児童相談所一時保護所

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

児童相談所一時保護所(じどうそうだんじょ いちじほごしょ[1])は、児童相談所に付設し、保護が必要な子どもを一時的に保護するための施設である。

概要[編集]

児童虐待防止法では、児童虐待に係る通告(児童虐待防止法第6条第1項)又は市町村等からの送致(児童福祉法第25条の7第1項第1号等)を受けた場合、子どもの安全の確認を行うよう努めるとともに、必要に応じ一時保護(児童福祉法第33条第1項)を行うものとされ、その実施に当たっては、速やかに行うよう努めなければならないとされている(児童虐待防止法第8条)。

厚労省によると、関係者の意思に反して行う強制的な制度は、通常は裁判所の判断を必要とするが、児童福祉法の一時保護については裁判所の事前事後の許可も不要。このような強力な行政権限は、諸外国の虐待に関する制度としても珍しく、国内にも類似の制度はない。強力な制度であるがゆえに、被虐待児の救出のためには非常に有効で、必要な場合には積極的に活用することが期待されているが、保護者の反発も大きいことは避けられない[2]とされている。


児童福祉法第12条の4に基づき、必要に応じて児童相談所に付設もしくは児童相談所と密接な連携が保てる範囲内に設置され、虐待、置去り、非行などの理由により子ども(おおむね2歳以上18歳未満)を一時的に保護する。全国に児童相談所209か所に対し、136か所(平成28年4月1日現在)設置されている[3]

一時保護所以外の一時保護は、児童相談所運営指針で「法第33条の規定に基づき児童相談所長又は都道府県知事等が必要と認める場合には、子どもを一時保護所に一時保護し、又は警察署、福祉事務所、児童福祉施設、里親その他児童福祉に深い理解と経験を有する適当な者(機関、法人、私人)に一時保護を委託する(以下「委託一時保護」という。)ことができる。」と規定されている[4]

平成27年度一時保護36950件のうち、一時保護所での一時保護が23276件、児童福祉施設等への一時保護委託が13674件となっている。保護理由については、「児童虐待」が49.9%と最も多く、次いで、「虐待以外の養護」が25.5%となっている。「非行」を理由とするものも3536件で15.2%にのぼっている。[5]

平成27年度の児童虐待相談対応件数は103286件であり、そのうち17801件(17.2%)が一時保護となり、更に施設入所に至ったのは4570件(4.4%)となっている。入所先は2536人が児童養護施設、乳児院が753人、里親委託等464人、その他施設817人となっている[6]


平成28年度厚生労働省公表速報値では、児童相談所での虐待対応相談件数は122,578件であり、主な増加要因は心理的虐待に係る相談対応件数の増加(対前年度14,487件増)、警察等からの通告の増加(対前年度16,289件増)となっている。経路別件数では、警察からの通告が54,813件で全体の45%を占めており最多となっている[7]。警察からの通告が増加した背景には、警察庁の平成28年4月1日付丁少発第47号等通知「児童虐待への対応における関係機関との情報共有等の徹底について」による、全国の警察機関への確実な通告の実施及び児童相談所等関係機関に対する事前照会の徹底の指示が影響している[8]


虐待通報の後は、児童相談所が48時間以内に目視で安全確認を行う。28年度埼玉県の資料によると、虐待通告受付件数11,639件のうち、虐待あり84.8%、虐待なし15.2%となっている。また、ある児童相談所では近隣住民で通報した人は人口の0.02%、1万人に2人しか虐待通報をしていない計算になるという。 一時保護に至った事例でも6割が帰宅、約2割が児童養護施設や里親家庭措置となっているという[9]


兵庫県における、こども家庭センターでの一時保護が困難な場合での他機関への一時保護委託では、平成28年度は全675件の委託のうち、児童養護施設が221件(32.7%)と最も多く、次いで警察が209件(31.0%)、乳児院が78件(11.6%)となっている。[10]

厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課調べ(平成26年4月現在)では、年間平均入所率が100%を越える一時保護所は6か所。また、81~100%の一時保護所は24か所(平成25年1~12月の間の一時保護所(132か所)の平均入所率)となっていた[11]

