信虎 (映画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
信虎
Nobutora-Samurai Tiger
監督 金子修介
宮下玄覇
脚本 宮下玄覇
製作 宮下玄覇
西田宣善
榎望(協力)
製作総指揮 宮下玄覇
出演者 寺田農
谷村美月
矢野聖人
荒井敦史
榎木孝明
永島敏行
渡辺裕之
隆大介
石垣佑磨
葛山信吾
川野太郎
嘉門タツオ
杉浦太陽
柏原収史
伊藤洋三郎
安藤一夫
堀内正美
橋本一郎
外波山文明
剛たつひと
西川可奈子
井田國彦
水島涼太
鳥越壮真
螢雪次朗
左伴彩佳AKB48
音楽 池辺晋一郎
撮影 上野彰吾
編集 宮下玄覇
制作会社 ミヤオビピクチャーズ
製作会社 ミヤオビピクチャーズ
配給 彩プロ→ミヤオビピクチャーズ
公開 日本の旗 2021年11月12日[1]
上映時間 135分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
製作費 3億5000万円
テンプレートを表示

信虎』(のぶとら)は、2021年11月12日公開の日本映画武田信玄の父・武田信虎の最晩年から始まり孫の勝頼の討死、その後日譚までを描いた映画。

概要[編集]

京都の宮帯出版社の代表で、歴史美術研究家の宮下玄覇がほぼ全額出資して製作された異色の時代劇作品。劇場に行っても観客がいない時代劇に危機感を感じていた宮下は、時代劇が完全に廃れてしまう前に製作しようと考えていた。また宮下の先祖が武田家陪臣であることから、その恩返しのために武田家の映画を作ると決めていた。

当初「信濃における武田家滅亡」をテーマにしようと考えていたが、甲府駅北口の「武田信虎公之像」に触発されて変更することになった。すなわち、これまであまり取り上げられなかった信玄の父・信虎にスポットを当て、滅亡で終わらないストーリーにすることである。武田逍遙軒が書いた父・信虎の肖像画の賛文にある「霊光」という語句にヒントを得た宮下は、脚本の執筆に着手し、映画の製作が開始された。

当初の予定タイトルは『信虎 信玄陣没!国主の帰還』であった。撮影は信虎が甲府を開いてから500年にあたる2019年に京都で行われた。公開は信玄生誕500年の2021年10月22日から山梨先行、11月からTOHOシネマズ系(メイン館・TOHOシネマズ日本橋)で全国上映され、信玄450回忌の2022年まで行われた。

製作総指揮・プロデューサーのほか共同監督・脚本・美術・装飾・編集・時代考証・キャスティングが宮下で、監督は金子修介。撮影は上野彰吾。特殊メイク・かつらは江川悦子。衣裳は宮本まさ江。VFXはオダイッセイ。武田家考証は平山優。また宮下が黒澤明監督の『影武者』のスピンオフを志向したことから、音楽は同作の池辺晋一郎が作曲した。

主演は寺田農、ヒロインのお直役は谷村美月、のちに虎屋主人となる黒川新助役は矢野聖人上杉謙信役に榎木孝明織田信長役には当初依頼した隆大介が断ったため渡辺裕之が起用された。結局、隆は土屋伝助役を務めることなったが、本作が遺作となった。なお、この土屋伝助役には当初千葉真一が内定していた。

2022年3月には特殊メイク・かつら担当の江川悦子が、『マスカレード・ナイト』とともに本作のラテックス製のかつらがこの分野に革命をもたらしたと評価され、「芸術選奨 文部科学大臣賞」を受賞した。同年、第11回マドリード国際映画祭において、「外国語映画部門 最優秀監督賞」(金子・宮下)と「ベスト・コスチューム賞」(宮本)を受賞。2023年の第10回ニース国際映画祭では、「外国語映画部門 最優秀オリジナル脚本賞」(宮下)と「最優秀VFX賞」(オダ)を受賞。同年、第77回サレルノ国際映画祭では長編コンペティション部門でノミネート。2024年の第11回ノイダ国際映画祭では、「最優秀男優賞」(寺田)と「最優秀撮影賞」(上野)を受賞した。

