個人攻撃

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個人攻撃。

個人攻撃(こじんこうげき、personal attack)とは、議論(何らかの係争関係にある会話・対話など)において、相手の発言の内容ではなく、発言者である相手自身を話題にして応答すること。論点のすり替えの一種[1]人格攻撃(じんかくこうげき、personality attack)。議論におけるルール違反[2]。個人攻撃によってビジネス上の議論や交渉の本筋から脱線してしまうが、こうしたことを避けて上手に伝達することは教育分野や家族間においてもコミュニケーション上の重要な考え方となる。

解説[編集]

議論においては、議論の内容に冷静に焦点を合わせることが必要となる[1]。議論の内容とは異なる、議論相手の人格を混同してしまうと議論は本筋から脱線してしまう[1]。議論では意見を扱い、人を扱うものではないため、個人攻撃は議論におけるルール違反である[2]。リーダーの選定において人格的な資質を指摘する必要があるというような場面でなければ、特にそうである[1]

一般に、個人攻撃はその行為自体が否定的に捉えられがちである。なぜなら理論に対し理論の欠点をついて反論するのではなく、議論の論旨と無関係に相手の欠点を見出して、それを足がかりに反論をするからであり、その行為自体が理論的とは言えないためである。また個人攻撃に際しては、ある属性から想像する性質があるはずだとするステレオタイプなど、本人の性質とはもはや無関係な理由により、相手を貶めることが行われる部分も、理知的な議論とは相容れない理由となっている。

例えば「お前は日本人ではない(云々)」、「お前は貧乏人である(云々)」と言うパターンがあるが、これらは日本人ではないからといって必ずしも日本語が堪能でないという等式は成立せず、また貧乏人であるから学が無く物事の可否が判定できないとか良いものが解らないという理屈は必ずしも成り立たない。これらの点で、論理として破綻している。加えて、実際に相手が「日本人ではない」や「貧乏人」であることの立証が出来ない限り、それはもはや発言者当人の願望であり、単なる言いがかりである。

そのため、大抵の議論においては個人攻撃をすることは避けられるべきであるとされる。

社会現象として[編集]

一流企業でプレゼンテーションの方法を指導しているアメリカの著者によれば、政治家が自分の票を獲得するために個人攻撃をしていることから、個人攻撃が社会に広まっているのではと主張している[3]。政敵の主張に対して吟味して意見するのではなく、不誠実さや資質を責めるのだが、そのようなことでは衝突が起こっていく[3]。1972年の米国の大統領選では、ニクソン陣営は政敵エドマンド・マスキーの政策の考え方を批判するのではなく、その妻の酒癖を個人攻撃し、その際のマスキーの対応が大統領にふさわしくないと思われるような世論につながってしまった[4]

コンピュータによる判別[編集]

オンラインでは、使われた文章を機械学習によって識別することで、個人攻撃を判別しようとしている[5]。ウィキペディアを運用するウィキメディア財団はウィキペディアの編集者の減少に悩み、2016年にはウィキペディア内での迷惑行為の減少を優先事項とし、とげとげしい雰囲気を改善しようとしており、グーグルの親会社であるアルファベットと共にネット上の迷惑行為を取り締まるソフトウェアを研究。11万以上のウィキペディアのノートページの6300万件の投稿から「個人攻撃はしない」という規則に抵触するコメントを探索した。[6] 個人攻撃の約8割は、5発言未満の多数の者からなりたっていたが、全体の9%を34人の利用者で占めていることが判明している[5]

具体例[編集]

例1:
ストローク「あなたはその単語を間違えた。」
値引き「あなたはちゃんと単語を書けないのですね。」

例2:
ストローク「あなたがそうすると、私は嫌な気分になる。」
値引き「あなたはそうやって、私の気分を悪くさせる。」

交流分析(値引き)

上司が部下を育成するにあたって、「君にはやる気がみられない」と主観を伝えるのでは人格攻撃、人格否定でありパワーハラスメントにも発展しかねないが、行動に着目し「発言がなかったけれど…」のように伝達することが適切となるとする、人材育成の専門家の意見もある[7]。ビジネスにおいては人格攻撃をされたら、その相手についてそんな言い方をする人だという見方をしたり、この機会を活用しようという逞しさを持つことも[1]