東京都の一時保護後の退所先別集計では、平成28年度は全2071件中、帰宅が1273件で最多、次いで児童福祉施設入所359件、他の児童相談所・機関に移送404件となっている。[12]


児童相談所運営に関わる事務は地方分権一括法により機関委任事務が廃止され、地方自治法に基づく都道府県の自治事務となった。[13]児童相談所の処分としては、一時保護決定と入所措置決定などがあり、これらは行政処分として裁判所への行政事件訴訟の対象となるほか、行政内部の不服申立てとしての行政不服審査の対象となる。[14]

児童福祉法施行規則第35条により、一時保護所の施設の設備及び運営については、児童養護施設に係る児童福祉施設最低基準の規定(家庭支援専門相談員に係る部分並びに同令第42条第6項ただし書及び第45条の3を除く。)を準用する。

平成30年7月6日、厚生労働省は「子どもや保護者の同意がなくとも、子どもの安全確保が必要な場面であれば、一時保護を躊躇なく行うべきである。」と児童相談所運営指針の一時保護に関連する記載を削り、新たに策定した『一時保護ガイドライン』[15]で定めている。

職員配置基準[編集]

必置とする職員

  • 児童指導員嘱託医保育士
  • 心理療法担当職員 - 児童養護施設は心理療法を要する子ども又は保護者10人以上の場合に配置
  • 個別対応職員 - 児童定員10人以下の場合は置かなくても可、児童養護施設は定員にかかわらず必置
  • 栄養士 - 児童定員40人以下の場合は置かなくても可
  • 調理員 - 調理全部委託の場合は置かなくても可
  • 看護師 - 乳児が入所する場合は必置
  • 職業指導員- 実習設備を設けて職業指導を行う場合に必置

平成28年10月施行の法改正により、都道府県は、児童相談所に、①児童心理司、②医師又は保健師、③指導・教育担当の児童福祉司(スーパーバイザー)を置くとともに、弁護士の配置又はこれに準ずる措置を行うこととなった。[16]

福祉職については、行政側が福祉職採用者は配置職場が限定的になること、また福祉分野は歴史的に反権力・反当局活動を行ってきた経緯から採用の停止・人数の減少が行われてきたと元県庁職員により語られている。この結果、福祉的分野も事務(行政)職が従事している場合がある。[17]

平成26年度現在の厚生労働省調査では、所長においては、全国平均で福祉等専門職による採用が約54%、児童福祉司においては、全国平均で福祉等専門職による採用が約68%、児童心理司においては、全国平均で福祉等専門職による採用が約95%となっている。ほか、スーパーバイザー、教員(元教員含む)の配置及び弁護士との連携を行っている。[18]

医師については、平成22年5月10日現在で、全国の205か所の児童相談所では32か所に専任または兼任の医師が配置され、全国で45名の医師が児童相談所業務に携わっていた。常勤医の児童相談所に配置があったのは、15の都道府県と11の政令市で、中核市1か所だった。専任者は12名(30%)で、残りの28名(70%)は児童相談所以外の機関で兼務していた。なお、児童相談所運営指針においてもすべての規模の児童相談所に「精神科を専門とする医師」を職員として置くことが示されているが「嘱託も可」とされている[19]

一時保護の具体例[編集]

一時保護の具体例としては、次のものが挙げられている。

緊急保護
棄児、家出した子ども等現に適当な保護者又は宿所がないために緊急にその子どもを保護する必要がある場合
虐待、放任等の理由によりその子どもを家庭から一時引き離す必要がある場合
子どもの行動が自己又は他人の生命、身体、財産に危害を及ぼし若しくはそのおそれがある場合
行動観察
適切かつ具体的な援助指針を定めるために、一時保護による十分な行動観察、生活指導等を行う必要がある場合
短期入所指導
短期間の心理療法カウンセリング生活指導等が有効であると判断される場合であって、地理的に遠隔又は子どもの性格、環境等の条件により、他の方法による援助が困難又は不適当であると判断される場合

設備費[編集]

中核市で開設された一時保護所では、平成20年開設の25名定員では約4億9千万、平成21年12名定員では約2億5千万整備費に要している [20]

国庫負担金[編集]

