コンテンツにスキップ

入江長八

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
いりえ ちょうはち
入江 長八
生誕 (1815-09-07) 1815年9月7日
伊豆国賀茂郡松崎村明地(現・静岡県賀茂郡松崎町
死没 (1889-10-08) 1889年10月8日(74歳没)
東京市深川区八名川町(現・東京都江東区深川
職業 左官職人
テンプレートを表示

入江 長八(いりえ ちょうはち、文化12年8月5日1815年9月7日[1] - 明治22年(1889年10月8日)は、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した左官職人・工芸家なまこ壁鏝絵といった漆喰細工を得意とした。代表作は岩科学校校舎の二階和室の「鶴の間」にある「千羽鶴図」(重要文化財)[2]

経歴

[編集]

青年期

[編集]
正定寺にある入江長八の墓

文化12年(1815年)、伊豆国松崎村明地(現・静岡県賀茂郡松崎町)に貧しい農家の長男として生まれた[1]。6歳の時に菩提寺である浄感寺の寺子屋に学ぶ[3]。11歳のとき同村の左官棟梁、関仁助のもとに弟子入りする[1][4]。駿河湾から強風が吹きこむため左官職人の多い土地だった。その当時から手先の器用さで知られた。

江戸での活躍

[編集]

天保4年(1833年)に伊豆から江戸へ出た[1]御用絵師である谷文晁の高弟狩野派喜多武清(きたぶせい)から絵を学ぶ一方で[1][5]彫刻も学んだ。絵画や彫刻技法を漆喰細工に応用し、従来は建物の外観を装飾する目的で漆喰壁に鏝(こて)で模様を描いていたものを、絵具で彩色して室内観賞用の芸術品に昇華させた。一方で、天保11年(1840年)には旅芸人の一座に加わっていた[4]

天保12年(1841年)、江戸・日本橋茅場町にあった薬師堂の御拝柱の左右に『昇り竜』と『下り竜』を造り上げて、名工として名を馳せた[3]。弘化2年(1845年)、31歳の時に弟子2人を連れて故郷の浄感寺の再建に関わり[4]、『飛天の像』など鏝絵を作成しているが、鏝絵は一部だが天井に描いた『八方にらみの竜』は傑作とされる。

晩年

[編集]

入江は江戸に戻り、浅草寺観音堂、祐天寺などを含む多くの場所で傑作を作り上げたと言われている。1877年(明治10年)には第1回内国勧業博覧会に出品した[4]。高村光雲は長八を名人と讃えている。晩年になり、1880年(明治13年)にも65歳で故郷を訪れ、岩科町役場や岩科学校などで制作作業を行っている。

1879年(明治12年)にアメリカ合衆国前大統領のグラント将軍が日本を訪れ、深川木場の豪商である丸山伝右衛門邸に立ち寄った際、長八制作のおかめ面を見てとても気に入った為、贈呈したところ後に凄いお礼が送られてきたとされる[6]

1889年(明治22年)10月8日、東京市深川区八名川町(現・東京都江東区深川)の自宅で死去[3]。享年75歳。墓は故郷の浄感寺と浅草正定寺の2箇所に設けられている。

死後

[編集]

1968年(昭和43年)1月にはつげ義春が山光荘[7]をモデルにした漫画『長八の宿』を発表したことで知名度が上がったとされる。

1986年(昭和61年)には故郷の松崎町に伊豆の長八美術館が開館した。また、松崎町の浄感寺本堂は長八記念館となっている。

現存する作品

[編集]

鑑賞に拡大鏡が必要であるほど緻密な細工をこらした作品が多い。入江の生活拠点が江戸であったため、作品は東京地区に集中しており、大半が震災や戦災で焼失してしまっている[3]。現存する約45点は、東京都港区高輪泉岳寺品川区東品川の寄木神社足立区の橋戸稲荷、千葉県成田山新勝寺静岡県沼津市戸田の松城家住宅などに残っている。

故郷の静岡県松崎町には37点の作品が[1]伊豆の長八美術館には約50点が展示されている。また重要文化財の岩科学校や、春城院三島市龍沢寺など故郷周辺に点在している。

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e f 入江長八の苦悩と芸術”. www.town.matsuzaki.shizuoka.jp. 松崎町. 2024年2月11日閲覧。
  2. ^ 本田榮二『ビジュアル解説 インテリアの歴史』秀和システム、2011年、426-430頁。 
  3. ^ a b c d 品川人物伝 第9回|鏝絵(こてえ)細工の名工 伊豆長八”. www.city.shinagawa.tokyo.jp. 品川区. 2024年2月11日閲覧。
  4. ^ a b c d 異彩列伝 -入江長八-”. www.tousaren.jp. 東京都左官組合連合会. 2024年2月11日閲覧。
  5. ^ 上田正昭ほか監修 著、三省堂編修所 編『コンサイス日本人名事典 第5版』三省堂、2009年、107頁。 
  6. ^ 結城素明『伊豆長八』芸艸堂、1938年、318-319頁。NDLJP:1261809/184 
  7. ^ 長八の宿 山光荘”. 松崎町温泉旅館組合. 2019年9月1日閲覧。

参考文献

[編集]

関連書籍

[編集]
  • 『土の絵師 伊豆長八の世界』 村山道宣編、木蓮社、2002年。ISBN 978-4434018459
  • 日比野秀男ほか 『漆喰鏝絵 天下の名工 伊豆の長八・駿府の鶴堂』 静岡県文化財団〈しずおかの文化新書〉、2012年。ISBN 978-4905300106
  • 『伊豆の長八:幕末・明治の空前絶後の鏝絵師』 日比野秀男監修、伊豆の長八生誕200年祭実行委員会編、平凡社、2015年。ISBN 978-4582544541

外部リンク

[編集]