全体戦争

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全体戦争(ぜんたいせんそう、general war)とは存続の危機に瀕している主要国家の間であらゆる資源を投入して戦われる武力紛争である。

概要[編集]

全体戦争とは大国の間で大規模な軍事力を行使し、かつ国家にとって死活的な国益をめぐって積極的に戦われる戦争である。戦略の概念としての全体戦争は核兵器の攻撃的な使用をめぐる議論と関連しており、大陸間弾道ミサイル爆撃機潜水艦などによる核攻撃が想定されている。第一次世界大戦の後にルーデンドルフにより理論化された国家総力戦の概念との相違は、全体戦争の理論的な前提として核攻撃の選択肢があることである。したがって、全体戦争は最も強度の高い武力紛争であり、軍事的エスカレーションの最終的な段階、すなわち核戦争の状態であると位置づけることができる。全体戦争では軍事基地や戦闘部隊への攻撃だけでなく、相手の戦争能力の基盤である首都、商業都市、工業地帯に対する攻撃も実行される。

全体戦争の概念はアメリカとソビエトの全面的な核戦争の危険性を背景とする冷戦構造の中で形成されてきたものである。全体戦争の概念の歴史的な発端を求めれば第二次世界大戦において戦略的に重要な役割を果たした航空戦力とその戦略理論をめぐる議論に求めることができる。イタリアのドゥーエが提案した戦略爆撃(strategic bombardment)の方法はアメリカのミッチェルやイギリスのトレンチャードにも共有され、戦略爆撃は航空戦略の基本的な要素として位置づけられる。核兵器が開発されると戦略爆撃の手段として応用され、実際に大戦中にアメリカにより日本への原子爆弾投下が実施された。1960年代において全体戦争の考え方は核戦略における核戦争と大量報復(massive retaliation)の理論的な基礎となる。大量報復の軍事教義においては核戦争での防御の不可能性、大都市の脆弱性、奇襲の有効性、反撃能力の必要性が認識される。また1970年代には全体戦争への抑止のための反撃能力の確保、軍事力の柔軟な展開、そしてあらゆる水準において紛争を遂行する能力を保障する柔軟反応(flexible response)の理論が取って代わる。全体戦争の議論は軍事力があくまで政治的な目的を達成するための合理的な手段として位置づけることが可能であるという立場を反映してきた。全体戦争の理論では核兵器の役割、核戦争の重要性と形態、そして安全保障の根本的な目標と軍事的な脅威が常に中心的な論点となってきている。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

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