児童福祉法第53条により、一時保護所の負担等は、都道府県が1/2、国が1/2となっている。平成11年4月30日厚生省発児第86号厚生事務次官通知「児童児童福祉法による児童入所施設措置費等国庫負担金について」において、国の交付について定められている。一時保護所に保護されている児童等の実績により変動する保護単価は「事務費」と「一般生活費」に適用され、総額に影響する。交付額は交付要綱第4の2の表により定められ、一時保護所の「事務費」の支弁額は前年度の一時保護延べ人日実績により算定された利用人員の該当する保護単価を使用し、別表1の(11)一時保護所の表により、1施設年額、最高額73,322,490円(東京都特別区、定員66~70人)から最低額846,030円(その他地区。定員5人まで)となっている。平成29年現在、保護1人当たり130,767円から92,579円相当の月額となっている。また、「一般生活費」は日額1,600円(乳児は1,850円)、被服の支給を要する場合には3,240円となっている。このほか、被虐待児や乳児を受け入れた場合には加算がある。なお、被服金を除いた実支出額または支弁総額では、少ない方の額を算定基準とする[21]

鳥取県の平成29年度当初予算一般事業(公共事業以外)、(款:民生費 項:児童福祉費 目:児童福祉総務費)「一時保護所費」では、事業費76,688千円に対して、歳入は国庫支出金7,599千円、その他362千円、残りは一般財源が68,727千円で予定されている。このほか、歳出では人件費44,509千円も計上されている。[22]

なお、臨時行政調査会により高額補助金の総合的見直しが提言され、それにより昭和60年度には暫定的に社会福祉施設の措置費の国庫負負担割合が8割から7割に低減し、更に昭和61年度から5割に再度引き下げされている。東京都では国基準の一時保護委託費の設定が安価すぎ受託者側の負担が大きかったため、現在では是正措置のため上乗せ支給をしている[23]

警察との連携[編集]

警察では、児童虐待の防止等に関する法律第10条により、児童相談所長が児童の安全確認、一時保護を行う場合において、必要に応じて警察署長に援助を求めることができるため、援助の要請等がなされた場合、警察官が児童相談所の職員とともに現場に臨場するなどの対応を行う。このほか、児童相談所の職員が行う臨検・捜索に関する合同研修等の実施、児童相談所への警察官OB等の配置等を推進している。[24]

また、茨城県や高知県では県警と、児童相談所が得た虐待にかかわるすべての情報の共有を行っている。[25]

なお、児童相談所における臨検・捜索の実施状況等については、平成20年4月に臨検・捜索制度が施行されてから26年3月までの6年間で、実施件数は、7件にとどまっている。[26]

問題点と課題[編集]

一時保護の長期化

一時保護の期間は原則として2か月を超えてはならないとされているが、平成27年福祉行政報告例によると都道府県別一時保護所の平均在所日数は29.6日となっており、山形県51.3日、千葉県48.8日など突出した県も存在する[3]。2017年児童虐待対策を強化する改正児童福祉法が14日の参院本会議で全会一致で可決、成立したが、児童相談所による子供の「一時保護」が長期化する場合、家裁の承認を必要とすることを明記してる。[27]

ただし、厚生労働省の新たな社会的養育の在り方に関する検討会では「実際児福審などを通して更新され、長い子どもなら6カ月というケースもある」と語られており、カリフォルニア州のオレンジカウンティでは、日本同様の一時保護は72時間を限度と捉えていることも審議されている。人口が多いところ、社会的養護の受け皿がほぼ満杯なところは、一時保護所の期間も長くなっていく傾向にある[3]

管理体制

児童相談所の一時保護ついては「行政による神かくし」と表現する者もおり[28]、日常から切り離された児童たちが強いストレスを抱えることがある。

施設に住み込み取材を行った者からは、自由が著しく制限されていること、例えば、一時保護所に入る際、私物は全て没収され、多くの保護所内は、窓は5センチほどしか開かず、もし保護所から逃げ出してもすぐに保護できるようにと、子どもたちは靴下で、職員はスニーカーで過ごすなどの閉鎖性について問題提起されてる[29]相模原市では、児童相談所の一時保護所が、困り事などを書いて入れる「意見箱」の用紙1枚がなくなったため、身体検査として女性職員が入所している少女8人を全裸にさせていたという行き過ぎた管理による人権侵害も起こっている[30][31]。 一時保護所はその管理体制から、そこでの経験は多くの子どもにトラウマに近いストレスを与える性質のものだと話す医師もいる。3か月入所していた児童は、施設ではよく叱られて息が詰まるようだと語り、自分を殴る母のいる家でも帰ることを希望していた状況にあった[32]