製作総指揮も務めた宮下は、「表情も奥行きも実に豊かな逸品」と映画評論家[誰?]から言われた池辺晋一郎の音楽に感激し、オリジナルサウンドトラックCDを製作。また、Blu-rayDiscには、本編には採用されなかった特典映像として、寺田農が声を演じた『天空の城ラピュタ』のムスカ大佐の台詞をオマージュした「人がゴミのようだ」Ver.、『信虎』ラストカットの寺田農Ver.、信長喫茶カットの渡辺裕之Ver.などを盛り込んだ。

あらすじ[編集]

武田信虎(無人斎)甲斐追放後、駿河を経て足利義昭に仕えていた。元亀4年(1573年)、信玄信長包囲網を形成し上洛を開始。信虎は齢80になっていたが、信玄危篤の報を受け、末娘・お直とわずかな家臣、牢人志摩の海賊、透破(忍者)を引き連れ甲斐への帰国を目指す。途中、美濃での激戦を乗り越えて信濃高遠城にたどり着く。ここで孫の勝頼と初対面し、信玄の家老馬場信春山県昌景内藤昌秀春日弾正(虎綱)らと対面する。自らが当主に返り咲くという信虎の申し出は、勝頼とその寵臣の跡部勝資長坂釣閑斎に却下される。

高遠城に留め置かれた信虎だが、彼は若い頃、身延山久遠寺の日伝上人より人心を操る「妙見の術」を生まれながらに身に備えているとの宣託を受けていた。今こそ、その術を会得しようと仏法の修行に励む信虎。ある日、突然悟りを得ると俗念が消えて、会得した秘術を武田家の存続のためだけに使うと心に決めた。破竹の勢いで勝ち進む勝頼を横目に、織田信長に敵対している限り武田家の存続はない。そう読んだ信虎は、外孫穴山信君(梅雪斎)を呼び寄せ、もしもの時には武田家を継げと術をかけた。すると、その気もなかったはずの信君の顔つきが変わり、真摯に引き受けるのであった。

勝頼の無謀な戦いぶりを批判したために高遠城を追われた信虎は、上の娘の嫁ぎ先である小県郡の禰津城に落ち延びることになる。そこで外孫・禰津神八(禰津松鷂軒の子)の存在を知った信虎は、城主が戦死した志摩武田城の主となることを命じ、付き従って来た海賊の藻右衛門に、若い神八を守り育てるよう術をかけて志摩に旅立たせた。

信虎は、上杉謙信に手紙を書いて、甲斐の国を攻めないよう懇願する一方、北条氏政の子で信虎の曽孫でもある北条国王(氏直)には、血縁として甲斐の国を守ることを依頼、葛山信貞木曽玄徹(義昌)小笠原信嶺下条氏長に術をかけるなど、武田家存続のためにあらゆる手を尽くすのであった。こうして信虎は、81歳で大往生を遂げた。

不幸にして信虎の読みは的中し、天正10年(1582年)、ついに武田家は織田・徳川・北条連合軍の侵攻を受け滅亡する。信虎が術をかけた穴山梅雪斎(信君)は武田家を再興したが、後に血筋が絶えて武田家は31代(『甲陽軍鑑』では信虎は26代)で断絶した。

それから100年近い歳月が流れた元禄14年(1701年)。徳川幕府は信玄の子孫による武田家の(高家として)再興を許した。その昔、死の床にあった信虎は、来世に転生するよう自分自身に「妙見の術」をかけていた。信虎が生まれ変わったその人物とはー。

キャスト[編集]

京 武田家

甲斐 武田家

信濃(高遠城代)武田家

信濃 禰津家

身延山 久遠寺

甲斐 長禅寺

織田家

上杉家

徳川幕府

その他

スタッフ[編集]

特徴[編集]

