公務の執行を妨害する罪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
公務の執行を妨害する罪
Scale of justice 2.svg
法律・条文 刑法95条-96条の3
保護法益 公務の執行の適正
主体
客体 国家公務員地方公務員みなし公務員
実行行為 各類型による
主観 故意犯
結果 各類型による
実行の着手 -
既遂時期 各類型による
法定刑 各類型による
未遂・予備 -
テンプレートを表示

公務の執行を妨害する罪(こうむのしっこうをぼうがいするつみ)は、刑法に定められた国家的法益に対するで、国家作用に対する罪のうち公務に対する罪の総称[1]。広義における公務執行妨害罪と同義である。

概説[編集]

公務の執行に対する罪には刑法第2編第5章に規定される、公務執行妨害罪(狭義の公務執行妨害罪、刑法95条1項)、職務強要罪(刑法95条2項)、封印等破棄罪刑法96条)、強制執行妨害目的財産損壊等罪刑法96条の2)、強制執行行為妨害等罪刑法96条の3)、強制執行関係売却妨害罪刑法96条の4)、加重封印等破棄等罪刑法96条の5)、公契約関係競売等妨害罪刑法96条の6第1項)、談合罪刑法96条の6第2項)がある。

これらの類型は2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)による刑法の一部改正に伴うもので、この刑法の一部改正以前は公務執行妨害罪(狭義の公務執行妨害罪、95条1項)、職務強要罪(95条2項)、封印等破棄罪(96条)、強制執行妨害罪(旧96条の2)、競売等妨害罪(旧96条の3第1項)、談合罪(旧96条の3第2項)に類型化されていた。

公務執行妨害罪(狭義)[編集]

公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する(刑法95条1項)。警察における集団語公妨(こうぼう)。

保護法益[編集]

本罪の保護法益は公務そのものであり公務員の身体・精神ではない[2]。判例も刑法95条の規定は公務員を特別に保護する趣旨の規定ではなく、公務員によって執行される公務そのものを保護するものであるから日本国憲法第14条に反するものではないとする[3]

行為[編集]

本罪の行為は暴行又は脅迫である。本罪の暴行が認められるためには、公務員に向けられて有形力が行使されればよく(広義の暴行)、また現実に公務の執行を妨害する必要はない。

本罪は公務員が職務を執行するに当たりなされることを要する。

「公務員」
刑法7条の定義による。法令により公務に従事する職員(みなし公務員)等も本罪の「公務員」に該当するとされる。
「職務を執行するに当たり」
職務を執行中のときだけでなく、これから職務の執行にとりかかろうとするとき、または今まさに職務の執行を終えようとするときが該当する。
職務行為の適法性
規範的構成要件要素。構成要件上明示されていないが、違法な公務を保護する必要はないため、当然に構成要件とされる(書かれざる構成要件要素)。ただし、軽微な手続違背があっただけでは本罪における公務の適法性の要件は損なわれない。適法性の判断基準時については争いがあり、以下のように分類される。
大きく分けて、公務を執行する者の主観による主観説、裁判所の認定による客観説、一般人を基準とする折衷説がある。客観説は更に、行為当時の状況を基に判断する行為時標準説と事後的な要素も全て考慮する裁判時標準説(純粋客観説)に分けられる。判例は、行為時標準説を採っている(最決昭和41年4月14日判時449号64頁)。

職務強要罪[編集]

公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする(刑法95条2項)。

封印等破棄罪[編集]

公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(刑法96条)。2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)により、法定刑が2年以下の懲役又は20万円以下の罰金から3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金又はその併科に引き上げられた。

本罪の行為は公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法によりその封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にすることである。旧条文では単に「公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法で無効にした」ことを処罰対象としていたため、たとえ行為者が命令や処分を知っている場合であっても行為時に有効な封印や差押えの表示が存在しなければ本罪は成立しないとされていた(判例[4])。このような問題に対処するため、2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)により、その封印若しくは差押えの表示に係る命令若しくは処分を無効にする行為も処罰対象となった。

強制執行妨害目的財産損壊等罪[編集]

強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第三号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする(刑法96条の2)。

  1. 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為
  2. 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為
  3. 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為

本罪は2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)により新設された。

強制執行行為妨害等罪[編集]

偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(刑法96条の3第1項)。強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で、申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする(刑法96条の3第2項)。本罪は2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)により新設された。

強制執行関係売却妨害罪[編集]

偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(刑法96条の4)。本罪は2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)により新設された。

加重封印等破棄等罪[編集]

報酬を得、又は得させる目的で、人の債務に関して、第九十六条から前条までの罪を犯した者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(刑法96条の5)。本罪は2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)により新設された。

公契約関係競売等妨害罪[編集]

偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(刑法96条の6第1項)。2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)により、法定刑が2年以下の懲役又は250万円以下の罰金から3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金又はその併科に引き上げられた。

談合罪[編集]

公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする(刑法96条の6第2項)。談合行為が詐欺罪を構成するか否かについては争いがあり、大審院がこれを消極に解したことを受けて(大判大正8年2月27日刑録25輯252頁)、昭和16年刑法改正により新設されたものである[5]。2011年6月に成立した情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年6月24日法律第74号)により、法定刑が2年以下の懲役又は250万円以下の罰金から3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金又はその併科に引き上げられた。

主体[編集]

本罪は必要的共犯である。公務の執行を妨害する危険のあるような談合であれば成立し、入札参加者の一部の者によって行われようと全部の者によって行われようと談合罪を構成する(判例[6])。

行為[編集]

本罪の「談合」とは、競売・入札の競争に加わる者が互いに通謀し、その中の特定の者を落札者ないし競落者たらしめるため、他の者は一定の価格以下または以上に入札または付値しないことを協定することである(判例[7])。本罪は抽象的危険犯であり、本罪が成立するために葉公の競売または入札において公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で競争者が互に通謀してある特定の者をして契約者たらしめるため、他の者は一定の価格以下または以上に入札しないことを協定するだけで足りるのであり、現にその協定に従って行動したことを必要としない(判例[8])。

目的犯[編集]

本罪は公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的を要する目的犯である。

「公正な価格」とは、入札を離れて客観的に測定さるべき価格をいうのではなく、その入札において公正な自由競争が行われたならば成立したであろう落札価格をいう(判例[9])。

また、「不正な利益」とは競売・入札上の公正な価格を害することによって取得される利益をいう。談合による利益が社会通念上いわゆる「祝儀」の程度を越え不当に高額である場合でなければならない(判例[10])。

脚注[編集]

  1. ^ 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)426頁
  2. ^ 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)426頁
  3. ^ 最判昭和28・10・2刑集7巻10号1883頁
  4. ^ 最決昭和33年3月28日刑集12巻4号708頁
  5. ^ 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)437頁
  6. ^ 最高裁判所判決昭和32年12月13日刑集11巻13号3207頁
  7. ^ 最判昭和32年1月22日刑集11巻1号5頁
  8. ^ 最決昭和28年12月10日刑集7巻12号2418頁
  9. ^ 最判昭和32年1月22日刑集11巻1号5頁
  10. ^ 最判昭和32年1月22日刑集11巻1号5頁

関連項目[編集]

参考文献[編集]

外部リンク[編集]