また元職員からは児童に対し、職員も心のケアをまったく配慮できていないとの指摘がある[33]。厚生労働省の新たな社会的養育の在り方に関する検討会でも、施設の課題として、非常勤職員が多く、また多くの保護所はニーズに見合う質と量の確保がされていないこと、一時保護所のマニュアルに関しては、全国の自治体のうち47%しか作成されていないと審議されている[34]

管理体制に問題が生じることもあり、横浜市の児童相談所一時保護所では2006年当時3歳児の保護児童にアレルギー源を含む食事を与えて過失により死亡させた[35]。 2010年11月には、保護彦根子ども家庭相談センター一時保護所において、嘱託職員の男性(57)による入所男子児童(13)(10)(5)の就寝時でのわいせつ事件が起こっている[36]。 2018年1月には愛知県の施設で非行で保護された16歳の少年が居室内で自殺した。父親が引き取りを拒んでいたという[37]

1965年には山口県で宿直の児童福祉司が保護児童を連れ出そうとした侵入者に刺殺、同年愛知県では宿直の心理判定員が保護児童にバットで殺害、1985年名古屋市では夜勤保母が入所児童に絞殺、1987年には青森県で専任宿直員が外部から保護児童を連れ出そうとした侵入者に殺害されている。[38]。またオウム真理教教団施設より100人以上の要保護児童を保護した際には抗議行動が行われている。このように職員や施設が危険にさらされることもある[39]


厚生労働省は虐待された子供などを一時的に保護する「一時保護所」について、2017年6月に第三者評価のための基準を設ける方針を固めた。現在は職員の子供への対応の質などに、ばらつきがあると指摘されているため、共通基準に基づく客観的な評価を導入する[40]。なお、東京都福祉保健局では既に外部評価を公表している[41]

混合処遇

また、一時保護所では非行児童と被虐待児を混合処遇することで生じていると職員が感じている困難性もある[42]。それは虐待・保護者不在などで保護が必要な児童と、不法滞在の外国人で処遇決定までの期間の子ども、中学卒業で非行に走っている子ども、警察の身柄付通告の非行児童など多様な対象を一つの施設で保護することから起因する。子どもが器物破損や職員・他の子どもへの暴力を行うことも事件も発生している。また、一時保護所は「児童相談所運営方針」により子どもを鍵のかけた個室に拘束することを禁じているため、子どもが中から出ていくことが可能なつくりとなっているため、無断外泊するなど許可なく施設を出る子どももいる[43]

教育に関する問題

児童福祉法に基づく一時保護が行われている児童生徒は,当該措置が行われる間,学校へ通うことができなくなることがある。児童相談所の一時保護所で一時保護が行われている児童生徒の中には,当該施設において,相談・指導を受け,学校における学習活動に遅れが生じないよう努力している者もいる。このような者の努力を学校として評価し支援するため,一定の要件を満たす場合には,当該施設において相談・指導を受けた日数を指導要録上出席扱いとすることができることとしている[44]

処遇にまつわる問題

一時保護所に子どもを拉致されたという親などによる児童相談所バッシングが起こることもある[45]が、一方で一時保護をしていた児童が家庭に戻った後、虐待死した[46]場合には、児童相談所の処遇が問題視されることがある[47]

兵庫県三木市では、父親から虐待された女児の保護をめぐり、兵庫県三木市立小学校の校長(当時)や市議が、保護にあたった養護教諭のことを父親に漏らしたため嫌がらせを受け休職を余儀なくされ、後に養護教諭が自殺した事件が起こっている。[48]


本人からの保護申し出に対応が図られないことがあり、両親から虐待を受けて保護を求めた中学2年生男子が、放置され結果自殺した事件も発生している。[49]

