できずにスリーマイル島原子力発電所事故のような大事故へと繋がってしまう。

過去設計された原子炉は近年のそれに比べると安全機構が脆弱で、緊急時の注水には何かしらの電源があることを前提とした仕組みなどが採用されていた。しかしながら天災などによって外部電力や非常用電力などがすべて喪失してしまった場合、これらは機能しなくなってしまう。 そのため近年の原子炉では「受動的な」安全機構(英語:passive nuclear safety)を備える傾向にあり、非常時にたとえ外部からの制御を失っても自動で原子炉をシャットダウンできるよう設計されている。外部・非常電源の喪失に備え、原子炉の余熱によってタービンを回し冷却材の循環を図る機構や、特に最近のものでは冷却に熱対流を用いたり、冷却材の注入や制御棒の挿入に重力やガス圧を用いるなどして冷却を継続できる機構を備えるようになった[2]

対策[編集]

原子炉は運転時、発生したボイド (void、蒸気の泡) に応じ、(例えば水の沸騰などによって)外部からの制御が無くとも出力を増減させうる。これは反応度係数を使って評価できる。近年の原子炉は反応度係数が負であり、すなわち水が蒸気になった途端に出力は低下する。ただし、ロシアの黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉とカナダのCANDU炉は例外である。一方、沸騰水型原子炉は、原子炉圧力容器の内部でボイドが発生する。

近年の原子炉は様々な技術を用いて、反応度係数にかかわらず、冷却材の喪失を防止するように、あるいは喪失に耐えられるように設計されている。例えば、ペブルベット炉英語版などは、冷却材が失われた際に、自律して臨界状態が停止するようになっている。あるいは、迅速に臨界状態を停止させることができ、損害拡大の可能性を軽減させる "passive nuclear safety" の仕組みのような様々な安全策を講じていることがある。例えば、炉心周囲の大量の吸熱剤、自律して作動するバックアップ用の冷却・液化システム、自律して冷却される格納容器が挙げられる。

事故の段階[編集]

炉心の健全性にかかわる深刻な事故の段階を次に挙げる。

冷却材・減速材の蒸発
事故が発生したときは、すぐさま全制御棒を完全に挿入して原子炉を緊急停止させて、熱の発生を抑える。しばらくは冷却材の沸騰が続き、冷却材・減速材が蒸発する。
核燃料の融解(炉心溶融)の開始
冷却材・減速材が蒸発した後、核分裂生成物の崩壊に伴う熱(崩壊熱)により、核燃料の温度が高まる。やがて核燃料の温度は融点に達して、核燃料の融解が始まる。冷却材・減速材が蒸発してから炉心溶融が始まるまでの時間は、核分裂生成物の崩壊に伴う熱の発生量、核燃料の熱容量、核燃料の融点によって決まる。
融解した核燃料による原子炉圧力容器[3]の溶融
融解した核燃料が原子炉圧力容器を突き破るまでの時間は、温度と原子炉圧力容器の材質によって決まる。破損した炉心の中で核燃料が重篤な状態にあるか否かは、重要な要素である。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ DOE fundamentals handbook - Decay heat, Nuclear physics and reactor theory, vol. 2, module 4, p. 61 (PDF)”. 2009年8月2日閲覧。[リンク切れ]
  2. ^ 原子力事業部 原子力を考える 模型で学ぶ原子力発電
  3. ^ CANDU炉黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉の場合、これは一続きの加圧燃料チャネル (pressurized fuel channels) にあたる。アルゼンチンにあるAtucha Iのような加圧型重水炉(PHWR)の場合、これはチャネルと加圧容器の二重防壁にあたる。