ビジネスにおける交渉において、「やり方が間違っている」と個人攻撃され「君こそ間違っている」と応酬すれば溝は深まるが、「確かに間違っているという考えも分かる。しかしメリットもあるのでもう一度説明したい」などと部分的合意を用いることも必要になる[8]。また別の著者によれば、相手の発言でもあるので「お気持ちは分かります」の一言で十分だとし、そしたら本題に戻し応戦しないこと、必要以上に謝らないこと[2]。こうした個人攻撃は夫婦間の会話において「お前は普段から…」というように、話題が脱線して個人攻撃が開始されることがあるがこれに付き合わず、冷静に対処すれば当初の話し合いの目的に立ち返ることもできる[9]

人材育成の書籍を持つ法政大学心理学科教授の島宗理によれば、性格というのは特定の行動をとった結果をそういう性格だと呼んでいるだけなので、性格のせいにして個人攻撃の罠に陥るのではなく、成果につながる行動へと行動に変化を促すことが行動分析学の捉え方であり、リーダーとして役割だとする[10][10]

別のコーチングに関するビジネス書の著者も、人を、人格を叱るのではなく「した事」を叱るべきで人格攻撃はいけないとし、自分の感情をいきなりぶつけることは、上司の行動として得るものがない行動であり相手を傷つけるようなこともある[11]。「どんな神経している」、「こんなミスをしているから雇ってくれるところがない」といった発言は上司として控えるべきとされる[11]。上司の仕事を解説した別の書籍でも、仕事や事実に焦点を当てて相手を尊重し感情的な議論をしない、人格攻撃をしないということが、上手な叱り方の技術のひとつとして挙げている[12]。職場における改善対象を個人に特定しないことで、個人攻撃になりにくくするといった配慮がなされることもある[13]

個人攻撃の例[編集]

  • そんなに偉いのか[9]
  • そう言って楽しいか[9]
  • やり方が間違っていると言いたいのか[2]
  • 君には10年早い[2]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e グロービス『MBA100の基本』嶋田毅訳、東洋経済新報社、2017年。ISBN 978-4-492-04606-7
  2. ^ a b c d e 狩野みき『世界のエリートが学んできた 自分の考えを「伝える力」の授業』日本実業出版社、2014年。ISBN 978-4-534-05193-6
  3. ^ a b WilliamR .Steele『ベストプレゼンテーション』すばる舎、2017年。ISBN 978-4-7991-0620-4
  4. ^ ロナルド・A・ハイフェッツ、マーティ・リンスキー、アレクサンダー・グラショウ『最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル』水上雅人訳、英治出版、2017年。ISBN 978-4862762238
  5. ^ a b Ellery Wulczyn, Nithum Thain, Lucas Dixon, "Ex Machina: Personal Attacks Seen at Scale", 27 Oct 2016, arXiv:1610.08914
  6. ^ トム・サイモナイト (2017年2月8日). “悪口とは何か?機械学習用に荒らしコメント1万3500件を収集”. MIT Technology Review. https://www.technologyreview.jp/s/24605/collection-of-13500-nastygrams-could-advance-war-on-trolls/ 2019年1月15日閲覧。 
  7. ^ 上村光弼『部下を本気にできる上司、できない上司』PHP研究所、2007年。ISBN 978-4-569-69740-6
  8. ^ 宇治川裕『図解入門ビジネス最新交渉術の基本と実践がよーくわかる本』秀和システム〈How‐nual Business Guide Book〉、2009年。ISBN 978-4-7980-2187-4
  9. ^ a b c 谷原誠『ポケット版 弁護士の論理的な会話術』あさ出版、2010年。ISBN 978-4-86063-399-8
  10. ^ a b 島宗理、崎原誠「成果が出ないのは、性格や能力のせいではない! "個人攻撃の罠"に陥らずに望ましい行動を引き出すアプローチ (特集 組織と個人のパフォーマンスを高める!)」『人材教育 : HRD magazine』第29巻第2号、2017年2月、 28-31頁、 NAID 40021075324
  11. ^ a b 本間正人『ケーススタディで学ぶ「コーチング」に強くなる本―現代の上司に必須のコミュニケーションスキル』PHP研究所〈PHP文庫〉、2001年。ISBN 4-569-57644-3
  12. ^ 平尾隆行『図解入門ビジネス最新リーダーの仕事と役割がよーくわかる本』秀和システム〈How‐nual Business Guide Book〉、2097年、第2版。ISBN 978-4-7980-1850-8
  13. ^ 原雄二郎「労働者におけるメンタルヘルス不調の現状とその予防について」 (pdf) 『日本労働研究雑誌』第55巻第6号、2013年6月、 4-17頁、 NAID 40019693237

関連項目[編集]