長期待機

東京都の児童福祉審議会専門部会では、児童養護施設内で暴力や性被害・加害が起こり、その結果として児童の一時保護利用を施設が希望したが、1か月、2か月待ちになるという課題が語られている。[50]

司法審査関与について[編集]

一時保護は児童福祉法第33条に基づいた行政処分であるに関わらず、「誘拐」と保護者から批判されることには、事前予告なく一時保護の後に告知がなされることにより、児相の勝手な判断で不当な連れ去りが行われたとの思いを生むのではないかとの現場での指摘がある。権利擁護の観点からも、子どもには父母の意に反して父母から分離されない権利があり、子どもの最善の利益のために分離を要するときには司法審査を経なければならないと子供の権利条約第9条第1項で規定があることへの懸念もある[51]。また、保護者等から子どもを引き離し、児相の保護下に置くため、親権者の親権及びそのほかの権利、または子どもにも居住権の制限を生むため、手続きの適正化のために司法審査を導入すべきとの声(いわゆる「ブレーキ論」)もある。一方で、児相の行政権行使に司法権が関与することで、行政権行使の適正化が公に認められるという意義(アクセル論)も司法手続きを支持している。

海外ではカリフォルニア州で子どもの保護から48時間に内に裁判所に公聴会申し立てが行われ、その24時間以内にそれを開催し、一時保護継続の要否判断が行われる[52]

平成28年4月1日から7月末までの4ヶ月間に一時保護が終了したケース10099件では、保護者は一時保護に最初から同意7920件、職権保護(保護者は不同意のまま)1013件などとなっている。厚生労働省の児相への調査では「児童相談所が行う一時保護について、保護者が提起する行政訴訟の他に司法審査の手続きを強化することが必要だと思うか」の問いに、必要である35%、必要ないが36%、その他28%と回答している。司法による事前の審査は20%、事後の審査は33%が支持している。しかしながら、司法審査の手続きを強化する場合は、児童相談所の体制と会わせて、受ける司法側も迅速かつ円滑な対応ができる体制を整える必要があるとの意見もある[53]

現在では、2か月を超えて一時保護を行おうとするときは2か月ごとに都道府県の児童福祉審議会の意見を聞かなければならないと定められているが、平成28年4月1日から7月末までの4ヶ月間に意見聴取を実施したケースでは、同意しなかった事例がなく、また仮に不同意の場合でも、同審議会の意見を考慮して最終的には児相の判断に委ねられているような規定になってないため、形骸化しており、一時保護継続可否も司法ですべきとの指摘もある[54]。なお、父母の意に反して一時保護が行われた判例では、子どもの権利条約及び憲法上での権利に照らし合わせて一時保護について適法との見解が示されている[注釈 1]

児童虐待により逮捕された保護者等は、「しつけのつもりだった」と語る[55]。しかし日本政府は、平成25年の国連人権理事会(普遍的・定期的審査)において、民法第822条で許される「懲戒」は「体罰」とは異なる概念である(「This provision does not allow for corporal  punishment.」)と報告し、学校及び家庭内の体罰は禁止されていると発表しており、全ての状況における体罰を明示的に禁止することという勧告をフォローアップすることに同意している[56]。また、2006年国連事務総長の子どもに対する暴力に関する報告書においてパウロ・ピネイロ氏は条約国に優先勧告として、あらゆる形の暴力を早急に禁じ、あらゆる体罰がこの範疇に含まれることを明示した。日本政府は2008年と2012年に人権理事会の普遍的定期審査(UPR)の調査で、体罰を禁じる勧告を受け入れている。国連の動きを受け、2013年8月には「子ども虐待の手引き」が改正され、「叩く」行為も身体的虐待に追加されている[57]

背景 [編集]

出生率減少(少子化)の影響で1980年代半ばには措置児童が減少し、補助金も削減され、公立施設においてはその予算を他の福祉施設にまわすため閉鎖されるなどの状況で存続の危機にさらされていた児童養護施設が、国連や日本弁護士会から国連子どもの権利条約の批准を要請されるという衝撃およびマスコミによる家庭内児童虐待の「発見」、民間のホットライン開設による児童虐待注目により、90年代には新たな社会的役割期待に直面した。この結果夜間預かりの実施など施設の大改革期を迎えざるをえず、第二次大戦後最も大がかりな変容を遂げてきた[58]。この流れに対し、「児童虐待問題」は少子化する日本において児童福祉をマーケットを活性化する重要な役割を持っており、国内の児童養護施設が民間経営であることから、既得権保持のため、措置児童数を一定数必要としているとの見解もある[59]