  • 昨今の映画は製作委員会で作られることが多いが、本作はほぼ個人出資である。
  • 撮影は、ラインプロデューサー(のちに解任)がクランクインを2カ月遅延させたことにより2019年11月20日から始まった。制作スタッフは東京から移動してきており、晩秋の京都は宿泊費が高く製作費を圧迫したが、結果紅葉の一番きれいな映像を収めることができた。しかし、大部分の屋外シーンはVFXで緑に修正された。
  • 東京を中心としたキャストの人数は100人を超え、いわゆる“ちょい出”が多く、贅沢なキャスティングと本作のスタッフ及び周辺の関係者は述べている。
  • 桃山時代の建物を中心に京都ですべてのロケーション撮影を行い、高額な美術品を多用。また、剃り込みの深い戦国期の月代(さかやき)髷(まげ)甲冑武田信玄諏方法性の兜、上杉謙信の白頭巾形兜、武田勝頼の富士山前立兜、武田信豊法華経母衣など)、、在来馬(木曽馬)といったディテールにこだわり、400年前当時のリアリティを追求した。さらに、戦国時代の刀と刀や甲冑などをぶつけて本物の音を録音。所作は文献に基づき当時のものを再現している。新しい試みを数多く盛り込んでいるため「視て聴いて体験する新戦国時代劇」と銘打っている。
  • 従来の羽二重(布)ではなくラテックス製のかつらを用いているところが、美術・演出上の大きな特色であり、武田信玄の家臣・山県昌景欠唇も特殊メイクで再現している。
  • 脚本は、戦国の世を生きた人の「命のはかなさ」や、「中世の祈り」の世界、お家の存続にまつわる「因縁」をテーマにしており、主人公の名前にちなんだ“虎”にまつわるエピソードも盛り込んでいる。
  • ヨーロッパの映画祭で数々受賞した要因について、本作の協力プロデューサーの榎望は、登場人物の喜怒哀楽を描くことで普遍的な人間ドラマに仕上がっており、結果としてギリシャ喜悲劇を思わせるテイストを醸し出したためと分析した。
  • VFXは300カットに及び、城の再現、血しぶきや血痕、散る桜の花びらなどを作成している。
  • 本作には数々の作品のオマージュがちりばめられており、主演の寺田農がかつて映画『天空の城ラピュタ』で声優を務めたムスカ大佐のセリフなどがある。古田左介(織部)役は漫画『へうげもの』に似せているという。
  • 本作は信虎・信玄のほか、国語学者・酒井憲二に捧げられている。酒井は『甲陽軍鑑』の偽書説を覆した人物で、高遠城での評定シーンをはじめ、本作には同書の記述を正確に再現したシーンが盛り込まれている。

評価[編集]

キネマ旬報の映画レビューにおいて、映画評論家の宇野維正は「解説字幕の多用、話者を追うだけの退屈なカメラの切り返しと弛緩したズーム、場面転換の合いの手のように入る冗談のような劇伴の使い方、学芸会のような子役の演技など、少なくとも「現在の映画」としての評価は不可能」、北川れい子は「武士たちを前に侍らせた信虎の詮議、戦略、脅しに願望が、武士たちの顔ぶれを変えながら、何度も何度も繰り返され、信虎が発する武士の名も誰が誰やら無数に及び、信虎情報にまったく疎いこちらは、ただ画面を眺めるのみ」、千浦僚は「相当面白いことが設定とシナリオの上にあるだけに、画面がもう少し陰影に富みグラマラスでゴージャスならばよかったのに、と思う」「撮影というより美術の予算、映画の規模がもっと欲しかった」とそれぞれ評している[3]

脚注[編集]

  1. ^ “寺田農主演の時代劇『信虎』公開日が決定”. シネマトゥデイ. (2021年9月7日). https://www.cinematoday.jp/news/N0125820 2021年9月11日閲覧。 
  2. ^ 1990年の映画『天と地と』でも上杉謙信を演じた。
  3. ^ キネマ旬報WEB”. キネマ旬報. 2024年3月30日閲覧。

参考文献[編集]

  • 『映画『信虎』の世界』(宮帯出版社ISBN 978-4801602601
  • 『キネマ旬報』(キネマ旬報社)2021年11月上旬特別号、11月下旬号、12月上旬号、2022年2月上旬号、2023年1月上・下旬合併号
  • 『映画秘宝』(双葉社)2021年12月号
  • 『歴史街道』(PHP研究所)2021年12月号
  • 『歴史人』(ABCアーク)2021年12月号、2022年1月号
  • 『週刊文春』(文藝春秋)2021年7月29日号、11月11日号

外部リンク[編集]