元農水事務次官長男殺害事件

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元農水事務次官長男殺害事件
場所 東京都練馬区
日付 2019年6月1日(12か月前) (2019-06-01 (JST)
攻撃手段 刃物
攻撃側人数 1人
死亡者 1人
被害者 無職の長男E (当時44歳)
犯人農水事務次官の父親K (当時76歳)
容疑 殺人罪
管轄 警視庁
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元農水事務次官長男殺害事件(もとのうすいじむじかんちょうなんさつがいじけん)は、2019年6月1日に東京都練馬区にある自宅において元農水事務次官の父親K(当時76歳)が、無職の長男E(当時44歳)を刺殺した事件である。

2019年12月12日、初公判において父親Kは起訴事実(長男の殺害)を認め、懲役8年が求刑された。同年12月16日の判決で懲役6年の実刑が言い渡された[1][2]。同年12月20日、実刑判決としては異例の保釈が認められた[3]。同年12月25日、判決には事実誤認があるとして被告側が控訴した[4]

事件から約1年後の2020年6月、父親Kが妻(被害者Eの母親)とともに、事件現場でもある練馬区の自宅で生活していることが週刊誌によって報道された。[5]

事件の推移[編集]

2019年5月25日、それまで一人暮らしをしていた長男Eが自宅に戻り、父親Kと母親と長男Eでの3人の生活が始まる。(父親Kの供述によると)その直後から長男Eによる激しい家庭内暴力が有り、父親Kと母親はおびえて暮らすようになっていたという[6]

長男Eは外出せずオンラインゲーム等をして引きこもり状態の生活をしていたが、2019年6月1日、近所の小学校運動会の声がうるさいと腹を立て父親Kと口論になったという[7]。この数日前の2019年5月28日に、川崎市登戸通り魔事件が起きており、父親Kは(逮捕時の供述によると)「息子も周りに危害を加えるかもしれないと」不安に思い、刃物で長男Eを殺害した[8]。長男Eは数十箇所を刺されており、初公判でも「強固な殺意に基づく危険な犯行」とされた。

加害者の人物像[編集]

加害者として逮捕、起訴された父親Kは、東京大学法学部卒業後、当時の農林省に入省した。2001年、農林水産省の事務次官に就任するが、翌年社会問題となったBSE問題の責任を取る形で退官した[9]。その後も農水系の研究所の理事長を務めていた[10]

被害者の人物像[編集]

刺殺された長男Eは都内私立中高一貫校に進学する。しかし中学時代に激しいイジメにあったいう[11]。卒業後、専門学校大学に進学し、いっとき就職したともいうが、事件前は無職だった。

無職の時期には家族とは離れて暮らしており、ネットゲームやSNSにはまっていたといわれる。

初公判[編集]

2019年12月12日の初公判において、長男Eにはがいたことが明らかになった。妹には縁談があったが長男Eがいたことで破談となり、数年前に自殺していた[12]

また母親は長男Eの家庭内暴力や妹の自殺などによってうつ病になった。母親(Kの妻)は初公判で涙ながらに父親Kの減刑を求めた[12][13]

家庭崩壊ともいえる状況が生々しく明かされる一方で、父親Kが犯行当時に直接のきっかけとしていた川崎市の通り魔事件との関係性には言及されなかった。

被告側はもみ合ううちに刺してしまった突発的犯行であると主張したが、検察側は父親Kが妻(長男Eの母親)に長男Eの殺害を示唆するメモを残しており、自宅パソコンの検索履歴に「殺人罪」などがあったことから計画性があると主張した。

父親Kが長男Eをアニメ専門学校に進学させたり、同人誌制作の手伝いをするなど長男Eに寄りそってきたとされる一方で、精神科医には父親Kのみが面会し薬を処方されるなど疑問のある対応もあった[注釈 1][14]

事件に関する報道姿勢[編集]

前述した川崎市の通り魔殺傷事件の直後であり、父親Kが当初「息子が同じような犯行をするかもしれないと思い刺した」という趣旨の供述をしていたことから、報道ではふたつの事件を「中高年引きこもりが関係する事件」としてあわせて扱うことがあった。

また父親Kの供述をうけて「父親としての責任を果たした」「(父親Kを)責めることはできない」といった加害者を擁護するかのようなコメントがテレビ番組などでされた[15]。父親Kと長男Eの人物像に関しても、報道にしばしばみられる「被害者を賛美し加害者を貶める姿勢」とは逆に、父親K(加害者)が省庁在任時代に信頼される人柄と評されていたことや、長男Eの世話をみていたことが肯定的に紹介される一方で、長男E(被害者)については中学時代にいじめられたことが紹介されたものの、それ以外はSNSでの暴言や家庭内暴力など否定的側面が紹介された。

事件の社会への影響[編集]