しかしながら、虐待通告相談件数は拡大し続ける一方で、社会的養護の受け入れ可能数は、施設・里親合計しても5万床であるがゆえに、通告の90%以上の子どもは自宅に戻されるため、戻された子どもは不適切な養育環境の中で居続けるという懸念を表明する者もいる。また、通告相談件数も、OECDの子ども人口と保護児童数の比率(2007年)ではフランス・カナダ・デンマークでは人口の1%を、ドイツなどでも0.8%を保護する中で、日本の0.17%の低さを虐待が未だ顕在化していないとの意見もある[60][61]

なお、ドイツを例にとると、代替的養護の利用者数は2012年12月末現在、里親養護が64,851人、施設養護が66,711人で、総人口に占める代替的養護(家 庭外ケア)の割合は人口1万人中13.8人(2010年)である。ドイツの少年局は、児童及び青少年の福祉が急迫の危険にさらされていれば、事前の親の同意または 家庭裁判所の関与がなくても、行政行為の一つとして、子どもを緊急かつ一時的に保護することができる。行政による児童虐待への対応が遅れて死亡事件が発生したため対応強化が図られている。また、ドイツ民法における親権に懲戒権は含まれていない[62]。オーストラリアでも(一財)自治体国際化協会シドニー事務所によると、家族法に親子断絶防止のため条項が2006年明記され「親の権利」が強化されたが、面会中に児童が親に殺害されるなどの事件を受けて、2011年にさらなる法改正が行われ「フレンドリー・ペアレント」条項は廃止されて親の権利より子供の安全が重視されて面会交流の制限なども実施されている[63]

注釈[編集]

  1. ^ 平成25年8月29日民44部東京地方裁判所判決 平成21年(ワ)第25349号。親権者による児童に対する虐待を理由として行われた一時保護及び施設入所措置の違法性が否定された例。判決文によると暴行で保護された子どもの義父は子どもの返還を求め、児相職員に「抹殺しますんで」「リンチしていいか」など発言。支援プログラム拒否。躾としての体罰の継続を肯定。保護6か月後に児童のランドセル内に突如現金1万の存在を主張しその返還を求めた。児童福祉法第28条、33条、児童虐待の防止等に関する法律12条の合憲性及び児童の権利に関する条約違反の有無について争われ、原告(保護者)の請求がいずれも棄却された


脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 上東麻子、うちやまだいすけ (2016年11月24日). “図解なるほど 児童相談所って?”. 毎日小学生新聞. 2018年4月27日閲覧。
  2. ^ 子ども虐待対応の手引き 第5章 一時保護”. 厚生労働省. 2018年5月12日閲覧。
  3. ^ a b c 一時保護の現状について (PDF)”. 厚生労働省 (2017年4月28日). 2018年1月8日閲覧。
  4. ^ 児童相談所運営指針 > 第5章 一時保護”. 厚生労働省. 2018年1月17日閲覧。
  5. ^ 第9回 子ども家庭福祉人材の専門性確保WG”. 厚生労働省. 2018年5月6日閲覧。
  6. ^ 第6回 子ども家庭福祉人材の専門性確保WG資料3 児童相談所の現状 ”. 厚生労働省. 2018年5月6日閲覧。
  7. ^ 平成28年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>”. 厚生労働省. 2018年4月27日閲覧。
  8. ^ 児童虐待への対応における関係機関との情報共有等の徹底について”. 警察庁. 2018年4月27日閲覧。
  9. ^ >児童虐待 はじめての189通報とその後に起こること 湯浅誠”. yahoo japan news. 2018年5月12日閲覧。
  10. ^ ひょうごの児童相談2(H28年度児童相談の概要”. 兵庫県. 2018年5月3日閲覧。
  11. ^ 資料3 自立に向けた支援のあり方に関する検討事項等について”. 厚生労働省 (2018年1月14日). 2018年1月14日閲覧。
  12. ^ 児童相談所事業概要2017年版”. 東京都福祉保健局. 2018年4月28日閲覧。
  13. ^ 児童相談所運営指針等改正通知に関する疑義照会への回答”. 厚生労働省. 2018年4月29日閲覧。
  14. ^ 子ども虐待対応の手引き 第10章 児童相談所の決定に対する不服申立てについて”. 厚生労働省. 2018年4月29日閲覧。
  15. ^ 「一時保護ガイドラインについて」 平成30年7月6日付け子発0706第4号厚生労働省子ども家庭局長通知”. 厚生労働省. 2018年7月21日閲覧。
  16. ^ 平成29年4月25日児童相談所長研修 児童家庭福祉の動向と課題 厚生労働省雇用均等・児童家庭局”. 厚生労働省. 2018年5月6日閲覧。
  17. ^ 和田一郎 『児童相談所一時保護所の子どもと支援』 株式会社 明石書店、2016年、243頁。ISBN 9784750344423 
  18. ^ 平成26年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料(平成26年8月4日) 児童相談所関係データ その他関連資料”. 厚生労働省. 2018年5月3日閲覧。
  19. ^ 平成22年度研究報告書 児童相談所の医務業務に関する研究”. 子どもの虹 情報研修センター. 2018年5月6日閲覧。
  20. ^ 和田一郎 『児童相談所一時保護所の子どもと支援』 株式会社 明石書店、2016年、173頁。ISBN 9784750344423 
  21. ^ 平成11年4月30日厚生省発児第86号厚生事務次官通知「児童児童福祉法による児童入所施設措置費等国庫負担金について」”. 厚生労働省. 2018年4月30日閲覧。
  22. ^ 平成29年度予算事業名:一時保護所費”. 鳥取県. 2018年5月1日閲覧。
  23. ^ 藤田恭介 『東京都における児童相談所一時保護所の歴史』 株式会社 社会評論社、2017年、161,207頁。ISBN 9784784517374 
  24. ^ 国政モニター児童相談所と警察の連携について(回答:警察庁)”. 内閣府大臣官房政府広報室. 2018年4月27日閲覧。
  25. ^ 子どもの虐待情報、児童相談所と警察が共有へ 茨城”. 朝日新聞. 2018年4月27日閲覧。
  26. ^ 児童相談所における臨検・捜索の実施状況等について”. 厚生労働省. 2018年4月28日閲覧。
  27. ^ 子の一時保護に家裁関与 改正児童福祉法が成立 日本経済新聞 2017年6月14日
  28. ^ 【ルポ】子どもたちが「神かくし」状態になっている一時保護の実態 現代ビジネス”. 講談社. 2018年5月6日閲覧。
  29. ^ 知られざる一時保護所の実態(2/4ページ) wedge infinity 2017年3月17日
  30. ^ 少女8人を全裸にし検査 相模原市の児童相談所 日本経済新聞 2015年12月15日
  31. ^ 児童相談所一時保護所における所持品検査の検証報告について 相模原市 2018年1月8日閲覧
  32. ^ “アングル:ケアより規律、被虐待児童が直面する一時保護所問題”. ロイター. (2017年6月24日). https://www.reuters.com/article/japan-child-shelters-idJPKBN19E0KD 2018年5月6日閲覧。 
  33. ^ アングル:ケアより規律、被虐待児童が直面する一時保護所問題 ロイター 2017年6月24日