事件発生当初、「引きこもり≒犯罪者予備軍」「(通り魔のような)犯罪を引き起こすまえに(殺害もふくめて)なんとかするべき」といった風潮がみられた。引きこもり当事者や支援者から異論が出るなどする一方、「(長男Eは)引きこもりではない」とする切り離し発言もみられた。

初公判で父親Kに殺人罪としては比較的短期の実刑6年が言い渡され、さらに実刑判決としては異例の保釈が認められたことなどが、東池袋自動車暴走死傷事故をあらためて想起させ、「社会的地位がある(あった)高齢者に甘い処罰しかなされない」という「上級国民」の発想がインターネットに再浮上した[16][17]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 通常、精神科医療では本人に面会することなく診断を続けることはしない。本件では当初の主治医と引き継いだ医師との間で診断が統合失調症とアスペルガー症候群に分かれている。

出典[編集]

  1. ^ “元農水次官 懲役6年の実刑判決「供述は信用性 乏しい」裁判長”. NHKニュース. (2019年12月16日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191216/k10012216871000.html 2019年12月21日閲覧。 
  2. ^ 近藤由美子 (2019年12月16日). “長男刺殺の元事務次官に検察官「お体に気をつけて」”. 日刊スポーツ. https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201912160000648.html 2019年12月21日閲覧。 
  3. ^ “【動画入手】元農水事務次官、異例の保釈後は妻と高級ホテルに滞在「無事出れたよ」”. 文春オンライン. (2019年12月22日). https://bunshun.jp/articles/-/21608 2019年12月23日閲覧。 
  4. ^ “長男刺殺、元農水次官が控訴 一審の裁判員裁判で懲役6年”. 東京新聞. (2019年12月25日). https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019122501001431.html 2020年1月2日閲覧。 
  5. ^ Template:Https://news.livedoor.com/article/detail/18450426/
  6. ^ “「恐怖で刺し続けた」 元農水次官に被告人質問―長男殺害公判・東京地裁”. 時事ドットコム. (2019年12月12日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2019121201199 2019年12月21日閲覧。 
  7. ^ “「殺すぞ」と脅す息子 「死に場所を探す」と決意した父 元農水次官の苦悩”. 産経ニュース. (2019年12月11日). https://www.sankei.com/affairs/news/191211/afr1912110033-n1.html 2019年12月21日閲覧。 
  8. ^ “元農水次官「川崎の事件が頭に浮かんだ」と供述 長男刺殺”. 産経ニュース. (2019年6月3日). https://www.sankei.com/affairs/news/190603/afr1906030013-n1.html 2019年12月21日閲覧。 
  9. ^ “BSE問題で引責辞任、退職金8874万円満額支給、天下り…息子殺人容疑で逮捕の元農水次官”. スポーツ報知. (2019年6月2日). https://hochi.news/articles/20190602-OHT1T50198.html 2019年12月21日閲覧。 
  10. ^ 杉浦由美子 (2019年12月27日). “元事務次官熊沢被告はなぜここまで擁護されるのか”. 論座. 2020年1月2日閲覧。
  11. ^ 力丸祥子; 高島曜介; 山田暢史 (2019年6月21日). “元次官の長男「中学でいじめ受けていた」 同級生が証言”. 朝日新聞デジタル. https://www.asahi.com/articles/ASM6M726FM6MUTIL071.html 2019年12月21日閲覧。 
  12. ^ a b 近藤由美子 (2019年12月11日). “妻涙声で「刑を軽くしてください」元次官息子刺殺”. 日刊スポーツ. https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201912110000917.html 2019年12月21日閲覧。 
  13. ^ “元次官「これしか方法無い」妻に手紙 長男殺害 起訴内容認める”. NHKニュース. (2019年12月11日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191211/k10012210541000.html 2019年12月23日閲覧。 
  14. ^ 高橋ユキ (2019年12月28日). “「もう少し息子に才能があれば・・・」長男殺害、 元農水次官の公判で語ったこと”. 弁護士ドットコム. https://www.bengo4.com/c_1009/n_10606/ 2020年1月2日閲覧。 
  15. ^ “農水省元事務次官の「子ども殺害」正当化は橋下徹だけじゃない! 竹田恒泰、坂上忍、ヒロミも…「子は親の所有物」の価値観”. LITERA. (2019年6月6日). https://lite-ra.com/2019/06/post-4757.html 2020年1月2日閲覧。 
  16. ^ 奥窪優木 (2019年12月31日). “長男刺殺の元農水次官、保釈認めた裁判官は「元同僚」の奇縁”. NEWSポストセブン. https://www.news-postseven.com/archives/20191231_1519996.html 2020年1月2日閲覧。 
  17. ^ ““上級国民”批判が…息子殺しの元農水次官 異例保釈のなぜ”. 日刊ゲンダイDIGITAL. (2019年12月21日). https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/266603 2020年1月2日閲覧。 

外部リンク(おもに本文にリンクしてない報道)[編集]

関連項目[編集]