  34. ^ 厚生労働省第13回新たな社会的養育の在り方に関する検討会”. 厚生労働省. 2018年4月28日閲覧。
  35. ^ “アレルギー注意怠る、男児死亡は児相に過失”. 神奈川新聞. (2012年10月30日). http://www.kanaloco.jp/article/57874 2018年4月23日閲覧。 
  36. ^ 一時保護所嘱託職員による保護児童へのわいせつ事件検証委員会報告書(2010年11月25日)”. 滋賀県. 2018年5月6日閲覧。
  37. ^ “愛知の児相 一時保護の少年自殺 居室内で”. 毎日新聞. (2018年1月24日). https://mainichi.jp/articles/20180125/k00/00m/040/086000c 2018年1月24日閲覧。 
  38. ^ 平成22・23年度研究報告書 児童相談所のあり方に関する研究―児童相談所に関する歴史年表―”. 子どもの虹情報研修センター (2013年3月29日). 2018年5月16日閲覧。
  39. ^ 和田一郎 『児童相談所一時保護所の子どもと支援』 株式会社 明石書店、2016年、21頁。ISBN 9784750344423 
  40. ^ 厚労省、一時保護所に評価基準 虐待受けた子供ら受け入れ 日本経済新聞 2017年6月2日
  41. ^ 東京都児童相談所一時保護所外部評価 東京都福祉保健局 2018年1月8日閲覧
  42. ^ 混合処遇による一時保護所の困難の構造 JAIRO
  43. ^ 安部計彦 『一時保護所の子どもと支援』 株式会社 明石書店、2009年、32,33,41,42,63頁。ISBN 9784750329819 
  44. ^ 一時保護等が行われている児童生徒の指導要録に係る適切な対応等について 文部科学省 2015年8月
  45. ^ 知られざる一時保護所の実態(3/4ページ) wedge infinity 2017年3月17日
  46. ^ 育児放棄で児童相談所が一時保護 大阪の4歳児殺害 日本経済新聞 2017年12月26日
  47. ^ 虐待と向き合う児童相談所の葛藤 文藝春秋 2017年5月号 2018年1月8日閲覧
  48. ^ 7月23日の人権情報”. 朝日新聞 (2018年4月28日). 2018年4月28日閲覧。
  49. ^ 相模原児相 虐待通報、所内で放置…一時保護検討せず”. 毎日新聞 (2018年1月22日). 2018年4月28日閲覧。
  50. ^ 第24年期東京都児童福祉審議会第6回専門部会”. 東京都福祉保健局 (2014年5月26日). 2018年12月28日閲覧。
  51. ^ 久保健二「児童虐待対応における課題と困難-児童相談所常勤弁護士の立場から-」、『子どもの虐待とネグレクト』第16巻第3号、岩崎学術出版、2014年12月、 243頁。
  52. ^ 藤田香織・石倉尚・大久保さやか「児童福祉法改正と司法関与-子どものために司法ができること-」、『子どもの虐待とネグレクト』第19巻第2号、岩崎学術出版、2017年9月、 175-178頁。
  53. ^ 第5回児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会 平成28年10月31日”. 厚生労働省. 2018年5月20日閲覧。
  54. ^ 久保健二「児童虐待対応における課題と困難-児童相談所常勤弁護士の立場から-」、『子どもの虐待とネグレクト』第16巻第3号、岩崎学術出版、2014年12月、 247頁。
  55. ^ 平成23年度、児童相談所における児童虐待相談対応件数”.  定非営利活動法人 子どもすこやかサポートネット. 2018年5月20日閲覧。
  56. ^ セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンからの活動報告(要旨) ”.  日本弁護士連合会. 2018年5月20日閲覧。
  57. ^ 田沢茂之「子どもへの暴力・虐待防止のための大別の根絶を目指して」、『子どもの虐待とネグレクト』第17巻第2号、岩崎学術出版、2015年10月、 192-195頁。
  58. ^ Roger Goodman 訳 津崎哲雄「日本の児童養護―児童養護学への招待」、明石書店。
  59. ^ 上野加代子 野村知二「児童虐待の構築-捕獲される家族」、世界思想社、2003年10月
  60. ^ 加賀美尤祥「虐待を受けた子どもに対する施設養育のあり方」、『子どもの虐待とネグレクト』第17巻第2号、岩崎学術出版、2015年10月、 239-241頁。
  61. ^ 第11 回社会保障審議会児童部会児童虐待防止対策のあり方に関する専門委員会 加賀美委員提出資料”. 厚生労働省. 2018年5月23日閲覧。
  62. ^ 和田上 貴昭 (2015年3月). “代替的養護の国際比較の指標作成に向けた基礎的研究ドイツの取り組みから”.  目白大学 . 2018年5月20日閲覧。
  63. ^ オーストラリアにおける子供の貧困対策について”.  (一財)自治体国際化協会シドニー事務所 . 2018年6月3日閲覧。

関連項目[編集]